吉岡虎太郎 2015年8月30日

yosioka1508

サラダがすき       

        ストーリー:吉岡虎太郎
           出演 清水理沙

サラダがすき。
うたがすき。
てんとう虫がすき。
朝寝坊がすき。
トーストにイチゴジャムとバターを
塗って食べるのがすき。
ひまわりがすき。
市民プールの匂いがすき。
水着の日焼け跡がすき。
はじめてキスをする時の瞬間がすき。
誰もいない夜の公園がすき。
あなたの困った顔を見るのがすき。
しょうがないなあって感じで
あははははと笑うあなたの顔が好き

あなたがすき。
あなたの声がすき。
あなたの耳たぶがすき。
手も足も指も爪も首もうなじも
さらさらの髪の毛も
あなたのことは全部すき。

あなたの舌が私の唇に入って来る時の
ぬるっとした感じがすき。
ひとつになって溶け合って混ざりあって、
あ~もう本当にひとつに
なっちゃうんじゃないかしらと不安になって、
子供みたいにぎゅっとしがみついてる時、
泣きたくなるくらいあなたがすき。

サラダがすき。
うたがすき。
あなたはもう死んでしまったけど
ずっとあなたがすき

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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吉岡虎太郎 2013年7月21日

「ナイフのような人」

             ストーリー:吉岡虎太郎
                出演:前田剛

「あの人は、ナイフのような人だ。」

そう言われるような人物は、相当な切れ者だろう。
頭の回転が速く、仕事ができる。
が、しかし、少々冷淡なところがありそうだ。味方であっても、
いつなんどき、寝首を掻かれるかもしれないので油断は禁物だ。
そんな危険な雰囲気に女性は吸い寄せられるだろうが、
切って捨てられるだけなので、決してお薦めはできない。

「あの人は、ワイフのような人だ。」

一文字変わっただけで、途端に生活感に溢れた、
堅実な人物の姿が思い浮かぶ。
料理上手できれい好き、内助の功に長け、
こまかいことにもよく気がつくに違いない。
時には背広の内ポケットからキャバクラの名刺を見つけ出して
逆上するところなどは、
よく切れるナイフと似ていると言えるかもしれない。

「あの人は、サイフのような人だ。」

途端に下世話な、周囲からいいように使われている好色そうな親父の顔が
目に浮かぶ。極上カルビを前に
「食えよ食えよ、遠慮なんかするな」と豪快に笑い、
「パパ、私シャネルのバッグが欲しいの」と言われれば、
「ベンツでもマンションでも何でも買ってやるよ」と答えてくれそうだが、
それじゃ「サイフのような人」ではなく、「サイフ」そのものである。

「あの人は、スイスのような人だ。」

一転して、今度は、色白で澄まし顔の紳士が頭に浮かぶ。
永世中立を気取り、決して事を荒立てることを好まず、
常にケンカの仲裁役を引き受けていそうだ。
お金にもきっとスマートであるに違いない。
なぜだか夜の生活が激しそうな気がするが、
それはスウェーデンと混同しているだけだろう。

「あの人は、座イスのような人だ。」

うららかな午後の茶の間。
座イスに腰かけたおじいちゃんが
のんびりと時代劇の再放送を見ているかたわらで、
お婆ちゃんは黙々と豆の皮をむいている。
このほっこりとした平和な時間が、突然の祖父母の死によって、
幼いあなたから永遠に奪われてしまうなんて、
座イスはなんにも教えてくれなかった。

…当たり前だ、座イスはしゃべらない。
理由はイスだからだ。「座イスのような人」なんて苦しすぎる。
そんな人はいない。
この原稿のお題が「ナイフ」だからといって、
切れのいいオチを期待していたなんて、
聴いているあなたの方がどうかしている。

出演者情報:前田剛 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

 

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吉岡虎太郎 2012年7月22日

「カクテルにしとけばよかった」 

             ストーリー:吉岡虎太郎
                出演:前田剛

いかにも真面目そうな新入社員だった。
青白い肌、銀縁眼鏡、
案の定、酒もほとんど飲めないらしく、
女の子が飲むような薄いカクテルを
舐めるようにちびちびと飲んでいる。
これじゃ、酒豪の田中さんの部下は
きついだろうなと同情した。

この日の客は3人。
田中さんはこのバーの常連の商社マンで、40代。
週に3度はやって来る。
Nさんは、田中さんの会社の元先輩で、
50そこそこか。今は独立して、
田中さんのお得意先となっている。
そして、顔に「ゆとり世代」と
書いてあるような新人くん。

ビールから始まり、ワインの瓶が空き、
ウィスキーが注がれる。
先輩と、先輩の先輩でしかも得意先と
カウンターに並ばされた新人くんは、
飲めない上に、緊張してしまい、
この店に来てからほとんど一言も発していない。

「Nさん、リオのカーニバルで全裸になったの
覚えてます?俺、あれこそ大和魂だと思ったよ」
「わははははは」
「お前だって、サンパウロで銃を向けられた時、
突っ張りでふっ飛ばしたじゃないか」
「わははははは」

歴戦の強わ者たち二人を前にして、
新人くんにはただうなずくか、
感嘆の声を漏らすしか術がない。
私がチェイサーの水を注ぎ足すと、
新人くんは一気にゴクゴクと飲み干した。

「Nさん、そろそろ日本酒いきますか。
この店いいの置いてるんですよ」

「さ、君も一緒に飲もう。商社マン魂に乾杯だ」
そうNさんに言われたからには仕方なく、
新人くんもきゅ~っと一気に飲み干した。
そして、二杯、三杯…。

田中さんが新人くんの肩を叩いて、
「お前も黙ってばっかいないで、
Nさんにいろいろ聞いて勉強しろよ。
Nさんは海外経験も豊富でフランクな人なんだから、
何言ったって怒ったりなんかしないぞ」
と言い残してトイレに向かった。

Nさんは、くつろぐように椅子を座りなおすと、
振り返って背後の窓の外を見つめ、しばし沈黙した。
その目に映っていたのは、都会の夜景ではなく、
ぎらぎらと照りつけるサンパウロの太陽か、
リオの海に沈むまっ赤な夕陽だったかもしれない。

その時、Nさんの股間を何かが素早く撫で上げた。

(小島よしおっぽいアップテンポな打楽器系の曲)

「うぇ~い、もっといっちゃいましょうよ~!
 グラス、空いてるじゃないですかぁ~。」

新人くんが立ち上がって、奇妙なダンスを踊りながら、
Nさんの股間をリズミカルに撫で上げている。

「うぇ~い、飲み、たりませんよ~!
もっともっと、いっちゃいましょうよ~!」

半笑いで首をぐらぐらと不気味に揺らしながら、
新人くんは、何度も何度も
Nさんの股間を執拗に撫で上げる。
突然の出来事に、Nさんは無抵抗になすがままだ。
さすがの私も言葉を失った。

「うぇ~い、もっと飲みましょうよ~!」

♪~(ふたたび静かなジャズに戻る)

トイレのドアが空き、田中さんが姿を見せると、
新人くんは何事もなかったかのように
元の席に戻っていた。
「あ、あのさあ田中、今日はちょっと飲みすぎた。
 悪いけど、失礼するよ」
「え、もうちょっとくらい…」
田中さんの言葉をさえぎるように、
Nさんは足早に店を出た。

何事が起こったのか分からない田中さん。
ふたたびうつむいて黙り込む新人くん。

あ~あ、カクテルにしとけばよかったのに
…私は心の中でつぶやいた。

      
出演者情報:前田剛 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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吉岡虎太郎 2011年8月21日



「風オンナの思い出」

          ストーリー 吉岡虎太郎
             出演 地曵豪

昔、風オンナとつきあっていたことがある。

風オンナと出会ったのは、ある夕暮れ。
青山通りの歩道橋を上っていたら、
突然ぴゅうっと突風が吹き、
スカートを押さえた女子高生が小走りに逃げ去ったあと、
気づいたら隣で風オンナが笑っていた。

おもしろいやつだと思って
部屋に連れ帰ってビールをご馳走すると、
風オンナはひどくご機嫌になり、
僕の靴下やトランクスを風に舞わせ、
壊れた扇風機のハネをくるくると回転させてみせた。
うちの天井の高いのがずいぶん気に入ったようで、
彼女はそのまま居ついてしまった。

風オンナは乾きにくい部屋干しの洗濯物を
あっという間に乾かしてくれたり、
寝苦しい夜に一晩中そよそよと優しい風で
僕の頬を撫でてくれたりした。
東京ドームに野球を観に連れて行った時は、
カープの前田が打ったレフトスタンドへのファウルボールを
追い風でホームランにしてくれたりもした。

ときどき、風が騒がしい夜にかぎって、
気まぐれにいなくなってしまうことがあったけど、
寝室の窓を少しだけ開けておくと、
朝までにはその隙間から戻ってきて、
僕の隣ですやすやと寝息を立てていた。

僕たちの関係は、爽やかな風のようなものだったけど、
色っぽいことがまったくなかったわけでもない。
そんな時彼女は熱帯夜のような、
湿ったなまあたたかい風を僕によこして、
僕をうっとりとした気分にさせてくれた。

そうこうするうちに、
季節外れの大型台風13号がやってきて、
首都圏の交通網が壊滅したというニュースを見ていたら、
風人間の中にはずいぶん荒っぽい男たちがいて、
こうやってときどき暴れて
ストレスを発散しているんだと教えてくれた。

「もしも突然、私がいなくなったら、どうする?」
風オンナが僕に聞いた。
「びっくりする」と、僕は答えた。
彼女はいかにも風らしい乾いた声で
「あはははは」と笑ったけど、
僕はちょっと嫌な胸騒ぎがして、
「結婚とかしたいと思う?」と彼女に聞き返した。
「したい。したい。したい。」
風オンナは、部屋の中に小さな竜巻を起こして、
チリンチリンと風鈴を鳴らした。

次の日、台風13号といっしょに、
風オンナは僕のもとから去って行ってしまった。
今度は何日待っても、何ヶ月待っても、
窓の隙間から戻ってくることはなかった。
本当は僕みたいな煮え切らない男より、
もっと男らしい男の方が好きだったんだろう。
胸にぽっかりと穴があいて、
風が通り抜けたような気がした。

風オンナの名前は、カトリーヌ。
海外のニュースで彼女の消息を知ることになるのは、
それから何年もあとのことだ。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html


動画制作:庄司輝秋

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吉岡虎太郎 2011年2月20日


「あけましてピヨピヨ」

             ストーリー 吉岡虎太郎
                出演 地曵豪

ああ、今年も書かなかった。
…と後悔してしまうのは、
ポストに届いた年賀状の束を眺める時だ。
不義理をしている、と思う。

「年明け年賀」というものがあると知って、
それはとてもいい考えだと思ったが、
思っただけで、やっぱり実行できなかった。

世の中は善意の人たちで
構成されていると思うのは、
「俺は年賀状を出したのに、
お前は返してくれないじゃないか」
と責められたことが一度もないことだ。

それとも、心の中では激しく僕を責め立てていて、
「M-1どうだった?」とか、
「もち何個食った?」などと
何気なく接し続けることで、
婉曲的に、僕に自責の念を呼び起こそうと
しているのだろうか。
だとしたら、それはあまりに婉曲すぎる。無意味だ。

無意味なコミュニケーションといえば、
ツイッターのフォロワーという人々とのやりとりだろう。

昨年ある日突然、ピヨピヨママン(仮名)なる
子持ちの人妻からメッセージが届いた。
「おひさしピヨ~。私のこと覚えてるピヨ?」
なれなれしい口調だが、驚くべきことに、
まったく記憶にない。

高鳴る胸。湧き上がる期待。震える指。
「たぶんわかると思うけど…、ヒントはありますか?」
「昔の友達ピヨ~」
「大学の友達でしょうか?」
「ちがうピヨ~」
「バイトの仲間ですか?」
「全然ちがうピヨ~」
「あの、もう少しヒントをもらえるかな(笑)」
「あ~、忘れてるピヨ!」
「いやいや…(汗)」
「ひどいピヨ!」「ごめんピヨ!」
「ピヨピヨ!」「ピヨーン!」
…僕は疲れ果てて連絡を絶った。

このような不安定なコミュニケーションと比べて、
年賀状ははるかに人間らしい、
温もりのあるつながりを提供してくれるはずだ。
なのに、もう、何年も書いていない。

…そうだ、「思いつき年賀」というのはどうだろう。
一年のいつでもいい、思いついた時に、
思いついた場所からメッセージを送るのだ。

桜舞い散る春のうららかな午後、
猛暑の予感に包まれた夏の朝、
天高く馬肥ゆる秋の夕暮れ、
眉間にしわを寄せ、一枚のハガキを手に、途方に暮れる人々…。

「あけましてピヨピヨ」

今日は2月1日。旧い暦ではお正月だそうです。
ことしも、よろしくお願いします。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

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