神谷幸之助 2013年6月9日

ユゥブ・ガラ・メール

        ストーリー 神谷幸之助
           出演 地曵豪

そのメールの意味を理解するのに
ひと月かかった。

スパムメールに埋もれていたそのメールは
いつもありえない時間から送られていた。

送信日時は 毎回10年先のきょう午前0時。

最初は
時計が狂ったパソコンから
送られたものだと無視していた。

しかし それは本当に未来から送られていた。
インターネットが 現在と未来をつなげたんだ。

そして その送り主は
おそらく未来にいるオレ自身。

返信はできない。
送れる文字も限りがあるようで 数字だけ。

仮にむこうが文章を送っているとしても
文章として届いていないことに
書き手は気づけない。

このことは誰にも話せなかったし 話したくなかった。
話してもアタマがおかしいと思われるだけだろう。

すべては 空想するしかなかった。

こんな不完全な
一方的なコミュニケーションだったが
これは事実上の「タイムマシン」だった。

未来では標準装備されている
メールの新しい機能なのか
はたまた
時間軸が歪んだインターネット回線上の
偶然の現象なのかそんなことはわからない。

だけど オレは毎日興奮していた。

それはこのタイムマシンで
彼は オレに あるメッセージを
送ろうとしていることは
あきらかだったからだ。

NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
 まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

頭からケムリが出るほど考えた。

00012200122011

いつも数字は
0と1と2の組み合わせだった。
そして いつも14けた。

その番号で電話をかけてもつながらない。

プログラムの授業で習った
二進法のコンピュータ言語を
もっと勉強すればよかったと悔やんだものだ。

だけど 今日やっとわかったんだ。

未来のオレがそんな難しい問題を
自分に出すわけがない。

いつも毎週末
自分がいちばんどきどきする数字。

00012200122011

これはサッカーくじTOTOの当たり番号だ。

1はホームチームの勝ち
2はホームチームの負け
0は引き分け
14はJリーグのゲーム数。

01012200122011

毎週末送っていたのは
その週末に行われた試合結果だったんだ。

「賞金を未来に送れ」

これが、メールの意味だった。

NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」

その長い数字の暗号は 簡単だった。
「あ」が1
「い」は2
「う」が3
というように
50音に数字の番号をつけただけだった。

18/6/2/10/32・・・

つ・か・い・こ・・み・・?

「ツカイコミ ガ バレ ソウダ」
やっぱりこいつはオレだ。
会社の使い込みの件は、誰にも話していない。

「シキュウ イッセンマン コウザ ニ イレロ」
そうか いま口座に入れれば
その数字は未来に送れることになる。

翌朝早速 銀行に 行き
定期預金を解約し 1000万普通口座に入れた。

同時に スマホでメールボックスを開ける。

「1/43/6/20/3 ・・あ・り・が・と・う・・」

ありがとう?
しまった。

オレが オレオレ詐欺にかかって どうする。

急いで
キャッシュディスペンサーで残高を調べる。

口座の金は、ケムリのように消えていた。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

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神谷幸之助さんの秘密



神谷幸之助さんの「ラストフライト」にコメントをいただきました。
神谷さんはフライトエンジニアのストーリーを書いたのですが
コメントは本物の元フライトエンジニアからでした。

神谷さんに「コメントきてますよん」とメールを出したら
こんな返事が来ました。

あ、中山さんには言ってなかったけれど
神谷は大学でたあと一時、フライトエンジニアを目指し
JALのテストをうけたことがあるんです。
もちろん落ちた。だからこの話の前半は、僕の実話なんスよ。
本物から来たコメント、冷や汗もんです。

えええ〜〜っ、神谷さんがフライトエンジニア….

別に秘密にしていたわけではなさそうですし
敢えて私に隠そうとしていたわけではないと思うけれど
私はかなり驚きました。
びっくりして数分くらい言語能力がマヒしました。

ヒコーキが好きだったのか、計器類が好きだったのか
それとも空が好きだったのか
そのへんのところもおたずねしてみたいです。

コメントをご覧になりたいかたはこちら。
http://www.01-radio.com/tcs/archives/17931

そのかたはコックピットから見た風景を絵に描いておいでで
そちらのHPも楽しいです(なかやま)
http://cockpitart.com/

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神谷幸之助 2011年4月3日


ラストフライト

         ストーリー 神谷幸之助
            出演 遠藤守哉

むかしはよく空をみていた。

わたしは23歳の夏、旅客機の航空機関士/
フライトエンジニアという職種をめざしていた。
航空機関士は、機長/副機長につづく第三の機長。
飛行のための複雑で
おびただしい数の計器を監視しながら機長をサポートする仕事だ。

空を見ていたのは
それはあこがれなんかじゃなくて目の視力をあげるためだった。
特に夜空の星を見つめることで焦点距離を遠くにあわせるトレーニング。
歯もすべて直した。飛行中の歯痛で業務に支障をきたさないために。
東西南北の方向感覚も鍛えた。
たとえば機体がきりもみ状態になったとき
瞬時に機首がどっちを向いているかを判断するために。
性格の適性検査も念入りに試される。
同じテストを何度も行い
すべてのデータが一定であることが求められた。
どんなときでも、沈着冷静でいられるかどうかを調べるために。

テストに合格したあとも、夜空を見上げることは習慣になっていた。
ある夜、美しいものを一度だけ見たことがある。

それは白い一本の軌跡。

夜の飛行機雲だ。

飛行機雲は、ジェットエンジンから排出された水分が、
急速に冷えて雲になる。
だから上空が寒ければ、昼夜を問わず飛行機雲は出る。
でも星空にまぎれてみえづらいから、
見られることは、流れ星よりラッキーかもしれない。

NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
 まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

しかし、航空機のコンピュータ化がすすみ
すべての計器をいつも監視する必要はなくなった。
ボーイング747クラシックの引退と同時に
航空機関士という職種は事実上、消え去った。
わたしの最後のフライトは、ホノルルー成田便。
成田に着く直前機長から機内放送のマイクを預けられ
「これが航空機関士最後のフライトです」という挨拶をすると
そのジャンボに乗った夏休みのハワイ帰りの乗客から
「おつかれさま」の拍手が起きた感動は、いまも忘れない。

そして、いま、わたしはまた夜空を見ている。
あの、まだ一度しか見たことがない夜の飛行機雲をさがして。

NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。

おれはこの計器に囲まれた空間が、好きなんだ。
ボーイング747クラシックが、好きなんだ。
おれは、航空機関士だ。
定年まで、地上勤務なんてまっぴらだぜ。
この最後のフライトで、すべて終わりにしよう。
今頃エンジンからは、白い飛行機雲が見えるはずだ。
だけどそれは雲じゃない。おれが捨てた航空燃料だ。

計器たちが、異常な動きをはじめた。
よし、もう大丈夫。

あとは、この一度も触ったことのない
スロットルに触るだけだ。

さらば、ボーイング747クラシック。
さらば、航空機関士。
さらば・・・

出演者情報:遠藤守哉 03-3479-1791 青二プロダクション

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神谷幸之助 2010年7月18日

hotaru.jpg

ぶ~ん

ストーリー 神谷幸之助
出演  坂東工

あー、ハエがうざい。

ここ、ニュージーランドでは
毎日、大量のハエとの闘いだ。
こっちのジョークに
「口を開けてるとハエが入るから、食事中は口を閉じなさい」
なんてのがあるくらい。

だからといっても
きょうは異常に多すぎる。
これも温暖化のせいなのかなあ。

ハエで思い出したけれど
きのう見た
「ヒカリキノコバエ」の赤ちゃん、きれいだったなあ。
ヒカリキノコバエの幼虫は真っ暗な洞窟の天井に住んでいる。

そして、カラダから粘液を出すんだ。
粘液は長いものでは30cm以上も、たらーりと下にたらす。
その粘液が暗闇で、ポアアって青白く光る。
それは洞窟の中に銀河ができたような、幻想的な宇宙。
この粘液の正体は、
日本の蛍の発光成分とおなじ。
日本人は、ヒカリキノコバエを通称「土ホタル」って呼ぶ。

だけどその美しい光は、おそろしい罠なんだ。

光にうっとりした虫をおびき寄せ、粘液でとらえ
身動きできなくして、ポリポリ食べるんだ。
成虫になるまで半年から一年もかかる。
そして、

成虫には、なんと「口」がない。

口そのものを持っていない。

ひたすら交尾をし、産卵を終え、
エネルギーを使い果たし、数日間の短い一生を終える。
ただ生まれて子孫を残すだけのシンプルな生きもの・・・。

あー、しかしこのハエの多さは気が狂いそうだ。
うわーって叫びたいけれど声が、・・出ない。

声が・・・出ない?
NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
 まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

声が出ない?

そうか出せないはずだ。
このたくさんのハエは、
ぼくという「死体」に、たかっていたんだ。
ぼくはいつどうやって死んだんだろう。
ま、いまさらどうでもいいか。

そんなことより
あー、ハエがむかつく。
ぼくを食べるな。

NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」

声が出ない?

声がでなくてあたりまえ。
だって
ぼくはヒカリキノコバエの成虫。
もともと「口」というものがないんだ。
だいじょうぶ。
口がないから、人にはかみつけない。

そんなことより
交尾して一生を楽しまなくちゃ。

それ、交尾、交尾♪

出演者情報:坂東工 http://blog.livedoor.jp/bandomusha/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋


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神谷幸之助 2010年6月26日ライブ



渚にて。

        ストーリー 神谷幸之助
           出演 坂東工高田聖子

子犬に激しく吠えられて、ビックリして目が覚めた。
一緒に午睡をしていた彼女も悲鳴をあげた。
牧羊犬のボーダーコリーだ。
羊に吠えるように、僕らにまとわりつく。
誰のペットなんだよ。

地元の人が多いこの小さなビーチは、
昨日、都会から来た僕らに、冷たかった。
話しかけても誰も答えてくれない。
時々目が合って、愛想良く微笑んでも
すぐかわされた。

のどが乾いて
「すみません、ビールください」って、海の家でお願いしても
「なめんなよ!」って叫んでも。
全員に無視された。

ぼくらは、孤独だった。
閉鎖的なビーチ。

だから
僕は彼女とふたりで、
海で遊ぶしかなかった。

彼女は、泳ぎが得意ではなく、むしろ金槌だった。
水を怖がって、海には入ろうとしなかった。
それを無理矢理ゴムボートに乗せて沖に引っ張って行き
キャーキャー騒ぐ彼女と笑いあった。
ビーチのみんなに冷たくされても、
けっこう楽しかった。

それはビーチに戻ってきて
雲に隠れていた
太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。

(女性)「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
    まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。

僕の彼女に影がないことに気がついたのは。

え、どういうこと?

そして、僕にも影はなかった。

体を動かしたり、手を振っても
影はない、てか、できなかった。

その瞬間すべてが瓦解し、すべてが理解できた。

思いだした。
昨日、僕と彼女はこのビーチで
彼女を沖につれだしたとき溺れ、
それを助けようとした僕も溺れたんだ。

ライフガードにビーチまで上げてもらったけど。
人工呼吸をしてくれたんだけれど。
だめだった。

僕と彼女は、死んだ。

ビーチのみんなが冷たかったのではない。
みんなに、僕らは見えなかった。

犬だけが、僕らのに気づいたんだ。
ぼくらの「存在」を知っているのは、キミだけだったんだね。
ありがとう。

(女性)「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」

太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。

影があるのは、僕と彼女だけ。

そのほかこのビーチにいる全員に影がないことに気がついた

あのおじさんも、あのビキニの娘にも、この小さな子にも。

そこは、死の国だったんだ。
死者たちの海水浴。

犬は、この死のビーチの番犬。
こう吠えていたんだ。

「こっちに来ては行けない。出て行け!」

*番組の音声はこちらでお聴きいただけます
http://www.01-radio.com/tcs/archives/12468

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神谷幸之助 2009年7月15日



渚にて。

                   
ストーリー 神谷幸之助
出演 地曵豪

子犬に激しく吠えられて、ビックリして目が覚めた。
一緒に午睡をしていた彼女も悲鳴をあげた。
牧羊犬のボーダーコリーだ。
羊に吠えるように、僕らにまとわりつく。
誰のペットなんだよ。

地元の人が多いこの小さなビーチは、
昨日、都会から来た僕らに、冷たかった。
話しかけても誰も答えてくれない。
時々目が合って、愛想良く微笑んでも
すぐかわされた。

のどが乾いて
「すみません、ビールください」って、海の家でお願いしても
「なめんなよ!」って叫んでも。
全員に無視された。

ぼくらは、孤独だった。
閉鎖的なビーチ。

だから
僕は彼女とふたりで、
海で遊ぶしかなかった。

彼女は、泳ぎが得意ではなく、むしろ金槌だった。
水を怖がって、海には入ろうとしなかった。
それを無理矢理ゴムボートに乗せて沖に引っ張って行き
キャーキャー騒ぐ彼女と笑いあった。
ビーチのみんなに冷たくされても、
けっこう楽しかった。

それはビーチに戻ってきて
雲に隠れていた
太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。

(女性)「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
    まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。

僕の彼女に影がないことに気がついたのは。

え、どういうこと?

そして、僕にも影はなかった。

体を動かしたり、手を振っても
影はない、てか、できなかった。

その瞬間すべてが瓦解し、すべてが理解できた。

思いだした。
昨日、僕と彼女はこのビーチで
彼女を沖につれだしたとき溺れ、
それを助けようとした僕も溺れたんだ。

ライフガードにビーチまで上げてもらったけど。
人工呼吸をしてくれたんだけれど。
だめだった。

僕と彼女は、死んだ。

ビーチのみんなが冷たかったのではない。
みんなに、僕らは見えなかった。

犬だけが、僕らのに気づいたんだ。
ぼくらの「存在」を知っているのは、キミだけだったんだね。
ありがとう。

(女性)「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」

太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。

影があるのは、僕と彼女だけ。

そのほかこのビーチにいる全員に影がないことに気がついた。

あのおじさんも、あのビキニの娘にも、この小さな子にも。

そこは、死の国だったんだ。
死者たちの海水浴。

犬は、この死のビーチの番犬。
こう吠えていたんだ。

「こっちに来ては行けない。出て行け!」

*出演者情報:地曵豪

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