いわたじゅんぺい 2026年3月22日「かんな 2026春」

かんな 2026春

ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは小学4年生である。
好きなもんじゃはめんたいもちチーズ。
好きなおでんの具はきくらげ。
どこにでもいる小学4年生だ。

最近は
ミラノ・コルティナオリンピックを
熱心に見ている。

スキーのジャンプで
二階堂選手が銀メダルに終わり
「悔しい〜」
と言っているのを見て、
「こういう名言なんかあったよね。なんも見えねえ?みたいな」
と言っていた。

「なんも言えねえ、だよ」
と妻や長男から
総ツッコミにあっていたが、
北島康介選手が
「なんも言えねえ」
と言ったのは
2008年なので
知らなくて当然である。

かんなはまだ影も形もない。
なんなら長男も影も形もない。

いずれにしても、
冬のオリンピックを楽しそうに見ている。
スケルトンとフィギュアスケートが
お気に入りのようだ。

この前、
料理を手伝ってくれて、
「シングルオイラー」
と言いながら
ごま油をひと回し入れてくれた。
オイルとオイラーがかかっていたけど
多分本人は気づいていない。

油で思い出したが、
この前、
唇が妙に赤かったので指摘したら
「油がついてるんだよ。
油の乗った餃子を食べたからね」
と言っていた。
油の乗った餃子、
という響きが新鮮だった。

この一年のトピックといえば
塾に行きはじめたことだ。

特に中学受験をするという
感じでもないし、
勉強が好きという
感じでもないのだが、
通いはじめた。

塾を見学しに行った時、
自分の知っている知識を
なんでもひけらかす
うるさい男子がいたので、
帰り道に
「うるさい男子がいたね」
と言ったら
「男の子はそういう子もいるよ」
とたしなめられた。
かんなは人の悪口を言わない。

塾は電車を乗り継いで
30分くらいのところにある。
終わるのは夜なので、
会社帰りに迎えに行って
一緒に帰る。

帰り道にいろいろ話してくれる。

社会があった日は、

「防災の問題で
『公民館に避難する』を
『古民家に避難する』って書いちゃったの」

とか

「排他的経済水域って言おうとして
はえたたき経済水域って言っちゃったの」

とか

算数があった日は

「樹形図の問題は我に帰ったらできた」

とか。

結局その日に
何を習ったのかは
よくわからないのだが、
何かしらを学んだらしい形跡は
伝わってくる。

いつもは迎えに行くと
眠そうな感じで出てくるのだが、
とてもシャキッとしていた日に、
「今日はシャキッとしてるね」
とほめたら、
「今日はねむくならなかった。
じゅくに行く前にひるねというか
目をとじて失神してたからね」
と言っていた。
いつも眠くなるのは心配だが、
目を閉じて失神していた、
という表現は、
リアリティがあって良い。

問題を出し合いながら帰る日もある。

「リンカンは何をした人でしょう?」
「けいざいを変えた人?」
「おしい。アメリカの大統領で奴隷を解放した人」
「だれかにころされたんだよね」
「う、うん」
「わたし人の死に方だけはおぼえてるんだよね」
「そうなんだ」
「マリアントワネットはゼラチン?
で首をちょんぎられたんだよね」
「ギロチンだね」

と、スプラッタなことを
平然と言い出したりもする。

唐突に
「さいばんかんってカンカンってする人?」
と聞いてきたり
「べんごしってはんにんの味方する人?」
と聞いてきたり。
弁護士は犯人の味方をする人、
という説明は正しすぎて、
大人にはなかなかできない。

女の子らしく
服にも興味があるのだが、
いつも散々迷って結局
同じ服のローテーションに
なっているので
「いつもそのTシャツ着てるね」
と言ったら
「この黒とグレーの間の色がいいんだよ。
ゾウさんがぬれた時の色」
と言っていた。
「ゾウさんがぬれた時の色」
という表現もとてもよい。

ある時は、

「おもしろいゆめを見たよ」
「どんな夢?」
「ほかほかのごはんをそのまま手にくばるの。
それをはふはふって食べるの。
しかもお店はダイソーだった」

と、父が喜びそうな話を
教えてくれたり。

ある時は、
塾から駅までの
長い地下道を
目をつぶりながら
手をつないで
点字ブロックの上を歩き、
そのままパスモで改札も通ったあとで

「目の見えない人は
かいさつでパスモをピッてやった時
ざんだかがいくらかわからないんだね」

と言っていて、
その気づきにハッと
させられたこともあった。

宿題が多くて大変そうだが、
文句も言わずに通っている。
それなりに楽しんでいるようだ。

その分、
前からやっていたそろばんは
わかりやすく伸びなくなっていて、
毎回迎えに行くと
「今日は10点だったー」
「今日ななんと0点」
と教えてくれる。

あまり器用なタイプでは
ないのだろう。

でも手先はまあまあ器用なようで
秋刀魚を箸で上手に食べられる。

食欲も旺盛だが、
物欲も旺盛で、
いまはとにかくシールが欲しいらしい。

クリスマスの
サンタクロースへの手紙には
「Amazonで〇〇を検索して、
そこに出てくる上から3つ目のを
クリックしてください。
そうしたら・・」
というようなAmazonでの
欲しいシールの買い方が
詳細に書かれていた。

物欲は旺盛がすぎて、
来年の誕生日プレゼント代まで
前借りするような状態に
なってきたので、
最近妻に割とちゃんと怒られた。
それを真摯に受け止めたのか
「芸能人が活動休止するみたいに
かんなも前借りするのを休止するの。
コールドスリープ」
と言っていた。
活動が再開されないことを
父は祈っている。

あっという間に季節は巡る。
何かのブームが終わり、
次のブームがやってくる。
気を抜くと子どもは成長している。

今年も桜は早そうだ。

.
出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属




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いわたじゅんぺい 2024年7月28日「かんな 2024夏」

かんな 2024夏

ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは100円ショップが好きだ。
100円ショップだと、
3回くらいお願いすると
1回くらい買ってもらえるから。
買うのは大体メモ帳かシール。
時々マスキングテープ。
どこにでもいる8歳の女子である。

そんな物欲強めの性格なので、
タダでプレゼントがもらえるクリスマスを
何よりも楽しみにしている。
楽しみすぎて、
サンタクロースに手紙を書いていたのだが、
その書き出しがなかなかよかった。

サンタさんへ
サンタさんにあげる手紙なのに
うら紙でごめんなさい。

チラシの裏紙に
書いていることへの謝罪から
文章をはじめていた。
裏紙であることに
気分を害して、
プレゼントをくれなくなることを
恐れたのだろう。

正月にはカルタを
自分でつくっていた。
「あ」から順に文章を書き、
絵を描いて色を塗っていたのだが、
その言葉も独特でなかなかよい。


あしをつけてもらった
とべないちょう


いまにもこわれそうないす


うらやましそうなうさぎ


えらくないのに
えらそうな口をするねこ


おばけやしきで
人形をこわがる大人


くだらない
えんぴつのミニチュア

という6枚をつくったところで
急に飽きてしまって
カルタは未完成なのだが、
父はなんとか続きを書いてもらいたくて
いろいろ交換条件を提示しながら
交渉したものの、
結局この6枚で打ち切りになった。

正月といえば、
冬休みの宿題の
書き初めをやっていたとき
「じょうずに書けたんだけど
名前しっぱいしちゃった」
と言うので見てみたら、
名前を

岩田がんな

と書いていた。
自分の名前を間違える人を
野比のび犬
以外で初めて見た。

そんなかんなであるが、
本が好きで、
イケメン四兄弟の話とか
霊感のある探偵の話とか
けっこう小さな字の本を
すらすら読んでいる。

この前、
テレビで見た
麻布台ヒルズの素敵な本屋に
行きたいと言うので
行ってみた。

電車での帰り道、
何が一番記憶に残っているか、
と聞いてみたら、
ファミマで買ったメロンパンを
外で立ち食いしたことと、
お出汁屋さんの試飲で
舌を火傷したこと、
と言っていた。

国語は好きなようで、
ことわざの本もよく読んでいる。

「七ころび八おきってあるでしょ?
でもさあ、七回ころんだら七回おきるんじゃないの?」
と妻に聞いていたが、
七回転んだら八回目も転ぶだろうから
何回転んでも起きるように、ってこと、
という妻のいい加減な説明に
「う、うん・・」
と納得いかないような返事をしていた。

あと
「ことわざのもんだい出して」
と言われた時、
「じゃあ、石の上に三年」
と問題を出したら
「牛のいえにモー三年?」
と聞いていた。
ことわざは好きだが
得意ではないのかもしれない。

一方で算数は好きではなさそうなのだけど、
最近、そろばんをはじめた。
そろばんは楽しそうにやっていて、
いま5級に挑戦している。

土曜日のそろばん教室に行くときは
頼まれていないのに僕も勝手についていく。

歩きながらいろいろ話してくれる。

「好きな給食何?」
「ニラ玉」
「ニラ玉?そうなんだ」
「ぎゅうにゅうはいつものみきれないんだ」
とか

「きのうPKGたべたの。しってる?PKG
おしょうゆかけて、まぜまぜして、
すごーくおいしかった」
「PKG?TKGじゃない?卵かけご飯でしょ」
「そうだそうだTKGだ」
とか

「将来何になりたいの?」
「かんりえいようし」
「なんで?」
「バイキングのメニューをかんがえるしごとがしたいから」
とか

「いえに男の人がはいってきて、
ウィーヨーウィーヨーってならすのなんだっけ?」
「消防点検のこと?」
「そうそう」
とか。

雨が降りそうだった日、
傘を持ってお迎えに行った。
その帰り道、
スーパーでおでん用の餅巾着を買った。
かんなは餅巾着が好きなのだ。
店を出ると雨が降り出していて、
「かさもってきてよかったね」
と言いながら帰った。
雷がすごかった。

その晩、おでんの餅巾着を食べながら
「イソギンチャクおいしいね」
とかんなは言った。

この前、テレビで
はじめてのおつかいを見ていたら、
「あれから15年」みたいな
昔の映像を振り返るコーナーで、
当時、長男と録画してよく見ていた
スキー場におつかいに行く姉弟が出てきた。
「これお兄ちゃんとよく見たやつだよ」
と言っていたら、
そのお姉ちゃんの名前がかんなだった。
うちのかんなはこの頃
影も形もないわけだが、
なんだか縁を感じた。

動物番組を見ながら
「インパラってだいたいたべられるよね」
と言っていたり、

大相撲を見ながら、
「おすもう、いま東と西どっちがかってるの?」
と言っていたり。
相撲は東西対抗戦だと思っているようだ。

ニュースを見て
「せんそうでは人ころしてもつかまらないの?」
とも言っていた。

いま一番好きな食べ物は
ネギトロ丼のネギ抜き。
夢は旅行代理店のパンフレットで見た
モルディブの水上コテージに行くこと。

モルディブには行けないけれど、
夏休みは海に行く約束をしている。
6メートル泳げるようになったことを
誇りに思っているようだ。



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いわたじゅんぺい 2023年12月10日「かんな 2023冬」

かんな2023 冬

ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

「なぞなぞで、
 上と下にしか行けないのりものなーんだ?
 ってもんだいがあって
 こたえはエレベーターだったの。
 わたしはシーソーだと思ったのに」
と納得のいかない顔でかんなは言った。
シーソーの方がいい答えだと
父は思う。

かんなは8歳だ。
なぞなぞが好きだ。
気になった謎も放置しない。

王様のブランチの
ほおずき市のロケを見ていた時
「ほおずきってたべられるの?」
と聞かれた。
「食べられないんじゃない?」
と答えると
「ただそだてるだけ?」
「・・ただ育てるだけ」
父はどう答えていいかわからず
とりあえず同意しておいた。

最近のトピックとしては
英語の教室に通い出した。

自転車で迎えに行った帰り道、
「今日は何を習ったの?」
と聞くと、

サンデー
マンデー
チュースデー
ウェンズデー
ファーズデー
フライデー
サタデー

と1週間をわりときれいな
発音で読み上げた。
が、
なんか一か所気になったので
もう一度聞いてみた。

サンデー
マンデー
チュースデー
ウェンズデー
ファーズデー
フライデー
サタデー

木曜日が
ファーズデー
になっている。

きっと
生まれて初めて聞いた
thの発音に
「???」
となり、
Thursdayを
聞こえたままに読んだら
フアーズデー
になったのだろう。

学校の英語の先生に習うと
サーズデイ
になってしまいそうだが
ファーズデー
の方がよっぽど
ネイティブイングリッシュな気がした。

先生にも
「GOOD!」
と言われたらしい。

あと、
生まれて初めて
インフルエンザになった。

コロナにもかからずにきたので、
伝染病が初めてだ。

我が家では
人にうつる病気にかかると
閉じ込められる隔離部屋がある。
半分物置なので、
布団を敷くのが精一杯な広さである。

ちょっと前までは
一人で寝るなんて
まったくできなかったのだが、
大人しく隔離部屋で
4日ほど寝起きしていた。

2日目からは熱も下がって
ほぼほぼ元気だったのだが、
絵を描いたり、
迷路を書いたり、
一人暮らしを満喫していたようだ。

でも居間の方で笑い声が起きると
気になるようで、
歯磨きなんかを持って行った時に
「さっきなんでわらってたの?」
と、すねたように聞いていた。

お絵描きも好きだが
工作も好きで、
家に帰ると
つくったものが
何かしら増えている。

ストローと爪楊枝と厚紙でつくった
クルマみたいなものだったり、
紙を切ってつくった
何に使うかわからない
細かなパーツだったり。
父からしたら
ゴミにしか見えないので
夜、かんなが寝た後に
勝手に捨てると
後々怒られたりする。

レゴも好きで
建物みたいなものを作っていたので
何を作っているのかと聞いたら
「サスケだよ」
と教えてくれた。
なかなかいい着眼点だと思った。

「インタビューごっこしよう」
と言われて、
最初は
「すきなたべものはなんですか?」
とか
「すきないろはなんですか?」
とか
オーソドックスな質問を受けていたのだが、
だんだん聞くことがなくなってきたのか、
「すきなかたちはなんですか?」
「すきなゆうぐ(遊具)はなんですか?」
「すきなてんきはなんですか?」
と後半はなかなかシュールな
インタビューになっていた。

質問をするのも好きだが、
答えるのも好きで、
「なんでもこたえるからきいてみて」
と聞かれたものを
瞬時に答える遊びを兄としていた。

中一になる兄は
とにかく負けず嫌いなので
なんとか答えられない
質問を出そうとするのだが、
それでもかんなは
瞬時に何かしらを答える。

「ルイビトンは何?」
「おべんとう!」
「エルメスは?」
「ヘルメット!」
「ロレックスは?」
「プロレス!」
「ウランバートルは?」
「しきしゃ(指揮者)でしょ」
という感じで
次々と突拍子もない答えを繰り出し、
兄は笑いすぎて
質問できなくなっていた。

この前、無印良品で
ソファーに座ったときは
「わあふかふか。
ゆめのなかにおっこちちゃう」
と言っていた。

「びょういんにいったらおいしゃさんが
おなかもしもしするでしょ」
と聴診器のことをお腹もしもしと言っていたり、

「どーメダルの『ど』って土?」
と聞いてきたり、

言葉を生業としている父としては
勉強になることばかりである。

僕は父の責務として
娘の独特な発想や発言を
メモしているのだが、
昔に比べると
その数はだいぶ減った。
それが成長なんだな
と実感する。

トランプが
逮捕されたニュースを見た時は、

「トランプは捕まったのに
なんでプーチンは捕まらないの?
ウクライナかわいそうじゃないかー」

と言っていた。
ゼレンスキーさんに
教えてあげたい。

明日は家族で
ディズニーランドに行く。
4年前に行った時は
プーさんのハニーハントでさえ
怖くて泣いていた。

そんな話をすると
「もうホーンテッドマンションでも
なかないよ」
と言って、余裕な顔で
♪パーフェクトスティ〜ック
とディズニーとは全く関係のない
CMソングを歌い出した。

子供の成長は
やっぱり
どこか切ない。
.


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いわたじゅんぺい 2023年4月2日「かんな 2023春」

かんな2023 春

ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは小学校一年生である。
素朴で素直で嘘が下手。
どこにでもいる小一の女子である。

最近一人称に
「ぼく」をよく使う。
友達の間で流行っているらしい。
ガールズトーク。
学校帰りはいつも
わちゃわちゃしている。
楽しそうで何よりである。

この前、
テレビを見ながら、
「ゆりかもめってなに?」
という話になった。

「モノレールみたいな乗り物だよ」
「ぶらさがってるやつ?」
「ん?ぶら下がってるモノレールもあるけど、ゆりかもめは違うな」
「たかいところをびゅーんっていく?」
「高いところは走ってるね」
「一人でのるもの?」
「一人でも乗るけど、みんなでも乗る」

という
ラチのあかないやりとりをした後、
スマホで画像を見せながら話を続けたところ、
かんなの想像していたゆりかもめは
スキー場の「リフト」だとわかった。

「ゆり」と「かもめ」の印象で
リフトを想像したようだ。

で、ゆりかもめが
電車みたいな乗り物だとはわかったのだが、
乗ってみたいというので、
二人でゆりかもめに乗るだけの旅に出かけた。

電車で新橋まで出て、
一本見送って
ゆりかもめの
先頭車両に乗る。
ゆりかもめは無人運転なので
運転手的な席がある。
一人席だったので、
膝の上にかんなを乗せた。
まだ膝の上に乗せても
嫌がらない。

目の前には汐留のビル。
そのうちの一つを指して
「あれパパの会社だよ。
あっちはじいじが最後に働いてたビル」
と教えてあげたら
「そうなんだ」
と言っていた。

かんなは素直なので
たいていのことは
「そうなんだ」
と受け入れる。

5つ上の兄に
何かを言った時に
否定されても、
反論せず
「そうなんだ」
と受け入れてくれるので
兄妹げんかが少なくてありがたい。

兄は価値観が基本
「勝ち負け」しかないので、
反論されるとなんでも
「ちがうよ」
と、とりあえず交戦する構えになる。

兄妹でも性格は
だいぶ違うようだ。

面白いもので、
そんな気性の荒い兄の方が、
情に厚くて、
涙もろい。

自由契約を言い渡されたプロ野球選手の
ドキュメンタリーなんかを見て
人知れず号泣していたりする。

朝、学校に行く時に玄関で見送ると、
兄はふり返って手を振ってくれるが、
かんなはふり返ることなく
すたすたと出ていってしまう。
意外とドライなのである。

話がそれたが
ゆりかもめの話に戻る。

ゆりかもめはビルの間を抜けて
竹芝方面へ進む。
途中カーブや
多少のアップダウンがあり、
ジェットコースター気分で
楽しめる。
かんなは
「つぎのえきが見えるよ」
などと言っている。

そこからは海沿いをまっすぐ。
フェリーの発着所なんかを見ながら
いくつかの駅を過ぎると、
ゆりかもめのクライマックスである
レインボーブリッジの
ぐるぐる回るところに差し掛かる。

「まわってるー」
だの
「クルマがとなりをはしってる!」
だの
「あの丸いのなに?」
とフジテレビを指さしたりと
忙しかったが、
いざレインボーブリッジを渡りはじめると
「レインボーブリッジはどこ?」
と聞いてきた。

レインボーブリッジは
渡りはじめると
見えなくなってしまう。

それどころか
薄暗い金網の中みたいなところを
走ることになる。
なんか想像してたんと違う、
というという顔をしている。

人生というものは
往々にして
叶うまでの過程の方が
楽しいものなのだ。

ゆりかもめが海を渡り、
お台場を走りはじめると、
唐突に
「パパ、やまのてせんゲームしよう」
と言い出した。
最近のマイブームらしい。
「じゃあぼくからね。うみでとれるもの。さかな」
パンパン
「いーか」
パンパン
「くじら」
パンパン
「えーび」
パンパン
「たーこ」
パンパン
「うーに」
パンパン
「ちんぼつせん」
パンパン
「え?沈没船?」
「はい、パパのまけー」
唐突な沈没船に
父の思考は停止し、
山手線ゲームは
かんなの圧勝に終わった。

その後も
ゆりかもめに揺られながら
実物大のガンダムや
アレグリアの青と黄色のテントなど
珍しいものを見つけるたびに
かんなは興奮し、
豊洲までの小旅行は終わった。

豊洲では
ゆりかもめの顔はめパネルで写真を撮り、
ママへのおみやげにパンと焼き鳥を買い、
バスに乗って帰宅した。

バス停からの帰り道、
「こんどリサイクルしたい」
と急に言い出した。
最近のSDGs的な教育は進んでるなあ、
と感心していたのだが、
話がどうにも噛み合わず
どうしたものかと思っていたら
自転車というヒントが出た。

「それリサイクルじゃなくてサイクリングじゃない?」
「そうだサイクリングだ。ごめんごめん」

次はサイクリングに行く約束をしながら
雨が降りそうな夕暮れを
手をつないで歩いた。
ちょっと風が出て肌寒い。
桜のつぼみはまだ固そうだった。

4月になれば、2年生になる。
将来の夢はファッションデザイナーに
なることらしい。

おみやげの焼き鳥は
レバーと砂肝以外
かんなが全部食べた。



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いわたじゅんぺい 2022年8月21日「かんな 2022夏」

かんな 2022 夏

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは小学生になった。
特に泣いたりすることもなく、
毎朝、登校班の集合時間の10分前に、
張り切って集合している。

ランドセルはピンク。
一年生なので黄色いカバーをかけているが、
ピンクのランドセルを背負って
小学校に通っている。

ランドセルは重い。
教科書やノートだけでも
十分重いのだが、
最近の小学生はさらに
ノートパソコンを持たされる。
うかつにランドセルを渡すと
よろけるくらいに重い。

でも、それに鍛えられたのか、
スーパーに一緒に買い物に行った時、
リュックを持たせてその中に
キャベツや山芋なんかを入れたのだが、
「ぜんぜんかるいよー」
とご機嫌に持ってくれた。

最近のトレンドは「うんてい」で、
端から端まで
一人で渡れるようになったらしい。

好きな科目は「ずこう」。
これは僕と同じだ。

給食は食べるのが遅くて
毎日ちょっとずつ残すらしい。
晩ごはんものんびりずっと
食べているタイプなので、
決められた時間で食べるのは
苦手なのだろう。

それでも給食は楽しみなようで、
「あしたのきゅうしょくなに?」
とよく聞かれる。
「じゃこご飯って書いてあるよ」
と僕が冷蔵庫に貼ってある給食便りを見ながら答えると、
「じゃこってなに?」
と聞くので
「小さくておいしいおさかな」
と答えると
「えもいさかな?」
と聞かれた。
「えもい?」
どう言う意味で「エモい」を
使っているのかわからなかったが、
おもしろかったので
「そうだよ」と答えておいた。

ひらがなもだいぶ書けるようになってきた。
書けることが楽しいのか、
買い物用のメモも率先して書いてくれるのだが、
ひらがなで、

ぶにゃぶにゃのほれいざい
まぎーぶいよん
せりあでせんめんきおおきめ22せんちいじょう

と隙間なくびっしり書かれていると
何かの呪文にしか見えない。

夜はトントンとお腹の辺りを
叩いてあげてないと眠れないのだけど、
僕も妻も急ぎの用があって
トントンできなかった時は、
仕方なく自分でお腹の辺りを
トントンと叩きながら寝ようとしていた。
けなげな子である。

半年前は自分のことを
「はむちゃん」
と呼んでいたが、最近は
「ぽにーちゃん」
と呼んでいる。
近所のポニーランドで
白いポニーに乗って以来、
ポニーが好きになり
そう呼んでいる。
かわいいといえばかわいいが、
「ぽにーちゃん」は
「おにいちゃん」
と聞き間違えやすいので、
親としては迷惑ではある。

サザエさんを見ていた時、
アナゴさんを見て
「このひとのくちびる、はだいろだよ!」
と驚いていた。
アナゴさんの唇の分厚さじゃなくて
色に着目する人を初めて見た。
いい目の付け所だ。

目の付け所といえば、
この前急に
「いちばんさいしょのひとはだれがうんだの?」
と質問されて、答えに窮した。
一番最初の人を生んだ人は
その人が一番最初の人になるから、
永遠に一番最初の人が
特定できないパラドックス。

僕がうなりながら感心していると、
もうその質問は忘れたように
かんなは七夕飾りをつくっていた。

折り紙を何回か折って切れ目を入れて、
広げると網のようになる飾りを作ろうとしたけど、
切り方を間違えて全然広がらず
「あれー?」と言っている。

今年の短冊には、
「かぞくみんながなかよくくらせますように」
と書かれていた。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





かんな 2022冬:http://www.01-radio.com/tcs/archives/32004
かんな 2021春:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31820
かんな 2020夏:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31699
かんな 2019冬:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31528
かんな 2019夏:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31025
かんな 2018秋 http://www.01-radio.com/tcs/archives/30559
かんな 2018春:http://www.01-radio.com/tcs/archives/30242
かんな 2017夏:http://www.01-radio.com/tcs/archives/29355
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いわたじゅんぺい 2022年2月6日「かんな 2022 冬」

かんな 2022 冬

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

かんなは6歳である。
下の前歯は4本生え変わり、
上の前歯は1本抜けている。
2021年も
コロナにかかることなく、
元気に過ごすことができた。

いま好きなことは
絵を描くことと工作。
絵本をつくったり、
スーパーマーケットごっこの
商品をつくったり、
何かと忙しくしている。
一人で遊んでくれるので
親としては楽である。
夜型なのか、
風呂から上がって
さあ寝ましょう、
という時間から
制作意欲が湧いてくるようで、
なかなか寝てくれないのは
困りものである。

白い紙を束ねて
糸やホッチキスで
冊子の形にしておくと
喜んで絵本を描く。
この前も一生懸命描いていたので
絵本のタイトルを聞いたら
「みらくるばかわらい」
だという。
なにそれ絶対読みたい、
と父は思った。

お気に入りの店は
100円ショップ。
惣菜なんかを入れる
透明のプラスチック容器を
「どのおおきさにしようかな」
と楽しそうに選んでいる。
スーパーマーケットごっこに使うのである。
6歳にして
キャラクターグッズには目もくれず、
惣菜容器を嬉々として選ぶのだから
なかなか渋い。

文字を読んだり書いたりは
だいぶできるようになってきた。
この前は
「“ちぇ”はどうかくの?」
と聞いてきて、
僕に答えを聞く前に
「ちにちいさな“や”だと“ちゃ”だし、
“よ”だと“ちょ”だし・・・」
と自問自答して、結局
「へ?」
という答えを出した
「おしい」
と僕が言うと
「け?」
と言うので
「ちょっと離れた」
と言うと
「ぺ?」
と言うのを最後に
考えるのをあきらめた。
“ちぇ”は書けなかったものの、
だいぶ高度なひらがなまで
理解できるようになってきたことに、
父はいたく感心した。

また別の日。
家に帰ると、
玄関にかんなの文字で書かれた
「こめんナさいおうう」
という張り紙が貼ってあった。
僕はかんな語が解読できるので
これは
「ごめんなさいを言う」
だと分かったのだが、
なんでそんなことを
書いたのかと聞いたら、
長男に向けての
忠告だということだった。
長男が約束を守らず
妻が怒っていたので、
そんな緊急事態を
兄に知らせるために
張り紙を貼っておいたらしい。
がさつな兄は張り紙に
全く気づかなかったらしいが、
兄の性格で
妹の発達する部分も
変わってくるんだなあ、
と思った。

歌ったり踊ったりも
好きなようで、
最近は自分で作詞作曲した歌を
歌ったりしている。

一番最初に作った歌は
♪ドレミレドの音階で
「♪はむすたあ」
と歌ったものであった。

この頃から急に
かんなの中で謎の
ハムスターブームが起こり、
自分のことを
「はむちゃん」
と呼び出して
今に至っている。
家族もかんなの
「はむ呼び」には
慣れてしまったので、
外でもかんなを呼ぶ時は
「おーい、はむー」
などと普通に
「はむ」という名前の
女の子として扱っている。

話が逸れてしまったが、
歌が好きなかんなは
自分で作った歌に、
自分で振り付けをして、
夜の窓に映った自分を見ながら
真剣に歌って踊っている。
元気にサイドステップを踏みながら、
「♪ずっと遊んでばかりいても
それが運動神経につながるかも〜
それが私の運命〜」
と高らかに歌い上げていた。
ちなみにこの部分はBメロの
終わりあたりで、
曲全体は4分半くらいある。
たぶん同じ歌詞とメロディは
2度と歌えない。

そんな多才なかんなであるが、
苦手なこともあって、
右と左が壊滅的に
覚えられない。
元々左手で絵を書いたりしていたので
両利きなのかもしれない。
不意に
「右手」と言われると
右手と左手を交互に
2回ずつ上げてから
左手を上げたりする。

苦手といえば
お風呂も苦手である。
特に僕と入ると
頭からざぶざぶ
お湯をかけられるので、
やさしく洗ってくれる
妻としか入りたがらない。
ところが
この前、珍しく
「パパとおふろはいる」
と言うので
「入ろっか」
などと喜んでたら
「ぱぱっとお風呂入る」
の聞き間違いで、
いつもどおり
妻とお風呂に入っていった。

またある時。
妻が子供の頃バトンをやっていた
という話をしていたら、
「ばとんてなに?」
とかんなが話に入ってきて
「棒をクルクル回すやつ」
と妻が教えると
「あ、わかった!」
と言ってかんなが
やって見せてくれたのは
グルグルバットの動きだった。

ゴミを捨てる時は
ゴミに向かって
「いままでありがとう」
と言ってから捨てる。

ピンと伸ばして手を上げながら
横断歩道を渡る。
一台もクルマが見えてなくても。
その疑いも照れもない
凛々しい手の上げっぷりは、
純粋さの象徴のようで、
父はかんなのその姿を
いつか思い出して
泣いてしまうのではないかと思う。

月が大きかった日に
ベランダから月を見ていたら
「よるにあさあったことを
おもいだすと
なつかしいなあっておもうよね」
としみじみと言っていた。
6歳の1日は長い。
すべてが記憶に残る情景なのだろう。

大晦日に蕎麦を食べながら
長男と妻との間で
「そば湯」の話になった。
その話を聞いていたのだろう、
夜、風呂掃除をしていたら
かんなが寄ってきて
「今日はそば湯だよ」と言いにきた。
ゆず湯みたいなものだと
思ったようだ。

七夕の短冊には
「せいちょうしますように」
と書いていたが、
初詣では
「ころながおさまりますように」
と願ったそうだ。

今年もいい年になるだろう。

かんなの引いたおみくじは
「小吉」だった。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





かんな 2021春:http://www.01-radio.com/tcs/archives/31820
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