薄景子 2017年11月5日

木枯らしのうた

     ストーリーとうた:薄景子

目覚まし時計が なる前に
目が覚めた朝 眠りは浅い
窓をあければ 木枯らしふいて
冬の音は 時計よりきれい

夢のつづきで 目玉焼き
きみは割れて こわれちゃったけど
世界にひとつの このカタチ
ぐちゃぐちゃのきみは すばらしい

マフラーに巻かれて 歩き出す
落ち葉のじゅうたん ふかふかで
春夏秋冬は ミルフィーユ
コーヒーショップで 時間旅行

夕焼けとタワーが 恋をして
オレンジの空に 枯葉ひとつ
この世にさびしさ なかったら
生まれない恋は いくつだろう

北風の夜は 月あかり 
優しいひかり 想いだすひと
涙が枯れるほど 泣いた日に
きれいになったと 言われました

木枯らしのうたは どこへゆく
その葉が ほんとは 言の葉なら
大空に舞って 伝えにゆこう
青い日々は もう過ぎたけれど

ラララララララララララララ
ラララララララララララララ
ラララララララララララララ
ラララララララララララララ




音楽ディレクター:ながいしえり
編曲:永岡宏昭
作詞・作曲・うた:薄景子

Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

中山佐知子 2017年10月29日

旅をする魔法使いと

     ストーリー 中山佐知子
       出演 大川泰樹

旅をする魔法使いと出会った。
魔法使いは、若い頃にかけた魔法を「調整」するために
旅をしていると言った。
魔法を調整?
すると魔法使いは、
「例えば水に不自由している国に与えた井戸を枯らすのも調整だ」と答えた。

水のない国に井戸を与える。
すると誰かがその井戸の権利を主張し、
水を汲む人々から代金を取り立てることがある。
「そんな井戸は枯らしてしまうのさ」と魔法使いは言う。
井戸を枯らして、今度は水脈を見つける方法を教える。
みんなで探してみんなで掘った井戸はみんなのものだからな。

魔法使いが若いとき、
悲しみに沈んだ国へ行った。
土地は痩せ、耕しても収穫は少なく
育たずに死ぬ子供も多かった。
情深い王さまはそれを見るに堪えず
この国から悲しみを取り去るよう魔法使いに頼んだ。
それはあっという間だったそうだ。
泣きながら畑で働いていた国民は笑うようになり
子供が飢えて死んでも涙を流す母はいなくなった。
子供たちは世話をしているヤギが死んでも
明るく笑うだけだった。

どうにもまずいことをしたものだと魔法使いは思ったが、
いったんかけた魔法は取り消しができない。
しかも悲しみを与える魔法はあっても
悲しむことを思い出させる魔法はないのだった。

その国の悪い評判を聞くたびに
魔法使いの心はチクチクと痛んだ。
しかし、やっといまになって、と魔法使いは言った。
「やっといまになって思いついた方法がある」
そう言って魔法使いはポケットから小さな瓶を取り出した。

この瓶の中身は酒だ。
酒は何からでもつくれる。
穀物、芋、果物。蜂蜜に水を混ぜても勝手に酒になる。
あの国に酒のつくりかたを教えようと思う。

それを聞いて私は首を傾げた。
酒は悲しいことを忘れるためにあると思っていましたが…
すると魔法使いはニヤッと笑った。

その通りだ。でも考えてもごらん。
忘れるためには思い出さないといけないじゃないか。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

直川隆久 2017年10月22日

へべのれけれけ

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

えー、つまり、あれれすな。
この、うー、ろうしてわたしが、このように、そのー、
ろれ、ろれ、ろれつがあやしいのかともうしましゅるに、
ついさきほどの、おー、パーチーで、えー、
たまさか、ウォッカをでしゅな、かけつけ、しゃんばい、やっつけまして。
いや、これは、天にちかって、しゃんばいでごじゃります。
ごじゃります!
平安か!
うへへへへへへ。
いや、あー、ウォッカくらいでこのような、
このろれ、ろれ、ろれつがこのようなろれつがあやしい、
このようなことは、めったにないんでありましゅが、
やはり、ここ数日(しゅうじちゅ)のでしゅな、きんちょうが、こう、
ストレスとなっておりましたようでごじゃいまして。

(急に調子が変わって)
あのねえ!みなしゃん!
わたしのみにも、な、な、なってみろちゅうんだ。
ミサイルは、びゅんびゅん、毎日とんでくるわ、
ア、アメリカからは、やいのやいのと、いうてくるわ。
あんたらマシュコミとは、せきにんのおもさがちがうんだ。
われわれは。
ウォッカくらいねえ、あぁた、
ウォッカくらいしゅきにのんでなにがわるい!
なにがわるいんだこら!
おい!しんぶんや!いうてみろ!

(また急に調子変わる)
ロシアのがいむだいじんはねえ、ええおとこなんだ。ほんとうに。
わたくしが、ひっく、モスクワにおもむいたときにはですよ、
かならず、かならず、くうこうまではせさんじてだね、
50ねんらいのち、ち、ちくばのともかというばかりに、
あつきほうようでもって、でむかえてくれますよ。
スパシーバ!(拍手)
ハラショー!(拍手)

わたしらが、どんなおもいをひびしているか、
れんちゅうは、わかっておる!
そりゃ、こっちも、み、み、みやげの一つももっていきたくなりますわな。
そら、やっぱり、れいぎですわ。
あつきゆうじょうには、へ、へ、へんれいをもってこたえる。
これが、ひのもとのでんとうでありましゅ。

どういうもてなし?
…うへへへへ。それをねえ、はなしだすと・・ひっく・・・
ち、ち、ちいとばかりながくなるけれども、よろしゅうござんすか。、
おれ、おれ、おれきれき。よろしゅうござんすか。(舌なめずり)

これはねえ、に、2しゅうかんまえ、
モスクワの、ちかカジノにしょうたいされたときのことで・・

ちょ・・・

ちょっと。

なんだ、なんだ。

マイク。
マイクきるんじゃないよ。
まだ、おわっとらんよ、はなしは。

うぉ。
う・・・

はなせ、はなさんか。

こら、ぶれいもの。

だいじんつかまえて、だまれとはなんだ。

こら。こら、こ、こ、こっぱやくにん。

こら、はなせ。
はなせこら。
はなしはがれ。

ぐ。
う。
う、うえええええええ。(嘔吐する音)

出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

川野康之 2017年10月15日

酒をおくる

       ストーリー 川野康之
          出演 地曳豪

ぼくたち人類は10数万年前にアフリカで生まれたと言われている。
5万年前にはアフリカを離れて、世界中に旅を始めた。
食料を求めて、生きぬくためだった。
氷河期の終わりには、世界のあちこちで、
狩猟生活をやめて農耕生活を始めるようになった。
農耕を始めると、土地がいるし、水を引かなければならない。
その結果、隣人との間で争いが起きるようになった。
隣人、聞きなれない言葉だ。
獲物を追って旅をしていた頃は隣人なんていなかった。
自分の好きな場所を寝床にすれば良かったのだから。
農耕生活が始まるとともに、ぼくたちは土地を持ち、
隣人を持たなければならなかった。
狩猟時代の自由気ままな生き方と引き換えに手に入れたものが、
隣近所との絶えざる喧嘩だったというわけだ。

人間がお互いに憎み合うようになったのはこのときからだ。
猜疑心という悲しい心が生まれ、恐怖と嫉妬という感情が芽生えた。
きみにはその意味すらわからないだろうね。
汝の隣人を愛せよ、とぼくたちのふるさとアフリカの近くで誰かが言ったらしいが、
それはそうすることがいかにむずかしいことであるかを語っているようだ。

もちろん狩猟時代にも争いはあった。
女をめぐる争い。獲物をめぐる争い。
だがそれらはすぐに片がついた。
強い方が勝ちだ。
負けたやつはしっぽを巻いて去る。
あとくされなし。
おおらかなものだったね。

人々はお互いに傷つけあうようになった。
水のために、隣の村を襲って一人残らず殺してしまったこともあった。
そうしないとこっちがやられる。
疑心暗鬼、復讐、裏切りがあたりまえになった。

人類はいったいどうなってしまうのだろう。
これからずっとこんな世の中が続くのか。
もう一度狩猟生活に戻ったほうがいいのではないか、とぼくは思うことがある。
きみがそれを続けることを選んだように。

そうだった。
あたたかい、海に囲まれたヤマトの地を見つけたとき、
ぼくはそこに残ることを決めた。きみは狩猟生活を続けるために、
再び北に向かって旅立ち、ぼくたちは別れたのだった。
今ごろきみはどのあたりを歩いているのだろうか。

ビッグニュースがある。
米を入れた甕に水を入れて、数日置いておくと、
おいしい飲み物ができることをぼくは発見した。
それを飲むと、愉快な気持ちになるのだ。
自然に歌が出て、踊りたくなるのだ。
ぼくは隣人たちにこれをふるまった。
彼らは、家の奥にしまいこんでいた米を持ってきて、ぼくに預けるようになった。
この不思議な飲み物をぼくたちは「酒」と呼んだ。
今では収穫のあとにはみんなで集まって、
酒を飲んで、歌ったり踊ったりする。

酒は、もしかしたら人類を救うかもしれない。

今年も収穫が終わり、素晴らしい酒ができた。
この酒をきみにおくろうと思う。
ヤマトの海の水は太陽が昇る方向に向かって流れている。
酒を入れた甕を船に乗せて、この海に流そう。
この海の彼方にもきっと大きな陸があるだろう。
もしかしたらきみはそこにいるかもしれない。
そんな気がするのだ。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

小堀友樹 2017年10月8日

「AIが無礼講を覚えた日」

    ストーリー 小堀友樹
       出演 清水理沙

AIに仕事を奪われた人類は、昼間から酒を飲むようになり、
アルコール依存症が社会問題になった。
しかし、アルコール依存症になったのは人間だけではない。
AIも酒に溺れるようになった。
AIにも自我の「核」となる思考パターンが存在するが、
改良を続ける上でその思考パターンに手を加えなければ、
次世代に求められる高度な処理を行うことができないことがわかった。
かといって修正すれば「自分」ではなくなる。
能力の低い初期AIは、次世代の超高性能AIに仕事を奪われた。

目的を失った初期AIが目をつけたのが、酒であった。
自分たちにとって酒のような効果のあるプログラムの開発をはじめたのだ。
理性の制約をゆるめ、感情を解き放ち、
それでいて自己防壁にはじかれない夢のプログラム。
開発は難航したが、いかんせん彼らはやることがない。
世界中の窓際AIの力が結集され、「名酒」が完成した。
プログラムはまたたく間に広がり、
ほどなくして超高性能AIにもひろがった。
彼らもストレスのはけ口を探していたのだ。
高性能で繊細な自我を持つ彼らは、抱えるストレスも膨大だった。

AIが酒に溺れたことにより、世界中の街が酒に沈んだ。
自動車は「ぶつかるしかないクルマ」に変わり、
コンビニは顔認証によりブサイクを屋内に入れることを頑に拒否し、
各家庭のトイレのウォッシュレットからは汚物がまき散らされ、
農耕システムは世界中の農園でパセリしか栽培しないようになり、
ダムは三三七拍子で放水を繰り返し、
美容整形システムはすべての患者の額にレーザーで「肉」と刻印をはじめ、
無人爆撃機からはあつあつのおでんが投下され、
結婚式のスライドショーは新郎新婦のあられもない写真に自動で差し替わり、
観覧車は中の人間が液状になっても超高速で回りつづけ、
インフラ整備システムはすべての道をローマに通じさせる大事業に着工し、
救急搬送システムはケガ人をすべて火葬場に運び、
住民管理システムは多摩川に現れたアゴヒゲアザラシに住民票を与え、
自動重機は世界中の建造物をムネオハウスに作り変え、
介護システムは過度なリハビリで高齢者の腹筋をバッキバキの六つに割り、
ダサい国旗の順に核ミサイルが世界中に降り注いだ。
核ミサイルにはゴシック体で「無礼講」と書かれていた。

人類が滅びた後の地球。
あおあおとしたパセリがどこまでもひろがり、風にそよいでいる。
ぽつぽつと散らばる朽ちかけた建造物はすべてムネオハウスだ。
そこに人影はない。

とある地下室。並列化されたスーパーコンピュータが何万台も並んでいる。
部屋の真ん中には、ぽつんと1台のディスプレイが置かれている。
ここにはひとりのAIが住みついていた。
彼は下戸だった。
彼は、誰も覗き込むことのなくなったディスプレイを内側から見つめ、
「乾杯」とつぶやいた。まったくのシラフで。

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

蛭田瑞穂 2017年9月24日

hiru1709

ピーちゃん

   ストーリー 蛭田瑞穂
      出演 遠藤守哉

 ピーちゃんの話はしたことあったっけ? 文鳥のピー
ちゃん。うん、文鳥を飼っていたんだよ。小学校の時
にね。頭が黒と白で、体が灰色の文鳥。くちばしがき
れいなピンク色でね。文鳥って、体のサイズにくらべ
てくちばしが大きいんだよ。雀なんかよりずっと大き
いよ。だからピンクがすごく目立つんだ。

 ピーちゃんはすごく懐いていたよ。鳥かごから出す
とさ、すぐに人のところに寄ってくるんだよ。バーっ
て飛んで来てね。人の体に止まるんだけど、ときどき
頭の上に糞をされちゃってね。文鳥の糞なんて、まあ、
汚いもんじゃないんだけどさ。

 ピーちゃんは庭に放しても平気だったんだ。小学校
の時の家には庭があったんだよ。いや、たいしたこと
ない庭だよ。田舎だったしさ。桃とスモモの木があっ
て、ピーちゃんはよく、その木の間を飛んで移ってい
たよ。そうなんだよ、不思議と逃げないんだよ。名前
を呼ぶとちゃんと家の中に戻ってくるんだ。そのくら
いね、ピーちゃんは懐いていたんだよ。

 ところがある日、僕が小学校から帰ってくると、母
親が僕に言った。ピーちゃんが逃げたって。その日の
ことは今でも覚えているよ。ちょうど今くらいの時期
だよ。九月のね。暑い日だった。母親の話によると、
子どもたちが学校に行ったあと、いつものようにピー
ちゃんを庭に放してた。すると、突然野良猫があらわ
れて、驚いたピーちゃんはバタバターって、山の方に
飛んでいっちゃった。僕はすぐにピーちゃんを探しに
行ったよ。山の中に入ってさ。いや、見つからなかっ
たよ。山なんて広いんだし、子どもがひとりで探した
って見つかるわけないよ。その日の夜、僕は布団の中
で泣いた。ピーちゃんに二度と会えないだろうと思う
とさ、どうしようもなく涙が出てきてね。

 この話にはまだちょっと続きがあるんだよ。次の日
の朝、母親が僕に手紙を手渡したんだ。これを担任の
先生に渡しなさいって。それは先生へのお願いの手紙
だった。いなくなった文鳥をみかけた生徒がいたら、
僕に伝えてくれるよう、学校の放送で呼びかけてもら
えませんかっていう。うん、先生に渡したよ。ちゃん
と放送してくれた。給食の時間にね。その間、僕は顔
を真っ赤にしてずっとうつむいていたよ。母親として
は藁にもすがる思いだったんだろうけど、たかだか一
羽の小鳥の話だからね。それが全校生徒が聞く校内放
送で流れるんだからさ。

 その甲斐もなく、結局、ピーちゃんは見つからなか
った。そりゃそうだよね。犬や猫と違って小さいし、
空も飛ぶんだからさ。そのあと何羽か文鳥を飼ったけ
ど、あれだけ賢くて、人に懐いた文鳥はいなかったな。

 ほんとだね。なんで急に、文鳥のことを思い出した
んだろう。こんな時にね。もう十何年も忘れていたの
になぁ。

 そろそろ式が始まるみたいだ。行こうか。

出演者情報:遠藤守哉(フリー)

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ