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蛭田瑞穂 2016年12月18日

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猫は空を見ていた

       ストーリー 蛭田瑞穂
         出演 大川泰樹

猫は空を見ていた。
天窓の上の空をじっと見ていた。
空には雲がぽっかりと浮かんでいた。
雲はひとところに留まっているように見えたが、
しばらく眺めていると
窓の端にむかって少しずつ移動していることがわかった。

雲は徐々に窓枠の外に隠れてゆき、
最後は完全に姿を消した。
「消えた雲はどうなるのだろう?」
猫はいつもそう思うのだった。

雲だけでない。
鳥も飛行機もみんな窓枠の外にいなくなる。
そのあと、雲や鳥や飛行機はいったいどうなるのだろう。
跡形もなく存在が消え、
二度とこの世界に戻ってこないのだろうか。
猫は窓枠を通してしか世界を見ることができない。
猫にとって窓枠こそが世界の果てだった。

猫はゆっくりと歩きながら、別の窓辺に移動した。
そして先ほどとおなじように空を見た。
猫にとってそれぞれの窓から見える空は
それぞれ別の世界だった。
窓枠の数だけ世界が存在していると猫は思っている。
にもかかわらず、それぞれの世界はとてもよく似ていた。
ほとんど同じと言ってもよかった。
同じ色の空があり、同じ色の雲があった。
同じように雨が降り、同じように夜になった。
「それぞれの世界はどのように関係しているのだろう?」
猫は窓枠を通してしか世界を見ることができない。
猫には無限の世界というものを
想像することができない。

今日もどこかの窓辺で猫が空を見ている。
その時猫が考えているのは世界とはいったい
何なのだろうということなのだ。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/


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佐倉康彦 2016年12月11日

sakura1612

土の眼差し

      ストーリー 佐倉康彦
         出演 石橋けい

土は、雲を見上げている。
雲は、土を見下ろしている。
土は、太陽を見上げている。
太陽は、土を見下ろしている。
土は、風を見上げている。
風は、土を見下ろしている。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを見下ろしている。

土は、雨を見上げている。
雨は、土を濡らし続けている。
土は、雪を見上げている。
雪は、土を隠そうとしている。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを濡らし続けている。
わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを隠そうとしている。

土は、
雲を、
太陽を、
風を、
雨を、
雪を、
あなたを見上げている。
あなたは、
わたしを、
土を、
わたしのなかに埋まったままのそれを
見下ろしている。

土は、宙(てん)を見上げている。
宙(てん)は、土を見下ろしている。
土は、星を見上げている。
星は、漆黒のなか、土を見下ろすことなどできない。
土は、月を見上げている。
月は、己の放つ朧な明かりだけでは、土を見下ろすことなどできない。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしのなか、わたしを見下ろすことなどできない。
わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、己の放つ朧な思いだけでは、わたしを見下ろすことなどできない。

土は、
そこからひとつのいのちをひり出す。
そのいのちが太陽に向かってゆく姿を見上げる。
そのいのちは、
己がひり出された土を、膣を見下ろしながら、
いつの間にか、その土を顧みることもしなくなる。

わたしは、
あなたからひとつのいのちをひり出させる。
そのいのちがわたしに向かってゆく姿を想像する。
そのいのちは、
己がひり出されたあなたのなにかを濁らせながら、
いつのまにか、わたしの中にもとどまれず、
白い陶器の渦潮の中に打ち棄てられてゆく。
土は、
わたしは、
空を、
あなたを見上げている。
空は、
あなたは、
土も、わたしも見下ろしてなどはいない。

がらんどうの、その空(から)の、あなたの瞳に映るのは、
よこたわったままの、
土の、膣の、わたしの隣りに広がっている海しか映ってはいない。

よこたわったままのわたしは、
空しか、あなたしか、見上げることはできない。
わたしのとなりに
土のとなりにひろがる、
あのひとも、
海も、
見つめることしかできない。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを見つめてなどいない。
土は、空を見上げている。
空は、大地を見つめてなどいない。
          
わたしは、空を見上げている。_

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

 

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田中真輝 2016年12月4日

tanaka1612

流星群

    ストーリー 田中真輝
      出演 齋藤陽介

中学生の頃、僕は夜遊びばかりしていた。
といっても、住んでいたのはドがつく田舎。家の周り
にあるのは、田んぼと畦道。あと、墓と寺。
近所にはコンビニなんかなくて、
夜遅くまで開いているのは、小さな酒屋兼立ち飲み屋か、
しょぼくれたスナックしかなかった。
そんな最果ての地でできる夜遊びといえば、もう、ただぶらぶらと
歩くだけのこと。心細い街灯を頼りに、毎晩農道を一人で歩いた。
時々その小さな酒屋でアイスや缶コーヒーを買い食いした。
別にぐれていたわけではないから、タバコを吸ったり、
酒を飲んだりはしなかった。
どちらかというと、優等生だった。
波風立てずに、そこそこの成績を収め、そこそこクラブ活動に
励み、そこそこみんなと仲良くしていた。
そして、そんな自分が心底嫌いだった。
一人で部屋にいると、底なしの穴に落ちていく気がした。
だから、夜な夜な農道を歩いた。そこそこ歩いたら、
盗んだバイクで走り出したりせず、折り返してまっすぐ
家に帰った。結局のところ、逸脱だってそこそこだった。

ある冬の夜、いつものように夜道を歩いていたら、
上の方から僕の名前を呼ぶ声がした。
田舎の夜空は星が多くて明るい。その明るい夜空を背景に、
黒々と建つ一軒家の屋根のあたりで、誰かが手を振っていた。
僕は、それが新井であることを、声とシルエットから察した。
新井は東京から来た転校生で、抜群のイケメンだった。
成績も申し分なく、スポーツもでき、愛想もよかったので、
新しい環境に瞬く間に馴染み、いわゆる人気者になった。
僕はそれを、違う星から来た異星人を眺めるように見ていた。
星を背負った異星人の新井は、綺麗な標準語で、
上がってこいよ、と言った。
彼の家には大きなベランダがあって、そこには外付けの階段で
上がることができた。
僕は素直に彼の言葉に従った。
田舎には何もないけれど、何の役にも立たない星だけは腐るほどある。
新井はそんな、バカみたいな夜空を見上げながら、
今日は流星群の日なんだぜ、と言った。
ほら、と新井が見上げる視線の先を追いかけると
何かが視界の端っこで走る感覚があった。
と、思う間に、また視界のやや外れを星が流れた。
素晴らしいスピードで。
空を埋め尽くす星の間を、カミソリで切り裂くように
いくつもいくつも星が流れた。
星の光が、夜空を何度も何度も切りつけているように見えた。
二人とも、長い間そうして夜空を見ていた。
二人とも、何も言わなかった。
何十という流れ星を黙って見送ったあと、
新井が「俺、いつ死んでもいいなあ」と言った。
唐突な言葉には聞こえなかった。
その時、その場に、とてもしっくりくる言葉だと
思った。そこにあったすべてを丸めて放り込んだ
ような言葉だと思った。
だから僕は、「わかるよ」と答えた。
そうしたら、新井はこう言った。
「お前なんかに、俺の気持ちがわかるか」

それ以降も、新井はクラスの人気者だったし、僕にも
これまで通り、何もなかったように普通に接した。
今まで通り、愛想のいい、素敵な転校生。
あの日を境に、変わったことなど何一つなかった。
そこそこの浮き沈みを繰り返しながら、毎日は
淡々と過ぎていき、そうこうしてる間に、新井は
別の場所に引っ越していった。
みんな少し残念がり、そして忘れた。

今でも、流星群がやってくると聞くと、新井のことを
思い出す。そしてその思い出は、
心の奥の方にある、暗い場所をカミソリのように、
さっと切り裂いて、消える。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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中山佐知子 2016年11月27日

1611nakayama

門のなぞなぞ

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川征義

風が吹いていた。
遮るものもないだだっ広い荒野に門が並んでいた。
門はざっと100くらいあった。

門には名前がついていた。
カンケイドーブツ門、センケイドーブツ門、ユーソードーブツ門…
カンケイドーやセンケイドーはわからなかったが
どの門もブツ門というからには仏の道なのだと思った。
そうか、本当に俺は死んじゃったんだ。
死ぬと誰でも仏になれるんだ、ラッキー、と思った。

ドーフンドーブツ門、セッソクドーブツ門、
ドーフンドーブツ門は泥の臭いがした。
門を入るとぬかるみの道かもしれない。
セッソクドーブツ門は花の匂いに海の匂いが入り混じっている。
こっちは気持ちよさそうだ。
わくわくしながら門の名前を見てまわった。
モーガクドーブツ門、ナイコードーブツ門
ナンタイドーブツ門…
ナンタイドー….ブツ…。ナンタイドーブツ…
待てよ、ナンタイドーはちょっと引っかかる。
ナンタイドーならいいが、
ナンタイドーブツに分類学の門がつくと
軟体動物門じゃないか。イカやタコだよ。
するとこれは仏門ではなく輪廻転生の門かもしれない。
正しい門を選べば
もういっぺん人間に生まれ変われるってことだ。
イカもタコもある意味では人に愛されていると言える。
節足動物門のエビやカニならもっと愛されると思う。
でも、どうせなら愛されるカニより愛する人間になりたい。
輪廻転生、生まれ変わるならもういっぺん人間になりたい。

俺は門を叩いてまわった。
門には門番がいて、
その門を代表する生き物の名前をいくつか教えてくれた。
軟体動物門の代表はイカ、タコ、貝。
節足動物門の代表はバッタなどの昆虫にエビやカニ。
緩歩(かんぽ)動物門はクマムシ。
クマムシは地球最強の不死身の生物だ。
絶対零度でも死なない。
150度のオーブンに放り込まれても死なない。
水がなくても死なない。放射能でも死なない。
宇宙に放り出されても10日は生きられる。
これには正直、心が揺れた。しっかりしろ、俺。
それから脊索動物門。
この門の代表はホヤにプレシオサウルスだった。
プレシオサウルスといえばジュラ紀の恐竜だけど、
生まれた途端に化石になってしまうってことか?

俺はどの門をくぐればいいのか悩んだ。
いま調べた門の中で
人間に転生できる可能性を秘めた門がひとつだけある。
そこでなぞなぞだ。
イカ、タコの門、バッタとカニの門。クマムシの門、
ホヤと恐竜の門、
この中で人になれる門はどれでしょう。
答を待ってるからね。

出演者情報:大川征義 https://www.facebook.com/masayoshi.okawa?fref=ts

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李和淑 2016年11月20日

lee

門番の日々

     ストーリー 李和淑
       出演 清水理沙

高校3年生のとき、門番をやっていた。
朝、校門の前に立ち、登校してくる学生のカバンを開いて、
持ち物検査をする役目。
勉強と部活に関係ないものはすべて没収。
みんなからは、いまいましく「門番」と呼ばれていた。

取り締まりみたいなことをやるのは気が進まなかったけど、
優等生で通していた私は、先生に逆らうこともできず、
「門番」業を淡々とこなしていた。

毎朝、男女数人の門番が、学生たちを待ち受ける。
「おはよう」と声をかけながら、
ひとりひとりのカバンを開き、中をチェックする。
女子から取り上げるものは、
たいがい、お菓子、雑誌、化粧品、アイドルの写真。
男子からは、漫画、ジャックナイフ、ゲーム機、ときにはタバコ。

「門番」は、ふつうの学生たちからは当然悪者(わるもの)扱いされ、
それがイヤで、門番を辞めていく子もいたけれど、
私は辞めなかった。
なぜなら、ひそかな楽しみがあったからだ。

毎朝、私めがけてやってくる後輩らしき男の子。
学年も名前も知らなかったけど、
眼がくりっとしていてまつ毛が長く、童話のバンビに似ていた。
馬鹿丁寧に「おはようございます」とあいさつし、
自らカバンをがばっと開いて私に見せる。
その中身が、いつも面白かったのだ。

はじめて彼のカバンをのぞいた日は、よく憶えている。
「亀」が入っていたからだ。
黒くて、ごつごつして、手のひらほどの大きさもあるそれは、
首も手足もすぼめて、微動だにしなかった。

「生きてるの?」と聞いたら、
「ひとりで留守番かわいそうだから」と、ひそひそ声で彼は言った。
生き物の持ち込みはもちろん校則違反だけれど、
没収して殺処分になっては可哀想なので、
私はなにも見なかったようにカバンを閉じ、彼を通してあげた。

そんなことをきっかけに、
彼は毎朝、わざわざ私の前にやってきて、カバンを開いて見せた。

ある朝は、プリンが入っていた。
数えたら10個もあった。
「お菓子はダメだよ」と言うと、「今日のお弁当です」と彼は答えた。
「お弁当にプリンはダメって、校則にありましたっけ?」
あまりにも幼稚な決まり文句に、私は不覚にも笑ってしまい、
思わず彼を通してしまった。

ある朝は、パジャマが入っていた。
「なんでパジャマ?」ときくと、
「具合が悪くなって保健室で寝ることになったら使うから」と言う。
なるほど。妙に納得した私は、やっぱり彼を通してしまった。

ある朝は、ロン毛のかつら。
「ボクの帽子なんです」と言う。
まあ、かぶりもの、という意味では同じたぐいだし。
なので、やっぱり彼を通してしまった。

トンカチ。
古い結婚式の写真。
オレンジ色の壺。
マトリョーシカ。
かたっぽだけの下駄。
ホラ貝。
犬の首輪。

彼のカバンの中身は、どれも没収に値するものばかりだったけど、
持って来た理由や言い訳がとても愉快だったので、
私はついつい許してしまった。
それは、彼と私だけの、楽しい秘密のゲームだった。

そうして4月から始めた門番も、3月の卒業式を前にして
とうとう最後の日になった。
その朝も、彼は私の前にやってきて、
いつものようにカバンをがばっと開けた。

口紅が一本、転がっていた。
高校生でも知っている外国の有名ブランドのものだった。
「最後に、没収させてあげる」と彼がささやいた。
「先輩のポケットに没収して」

私は戸惑いながら彼の顔を見た。
やっぱりバンビみたいだな、と思いながら、
言うとおりに口紅を没収した。
そして、言われたとおりに、制服の上着のポケットにしまった。
彼はにっこり笑って「卒業、おめでとうございます」と言い、
からっぽのカバンを肩にかけ、すたすたと校舎のほうへ歩いていった。

いまでも、朝、ひっきりなしに校門を通り抜ける学生たちを見ると、
あの門番の日々を思い出す。

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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田中真輝 2016年11月13日

hiiragi

「鬼門」

    ストーリー 田中真輝
      出演 遠藤守哉

えー、くだらない噺を一席。
近頃では何かとAIだ、バーチャルリアリティだと、
とかくデジタルの世界が騒がしくなっておりますが、
毎度お馴染み、八っつぁん、熊さんの住むお江戸が、
仮想空間にバーチャルな環境として作り上げられる時代も、
そう遠くないのかもしれません。

おーい、熊さんてえへんだ。
なんでえ、八っつぁん。かみさんが川にでも落ちたかい。
そんなことになったら川が雪隠詰めで大洪水だよ。
ちがうんだよ熊さん、
大江戸バーチャルスケープのセキュリティゲートが
クラックされて、てえへんなんだよ。
おおそりゃまたてえへんだ。
八丁堀のゲートキーパーが居眠りでもしてたのかい。
それがどうやら同心レベルのセキュリティプログラムに
致命的な欠陥がみつかったらしい。
そりゃまた物騒だね。どうして今までわからなかったんだい。
それがまた粗忽な話でね、
スケープを立ち上げた時点でアセンブラに
成長型のAIクロウラーが書き込まれてたらしくって、
そいつの脆弱性がコンバージェンスの度に、
少しずつコラプション起こしてたってんだから、しようがねえ。
なんだいそりゃ、粗忽だねえ。書いたやつ呼んできやがれ、
俺がそのツラ書き直してやる。
それで火消しの連中は何してるんだい。
いろは四十八組総出で当たってるが、
相手は火事じゃねえ、ばけもんだ。
越後屋のでっちの方がまだ役に立つって話だよ。
なんでえ、たよりねえ。ばけもんったって、
たかがローカルのマルウェアだろう。
大騒ぎするようなことかね。
それが熊さん、そうでもねえんだ。
与力も腰抜かすほどのガウリレベルの敵性ジャーゴンらしい。
さながら通りは百鬼夜行、触れるもの皆、
ばったばったと量子崩壊さ。
これで大江戸バーチャルスケープ3000年の泰平も
一貫の終わりかと思ったそのとき、現れたのが鍾馗様よ。
おうおう、鍾馗様ってぇと、端午の節句の、あの、鍾馗様かい?
ご名答、まさに鬼より怖い鍾馗様のご降臨よ。
身の丈10間にもなろうかって、大入道が通りにいきなり降って湧いて、
魑魅魍魎をばったばったとプランクレベルまで分解し始めた。
その姿が、まるで鍾馗様そっくりだったって話よ。
そりゃあ妖怪どもも度肝抜かれただろうに。
おかげで百鬼夜行もどこへやら、通りに転がるのは、
ぼてふりでも踏み潰せる程度のジャンクウイルスばかりとなりにけり、
ときたもんだ。
さすが鍾馗様。
しかし八っつぁん、その鍾馗様そっくりの大入道は一体全体、何者なんだい。
このお江戸スケープじゃ、
5間を超えるサブスタンスは認可されちゃいねえはずだ。
それが熊さん、えれえ話で。
安楽寺に逗留中の謎の坊さまの話を聞いたことはねえかい。
ああ、2、3ヶ月前に寺の前で行き倒れてるのを、
安楽寺の和尚が見つけて以来、世話してるっていう、あの坊さまかい。
その坊さまが、実は、アルファケンタウリ星系からやってきた、
未知の知的情報生命体だったってのが、もっぱらの噂でね、
その知的情報生命体が、鍾馗さまの正体だったらしい。
お江戸の危機と見るや否や、
そいつが江戸スケープのグランドプロトコルをぶちぬいて、
巨大化したって話だ。
そりゃまた奇想天外な話だね。なんでまたそんな宇宙人みたいなやつが、
お江戸の危機を救ってくれたんだい。
宇宙人にも、一宿一飯の恩義ってやつがあったんだろうよ。
強力なバーチャルナノマシンを撒き散らして、
妖怪どもを一網打尽にしたあと、煙みたいに消えちまった。
しかしまあ、敵性ジャーゴンウイルスには、不運なこった。
そこだよ熊さん。敵性ウイルスがこじあけたセキュリティゲートは、
安楽寺の真裏、鍾馗様が睨みを効かせる、うしとらの方角だ。
それがどうしたってんだ。
つまり、敵さんにとってはゲートはゲートでも、鬼門だったってことよ。

お後がよろしいようで。

出演者情報:遠藤守哉はフリーになりました。

 

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