『地元を忘れるなよ』(東北へ行こう2017)

『地元を忘れるなよ』

      ストーリー 高橋稜(東北芸術工科大学)
         出演 地曵豪

拝啓10歳の俺

大丈夫か?
ちょうどキツイ時期だよな
今でもハッキリ覚えてるよ

でも、そんなのよりキツイことが
この先には待ってんだよ、残念ながら

小さい頃よく行った海浜公園、
車ですぐに連れて行ってもらえたデカイ海
いつも可愛がってくれたばあちゃん

いろいろと、さよならを言うことになる

だから、
外を見とけ
景色を、町並みをしっかり見とけ
ゲームばっかやってんじゃねぞ

あとは家族、
当たり前だけど、大事にしろよ
「ありがとう」を言うの忘れるなよ
絶対だぞ!後で後悔するからな

それと、避難訓練は真面目にやっとけ
必ず役に立つ日が来るから

こんなとこ、早く出たいと思ってるだろ?
都会や海外に憧れはじめた時期かな

でもな、
なんやかんやでここが大好きになる

お前をいじめてるやつ
今じゃ一緒に酒飲んでるよ

お前が怖がってた竹駒神社
今じゃ毎年お参りに行くよ

お前が大好きだったつるやのたこ焼き
安心しろ、今も大盛況だ!

住む場所
人間関係
色々変わるけど、

ここは変わらない
どんなに変わっても
根っこは変わらない
それが地元ってもんだ

今いる故郷(ばしょ)を忘れるな
俺は必ず戻るよ、岩沼に。

東北へ行こう


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「ポン」(東北へ行こう2017)

「ポン」
      ストーリー 日野裕介(東北芸術工科大学)
         出演 地曵豪

午後は吹雪の日だった。
僕は午前中に山にいった祖父の安否を気にしていた。
夕方近くになって祖父は、雪まみれで帰ってきた。
傍らには見た事の無い犬を連れていた。拾ってきた、と言っていた。
祖父は笑って言った、こいつはポンだ、飼うからな。
祖母は、またいい加減な事を言い出したよ、というような顔で見ていた。
父も母も、呆れはしても、止めようとする事は無かった。

けど僕は反対だった。犬は山で暮らしていたかったはずだ、
鎖でつないでおくなんて可哀想だ。
だから僕は、誰も家にいない日を見計らって、こっそり鎖を外してやった。
外した瞬間に、ポンは、だーっと畑の方に走っていった。
けれど、すぐに戻ってきた。
逃げなきゃダメじゃないか、と何度もしっしっと追い払ったが、
その度に戻ってくる。そうか、帰り道が分からないんだ。
そう思った僕は、祖父が拾ったという山の近くまでポンを連れて行き
そこに置いて帰ってきた。
これでもう、あいつは自由だ。怒られると思っていたけど、
それでも祖父は笑っていた。

数日経った寒い朝、凍り付いた玄関を開けると、ポンがいた。
ポンが帰ってきた。
ここがいいんだ、ここがポンの帰る場所になっていたんだ。
祖父はやっぱり笑っていた。

東北へ行こう。


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一倉宏 2017年1月1日

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 ことばとつばさ

    ストーリー 一倉宏
    出演 地曳豪石橋けい


ことばは つばさに 憧れていた
わたしに足りない なにか
失われた 奪われた からだの一部のように 
取り返しのつかない 忘れもの
ことばは ときどき 空を見上げる  
それとも かなわぬ恋 なのだろうか

**
つばさは ことばに 嫉妬していた
ぼくはただ 飛ぶだけさ
それを自由と呼ぶのも ただの比喩だ
高く低く 東へ西へ 飛べない空はない
山脈(やまなみ)を越えて 海も渡ってみせよう
それだけが ぼくにできることだから


ことばは ときどき 自分を恥じる
一方的に しゃべった後で
突然気づく その虚しさに
道に迷った ドライバーのように
ことばは 孤独を 思い知ることになる
ことばなのに と 自分を恥じる

つばさよ
あなたはきっと ないでしょう
目的地を間違えたり
そんな自分を 恥じることなど

**
A地点とB地点には 最短距離がある
ぼくは その数学を証明する 
それは 間違いなく 
それを 間違えることはできない
それが 数学だから 
飛ぶことだから

ことばよ
なりたいですか 数学に
間違えない 正しさに

ぼくは あなたの不確かさと
曖昧さに 嫉妬するのです
むしろ


わたしは ことばは
どうしてこんなに 情けないのだろう
すれ違う 
届かない 
たどり着けない
そればかりか 傷つける 
遠ざかる

**
ぼくら つばさは 
傷つくこと 傷つけることは
すなわち 死 を意味するのですよ
空を飛べない つばさは
わかりますか
ぼくとあなたは 
それほどまでに違う
ぼくはあなたに あなたはぼくに
……なれない  


いつか 年老いた占い師は言った
昔 ひとつのものだった同士は
どうしようもなく 惹かれあう 
永遠に

昔 神様が選ばせたのだから
遠い昔 神様の前で選んだのだから
あなたは つばさを
わたしは ことばを

**
それが 本当のことだとしても
もう 思い出せない 
遙かな昔 だ


永遠の 生き別れ

**
他人の 空耳


ねえ 本当に
わたしたちは 一緒になることが
できないのですか
たとえば どこか 

無人島で

**
そんなことが
できると思うのか 本当に

捨て去れるのか 
A地点から どこへゆくとも知れぬ
止めどのない 会話を
昼下がりの表参道 にぎやかなカフェの
他愛のない おしゃべりを

恋?
それがひとつになることを意味するなら
ぼくたちが

それを願うのですか
ありうるのですか
比喩ではなく

地上のひとよ

気まぐれな 
ことばよ

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html
      石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

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勝浦雅彦 2016年10月2日

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『ウルグアイの犬』

     ストーリー 勝浦雅彦
       出演 地曵豪

「断尾って知ってる?犬の尻尾を、小さいうちに切り落としてしまうの。」

「生憎うちは妹にアレルギーがあってペットは飼えなかったから。詳しくないんだ。
なぜそんなことを?」

「ヨーロッパで生まれた風習らしいんだけど、予防医学や衛生面でのメリットもあるらしいの。
でも、本当の理由は、人間が定めた理想的な犬の姿にただ近づけたい、
ってことみたい。そして子犬のうちに麻酔もかけずに取ってしまうんだって。
幼犬は痛覚が発達していないから麻酔など要らない、って。ひどい話よね」

取り留めない会話が続いていた。
この店に呼び出された真意をはかりかねていた僕に、
「母がいなくなったの」と彼女はだしぬけに切り出した。
「おばさんが?」
彼女は頷いた。僕たちは5歳の頃からの幼馴染みだった。
とは言っても、もう彼女の母親の印象はおぼろげで、
母娘二人はよく似ている、という記憶だけが残っていた。

先々週の金曜日のことだった。
彼女は二年間付き合った恋人と結婚しようと考えている、
と母親に伝えた。多くの場合、娘の結婚という事実を深刻かつ重大に受け止めるのは、父親だ。
だから、彼女は極めてフランクに、当然こちら側の味方として母親にその意思を伝えたつもりだった。
母親はいつもと変わらずに、あらそうなの、とか、忙しくなるわね、と応じていた。
父親は出張で不在だった。

翌朝、彼女が少し遅めに目を覚ますと、もう母親はいなかった。
極めて最小限のものが持ち出された形跡があった。
翌日に父親が帰宅しても、母親からは一切連絡がなかった。三日目には親戚に電話をかけ、
四日目には知りうる限りの友人に連絡を試みた。しかし、誰も母親とここ数か月連絡をとっていなかったし、
みな一様に「あの人のことだから心配ない」という口調で応じた。彼女は戸惑った。
専業主婦だった母が一人で出かけることはまれだったし、むろん無断外泊をした記憶などない。

父親の態度も不思議だった。最初は戸惑いを見せていたが、
解決には時間がかかるだろう、といった趣旨の発言をした後は本来の機械のように
規則的で几帳面な生活リズムの中へ戻って行った。
まるでコンピューターが母の不在、という不規則なプログラムを克服したように。

二杯目のコーヒーが運ばれてくると、彼女はその位置を修正し、テーブルの
中央に茶色い封筒を置いた。
「母がいなくなって思う以上に私は慌てていたのね、
自分の部屋の鏡台にこれがあることに気づくまでずいぶんかかった」
「これは?読んでいいの?」
「ええ。ただ、読めば私や、私の家族をこれまでと少し違った目で見る事になるかもしれない」

封筒を開けると、「誓約書」の文字があらわれた。

日付は28年前。男性のものらしき、硬く筆圧の高い文字が並んでいる。
目で追うと彼女の言ってる意味が少しづつわかってきた。
それは彼女の父親と母親の間で、結婚前に取り交わされた文字通りの誓約書だった。

ひとつ、夫は妻を愛し、妻は夫を愛すること
ひとつ、夫は生涯勤労し、妻は専業主婦として家庭を取り纏めること。
ひとつ、夫と妻は、お互いの尊敬において夜の営みを怠らないこと。
ひとつ、夫の年収と妻の就労予定がないことを考慮し、子はひとりに留めること・・・。

具体的な夜の営みの回数から、年に何回家族旅行をすべきか。
何年後に住宅を買い、どのタイプの車を買うべきか、
飼い犬の犬種にいたるまで具体的な条文が何十条もならんでいた。
読み進めながら、少し手に汗が滲んだ。
そこに書かれていることは、僕が知りうる限りの彼女の家の事情そのものだった。

「私の家族は、その28年前に定められた航路を寸分たがわず飛び続けていた」
「でも、君のお母さんはいなくなった」
「最後のページを見て」
最後の条文にはこう書かれていた。

ひとつ、この誓約書の内容は、子の家庭からの独立をもって終了する。

「なぜ、父と母がこんな契約を結んだのかはわからない。
そしてどうして、この事を私に明らかにしたのかも」

「心当たりはないの?おばさんがどこに行ったのか」

「ないわ。あの人は家族にとって理想的な母だった。
父のことを支え、私にも愛情を注ぎ、決して我を出すこともなかった。
家族にとって不可欠な人だった。
でも、母がこの先、どこへ行って、何を見ようとしているのか、
私にはひとつも思い浮かばなかった」

去り際、立ち上がった彼女の携帯に着信があった。
どうやら婚約者からのようだった。その頬にかすかな震えが見て取れた。
何か言葉をかけようと思ったが、
少し開いたドアの向こうからうねるような雨の音がやってきた。

「ひとつだけ聞いていい?女性を殴ったことはある?」
「ん、ないよ」
「そう。普通そうよね」
「もしかして、婚約者がそういう人だと?」
「その逆。そんなことしたら後悔して自殺しちゃいそうな人。
とりあえず彼にはできるだけ早く、機械みたいに生きてる父親と、
どこにいるのかわからない母親が私の家族の本当の姿だと知ってもらわないと」
「健闘を祈るよ」
「時々、思うわ。あなたと付き合わなくて、よかった、と。
死ぬほど好きになることはなくても、死ぬほど憎むこともないものね」

どう答えていいかわからず、
「君にもし何かあったとき、このクッションくらいの弾力で
受け止めることはできると思う」
座ったままソファを手で弾きながら、僕は言った。

振り返る彼女の唇がかすかに動いた、
たぶん「ありがとう」、と言ったのだろうけど、
もう確かめる術はなかった。

後日、彼女からメールが送られてきた。
母親から1通の絵葉書が届いたという。
メッセージは無く、
裏面にどこかの草原に落ちる巨大な夕日の写真が印刷されていたという。

「どうやらそこは、ウルグアイのパンパという草原のようです」

ウルグアイ?パンパ?

「・・・仮に母が意志をもってその場所に辿り着いたのだとしたら、
そこに至る道程は見当もつきません。
ただ、ウルグアイ、という言葉を目にして思い出したことが一つあります。
かつて二人でこんな話をしたのです。
『東京からいちばん遠い、地球の裏側は、どこなのか』、と。
そのとき母は炊事の手を止め、しばらくぼんやりと宙をみつめて考え込んでいました。私がからかうと、母は我に返り、ころころと笑ったのでした。

もし、地球の裏側で母があるべき自分の姿を見つけたのだとしたら、
私は母の帰還を望むべくもありません。
そうやって私も、家族も、ようやく自然な姿に戻っていくのだと考えています。
結婚式は3月に行いますが、幼馴染とはいえ異性の招待は控えようと思います。
ごめんなさいね、またいつか」

文章はそう終わっていた。

東京からいちばん遠い、地球の裏側。

僕は想像する。

ウルグアイの草原に、一人の女性が立っている。
娘によく似た、二重の濃いまつ毛が揺れている。
それはもしかしたら、
よく似た風土に属した草原を混同して想像しているのかもしれないが、
そんなことはどうでもいい。最果ての地、僕の中のパンパはここだ。

彼女は僕の遠い記憶にあるような、
ツイードやシルクの七分袖など着ない。
もうあんな品のいい恰好をする必要はない。
大胆にカットされた麻のワンピースを身にまとっている。

彼女は失ったものを取り戻している、
あるいは、本当は何も失っていなかったことに気づく。
彼女は歩き続ける。
吹き抜ける強い風に歩調を緩め、
バランスを崩しながら、その姿は茜差す夕日に消えていく。

誰もその人から、何かを奪うことなどできないのだ。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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地曵豪のシェイプアップ(2016年9月の収録記2)

jibiki

ひと月前に較べると、あらっと思うくらいシェイプアップした地曵豪です。
かなりハードなトレーニングに通っているようです。
この収録の日も、終わって渋谷まで行ってトレーニングして、
また戻ってきました。
ええ、終わったら飲んでますからね、私たち。

しかし、短期間でこうまで自由自在に痩せたり太ったりできるのが
なんだかすごいなあと思うわけですよ。
そういえば地曵が出演している映画「リップヴァンウインクルの花嫁」のDVD
今月発売になってます。
DVD出たのならそろそろ見なくちゃなんて
映画館嫌いの私は思ったりしています。

さて、今月の地曵豪が読んだのは川田琢磨くんの原稿です。
ネットゲームのの仲間とお別れをする話ですが
あまり書くとネタバレになりますね。
URLはこちら。9月11日から公開しています。
http://www.01-radio.com/tcs/archives/28593

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岡部将彦 2016年8月7日

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「アキレスと亀」

      ストーリー 岡部将彦
        出演 地曵豪

男は、今、まさに死の淵にいた。
観光地の崖からの転落。
その落下の途中であった。

まさか、こんなカタチで自分が死ぬなんて。

景色がゆっくりとスローモーションになっていくって、
本当なんだな。

あまりの事態に、現実感がなく、男はどこか冷静だった。
人生で1度しかない死の瞬間を観察しはじめていた。

人が死に直面したとき。
脳は極限まで集中力を高め、
少しでも生き残る可能性がないかを探しはじめる。

その際、
不必要と判断された五感はひとつずつシャットダウンされていくという。

まず味覚がシャットダウンされた。
続いて触覚と嗅覚が、そしてほどなくして聴覚がシャットダウンされた。

男に静寂が訪れた。

いまや脳は五感に割いていた力を、視覚だけに注いでいた。
単純計算で5倍。
その極限の動体視力で景色がスローモーションで見えてくるのだ。

昔、映画で見たことがあるぞ。
「ここぞ」という大事な場面を迎えたスポーツ選手。
歓声が消え、すべてがスローモーションになり…
あれか。

状況は極めて悪い。
そう判断した脳が、
視覚からさらに色彩を消した。

男にモノクロの世界が訪れた。
まわりの景色は、より一層スローになった。

それでもゆっくりと地面は近づいて来る。
そのタイミングで脳はさらなる稼働をはじめた。

この瞬間にすべてをかけた、
なりふり構わないフル稼働。

この死を逃れる方法がないか、
日常生活を送るうえで、普段は使っていない部分も含めて
すべての脳細胞が一斉に情報処理をはじめた。

0.1秒が、何倍にも膨れ上がった。
さらに次の瞬間、何万倍にも膨れ上がった。

あくまで男から見た世界ではあるが、
すべての時間が止まったようであった。

男が数mm落下するその刹那を、
脳は持てる力の限りを使って、
何万倍、何百万倍もの時間にひき延ばしはじめた。

男は、すべてを理解した。
俺はこのまま死ねないかもしれない。
死の瞬間を、こうして脳は永遠に延ばし続けていくのだな。

外から見ると、たった一瞬の出来事だった。
だが、男は、永遠に地面に激突する刹那の中にいる。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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