小松洋支 2011年9月11日


スノーホワイト

          ストーリー  小松洋支
             出演 大川泰樹

容疑者が入ってきた。
ひどく小柄な男で、耳までかくれる帽子をかぶり、
季節はずれのマントにブーツをはいている。
革製の大きな袋を肩にかついでいる。
よじ登るように椅子にすわると、上目遣いに刑事を見た。

「まず住所、氏名、年齢を聞こうか」
男は黙っている。

「黙秘かね。まあいい、続けよう。
きみの容疑は、こうだ。
家出少女をマンションの一室に誘いこみ、数週間にわたって監禁した」
男は黙っている。

「しかるのち、ブラックアップルと呼ばれる薬物を大量に服用させ、
少女を昏睡状態に陥らせた。
眠った状態のままバイヤーに売り渡される少年少女はあとを絶たない。
バイヤーは闇ルートで彼らの体を金に替える。
おそらくは臓器を抜き取って外国の薬品会社にでも売るんだろう。
その金目当てできみは少女を眠らせた」

「・・・違う」
ひとりごとのように男がつぶやいた。

「ほう。口をきいたな。
どこがどう違うというんだ?」
刑事は数センチの距離まで顔を近づけて、男の目をのぞきこんだ。

「たしかにオレは、スノーホワイトにブラックアップルを飲ませた。」
喉から絞り出すような低い声で男は話し始めた。
「女友達を使ってダイエットに効く薬だと信じ込ませたんだ。
だが、金のためなんかじゃない。
やつらから彼女を守って、オレだけのものにするためだ」

「やつらとは誰のことだ?」
刑事は苛立たしげに眉をひそめた。

男は真っ青な顔で立ち上がると、革袋の紐をほどき、
手をつっこんで首をひとつ取り出した。
「こいつは卑怯なやつだった」
床に転がし、次の首を取り出す。
「こいつは冷酷なやつだった」
「こいつは嘘つき」 「こいつは金の亡者」
「こいつは淫乱」 「こいつはサディスト」
首は全部で6つあった。

「オレは、こいつらからスノーホワイトを守って、
このオレだけのものにするために、彼女を眠りの中に封印した」

壁際まで後ずさりした刑事は、怯えた表情で男を見ていた。
男はゆっくり刑事に歩み寄ると、足元からその目を睨みあげた。
「いいか。スノーホワイトはオレだけのものだ」

ゴトンと音がしてその手から革の袋が床に落ち、
袋の口から血のついた金髪の王子の首がのぞいた。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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山元町の大工さん



山元町の大工さん

            ストーリー 星 智城(東北芸術工科大学)
               出演 大川泰樹

宮城県・山元町
私の実家のある宮城県仙台市から海沿いを南に車を走らせると
山元町はあります。

山元町は緑豊かな水田に囲まれた海の町です。
冬にはホッキ祭が行われ、県内外から多くの人が 訪れます。
私の父の友人の大工さんが住んでいたため、
父に連れられ私は幼少期からしば しば山元町を訪れていました。
海岸に座り家族で食べたお弁当の味は今も忘れません。

今年の 3 月、東日本大震災で山元町は大きな被害を受けました。
2 方向からの津波を受け住宅は壊滅し、多くの死者が出ました。
父の友人の大工さんの家も跡形もなく流されたそうです。

私はその話を聞き、父と共に数年ぶりに山元町を訪れました。
そこには町はありませんでした。
まるで爆撃を受けたかのようなそんな印象でした。
その後大工さんに会いに 行きましたが
実際に被災し家を失った人を前にして、
私は何の話をすればいいのか、
どんな言葉をかければいいのか分からなくなりました。
しかし大工さんは笑っていました。
「家は無くなったが命は助かった。何とかなる。」
そう 言って笑っていました。

山元町は笑顔の素敵な人の住む海の綺麗な町です。

亘理山元商工会http://www.watayama.miyagi-fsci.or.jp/kanko.html




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昔祖母がしてくれた話



昔祖母がしてくれた話
             ストーリー 岸 春華(東北芸術工科大学)
                出演 大川泰樹

ここに来ると
昔祖母が話してくれた昔話を思い出す。

―この世にはたくさんの神様がいる
木の神様に、水の神様、土の神様に、日の神様
おまえが持っている物にもみぃんな神様が宿っていて
だから神様を大切に大切にすれば
神様もおまえを大切に大切にしてくれるんだ
でも人間は欲張りだから
神様を怒らせてしまう時がある
そうすると神様はどこかに行ってしまって
人間を大切にしてくれなくなってしまうんだよ
でも神様を大切に大切した人間はいつか神様から
ご褒美がもらえる
さぁ、それがいつかは分からない
でもばあちゃんはちゃあんとご褒美をもらったよ
だからおまえもちゃんとご褒美がもらえるような
大人になりなさい―

ここにはきっと神様がいる
この場所に出会えたことがきっと神様からの
ご褒美なのかもしれない。

どの駅からも遠い。どの町からも遠い。
―仙峡の里、「銀山温泉」

● 銀山温泉組合http://www.ginzanonsen.jp/


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目をあけるとそこには夏が



目をあけるとそこには夏が

         ストーリー 加藤晶(東北芸術工科大学)
            出演 大川泰樹

目をあけると、そこには夏がありました。
私はそれを電車の窓から見つけました。

太陽は田んぼに張られた水や山々の木々、
そこにある様々なものを輝かせています。
緑も白も黄色もすべて、
平等にきらきらとしています。
吹く風には明るい色がついているようです。

まだ小さい私はうとうとと眠ってしまったようでした。
隣には父と母がいて、ふたりは小さな声で会話をしています。
懐かしさなんてまだ覚えるはずのない私でも
懐かしいと感じてしまうような、
暖かくて良いにおいのするふたりの姿です。

私は電車でこれから運ばれてゆく場所を、想像します。
私が生まれるずっと前からある美しい風景や自然、
季節、動物たちが浮かびます。
それは、たくさんの人が生活を営みながら、
ずっと守ってきたものです。ゆるやかにつづいてきたものたち。
そこは今日のように夏はからりと暑く、
冬は雪がたっぷりと積もるのでしょう。
春は新しい生きものたちがざわめき、
秋にはたっぷりとした実りがあるのでしょう。

尊いということがどういうものなのか、
私にはまだよくわかりません。
でも美しいものがそこにあり、
生きつづけているというのは
きっと尊いことなのでしょう。
そこをこれから私がたずねるのも、
きっと一つの奇跡のかたちなのです。

まだ少し眠く、私は目を閉じます。
電車のゆっくりとした心地よい揺れを感じながら、
私はこれから見る景色を想い、夢に見ます。

東北に行こう。

● 日本の車窓から・東北
 http://www.tsubamenet.com/area09touhoku/index.html

● 車窓で旅する日本列島
 陸羽東線:http://www.toretabi.jp/travel/vol01/01.html
 只見線:http://www.toretabi.jp/travel/vol13/01.html
 磐越東線:http://www.toretabi.jp/travel/vol07/01.html


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中山佐知子 2011年6月26日



僕はビーバー

               ストーリー 中山佐知子
                   出演 大川泰樹

僕はビーバー、森の建築家だ。

僕の仕事はダムをつくること。
木を切り倒しては水辺に運び、その木で川を堰きとめる。

僕は特別なビーバーだから
最初に仕事をはじめるのはいつも暗い森だ。
木と木が混み合い、
枝と枝が重なってほとんど陽のささない森、
じめじめと湿った土には苔やシダが生えている森。
雨も降っていないのに上から雫がポタポタと
いつも泣いているような森。

そんな森を見つけたら
僕ははじめに木を何本か切り倒す。
すると森はそこだけ明るくなって足元に草が生える。
草の匂いをかぎつけて鹿がやってくる。
花が咲いたら新しい虫も飛んでくる。

それから僕は切り倒した木を組み立ててダムをつくる。
川が堰きとめられておだやかな池ができると
水鳥がやってきて巣をつくり雛を育てはじめる。
草を食べていた鹿は水を飲みにやってくるし
池の底には水草も育っている。
僕のダムは小さな命の楽園になる。

森も少しづつ変わっていく。
僕がダムのために木を伐りだした場所には
笑顔のような日だまりができている。
混み合った木が少し減っただけでびっくりするほど森は明るい。

ビーバーのなかには何世代もにわたって
大きなダムをつくる一族もいて
カナダには人工衛星から見えるビーバーのダムもあるけれど
でも僕は特別なビーバーだから
自分がつくった楽園には長く棲めない。
僕はまた暗い森をさがして仕事をはじめなければいけない。

さようなら、と僕は森に挨拶をする。
元気でね、僕のダム。
それから僕は新しい森をさがしに行く。

でも僕はそんな自分の仕事が嫌いじゃない。
だって、涙の川にダムをつくれるのは
僕だけだからね。

僕はビーバーだから
一緒に泣いたりなぐさめたりすることはできないけれど
涙をダムで堰きとめることならできる。
だから
泣きたくないのに涙が出そうになったら
いつでも僕を呼んでいいんだよ。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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大川泰樹から「ひと言」


 シャープペンシル

 TCS収録の為 新富町へと向かう有楽町線に乗った
ドア横のコーナーに立っていたら
後ろの席の女性が長い髪をまとめ始めた
暑い日だったのでロングヘアーの女性は大変だなと横目で伺っていた

 まずは後ろの髪を一つに束ね それをぐるぐるとねじり上げて注連縄状にした
そしてその注連縄に後頭部でとぐろを巻かせた
後は仕上げにピンか何かで留めるのであろうと思っていたら
何とその女性はバッグからおもむろにシャープペンシルを取り出し
とぐろに突き刺したのであった

 凄いなシャープペンシル いや この女性が凄いのか
いやいや両方とも凄いのかな
シャープペンシルもまさかこんな風に利用されるとは
文具店に並んでいた時には思いもよらなかったであろうな
う~~ん それにしても あのシャープペンシルの頭をカチカチしたいぞ

 と言う強烈な欲望に負けてしまう前に
電車は無事新富町に到着したのでありました。

大川泰樹:http://yasuki.seesaa.net/

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