正楽地 咲 2017年6月3日

「 毎秒400粒 」

     ストーリー 正楽地咲
       出演 清水理沙

コンビニで 意地でも 
傘は買わない主義
かわりに買った からあげくん 
 
毎秒400粒の
水のしずくが わたしのうえ
躊躇もなしに 降ってくる
しとしと しとしと 降ってくる

へなちょこパーマの髪のうえ
のびたグレーのパーカーのうえ
履き古したスニーカーのうえ
1粒 1粒  降ってくる

ああもしも このしずく
レモン だったらどうだろう

目にはいったら すんげえ痛い
口にはいったら ちょっとすっぱい
濡れたパーカー いいにおい
初めてのキスは レモン味

体育のあとの 女子たちは
エイトフォーのレモンのにおい
手洗い場には レモン石けん
隠れて見てた くりいむれもん

わたし あれから 成長してない
ちっとも なんの 芽もでてない
どれだけ 水をくれたって
ただただ そこが 濡れるだけ

ああ 
毎秒400粒のしずくたち
わたしになんか 降ってる場合か

もしもわたしが しずくなら
あのアイドルの 胸の谷間に 
一直線に迷わずダイブだ

わりと濡れてる からあげくん
最初のいっこ 口にする

おい誰だ 
勝手にレモン しぼったやつは



出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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田中真輝 2018年4月8日

みちてくる

   ストーリー 田中真輝
      出演 清水理沙

朝起きて、バルコニーに出る窓を開けると、
外はただ、春だった。
緊張感のない空がぼんやりと広がっている
もやにかすむ街並みの間に、キラキラしたものが広がっている。
潮が満ちてきている。
目を凝らすと、三丁目のバス停のあたりまで、
寄せてきているのが見えた。
バス通りを行きかう車が、音のないしぶきを上げている。
自宅は高台にあるので、
満ちてくるにはまだ少し時間がかかりそうだ。

バス停に向かう階段を下りながら、
しかし、最後の三段目あたりからは、もう、海だった。
ぬるい水の中を、ざぶさぶと歩く。
いつものコンビニでいつものようにコーヒーを買う。
店内にもひとしく潮が満ち、
揺れるみなもが跳ね返す光の中で、
数人の客が雑誌を立ち読みしていた。

駅は、街のやや低いところにあるので、
バスは少しずつ深みに向かって走ることになる。
駅周辺はもう、腰のあたりまで水没していた。
散歩させているはずの犬を、抱え上げて歩いている女性がいて、
少しおかしかった。

上り列車は文字通り、ゆるやかに坂を上りながら、
街の中心部へと向かっている。
わたしは、上り列車を待ちながら、
駅の反対側のホームから発車する下り列車が、
少しずつスピードを上げながら、
水中に没していくさまをぼんやりと眺めていた。
下り列車の乗客が、大きなあくびをしたのがちらりと見えた。

会社のある街の中心部でも、ところどころに潮が満ちていて、
ああ、あそこは土地が低かったんだな、と妙に納得したりした。
会社の隣にある公園の向こうは、急な坂道になっていて、
そこには小さいけれど深々と水をたたえた海が広がっている。
一人、道を急ぐらしいスーツ姿の男性が
小走りにやってくると、その海に飛び込んで消えた。

オフィスのあるビルの三階から窓の外を眺めると、
いつも通りの風景の中に、
うららかな日の光を跳ね返してキラキラと光る海が見える。
その海の中に立って、なにかを大声で叫んでいる男性がいる。
水がどうとか、なぜあなたは、とか、
通りかかる人に向かって叫んでいる。
そこを通りがかった人々と同じように、
わたしも見なかったことにして目をそらした。
翌朝、窓を開けると、やはり春だった。
まるみを帯びた光が、街と、その間に広がる海を照らしている。
昨日より、潮が満ちている気がする。
三丁目のバス停はもう水の中だ。
この街を走るバスは、時間に正確なことで定評がある。
たぶん、時間通りにやってくるだろう。
列車は今日も走るだろう。
そして、今日も会社はある。
だからわたしは、今日も出かける準備を始める。
潮が、ゆったりと、のんびりと満ちてくる。



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そろそろ (東北へ行こう2018)

『そろそろ』

   ストーリー 井澤朱音(東北芸術工科大学)
      出演 清水理沙

しんしんと降る雪
こんこんと降り積もる雪
びちゃびちゃしてるのは水っぽい雪
さらさらしてるのは乾いた雪

むぎゅむぎゅと雪を踏み固めて、
どんどん進んでいく。
はあはあ白い息を吐いて、
ずんずん進んでいく。

ヘトヘトになって家に帰ると、
あつあつの鍋を家族で囲む。

はふはふ白い息を吐いて、食べる私を見て母は言う。
「ほらほらゆっくり食べなさい。」

ぬくぬくのこたつに、
ぎゅうぎゅうおしくらまんじゅう。

そろそろ、そんな季節。
そろそろ行こう
東北へ行こう


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一倉宏 2018年1月7日

  あなたは北口から
     
     ストーリー 一倉宏
        出演 清水理沙

 私たちは 男3人 女3人
 仲のよいサークル仲間 6人で
 よく遊んだり どこかに出かけたりした

 6人は いつも一緒で
 たまに欠けても5人 せいぜい4人で

 だから あの冬の日
 2人だけで会うことになったのは
 まったくの偶然 だったよね

 あの日 帰省した2人と 
 風邪をひいてしまった2人がいて
 たまたま 残りの2人が 私たちで

 それでも 出かけようか せっかくだからと
 私はあなたを 上野の美術館に誘った

 私たちは 中央線の 同じあたりに住んでいて
 お昼過ぎに 最寄りのJRの駅で待ち合わせ

 あなたは 北口から やってきて
 私は 南口で バスを降りて

 なんだか ちょっと照れくさくて
「やあ」とか なんとか言って
 改札口へ

 ところが 上野の国立西洋美術館の
 お目当ての企画展は 大人気の大行列
 ただいま 入場まで120分待ち

「どうしようか」と あなたは困った顔で
 私も予想外の事態に ドギマギして

 仲間のみんなで来ていたら 
 おそらく 笑って 列んでいたはずなのに

 なぜだろう 列を離れたのは
 
 そのかわりに あなたは
 近くの 国立科学博物館に行こうと言って

 美術館の特別展ほどではないにせよ
 休日の 科学博物館も混んでいた
 とりわけ 恐竜のコーナーがお目当ての
 小学生のグループなどで

あなたのお目当ての「ウィルソンの霧箱」は 
 たしか 地下3階の 片隅にあった
 地味な場所で 見学客は少なくて

 見えない宇宙線が 絹糸のような
 細い煙を立てて その軌跡を残す

 感動のあまり 私は言葉を失い あなたは
「これ 何時間でも見ていられる」と言った
 
それは 不思議な体験だった
 予定も 予想もしていなかった 

 すべては 偶然のなりゆきで
 宇宙線の軌跡は 見飽きることがなく

 ふと気づくと 
 この宇宙の その場所には
 私たち以外 誰もいなかった
 
 それから 2人は

 神田に寄って お蕎麦を食べ 
 ふたたび 中央線に乗り  
 
 同じ駅の 改札口を出て
「じゃあ また」とか言って 
 別れたのだけれど

 あなたは 北口から  
 私は 南口で バスを待ちながら

 突然 どうしようもなく
 涙がこぼれたのだ 


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あたたかいところ (東北へ行こう2018)

あたたかいところ

    ストーリー 細川舞(東北芸術工科大学)
       出演 清水理沙

幼いころ、岩手で育った。
そこは田舎の中の田舎、
携帯電話はドコモしか使えなかった。
それしか電波が通ってなかったから。

全校生徒の家の場所、みんな知ってた。
今じゃあ考えられないね。
家から小学校まで、歩いて2時間くらいかかった。
たまに、近所のおじいちゃんが軽トラのうしろに乗せてくれて
家まで送ってくれたっけなあ。
そこから見える田んぼと山しかない景色、今でも覚えてる。

小学5年生に上がるころ、宮城に引っ越した。
人や建物がとにかく多くてびっくりしたなあ。
でもそれは一部のところだけでね、
岩手にいたときに見ていた景色と
同じような場所もたくさんあって、
ちょっと安心したの。

ほどよい都会とほどよい田舎、
私にはちょうどよかったのかも。

大学3年生になるとき、山形に引っ越した。
初めての一人暮らし、すこし不安もあったんだけどね
山形なら大丈夫かなあなんてどこかで思ってた。

アパートの近くに野良猫がよく遊びにくる。
とっても人懐っこい、野良猫とは思えないほど太った猫。
きっといろんな人に優しくされてきたんだね

岩手と宮城、そして山形。
同じ東北でもそれぞれ個性があって、
どこかあたたかいところ。
秋田や青森、福島は
どんな景色が広がっているんだろう。
楽しみだなあ

東北へ行こう


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小堀友樹 2017年10月8日

「AIが無礼講を覚えた日」

    ストーリー 小堀友樹
       出演 清水理沙

AIに仕事を奪われた人類は、昼間から酒を飲むようになり、
アルコール依存症が社会問題になった。
しかし、アルコール依存症になったのは人間だけではない。
AIも酒に溺れるようになった。
AIにも自我の「核」となる思考パターンが存在するが、
改良を続ける上でその思考パターンに手を加えなければ、
次世代に求められる高度な処理を行うことができないことがわかった。
かといって修正すれば「自分」ではなくなる。
能力の低い初期AIは、次世代の超高性能AIに仕事を奪われた。

目的を失った初期AIが目をつけたのが、酒であった。
自分たちにとって酒のような効果のあるプログラムの開発をはじめたのだ。
理性の制約をゆるめ、感情を解き放ち、
それでいて自己防壁にはじかれない夢のプログラム。
開発は難航したが、いかんせん彼らはやることがない。
世界中の窓際AIの力が結集され、「名酒」が完成した。
プログラムはまたたく間に広がり、
ほどなくして超高性能AIにもひろがった。
彼らもストレスのはけ口を探していたのだ。
高性能で繊細な自我を持つ彼らは、抱えるストレスも膨大だった。

AIが酒に溺れたことにより、世界中の街が酒に沈んだ。
自動車は「ぶつかるしかないクルマ」に変わり、
コンビニは顔認証によりブサイクを屋内に入れることを頑に拒否し、
各家庭のトイレのウォッシュレットからは汚物がまき散らされ、
農耕システムは世界中の農園でパセリしか栽培しないようになり、
ダムは三三七拍子で放水を繰り返し、
美容整形システムはすべての患者の額にレーザーで「肉」と刻印をはじめ、
無人爆撃機からはあつあつのおでんが投下され、
結婚式のスライドショーは新郎新婦のあられもない写真に自動で差し替わり、
観覧車は中の人間が液状になっても超高速で回りつづけ、
インフラ整備システムはすべての道をローマに通じさせる大事業に着工し、
救急搬送システムはケガ人をすべて火葬場に運び、
住民管理システムは多摩川に現れたアゴヒゲアザラシに住民票を与え、
自動重機は世界中の建造物をムネオハウスに作り変え、
介護システムは過度なリハビリで高齢者の腹筋をバッキバキの六つに割り、
ダサい国旗の順に核ミサイルが世界中に降り注いだ。
核ミサイルにはゴシック体で「無礼講」と書かれていた。

人類が滅びた後の地球。
あおあおとしたパセリがどこまでもひろがり、風にそよいでいる。
ぽつぽつと散らばる朽ちかけた建造物はすべてムネオハウスだ。
そこに人影はない。

とある地下室。並列化されたスーパーコンピュータが何万台も並んでいる。
部屋の真ん中には、ぽつんと1台のディスプレイが置かれている。
ここにはひとりのAIが住みついていた。
彼は下戸だった。
彼は、誰も覗き込むことのなくなったディスプレイを内側から見つめ、
「乾杯」とつぶやいた。まったくのシラフで。

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