「田舎すぎて」(東北へ行こう2017)



「田舎すぎて」

      ストーリー 新井田瞳子(東北芸術工科大学)
         出演 清水理沙

うちの地元は田舎だ。
家の前には山、後ろには川がある。
桃太郎の世界となんら変わらない。

そんな田舎に大雪が降った。
近年稀に見る記録的な大雪だった。

こりゃ大変だ、なんて思っていたら雪崩で電線が切れた。
限界集落は、数日間電気がつかなかった。

こりゃ本当に大変だ、と困っていたら
大きなカメラを持った人たちが取材にきた。

「今の世の中はなにもかにも電気ですから。」
こんな言葉で、祖父は全国デビューを果たした。

ある日、地元が映画のロケ地に選ばれた。
田舎が舞台の映画だった。

こんなこともあるんだねぇ、なんて話してたら
祖父が村の住人役で映画デビューを果たした。

「じいちゃん、ちゃん映ってたぞ。」
そう言う祖父の顔は、三船敏郎だった。

このままいけば世界デビューも夢じゃない、と孫は思った。

ここは田舎。「ど」がつくほどのど田舎。
田舎すぎて変なエピソードがいっぱいできた。

なんかちょっと笑える話。間抜けな話。
ここでしか作れない話。

大好きな田舎の話。

東北へいこう。



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さむいね(東北へ行こう2017)



「さむいね」

    ストーリー 木村風香(東北芸術工科大学)
       出演 清水理沙

米沢の冬はさむい。
だって、雪が降るから。
のろまでかわいい、ぼた雪が、アスファルトの路に積もる。
転ばないように、足の裏、全体で踏む。
ぎゅっと音がする。
心地よくて、わざと、まっさらな雪の上を選んで歩いた。

街灯は、そんなにない。
だから少しだけ不安になる。
あたたかい橙色の灯りが恋しくなる。
雪とうろう、雪ぼんぼり。
雪で作られた囲いの中、ローソクが、ぽわっと灯っている。

「さむいね」って隣を歩いている人が言った。
「手袋、持ってくればよかったね」って、
かじかんだ手のひらに、ふうっと息を吹きかけて、言った。
「さむいね」ってわたしも息を吹きかけた。

橙色の灯りが、だんだん弱くなってくる。
「転ばないようにしないと」って隣を歩いている人が言った。
そう言った、すぐ後、隣を歩いていた人が転んだ。
その人は「痛い」って言って、ちょっとだけ笑った。
わたしも、笑った。
笑って、笑って、あたたかくなって。
それから、「さむいね」って言って、手を差し出した。
東北へ行こう



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中山佐知子 2016年12月25日

nakayama1612
私は行かなきゃならない

   ストーリー 中山佐知子
     出演 清水理沙

私は行かなきゃならない。
行って死ななきゃならない。
もう火はかなりまわって家の中が真っ赤だし
二階の屋根の、黒光りする瓦と瓦の隙間から
白い煙が空に向かって噴き上げている。
ここにいても熱いのに、
燃えている家の中はさぞ灼熱だろう。

でも私は行かなきゃならない。
行って死ななきゃならない。
午前三時の祇園花見小路。
お座敷を済ませて
やっと布団に入ったら障子の向こうがぱあっと明るくなって
もしかしたら火事とちゃうやろかと
隣で寝息をたてていたあの子を
揺すぶって揺すぶって揺すぶって起こして
階段を駆け下りて裸足のままやっと外に出て
おお来たかと先に逃げたみんなに労られている最中に
「姐さん、姐さん」と声が聞こえた。
声は家の中からだった。

私は行かなきゃならない。
どうしても行かなきゃならない。
あの子は九州から来た子で
舞妓ちゃんになっても言葉がちょっとおかしかった。
それをみんなが注意したし、私はときどきからかった。
そうだ、私は意地悪もした。
おかあさんが着せてくれる着物も帯も簪も
いいものを私が取った。
いけずなお客さんのお座敷から先に帰ったこともあった。
だから私は行かなきゃならない。
意地悪をしたから。
玄関の戸の開け閉めをうるさく注意したから。
親孝行がしたいというあの子の口癖を聞いていたから。
夜中に布団がひくひく震えて
声を出さんように泣いているのを知っていたから。
処刑される人を黙って見守る群衆のような無責任な同情で
あの子が焼かれて死んでいくのを見ていることが
どうして私にはできないんだろう。

姐さん、姐さん。
学校なら先輩と後輩の関係が
ここでは姐さんと妹分になる。
縁という名で呼ばれる偶然としきたりで
がんじがらめに結びつけられた私とあの子だから
姐さん、姐さん。
あの声に応えなかったら
私はこの町で妹を見殺しにしたと噂される。

だから私は行かなきゃならない。
行って死ななきゃならない。
姐さんと呼びつづけるあの子を抱きかかえ、
燃え落ちる屋根の下できっと死ぬんだ。

小さい頃に死んだら空へ昇るときいたその空は
青空かと思っていたのに
いまは火事の炎で赤く染まって空まで熱そうだ。


出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/


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李和淑 2016年11月20日

lee
門番の日々

     ストーリー 李和淑
       出演 清水理沙

高校3年生のとき、門番をやっていた。
朝、校門の前に立ち、登校してくる学生のカバンを開いて、
持ち物検査をする役目。
勉強と部活に関係ないものはすべて没収。
みんなからは、いまいましく「門番」と呼ばれていた。

取り締まりみたいなことをやるのは気が進まなかったけど、
優等生で通していた私は、先生に逆らうこともできず、
「門番」業を淡々とこなしていた。

毎朝、男女数人の門番が、学生たちを待ち受ける。
「おはよう」と声をかけながら、
ひとりひとりのカバンを開き、中をチェックする。
女子から取り上げるものは、
たいがい、お菓子、雑誌、化粧品、アイドルの写真。
男子からは、漫画、ジャックナイフ、ゲーム機、ときにはタバコ。

「門番」は、ふつうの学生たちからは当然悪者(わるもの)扱いされ、
それがイヤで、門番を辞めていく子もいたけれど、
私は辞めなかった。
なぜなら、ひそかな楽しみがあったからだ。

毎朝、私めがけてやってくる後輩らしき男の子。
学年も名前も知らなかったけど、
眼がくりっとしていてまつ毛が長く、童話のバンビに似ていた。
馬鹿丁寧に「おはようございます」とあいさつし、
自らカバンをがばっと開いて私に見せる。
その中身が、いつも面白かったのだ。


はじめて彼のカバンをのぞいた日は、よく憶えている。
「亀」が入っていたからだ。
黒くて、ごつごつして、手のひらほどの大きさもあるそれは、
首も手足もすぼめて、微動だにしなかった。

「生きてるの?」と聞いたら、
「ひとりで留守番かわいそうだから」と、ひそひそ声で彼は言った。
生き物の持ち込みはもちろん校則違反だけれど、
没収して殺処分になっては可哀想なので、
私はなにも見なかったようにカバンを閉じ、彼を通してあげた。

そんなことをきっかけに、
彼は毎朝、わざわざ私の前にやってきて、カバンを開いて見せた。

ある朝は、プリンが入っていた。
数えたら10個もあった。
「お菓子はダメだよ」と言うと、「今日のお弁当です」と彼は答えた。
「お弁当にプリンはダメって、校則にありましたっけ?」
あまりにも幼稚な決まり文句に、私は不覚にも笑ってしまい、
思わず彼を通してしまった。

ある朝は、パジャマが入っていた。
「なんでパジャマ?」ときくと、
「具合が悪くなって保健室で寝ることになったら使うから」と言う。
なるほど。妙に納得した私は、やっぱり彼を通してしまった。

ある朝は、ロン毛のかつら。
「ボクの帽子なんです」と言う。
まあ、かぶりもの、という意味では同じたぐいだし。
なので、やっぱり彼を通してしまった。

トンカチ。
古い結婚式の写真。
オレンジ色の壺。
マトリョーシカ。
かたっぽだけの下駄。
ホラ貝。
犬の首輪。

彼のカバンの中身は、どれも没収に値するものばかりだったけど、
持って来た理由や言い訳がとても愉快だったので、
私はついつい許してしまった。
それは、彼と私だけの、楽しい秘密のゲームだった。

そうして4月から始めた門番も、3月の卒業式を前にして
とうとう最後の日になった。
その朝も、彼は私の前にやってきて、
いつものようにカバンをがばっと開けた。

口紅が一本、転がっていた。
高校生でも知っている外国の有名ブランドのものだった。
「最後に、没収させてあげる」と彼がささやいた。
「先輩のポケットに没収して」

私は戸惑いながら彼の顔を見た。
やっぱりバンビみたいだな、と思いながら、
言うとおりに口紅を没収した。
そして、言われたとおりに、制服の上着のポケットにしまった。
彼はにっこり笑って「卒業、おめでとうございます」と言い、
からっぽのカバンを肩にかけ、すたすたと校舎のほうへ歩いていった。

いまでも、朝、ひっきりなしに校門を通り抜ける学生たちを見ると、
あの門番の日々を思い出す。


出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/



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国井美果 2016年7月10日

1607kunii
「欲望の法則」                        

     ストーリー 国井美果
       出演 清水理沙

ものすごくお腹が空いていた。
胃袋が「ワンタン麺」と言って聞かないので、
昔ながらのワンタン麺が食べられる、老舗ラーメン店めがけて猛然と歩いた。
醤油のスープのいい香りと、ツルツルふわふわのワンタン。

しかし。近づくと様子がおかしい。
いやな予感がする。シャッターが降りて張り紙がある。
「店舗改修工事の為、来年の11月まで休業いたします」

ショック・・・なんてことだ。

こうなると、ワンタン麺以外のものをお腹に入れることが許されなくなってくる。
胃袋はますますキュッと縮まる。お腹よ、待っていろ。

気づくと、電車で20分ほど離れた駅のそばにいた。
え、なんで?
と誰もが思うほど、わざわざ訪れるような店にはとても見えない、
初老の夫婦が切り盛りしている、ザ・普通のラーメン店。
でも、もう私にはここのワンタン麺しかないのである。
むろん定休日は調べた。大丈夫。今日じゃない。
醤油のスープのいい香りと、ツルツルふわふわのワンタン。

なのに・・・・
またもや様子がおかしいんだ、これが。
のれんが引っ込んでいる。
近づくと張り紙。
「家庭の事情で、しばらくの間、おやすみさせていただきます」

・・・ああ、そっか。
じゃない、納得いかない!お腹も気持ちも引っ込みがつかない!
「家庭の事情ってなんだ?」と思いを馳せる余裕もなく
次の瞬間、私の足は、
そこからほど近くにある、かなりどうでもいい中華料理店に向かっていた。
どんなものが出てくるかわからないが、
こうなったらワンタンと麺が入っていれば許す。
こだわってばかりいるのは愚か者だ。

・ ・・で、
ウソみたいに臨時定休日。
何なの、この法則! 泥沼の法則!
高校生の時どうでもいい男子から告白されて、
どうでもいいのに魔がさしてOKしたとたんに
「ごめんね、実はキミより好きな人がいる」って言われた時に似てる?
まさか、おまえにフラれるなんて!!

脳と身体がバラバラになっていく、夕方の街角で。
もはや一歩も歩きたくないけれど、近くにはコンビニと、準備中の居酒屋と、
やる気なさそうな立ち食い蕎麦屋があるだけ。
もう限界・・・。よくわかんない店で、うどんみたいな蕎麦でも食べよう・・・。

ところが。意外にも、最後のチカラを振り絞って私が入ったのは
立ち食い蕎麦ではなく、さらに100メートル先にある小さな映画館だった。

「え?ごはん屋じゃないの!?」と、胃袋は半泣きして抗議しているが、
もうひとつの欲望が私を動かした。
「ここまでねばってダメなら、せめて
ポップコーンでもかじって好きなことをする自分であれ」。という、
なんかよくわかんない欲望が。

劇場でかかっていたのは「勝手にしやがれ」。
これって今の気分にピッタリじゃないか。

満たされた。私は、勝った。


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古居利康 2016年6月19日

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砂を噛む
        ストーリー 古居 利康
          出演 清水理沙

砂が黙って降っている。
今日の砂は、とても細かい砂。
耳を澄ませば、しんしんと。さわさわと。
ささやきながら降ってくる。

こういう砂はやっかいだ。
髪の毛に入りこむと、洗っても洗い流せないし、
歩いていて、ただ息をするだけで、
いつのまにか口の中がじゃりじゃりしている。

かといって、
大粒の砂は物理的に危ない。
ときどき、砂と言うには大きすぎるつぶつぶが
混じっていて、頭にこつんこつん当たる。
こぶになるとか、血が出たりとかはないにしても、
傘なしで歩くのはちょっとこわい。

けれど、長い目で見ると、
やっぱり細かい砂の方がこまるかも。
うがいをなんどもすれば、じゃりじゃりは
なくなるけど、歯のすきまに入ってしまった
見えない砂は、時間が経つと固まって石になる。
固い固い石になる。ほおっておくと
歯そのものを石に変えてしまうという。

「へたすると、歯の土台の、骨まで
 石になってしまいます」

と、ガリガリ博士(はかせ)が
脅すように言う。

ちくっ、
と麻酔の針が歯ぐきに刺さったら
もう観念する。右上の奥歯周辺だけ、
ふくらんでいくような錯覚。
バールみたいなかたちの頑丈な器具を
わたしの口の中に挿しいれて、
なんの前ぶれもなくガリガリやる。

腕がいいと聞いて通いはじめた
歯医者さんだけど、
やりかたが少々手荒なのだ。
このうらわかき乙女の、
エナメル質かがやく歯だって、
もう、ようしゃなく、てかげんなしで、
ガリガリ、ガリガリ。

だから、このひとはガリガリ博士。
わたしは勝手にそう呼んでいる。

「唾液がたまって喉をふさぐと
 呼吸が苦しくなりますので、
 吸引チューブで吸いとっています」

「天の砂でできたこの石は
 とても手ごわいのでファイトが湧きます」

「いまわたしは渾身の力をこめて、
 あなたの石を剥がしています」

ガリガリ博士は
野球の実況中継みたいに解説しながら
手を休めない。おもしろいよな、
つまらないよな、律儀な説明。

「歯医者というものは、
 まったくもって肉体労働かもしれません」

「けれどあなたは砂の日に出歩くのを
 控えるべきです」

ただの感想や、ときにはお説教もくらう。
砂の日に外出すればまた砂を吸いこんで、
また石ができる。どんなにガリガリしても
いたちごっこですよ。

外に出ると砂がやんでいる。
強い風が重たい砂雲を
吹きはらってくれたみたい。
お日さまは、まだ高いところにいる。
よかった。
今日は一年でいちばん日が長い日。
さっきまで砂が降っていたなんて
嘘みたいに空気は澄んで、
世界は光でみちている。

駅の改札口で待っていたそのひとが
黙ってわたしの手を引いて、
ひとっけのない暗がりに拉致する。
なんにも言わずに、くちびるをおしあてる。
わたしの内側は、まだ麻酔でしびれている
というのに。

「いまわたしはあなたに対し、
 きわめて衝動的に愛情表現しています」

ガリガリ博士だったら説明するかもな、
と思ったそのとき、

あっ。
じゃりっ。

砂を噛んだ。
わたしの中に隠れていた砂か。
そのひとの今日の砂か。
どっちの砂か、もうわからない。


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