中山佐知子 2012年3月25日



がんばれ線路

             ストーリー 中山佐知子
                出演 瀬川亮

ここに線路があれば、と思うことがある。
線路をつくってあげたいと思うことがある。

むかし松江で出会った女子高生は
学校の近くの船着き場まで
毎朝自転車を2時間こいでくる。
そこから自転車ごと渡し船に乗って向こう岸に渡り
さらに10分自転車をこいでやっと校門をくぐるのだ。

一日4時間も自転車をこいでいたら
テストの成績が悪くても誰も怒らないでしょ。
そんな風にたずねてみた。
そんなことないです、怒られます、
女の子はムキになって返事をした。

船着き場には次々に自転車の高校生がやってくる。
小さな渡し船はひっきりなしに往復してみんなを運んでいた。

僕はちょっと心配になる。
雨の日はどうするんだろう。どうやって自転車に乗るのだろう。
その雨のせいで風邪をひいたときは?

僕はこんな子に線路をあげたい。
屋根のついた列車を走らせて
家の近くに駅をつくって学校まで送ってあげたい。
線路は約束だから
決まった場所から決まった場所へ
人と荷物を確かに運びますと線路は約束している。

宍道湖の北を走る一畑電鉄、通称「ばたでん」は
昼間乗るとガラガラに空いている。
僕のお父さんが子供だった時代からの赤字列車で
それでもなくならないのは
クルマを運転できないお年寄りや
学校へ通う子供たちのために必要だからだ。
この線路がなくなると
自転車で2時間かけて学校に通う子供が
またたくさん増えてしまう。
おばあちゃんは病院へ通えなくなってしまう。
だから地元の人たちは
「ばたでん」がなくならないように一生懸命お願いをしている。

そういえば岩手の三陸鉄道は
やっと全線復旧の見通しが立ったらしい。
流された駅やずたずたになった線路の写真を見るたびに
もうダメかと何度もあきらめかけたけど
震災のあとたった5日で
走れる区間だけでもと列車を走らせ、人や物資を運んだ気迫が
みんなの心に響いたのだ。

がんばれ線路、と僕は思う。
線路はひとつの約束だと思う。
町と町、人と人を結びますと胸を張って宣言しながら
がんばれ、線路。
  

出演者情報:瀬川亮 03-5456-9888 クリオネ所属


Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

瀬川亮から「ひと言」


最近、雨多いな。
桜の開花予報が天気予報でやってた。

桜って綺麗っていうか俺にはなんか哀しく感じる。
あの淡いピンクがそう思わせるのか、それともあの小さい花のせいか?

小さい頃、ばあちゃんが『桜の木の下には人間が埋まってるんだよ。』
と俺に言った。
どういう思いでガキの俺に言ったのか分からないが調べてみると、
決して間違ったことでもないみたいだ。

しかし、桜は咲いた頃に春雨でやられる。切ないというかあほというか…。

果たして今年はどうかな?幸運を祈る。

瀬川亮http://www.clioneinc.com/profile/segawa.html

*2012年4月15日〜パルコ劇場「彼女の言うことには」
http://www.parco-play.com/web/play/kanojo/index.html

Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

岩崎亜矢 2012年2月11日


「家出」

             ストーリー 岩崎亜矢
                出演 瀬川亮

母さんとケンカして、僕は家を出た。
勉強したくないとか、そういう子供っぽい理由ではない。
信念と名誉のために僕は家出したのだ。
ポケットの中には望遠鏡を買うために貯めていたお金が
たっぷりと入っているし、僕に迷いはない。

遠足の弁当、それがすべての原因だ。
あの日、熱を出し寝込んでいた母さんに変わって、
姉ちゃんと父さんが弁当を作ってくれた。
確かに、ヒドい弁当だった。
メインのおかずは紅生姜入りの炒り卵。
その隣には半分に切られたゆで卵。
そして、白いご飯の上には巨大な目玉焼き。
蓋を開けて僕は一瞬止まった。
その時、よりによって高橋が弁当をのぞき、
「岡田の弁当、卵だらけだぜー」とからかってきたのだ。
二人をけなされたような気分がして、
僕は気づいたら高橋の胸を両手で突いていた。
怒った高橋は、僕に強く体当たりした。
そのケンカはあっけなく先生に止められ、たっぷりしぼられた。
互いに謝れと言われたけど、
僕は二人の名誉のために戦ったんだからと、ずっと口を閉じていた。
しかし学校から電話をもらった母さんは、
僕が家に帰るとすぐに頭ごなしに怒りだし、
高橋の家に行って謝ってこいと言いだしのだ。

そういうわけで僕は現在、家出中なのである。
しかし家出って、正直退屈だ。
その名の通り「家を出る」ということがゴールなので、
始めた途端にその目的が達成されてしまうからだろう。
最初はナベっちの家で遊んでたけれど、
「そろそろ夕飯だから」と帰されてからは、
こうやって公園でDSをしながら時間を潰している。
そうだ、僕も夕飯にしよう。
スーパー吉得に行って、コロッケを持ってレジに並び、
ポケットを探った。その瞬間、全身がヒヤッとした。
「ない…!」そこにあるはずのお金がないのだ。
レジのおばさんがじろじろと見てくる。
僕は慌てて吉得を出て、改めてポケットの中を探った。
やっぱり、大事なお金が消えている。
そういえば、商店街を歩いているときに
おじさんが強くぶつかってきたけれど、
あれはもしやスリだったのではないか。
望遠鏡代、いや、僕の大事な生活費が…。

あてもなく歩きながら、僕はグウグウと鳴るお腹をおさえていた。
すると突然、おいしいカレーの匂いが漂ってきた。
よだれを垂らしそうになりながらその家に近づくと、
窓の向こうの黄色い灯りの下でうっすらと人影が動いている。
人影はぜんぶで4つ。僕んちと一緒だ。
暗闇の中、その窓の周りだけが暖かいような気がして、
僕はそこを動けないでいた。
その時、自分の名前が呼ばれたような気がして顔を上げた。
道路の奥のほうで、細い灯りがゆらゆらと揺れている。
しばらくすると真っ暗闇の中から、「ぬっ」と母さんが現れた。
手には懐中電灯を持っている。ゆらゆら、ゆらゆら。
僕は信念も名誉も闇の中に放り出し、
その灯りへと猛ダッシュしていた。


出演者情報:瀬川亮 03-5456-9888 クリオネ所属



Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

瀬川亮くんは次男らしい(収録記2012.1.21−2)


水下きよしさんが読んでいる最中になんとなく気配がしたので
終わるやいなやドアを開けたら瀬川亮くんがいた。
録音の最中にドアを開けるとノイズでNGになるので
待っていてくれたのだ。
この気づかいの「待機」方式を最初にはじめたのは大川泰樹くんだが
いまではほぼ全員が待機してくれるようになっている。
ドアチャイムもあるが、いまでは誰も鳴らさない。

さて、瀬川くんが読んだのは岩崎亜矢さんの原稿だ。
主人公は小学生の男の子。
実は岩崎俊一さんの原稿も同じ年頃の男の子が主人公だったので
私は父娘が申し合わせて原稿を書いてくださったのかと思っていた。
そうではないと知ったのは収録後のことだった。
申し合わせて書いてくださったと思ったときも驚いたが
そうでないことを知ったときはもっとびっくりした。
どうしてこんなことが起こるのだろう…

岩崎亜矢さんの原稿は若々しくて谷を流れる水のように
かろやかで新鮮だった。
岩崎俊一さんの原稿は熟成した酒のように重厚で情感が溢れていた。

瀬川くんは亜矢さんの原稿をとても静かに読んで
「僕は次男坊なんでこういうのわかるんですよ」と
ぼそっと言った(なかやま)

Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

瀬川亮から「ひと言」


最近、雨戸を閉めて寝ていたら
朝、陽の光が入ってこないので寝過ぎることが増えた。

で、雨戸を閉めずに寝たら朝、普通に起きられる。

やっぱり人間、朝日で自然に目が覚める方がいいね。
体調もいい気がするし。

しかし毎日、寒いっす。
でもアクティブに動いてまいりますよ。

では。  瀬川亮

Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

一倉宏 2012年1月1日


   ながくもがなと

          ストーリー 一倉宏
            出演 瀬川亮


百人一首? 得意だよ、おれ。
かるた取り。

やるんだ、百人一首。
へえ、こどものときから?
いまも、だいたい憶えてる?
すごいね。帰国子女なのに?  ははは。

なにが好きって… 
そうだな、あれ。あの有名な。
富士山が、でてくるやつ。
そうそう、それ。「たごのうらにうちいでてみれば」。
ウチをでて、たごのうらまで行ってみれば。
…でしょ。そうそう。
富士のたかねに雪が降ってる、ってやつ。

でも、富士山の高いところに、雪が降ってるって…  
どうやって見えたんだろうね。
そんなこと、考えたこともなかった?

百人一首、いいけど、むずかしいよね。
意味、わかりそうで、わかんないもん。
ああ、あれね。「ひさかたの」。
「ひさかた」って、地名じゃない、たぶん。

「ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
 しずこころなく はなのちるらん」

ちがうか。「ひさしぶり」ってことかな。
ひさしぶり、春っぽーい、のどかな日に。
「しず」は、名前でしょ。女の。
わかった。義経じゃなかったっけ。これつくったの。
静御前のことでしょ。応仁の乱かなんかで死んだ。
「花の散る乱」
戦乱の世の、悲劇の恋の歌なんじゃねーの。きっと。
やっぱ、かわいそうだな、義経。
ひいき、したくなる。

恋の歌、多いね、百人一首。
習ったけどさ、恋の歌ばっかつくってたって、昔のひと。
源氏物語とか、平家物語とか。
恋と戦の時代だったんだよな…。
ロマンチックといや、ロマンチックだけど。

清少納言だっけ。静御前と…。ああ、小野小町。
三大美人ね。坊主めくりの、お姫様!

蝉丸! うけるっ! そう、おれも嫌い、あいつ。
蝉丸の歌、憶えてるの? すげえ。
「これやこの」「行くも帰るも」「別れては」
どっちなんだよ、蝉丸!
「知るも知らぬも」「おおさかのせき」
蝉丸、優柔不断すぎっ。ぜったい、A型! 
乙女座! …おれとおなじ。
しかも、大阪人のくせに。気がよわそう。

坊さんも、恋したんだ。
行ったり来たり。くっついたり別れたり。
わかるなあ。

で。
いちばん好きな歌は、なんなの?

「きみがため」
「君固め」? でたっ、必殺技!
「おしからざりし いのちさえ」
しかられてもいい。君の親に…。
この命さえ、どうなってもいい。君固めで!
うん。わかる。わかる。その気持ち。

「ながくもがなと」
がなと、が、わかんねーな。がなとが…。
ひとの名前かな。こういうときは。
「おもいけるかな」
思って、蹴るんだ。石か、ボールを。
がなと。
ずーっと、思ってるんだ。
恋するがなと。それで、蹴っとばすんだ…。

「きみがため おしからざりし いのちさえ
 ながくもがなと おもいけるかな」

おなじだな。むかしも、いまも…。


出演者情報:瀬川亮 03-5456-9888 クリオネ所属




Tagged: , ,   |  1 Comment ページトップへ
Page 1 of 612345...Last »