磯島拓矢 2011年7月3日



「空」
             ストーリー 磯島拓矢
                出演 瀬川亮

その日、妻の大きなお腹を撫でながら、僕は提案した。
「子どもの名前、<そら>にしないか?
ウかんむりの空の字、そのまんまで」
妻の答に、僕は衝撃を受けることになる。彼女はこう言った。
「なんか嫌かも。ころころ天気の変わる、落ち着かない子になりそう」
ころころ変わる?
妻にとって空とは「ころころ変わる落ち着きのないもの」なのか?
なんだそれは!
空と言えば「どこまでも広がる大きなもの」だろう。
その伸びやかさが、子どもの名前にふさわしいんじゃないか。
それなのに「ころころ変わるもの」とは何だ?

僕は急速に自信を失っていった。
結婚して5年。同じものを食べ、同じものを見てきたはずなのに、
思いは同じではないのだ。
それぞれなのだ。
僕が思う空と、妻が思う空は全く違っていた。
空がダメなら、地面はどうだ。
大丈夫か?
僕は「植物を育てる命の源」と思っているが、
妻は「もう少し値が下がったら買いたいもの。30坪でいいから」
なんて思っているかもしれない。
じゃあ水はどうだ。空気はどうだ。
僕と妻の思いは一致しているのだろうか。
クルマはどうだ。家はどうだ。
そして・・・
子ともはどうだ。
そうだ、もうすぐ生まれる子どもはどうだ。
僕らの思いは一致しているのだろうか。
・・・一致しなくてはダメだろう。
子どもがまっすぐ育つためには、
夫婦で一致しなくてダメだろう。
ならば、今話しあおう。生まれてからでは遅すぎる。
今二人で話し合おう。
僕にとっての<子ども>と、妻にとっての<子ども>をすり合わせよう。
僕にとっての子どもとは・・・
何だ?
何だ?子どもって何だ?
愛の結晶か?古いな。跡取か?もっと古いな。
何だ?子どもって何だ?…
…じゃあ親って何だ?夫婦って何だ?家族って何だ?
何だ?
なんだ・・・ちゃんと考えてないじゃん!俺。

頭が真っ白になりかけた時、妻の声が聞こえた。
「ゴメン。名前、やっぱり空でいいかも。
ころころ変わる子って楽しいよね」
僕の頭は、先ほどとは違う角度から再び真っ白になってゆく。
いいかもって・・・妻よ。
いいのか?本当に。
夫婦の思いが一致していない名前でいいのか?
空とは何か、子どもとは何か、
夫婦とは、家族とは、何なのか、考えなくていいのか?
一致しなくていいのか?

妻のお腹に載せた僕の手が、動く子どもを感じとる。
確かなことがひとつある。
おかげさまで、子どもは元気だ。
そしてもうひとつ確かなこと。
この子の名前が決まった。
<空>だ。

出演者情報:瀬川亮 03-6416-9903 吉住モータース

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瀬川亮から「ひと言」


梅雨真っ最中の東京。

でも久々にカラッと晴れた。

30℃を越える予報。

でもオイラ暑い夏大好きなんだなぁ。

ガキの頃から夏好きは変わってない。

夏休み、太陽がギラギラしてる炎天下の中を
朝から晩まで遊んで真っ黒に日焼けしてた。

当時、『キャプテン翼』で若林くんが被ってたアディダスのキャップをして
サッカーボール片手に小学校のグランドで近所の仲間と擦り傷作りながら
泥だらけになってた。

んで汚れた体をきれいにする為、無断でプールに入って、
案の定、先生に見つかり翌日、みんなでプール掃除させられて…。
掃除してんだか、水遊びしてんだか分からんかったが。

夏は外で遊ぶべし。

だから、オイラは今年の夏も大いに楽しむ予定。

まずは7月に夏フェス行って暴れてくるぞぃ!

瀬川亮:https://twitter.com/yokohamaryo

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玉山貴康 2011年6月5日


50音ヤクザ

             ストーリー 玉山貴康
               出演 水下きよし瀬川亮


あ! そうだったな。ガキの頃、

イ――! ってよく癇癪を起してたっけ。
と舎弟らと昔話に花を咲かせてた丁度その時

ウ~~ とけたたましいサイレンの音がした。

えっ? まさか警察? なんで俺がここにいることを?

おぉー! 元気だったか!その声は。やっぱりアイツ…。
俺をパクッたサツだ。
シャバに出た初日にまたこの顔を拝めるなんて、…ったく。

カ――ッ と俺はわざと痰をからませ、道路に吐き

キッ と下から睨みを利かす。

ククク… とアイツは押し殺した笑い方をし、
おいおい随分なご挨拶だなと言った。

ケッ 面白くねぇ。何の用だ。

コ――ッ と空手の型の真似をする。
空手をやってた俺をこうやっていつもおちゃくりやがる。

サッサ と用件を済ませてくださいよ、刑事さん。
俺もヒマじゃないんでね。

し―― んとあたりは静まり返っていた。そして俺は

スッ と

背 中を

そっ とアイツに向け、両手を挙げた。その時

タタタ――ッ と数人のサツが物陰から出てきた。
大袈裟な。思わず俺は

チッ と舌打ちをした。夏の夜の新宿。

ツ―― とこめかみから首筋、それに

手 の平にも嫌な汗が滲んでいるのがわかる。

ト―ッ! とこういう時にヒーローは登場してくれるんじゃなかったのかい。


なに かぁ、隠してるよねぇ。アイツはそう言いながら俺の背後に立ち、
ポケットの中をまさぐってきた。

ヌー は、どこだぁ?やはり、そいつを探していたのか。
ヌーとは、数グラムでも高値で取引される上物のハッパ。
コカインよりキク。

ねぇ よ。ないって。それでもしつこく体中を調べてくる。
俺は振り向いて

NO~! と叫んだ。なんで英語がでてきたのか分からない。
するとアイツは

はぁ… と深い溜息を漏らし、急に眼光が鋭くなった。

ひ、ひひひ… と俺は卑屈に笑ってやりすごす。

ふぅ。 お遊びはここまでだ。

へぇ~ と俺はおどけてみせる。

ほぅ と二度三度、俺に顔面を近づけ頷いた。くさい息がかかる。
アイツはブチ切れ寸前。お~コワ。

まぁまぁ… なだめても… やっぱ無理か…。

ミーンミーン と不穏な空気を抗うように蝉が鳴きだした。

むっ とした暑さが充満していく。
その時、アイツはおもむろに背広の内ポケットから何かを出してきた。


メモ? 黄門様の印籠よろしく、
これが証拠だと言わんばかりに掲げてきた。
読もうとしたら、すぐに引っこめやがった。ハッタリか?

やー さんも、大変な稼業だな。
やってもいない殺しで親分の代わりにブタ箱入り。
長く奉公して外に出てくりゃ、多少の出世はするものの、
今度はシノギ、シノギの毎日だ。そう言って、
アイツは寂しそうにゆっくり俯いた。

ゆう ちゃん、もう、足洗いなよ、なぁ。
涙声だった。
ゆうちゃん…。“勇次”という俺の名前を、
そんなふうに呼ばれるのは久しぶりだった。
そう、コイツは…、コイツは…、俺にとってたった一人の兄。
ガキの頃、親父は女つくってすぐに家を出て、
残された母親も次々に男を連れてきては、
そいつとグルになって殴る蹴るの毎日。
そんな時、いつもそばにいて泣きじゃくる俺を助けてくれたのは、
この兄だった。
まさしく俺のヒーローだった。そんな兄の肩が震えていた。
 
よぅ。 俺はハンカチを差し出した。泣いている兄を、その時初めてみた。

わ かったよ、にいちゃん。…ごめんな。…ありがとな

どうです?編集長
 悪くない。
でしょー!じゃあ、今度の新年会の余興は、
この“ハードボイルドかるた”でいきますね。
でも、なんでこんな大変なこと毎年やってんすか?
 あ、これか?
 編集者たるもの、少しでも作家さんの産みの苦しみを知ることで
 いい本が出来上がる!
 というのが社長の持論でな。
 それで、言葉の素である「50音」という制約の中で
 物語を創ってみろとなったわけ。
 それが始まり。

なるほどね~。しかし、とんだムチャぶりですね。
 まぁな。しかしこれさぁ、
 “なにぬねの”のあたりはちょっと無理っぽかったな。
 NO~!はないだろ、NO~!は。急に英語だし。

ははは…。やっぱ、そう思いました?
 あと“らりるれろ”がない。
さすが!編集長!よく分かりましたね!
 ばかやろう。ちゃんと足しとけよ。
 …そうそう、でさ、あの兄のメモには何て書いてあったんだ?

あー、それはあれですよ。
 どれ?

出演者情報:水下きよし 花組芝居 http://hanagumi.ne.jp/
      瀬川亮 03-6416-9903 吉住モータース

  
動画制作:庄司輝秋

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瀬川亮から「ひと言」


先日、小学校時代入っていたサッカークラブの仲間とその親達で集まった。
総勢30人余り。みんな結婚して子供もいて良きパパって感じ。

おいらの仲間は次男坊ばかりでガキの頃は親に迷惑ばかりかけていた。

おいらは今だに両親に迷惑かけていますが…。
この間も喧嘩しちゃったし…。
大変勝手ながらこの場をお借りして謝らさせて下さい、
おとん、おかん、ごめんなさい。

話が逸れました。戻します。

その仲間が家族を持つとこんなにも変わるんだな、と
改めて感じさせられた。

背負うものがあるって男をかっこよくさせる、
素直にそう思いました。

みんなをそんな風に眺めていたら仲間に
『瀬川が一番若く見えるな。言い方変えれば一番ガキだな!』と一喝。

やはり小1からの仲間には全部見透かされている。

早く大人になりたぁぁぁぁぁい!

では、失礼いたします。

瀬川亮:http://twitter.com/#!/yokohamaryo

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山本高史 2011年5月22日



カプセルの記憶。

             ストーリー 山本高史
                出演 大川泰樹瀬川亮

A「カプセルの中、入ったことある?」
  B「どんなカプセル?」
A「薬」
 B「あるわけないでしょう」
A「オレ、この間入ってたんだ、夢かも知れないけど」
 B「夢でしょう」
A「身動きとれなくってさ、カプセルの中にぎゅうぎゅうに詰まってたから」
 B「何が?」
A「オレが、て言うか、粉が。粉なわけ、オレ、当然薬のカプセルの中だから
 パンとかじゃないわけ、パンとかじゃないわけ」
 B「はい、オマエはパンじゃない」
A「そう、パンじゃないわけ、粉なわけ。でもオレがオレだっていう意識はあるの、
  意識体としての粉」
 B「意識体としての粉」
A「さらに視覚もあるわけ、でも粉だから目なんかないわけで、
  たぶん意識体が視覚を持ったんだと思うね、これすごくない?
  世界初、視覚を持った意識体。
  ただその視界も固定されてるから、ぎゅうぎゅうだから、
  身動きとれない満員電車って乗ったことあるでしょ?
  あれをイメージしてくれればいい」
B「つぎからそうする」
A「そしてオレは固定された視界の片隅でカプセルの内壁は動くのを見た!
  恐怖よ、誰かがカプセルを開けようとしているのよ。
  オマエ、もしかしたら薬のカプセルを開けようとしたことある?」
B「あったかもね」
A「それ絶対やめたほうがいいよ」
B「ああ、二度としない」
A「そのチカラに抗うように、オレは必死でカプセルの内側から
  動きを押さえようとしているんだ。
  でもしょせんは粉対人間、結局カプセルの封印は解かれて、
  オレは外へ飛び散った。そこまでしか覚えていない」
B「ついでにそこまでも忘れてくれ」
A「ただ最後にオレの視覚が捉えたものは、あわれにも2つに分断されたカプセル、
  その色は半分が白で半分が水色、そうオマエがいつも飲んでるヤツだ!」

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP
      瀬川亮 03-6416-9903 吉住モータース

  
動画制作:庄司輝秋

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岩田純平 2011年5月1日



「中山さんごめんなさい」

         ストーリー 岩田純平
            出演 瀬川亮

終電で帰れるよう、
ちゃんとケータイで終電の時間を調べていた。
品川0時3分。
駅に着いたのはまだ56分だったので、
私はトイレに行った。
これから小一時間ほどの電車。
途中で降りるわけにはいかない。
今日はビールを少々飲み過ぎた。
僕は長い小便を終え、
やっぱりトイレに行ってよかったと満足しながら
ホームへの階段をのぼる。
時計が見える。
まだ0時1分。余裕である。
ホームはこの時間には珍しくガラガラであった。
これは座って帰れると喜んだが、
よく見ると人が一人もいない。
不景気とはいえこれは異常だ。
おかしいと思い電光掲示板を見ると、
「節電のため使用を控えております」
の張り紙。
節電。私はハッと気づいて時刻表を見る。
「計画停電の影響のため、休日ダイヤで運行しております」
休日ダイヤを見ると終電は23時56分。
こんなところにも震災の影響が。
私は途方に暮れた。

と、そこまで書いたところで僕は文章を読み返した。
全然面白くないではないか。これも震災の影響か。
僕も途方に暮れた。
このあと主人公はマンガを買い込んでカプセルホテルに泊まり、
これならマンガ喫茶に泊まった方がよかった、
などと苦笑いするのだが、
全く話が全体的に苦笑いである。

中山さんからこの東京コピーライターズストリートの
原稿を頼まれたのは2月の中旬くらいであった。
お題はカプセル。締め切りは4月1日。
つまりカプセルの話を4月1日までに
書かなければならなかったのだが、
締め切りに余裕があったことが災いし、
僕は一文字も書かないまま4月1日を迎えた。
「実はエイプリルフールで原稿を依頼したことも嘘でしたー」
という中山さんのお茶目な電話を期待してみたが、
当然そんな電話はない。

現実を見つめ直した僕は3つ話を考えた。
一つ目は冒頭のカプセルホテルの話。
二つ目は、
酸素カプセルに入って寝ている間に、
地球に謎の隕石が落ちて世界中が毒ガスに包まれてしまい、
酸素カプセルから出るとみんな死んでいた、という話。
なんだか不謹慎な気がしたので自粛した。
三つ目は、
小学生の頃埋めたタイムカプセルを掘り出したら
なぜか中身が宝の地図に変わっていて、
インディジョーンズばりの大活劇ののち辿り着いた宝はなんと・・・!!
という話。
宝の中身をこどもの頃に埋めていたタイムカプセルにするか、
なぜか死体で昔犯した殺人を思い出すという二重人格落ちにするか、
の2方向で迷ったのだが、
そもそもこんな内容でいいのか、
という根本的なところで迷いだし、
書くことを断念した。

現在日付変わって4月2日午前2時33分。
僕は苦し紛れにテレビをつけた。
何かアイデアのきっかけが見つからないだろうかと。
もしくは何かパクれそうな話はないものかと。
やっていた番組は「本当は間違っている医学の常識」
というような番組で、
カプセルや錠剤はお湯で飲まなくても大丈夫、
と医者が解説していた。
カプセル!
こんなに運良くカプセルの話が出るなんて。
これは運命の出会いと思った僕は
集中してその番組を見続け、
ジョギングは朝してはいけないことや、
傷は消毒してはいけないことなどを知るのだが、
残念ながらカプセルの話が
その後いっさい出ることはなかった。
挙句の果てには病気の話ばかり見ていたら
なんだか喉が痛くなってきて、
薬を探してみたけど粉薬しかなくて、
カプセルは消費期限の切れた鼻炎用のものしかなかった。

僕は鼻炎カプセルをゴミ箱に捨てると、
この文章はゴミ箱に捨てず保存してメールに添付し、
中山さんに怒られる覚悟を決め、
送信ボタンを押してしまうのであった。

なんだかきれいに終わらせた感じではあるが、
全部実話である。  

出演者情報:瀬川亮 03-6416-9903 吉住モータース

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