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直川隆久 2010年12月12日-(上)

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しあわせの味(上)

ストーリー 直川隆久
出演 水下きよし

津田は、スーツのポケットの中で鍵束をじゃらりと鳴らし、
由貴子の部屋の鍵を手探った。  
一週間ぶりにあの女と顔を合わせる瞬間、どういう態度をとったものか思案する。  
開口一番怒鳴るべきか。だが、日頃大きな声を出し慣れてもいない。
声がうわずって間抜けな調子に見えてしまっては損だという気がする。
まさか刃物まで振り回しはしまいが、逆上して大声でもだされては面倒だ。
やはり強い態度ででるのはやめておこう。  であればにんまりと笑いながら
「あのさ。家に電話かけてきちゃ、だぁめ。ね?」というあたりが
体力的にも経済である。
怒らず。どならず。そうすれば根は素直な由貴子のことだ。
こちらの人間的スケールに感動さえおぼえるかもしれない。  
一石二鳥だ。そうしよう、と津田は心を決める。

5階で停止したエレベーターを降り、右手に曲がる。
由貴子の住むコーポの廊下は宅配便の配送センターに面していて、
トラックの出入りがよく見渡せる。
最近のネット通販には注文日当日届けというサービスまであるらしい。
以前なら、日本中に翌日荷物が届くということだけでも十分に驚異だった。
それが今や「当日」である。
えらいことだ。
世の中のサービス競争がどこまですすむか、それを思うと津田は半ば呆然とする。
果てしなく競争し続けられる人間しかいわゆる勝ち組になれないとしたら、
自分はどうなのだろう?
とはいえ津田はそれ以上考えを深めることもしない。
まあ、面倒なのだ。

津田という人間は簡単に言って、人生における当事者意識というものを欠く男だった。
先週、奥山由貴子が自宅に電話をかけてきたときも、
いつになったら一緒になれるの、とすすり泣く由貴子の相手をするのが
だんだん億劫になり、だまりこんでしまった。
面倒ごとがおこったときは、とりあえず考えることを停止し、
最終的には都合のいい結果を誰かがもたらしてくれるのを待つ。
そんな姿勢で四十数年生きて来た。そしてその戦略は不思議にも
それなりの結果をおさめてきたのだった。
だから今日ここに来たのも、みずから積極的に問題を解決するつもりというよりは、
そろそろ自分の顔を見せれば由貴子も機嫌が治るのではないかという
ある種の楽観からだった。

奥から2軒目。鉄のドアの郵便受けに、水道工事屋のチラシがつっこまれている。
鍵をとりだす。
そのとき背後から
「津田さん」
と声がした。
「お。奥山くん。お」
と津田があわてるのを見て、奥山由貴子はふふ、と照れくさそうに笑う。
黒いカーデガンをはおり、サンダル履きの素足が寒々しい。やせたようにも見える。
「でかけてたの」
「うん。これ買いに行ってたんです」
と由貴子が片手はポケットにつっこんだまま、スーパーのレジ袋をがさりと掲げる。
黄色い中華麺の袋がふたつ入っているのが透けてみえた。
「…今日ぐらい、来てくれると思ってた」
そう言いながら、奥山由貴子が体を津田のほうへ押し付けて来た。

その服の奥の、体の柔らかみを感じながら、津田は思い出している。
たしかに、津田と奥山由貴子の関係はラーメンからはじまったのだった。
奥山由貴子は津田の職場の派遣社員だった。
会話の流れからお互いラーメン好きと知れ、
津田が自分のブログを教えた。その翌日由貴子が
「津田さんのラーメンブログ、ステキです~ 
 ラーメンの印象をタレントにたとえるのがオリジナルですね!
 こんど津田サンの生コメントききたいです!」というメールをよこしてきた。
津田は、お、と思った。そういうことか、と。
津田の後ろでコピー機が空くのを待つ由貴子が、
いつも妙に体を近づけてくるな、とは思っていたのだ。
 奥山由貴子がそれほど美人でもないことがやや不満だったが、
逆に「この程度の女なら、それほど男への要求も高くはあるまい」
という自信を得た津田は、由貴子を食べ歩きにさそいだした。
二人は昼休みのラーメン屋探訪を重ねる。
ラーメン屋で、津田は饒舌であった。さしたる投資をせずとも、
誰でもがもっともらしいことを語れるのがラーメンのよいところだ。
津田のラーメン批評に感化されたのか、由貴子がときおり
「食べるって、つまり愛なんですよね」などと芝
居がかったセリフを言うのには鼻白んだが、
脂にぬめった唇を舐める由貴子の様子を眺めると、津田は興奮した。
外出は夜に時間を移し、さらに――と、あとはよくある話だ。
二人は男女の関係になり、二年がすぎる。

しかし――というべきか、やはり、というべきか――津田には妻子がいた。
二人の将来についての津田の考えを由貴子がおずおずと訊いてくるたび、
津田は言葉をにごして時間がすぎるのを待った。
そうしていると、きまって由貴子のほうから、
「ごめんなさい、へんなこと言って。忘れて」と謝ってきた。
由貴子は津田にとってたいへん都合のいい女だった。
由貴子のそんなところが、津田は好きだった。
だが先週、不穏な波風が立った。
由貴子がビーフストロガノフにはじめて挑戦したのだが、
料理好きの彼女のわりにはできが悪く、津田は半分残したのだった。
どうしたのと訊く由貴子に、まずいから、と正直に答えられず、
帰ってから妻のつくる料理を食べなければならないからだ、答えてしまった。
 
不用意な一言が、おさえにおさえてきた感情を決壊させたのか――
津田が自宅に戻ったころを見計らい、由貴子が半狂乱で電話をかけてきた。
 その後の顛末は先ほどの通りである。連絡をとらぬまま一週間をやり過ごし、
ほとぼりがさめた頃とふんだ津田は、今、ふたたび由貴子の家の玄関にいる。

津田がドアを開けると、何かあたたかな料理の匂いが漂って来た。玄関でかがみ、
靴ひもを解く。紐の先がほつれているのに気付く。
妻に言って買っておいてもらわないと―
「何かつくってるの?」と顔をあげて津田が訊く。
「わかります?」
「ラーメンのスープつくってるんです」
「ラーメン?家で?」
「津田さんの一番好きなものを、自分の手でつくりたいって思って、挑戦したの」 
背中をむけたままで由貴子が言う。
「味見してくれます?」
そう言って、少し顔を赤らめて由貴子は靴をぬぎ、あわてて津田の横をすりぬけた。
かわいいことを言うじゃないか。
津田は、テーブルにつき、料理ができるのを待った。
鍋の湯気でほどよくほとびた空気につつまれながら津田は考える。
たしかにおれは、勝ち組じゃない。
でも、平均よりは、ちょっとだけツイてる人生をおくってるのかもしれないな。

出演者情報:水下きよし 花組芝居 http://hanagumi.ne.jp/

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動画制作:庄司輝秋

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直川隆久 2010年12月12日-(下)

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しあわせの味(下)

ストーリー 直川隆久
出演 水下きよし

津田の目の前に、由貴子が丼を、片手で置いた。
その動作のぞんざいさに一瞬驚く。怒っているのか。
津田は、上目遣いに由貴子の顔をみやる。
しかし、目に入ったのは、屈託のない笑顔。
「サムゲタン風のスープなんですよ」と由貴子が言う。
津田は、ほっとしながら、へえ?と大げさに声をあげてみせる。
「朝鮮人参が入ってるの。最近寒くなってきたでしょう」
「うん――あ、え?朝鮮人参?なんか、すごい、本格的」
「津田さん、先週、ちょっと鼻声だったから」
たしかに、その日は少し熱っぽく、風邪のひきはじめのような感覚がしていた。
――一週間、連絡はとらずとも心配はしてくれていたのか。
妻からは「大丈夫?」の一言もなかったというのに。
由貴子。優しい女だ。
「食べて」

由貴子に促されて津田はレンゲを手にとり、湯気のたつスープを一口すする。
やわらかであたたかいうまみが、口の内側にしみこんでいくのがわかる。
しっかりと時間をかけてとられた出汁。
この間のビーフストロガノフとは随分違うじゃないか。
「おいしい?」
「うん」
「よかった」
「しみるね」
「うれしい」
「味にトゲがない。無化調だね」
むかちょう、つまり化学調味料を使っていない、というラーメン好きのジャーゴン。
妻は知らない言葉。
「鳥のだし?でも、鳥よりこってりしてるね」
「サムゲタン『風』だから」由貴子の顔に頬笑みが広がる。
「次の課題は麺なんですよねえ」
由貴子が津田の向い側のイスに腰をおろす。
「津田さん、わたし、本当に反省しているの」
 津田は麺をずず、とすする。
うん、たしかに、スープはこれだけピントがきたいい出来なのに、この麺はないよな。
スーパーで売ってる蒸し麺じゃさ。と津田は心の中で言う。
「この間はどうかしてたの」と由貴子は続ける。
丼を持ち上げてスープをすすりながら、その話か、もういいじゃないか、
と津田は思う。
「怒ってます?」
「怒ってないよ」
「ねえ、津田さん」
津田は丼から目をあげる。意外なほど近くに由貴子の顔があった。
「津田さんのためにこれからもずっと…ラーメンつくらせてくれる?」
由貴子のしおらしい言葉に、津田はあらためて安堵する。
やっぱり、ちゃんと反省してくれたんだな。それでこそ、由貴子だ。
手軽に会え、うまい料理をつくって待っていてくれる女。
麺も、これから改善されることだろう。
これを、ひょっとすると幸せと呼ぶのかもしれない。
津田はしみじみと、そのありがたみを感じた。

由貴子が笑顔で津田の顔をのぞく。
「津田さん」
「ん?」
「わたしのほうが、奥さんより、おいしい?」
「え」
「あ…ごめんなさい。へんなこと言って」
 由貴子は笑みをくずさない。
「忘れて。もうこんなこと言わない」
「ありがと、由貴子」
津田は、由貴子の手をとろうと、右手を、向いにすわる由貴子のほうへのばす。
――女にはスキンシップが大切だ、と最近読んだ新書にも書いてあった。
だが、目に入った彼女の左腕に、津田は違和感を感じる。
カーデガンの袖の様子が、妙だ。
「由貴子。腕…どうしたの?」
「これ?」
由貴子が左腕をもちあげた。
肘から先15センチほどのところまでは、袖の中身がある。
しかし、その先は…脱がれた靴下のように力なくたれさがっている。
「見つかっちゃった」
由貴子が顔を赤らめる。
「え…?」
困惑する津田に、由貴子は微笑みを崩さず、訊く。
「ほんとに、おいしかった?」
そのとき、さっきから目にしてきたいくつかの情景が津田の頭の中でつながり、
ある予感を…悪い予感を結んだ。
片手でもちあげた、スーパーの袋。
サムゲタン「風」のスープ――
突き動かされるように津田はたちあがり、台所に走る。
背後で、由貴子の声がした。
「ねえ、津田さん、おかわりは?」
答えず、津田は鍋を覗きこむ。
鍋の中には、青ネギとともに、白くゆであがった何かがうかんでいた。

五本の骨が見え、それが…大事なものをつかむかのような形に曲げられているのが見えた。
みぞおちを締め上げられるような感覚に襲われ、津田は、後ずさりする。
その背中に、由貴子のやわらかい体がぶつかった。彼女の両腕が津田の胸に回される。
「おいしかった?」由貴子が繰り返す。
5秒ほど、沈黙があった。
津田はゆっくりと振り返り、由貴子の顔を見る。
「うん」 
津田はうめくように言った。
「手作りだもんな」

出演者情報:水下きよし 花組芝居 http://hanagumi.ne.jp/

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動画制作:庄司輝秋

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小野田隆雄 2010年12月5日

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焚 火

               
ストーリー 小野田隆雄
出演 大川泰樹

目白駅から少し入った住宅街の、
昔ふうに言えば、300坪ほどの敷地がある家で
初老の男がひとり、焚火をしている。
あんずの葉、かえでの葉、さくらの葉など、
ほうきで集めて小さな山をつくり、
そっとマッチで火をつける。
すると待っていたかのように、落ち葉たちは
メラメラと燃え上がる。
親ゆずりの家に住み、
さしたることもない人生を生きて、
ついこのあいだ、秋の終りに
ようやく次長の席にすわった。
それがどうやら
会社スゴロクのあがりのようだ。
そんなことを考えながら
燃えあがる炎を見つめている。

落葉の山は燃えながら、崩れ落ちて、
カサコソ、カサコソ、かすかな音を立てる。
その音を、男は聞いたことがあると思った。
あれは30代の終り、ちょうどいま頃、
ゆきずりのような恋をして、
人影もない、夜(よ)もふけた六本木の公園で
ひとりの女性を抱きしめて唇を合せた。
あの時、男の腕の中で、
女性のレインコートが、
カサコソ、カサコソ、音を立てた。
その音がいま、手の平によみがえってくる。

昨夜、深夜テレビで映画を見た。
妻が静かに立ちあがり、寝室に去ったあと、
男は和光のコンソメスープのカンヅメを開けた。
それを温めてマグカップで飲みながら
ゆっくりと、古いフランス映画を見た。
くたびれた初老のギャングが
酒場でスコッチを飲みながら女につぶやく。
「おれだって、もうひと旗、でかい仕事を…」
すると、40代半ばの、
すこし体の線が丸くなり始めた女がやさしく言う。
「もう、おやめなさい。もう…」
けれど男は、結局、銀行強盗をくわだてて失敗する。
女はパリ北駅から国境の町リールに向かう。
平原を走る列車のロングカットにf(エフ)、i(アイ)、n(エヌ)の文字が重なる。

男は焚火を見つめている。
「おれだって」とつぶやいてみる。
「おれだって、
会社スゴロクはあがり、かもしれないけれど」
そう、つぶやきながら、
月桂樹の枯れ葉を焚火に投げ込む。
炎(ほのお)が高くあがり、
スパイスのある香りが立ち昇る。
どこかで、キジバトの鳴く声がした。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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中山佐知子 2010年11月28日

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次男の一房くん

               
ストーリー 中山佐知子
出演 大川泰樹

森本一房くんは次男として生まれた。
責任ある長男に較べると、
次男の一房くんはなにごとも「まあいいか」でのほほんとしていた。

一房くんのお父さんは加藤清正の家来で名高い武将だった。
豊臣秀吉が朝鮮に攻め入ったときは清政に従って従軍し
装甲車で敵の城を壊しまくって一番乗りを果たしたこともある。
お兄ちゃんの一友くんも武闘派で知られており
天草一揆では手柄を立てて褒美をもらっている。
それにひきかえ一房くんは賞罰なし、履歴書に書くことがなにもない。
でもまあいいか、と、一房くんは思っていた。

やがて加藤清正が死んだ。
次の年にはお父さんも死んでしまった。
人間五十年というあたりで死んだのだから、まあいいか、と
一房くんは考えた。
でも、困ったことがひとつあった。
新しい殿さまは若すぎて家来がちっとも言うことをきかない。
なんだか政治がもめている。面倒くさい。
でもまあいいか、いやよくない。
居心地の悪い熊本はもういいか、長崎の平戸藩に転職しよう。

一房くんが転職した長崎には国際的な港があった。
日本はまだ鎖国をしていなかったので
白い大きな帆を張った貿易船が遠い国をめざして船出する。
その船に、冬のはじめの季節風に乗ってカンボジアに向う船に
一房くんが乗り込んだのは1631年のことだった。

なんでそんなことを思いついたのだろう。
まあいいか。
お釈迦さまの祇園精舎へ行こうだなんて、無謀なことだぞ。
まあいいか。

1632年の正月のころ、一房くんはアンコールワットにいた。
カンボジアの密林をかきわけてやっとたどりついたのは
惜しいことに祇園精舎ではなく
アンコールワットというヒンズー教のお寺だった。
まわりの彫刻を見ても仏教とは極端に違っていた。
ラーマーヤナにマハーバーラタ、魔王と戦う猿の軍団….
縦に見ても横に見てもお釈迦さまとは何のかかわりもなさそうだった。
でも、まあいいか。
せっかく来たんだから、まあいいか。

一房くんはまわりに居並ぶ異教の神々にも臆することなく
アンコールワットの柱にわざわざハシゴをかけて落書きをした。

それから200年以上のときを経て
フランスの博物学者アンリ・ムーオという人が
アンコールワットにたどりついた。
「密林に眠る遺跡をヨーロッパ人が発見」と世界中が大騒ぎになったけど
でも、実はそのとき、
アンコールワットの真ん中あたり、幅40センチの柱には
一房くんの落書きが、ぬけぬけと残っていたのだ。

まあいいかの一房くんは、
いまではアンコールワットに落書きをしたサムライとして
歴史に名をとどめている。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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薄景子 2010年11月23日

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落書き美容
           

ストーリー 薄景子
出演 大川泰樹

こんにちは。落書き美容チャンネルにようこそ。
ご案内はワタクシ、「いい顔つくろう落書き美容」でおなじみの、
飯顔つくろうです。

みなさん、ご自分のお顔は好きですか。
どこか不満はございませんか。
全くないわ、私は満足してるわ、そんなお客さまには
ワタクシ、この道30年一度たりとも
お会いしたことがございません。

しじみのような瞳、大福もちのようにたるんだ頬。
自分がこんな顔じゃなければ、人生ちがっていたんだろうな
と思い続けることはまさにストレス。
精神にも肉体にも相当な負担をかけてしまいます。

そこで、ワタクシと飯顔大学のコラボレイションで
共同開発いたしましたのが、こちらのミラクルマジックペン。
まさにお顔のどんな願いでもかなえてしまう
魔法の落書きペンでございます。

使い方はカンタン。
お鏡を見てご自身の顔面に
こうなりたいわ、という願望を
そのまま描きこむだけでございます。

目をぱっちり大きくしたい方は、
こうして目のまわりにぐるっと大きな瞳を描くだけ。
お顔を小さくしたいは、理想の輪郭を顔面に描いて
いらないところは塗りつぶせばいいんです。
絵心がないという方は、お鼻の上に「高く!」と
言葉で書いてもOKでございます。

人間の脳は単純でしてね。
願望を描きこんだお顔で過ごされますと
そのうち脳細胞が、「あら?私の顔はそうなったのね」
と勘ちがいして、実際のお顔そのものが変化してしまうんですね。
毎日、落書き美容を続ければ、形状記憶効果で
理想のお顔が貼りついたように定着いたします。

このミラクルマジックペンの一番のおすすめは、
おやすみ前に描くこと。
いいですか、みなさん。成長ホルモンの約70%は、
睡眠中に分泌されると言われています。
その間、お顔の細胞も修復されるので
修復の方向性をこのミラクルマジックペンで
しっかり教えてあげるんですね。

眠っている間にご主人や奥さまのお顔に
落書き美容してあげる、という裏ワザもございます。
お好きな韓流スターやハリウッドスターの名前を描き続ければ、
夫婦生活も映画のようにドラマチックになること間違いなし。

発売以来大ヒットのこのミラクルマジックペン、
街に出ますと、若いOLさんから年配のお偉いさんまで、
お顔に落書き美容しまくりです。

こちらのお嬢さんは、欲張って描きすぎて顔グロ状態。
こちらの男性は、まさにピョンさま生き写し、お上手ですね。
みなさん、ご自身の夢をお顔いっぱいに描いて、
自信に満ちあふれています。

本日は、この大ヒットのミラクルマジックペン100本セットに
収納用の桐ダンスをつけて、お値段は据え置き。
あなたも今すぐ、落書き美容で
人生の逆転ミラクルマジックをかなえてくださいね。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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動画制作:庄司輝秋

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福里真一 2010年11月21日

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ジャーナリストの資質

               
ストーリー 福里真一
出演 西尾まり

私は都会のコーヒーショップで、時間をつぶしていた。
となりのテーブルでは、就職活動中らしき若者ABが、OB訪問をしていた。
そのOBは、どうやら、新聞記者らしい。
私は、近くに、大きな新聞社があることを思い出した。

君たちは、ジャーナリストに一番大事な資質って、なんだと思う?

OBの問いかけに、まず、若者Aがこたえる。

正義感、だと思います。
ジャーナリズムが存在するのは、結局のところ、
世の中をすこしでもよくするためではないでしょうか。
それを忘れたら、最近よく言われるように、
批判のための批判に陥ってしまう。
ジャーナリストのすべての根本に、正義感があるべきだと思います。

続いて、若者Bがこたえる。

好奇心、じゃないでしょうか。
とにかく、とことんいろんなことを、しかも誰よりも深く知りたい。
それが、ジャーナリストの本質だと思います。
強靭な好奇心があってはじめて、誰もたどりつけなかった真実に、
たどりつくことができるのだと思います。

ふたりの答えを、OBは、おもしろそうに聞いていた。

ふたりとも、見事な模範解答だね。
いや、からかってるわけじゃない。ふたりの言ってることは、
どちらももっともだと思うよ。
でも、俺が考える、ジャーナリストの資質とはちょっと違う。

そう言うと、彼は、おもむろに、三枚のお札を、テーブルの上に並べた。
一万円札、五千円札、そして、千円札を、一枚ずつ。

君たちは、この三枚のお札を見て、まず最初に、どう思う?

若者Aがこたえる。

ほしいな、と思います。

つづいて、若者Bがこたえる。

どうしてお札を並べたんだろう、と思います。

そうだね、そう思うよね。どちらも、よく理解できるこたえだ。
でも、俺は、こう思うんだ。
あー、鼻毛を書き込みたいって。

は?

若者ABは、まったく理解できないという表情だ。

見てみろよ、この、福沢諭吉、樋口一葉、野口英世のもっともらしい顔。
こいつらは、確かに、すばらしい業績をあげたんだと思うよ。
でも、同時に、ひとりの人間として、うそをついたり、友人を裏切ったり、
えっちなことを考えたり、ろくでもないことをたくさんしてるはずなんだ。
そんな、ろくでもないたかが人間が、
こんなすました顔でお札におさまっているのを見ると、
こいつらの鼻に鼻毛を書き込んでやりたくて、
たまらなくなるんだよ。

子供の頃からそうだった。
国語の教科書に載ってた作家たち、
理科の教科書に載ってた科学者たち、
社会の教科書に載ってた歴史上の偉人たち、
すべての肖像画や写真に、俺は、鼻毛を書き込まずにはいられなかったんだ。

ちなみに、鼻毛が一番似合ったのは、ダーウィンと源頼朝だったけどな。

そして、そのOBは、コーヒーを一口すすると、断定的に、こう結論づけた。

そこに、とりすました偉人の肖像があったとき、
鼻毛を書き込んでやられずにいられない、
それが、俺の考える、ジャーナリストの資質だよ。

話が終わると、OBと若者ABは、いっせいに席を立った。
私の横を通るとき、チラッと顔を見あげると、
若者ABふたりの顔には、大きなハテナマークが、
浮かび上がっているようだった。

しばらくして、私も勘定書きをもって席を立った。

私は考えていた。
私は、ジャーナリストへの転職を考えるべきなのだろうか、と。

なぜなら私も、子供時代、教科書のすべての偉人たちの鼻の穴に、
鼻毛を書き込まずにいられなかったから。

出演者情報:西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー所属

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動画制作:庄司輝秋


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