「微熱屋」
ストーリー 国井美果
出演 西尾まり
暦のうえではもう立春ですが、まだまだ寒い日がつづきます。
どうかお風邪など召されませぬよう・・・
あ、召されてますか。
でも、仕事を持っていると、おちおち休めませんよね。
まずいな~と思いながらもズルズルと残業して、こじらせて。
で、あわてて市販の風邪薬を飲む。医者にかかる。
でもね。
こういう言葉をご存知ですか。
「風邪は治すものではなく、経過するものである。」
これ、有名な整体の先生の受け売りなんですけど、
そもそも風邪というのは病気なのではなく、
それ自体が治療行為なのだそうです。
だから、早く治したくて無理に熱を下げようとしたり、
咳を止めようとしない方がいい。中断しない方がいい。
「自然な経過を乱さなければ、
風邪をひいたあとは、蛇が脱皮するように新鮮な体に」なれるものなんですと。
なるほど。
風邪をひきかけたら、無理に止めずに、
「まずはすみやかに休養する」のがいちばんです。
え?
すみません、申し遅れました。
わたくし「微熱屋」と、いうものです。
微熱屋とは、あなたのようなお忙しい方が、
風邪かな?と思ったら、すぐさま身体を休ませることのできる場所。
街中にある、有料の保健室のベッドのようなものと申しましょうか。
ご興味がおありですか?
どうぞいらっしゃいませ。さあどうぞ。
では、まず受付で検温してください。
37度5分以上の方は、申し訳ございませんが
微熱の範疇を超えておりますのでお帰りください。
それ以下の方は、個室へどうぞ。
各部屋には、小さいですが清潔なベッドと
気持ちのいい麻のシーツが備えてあります。
プラズマクラスター付き加湿器も標準装備。
温度と湿度の管理はカンペキ。
ご希望ならば和室タイプもございます。
では、こちらのパジャマにお着替えください。
クリーニング済み。素材も選べます。キティちゃんのもあります。
オプションで五本指ソックスや腹巻きもございます。
さてこちらが、ルームサービスのメニューです。
風邪といったらやはり、
すりリンゴ、みかんゼリー、生姜と蜂蜜入りミルクティー、葛湯、
さらに卵粥、きのこ雑炊、煮込みうどん、
ネギの黒焼き、スンドゥブ、牡蛎鍋などもございます。
カラダが芯からポカポカしてきましたでしょう?
それでは、
どうぞおやすみなさいませ・・・・
あ、BGMもお選びいただけます。
iTunesの中には、ボサノバからグレゴリオ聖歌まで10,000曲以上、
「キッチンでお夕飯の支度をする音」なんていう選択もございます。
お時間は、「60分後にお目覚め」コースでよろしいですか?
それでは、ベテランのお母さんが優しく起こしに参りますので、
おやすみなさいませ・・・
あ、お母さんのタイプも選べますよ。
八千草薫タイプ、
竹下景子タイプ、
市原悦子タイプ・・・・それから、
もう、いい?
それでは、おやすみなさいませ。お大事に。
あ、料金ですが、前払い制になってまして・・・・・・・・
(おわり)
出演者情報:西尾まり 30-5423-5904 シスカンパニー
国井美果 2011年2月6日
国井美果 2010年6月20日
さようなら、はじめまして
ストーリー 国井美果
出演 毬谷友子
~小さい頃は神様がいて、不思議に夢を叶えてくれた
これ、映画「魔女の宅急便」の終わりに流れる、私の好きなうた。
本当は、ナントカっていう名曲だってママが言ってたけれど、
忘れてしまった。
小さい頃は神様もサンタもいて、よかったなあ。
今日は私の誕生日。
6月9日。ロックな13歳だぜ。
べつにロック・ミュージックが好きなわけじゃないんだけれど。
今年の誕生日は、なんとなく、ひとりでいることにした。
放課後、ミスドで誕生会しようと言ってくれた友達にはお礼だけ言って、
ボーイフレンドとは週末に会う約束をした。
もともとひとりっこだし。
パパはいつも夜中に帰ってくるし。
ママはこのまえ死んでしまったし。
・・・いや、正確にいうと死んでなくて、ピンピンして生きてるんだけど、
どうにも許せないことがあって、つい口がすべりました。
そのママから、ケータイにメールが届いた。
「モンちゃん、ハッピー・ハッピー・バースデー!
バルセロナは快晴だよん。風邪ひいてない?朝ちゃんと起きてる?
戸締まり火の元には気をつけて。大好きだよ!LOVE!ママ」
娘へのバースデーメールというより、ただの留守番の確認だ。
ああ、やっぱりムカついてきた!
あなたねぇ、今年の誕生日はレストランに行こうって約束したのに、
へっちゃらで10日間も出張に行っちゃうなんて、ありえなくない?
小さい頃からずーっと仕事仕事で忙しくて、それはいいとしてもさ、
誕生日の約束ぐらい守ってくれてもいいよね?
居てほしいときに居てくれないなんて。もうあなたなんて、要―らない!
せっかくの13歳なのに。
そうだよ。
「魔女の宅急便」のキキだってひとり立ちして修行に出た歳だし、
私も早くひとり立ちしてやる。
やりたい仕事みつけて。部屋さがして。
うんとやさしいお姉さんがタダで部屋を貸してくれて。
新しいボーイフレンドもできて。
実家なんてめったに帰ってあげないよ。
落ち込んだりしても私は元気なんだから!
・・・と、怒りが頂点に達したら、おなかが鳴った。
とっさに「釜揚げうどん」の絵が浮かんだので
猛然と湯をわかし、麺をゆで、生姜をすりまくり、万能ネギを刻みまくり、
考えられないくらいの量をひとりすすった。うまかった。
そういえばママが出張から戻ると、今度はママの誕生日だ。
21日。夏至に生まれたんだって。
夏至が過ぎると、本格的な夏がはじまる。
さようなら、12歳。はじめまして、13歳。
おみやげの内容次第では、誕生日になったら、
生き返らせてあげてもいいかな。
人間、おなかが満たされると大概のことは許せるようになるものなのだ。
と、ピカピカの13歳の私は静かに悟った。
出演者情報:毬谷友子 03-3352-1616J.CLIP所属
動画制作:庄司輝秋・浜野隆幸
国井美果 2010年2月20日ライブ
さよなら公園
ストーリー 国井美果
出演 西尾まり
マイケル・ジャクソンの THIS IS IT を観た帰り道、
ムーンウォークでもやってみようと、公園に向かった。
夜の9時を過ぎた人気のない公園では
高校生らしき恋人たちが、今宵の別れを惜しんでいた。
「じゃーね、また明日」
「うん、じゃあね、メールする」
「うん。・・・あ、いっこ言い忘れたんだけど、」
じゃあ何の為にメールするのだ、と思うのは野暮ってもんだ。
名残惜しさの中ふたりのサヨナラが重なる。
しかし、サヨナラサヨナラって言いながらなかなか終わらない、
まるで歌舞伎座のさよなら公演だ。
みんな、本当はサヨナラが好きなんだよね。
切ないけど、その瞬間、生きてるって感じがするからかな。
と、公園に入れなかった私は
つまんないことを考えながらその場を後にした。
出演者情報:西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー
国井美果 2008年12月31日 大晦日スペシャル
「3分の1の写真」
ストーリー 国井美果
出演 西尾まり
そろそろだな。
そう思った瞬間、とつぜん空気がキュッと冴えてきた。
新宿から特急に乗って、甲府へ向かう途中。
この青い匂い。しん、と澄み渡る感じ。実家がぐっと近くなる。
甲府で生まれ、高校まで過ごした。
ひとりっこの私は、小さい頃はいつも、1つ年上の幼なじみにくっついて遊んでいた。
亜美ちゃんと、沙耶香(さやか)ちゃん。
亜美ちゃんは、双子の弟を持つお姉さん。しっかりもので、ちゃきちゃきと明るい。
沙耶香ちゃんは、私と同じく、ひとりっこ。
女の子らしくて、お人形をたくさんもっている。
だけど、3人でいると、1つ年下の私はどうしても、
2人にちょっとだけ追いつかない。
亜美ちゃんと沙耶香ちゃんと、そして私。
2人と1人。どうしてもそういう単位。
アネゴ肌の亜美ちゃんが好きだったから、
「沙耶香ちゃん、私も亜美ちゃんと遊びたい。」
心の中でそうつぶやいていた。2人に間に合わない自分が、もどかしかった。
そんな、幼いコドモなりの、心の葛藤の表れだったのだろう。
私は、ある時、写真に思いをぶつけた。
3人で並んで写っている、1枚の写真。
それを3分の1だけ切り離してしまったのだ。
私、亜美ちゃん。そして・・・・切り離された方に、沙耶香ちゃん。
なんとまあ・・・。やっぱりコドモのやることだなあ。
そんな、可笑しくも愚かで切ない出来事も、
実はもうすっかり忘れてしまっていて、
実家へ向かう匂いや気配の気まぐれで、たまたま思い出したのだった。
私は、あれから東京の大学に進み、商社に8年勤めたのち、
友人の小さな輸入食材店を手伝っている。
亜美ちゃんは、もう、この世にいない。15歳の夏、交通事故だった。
沙耶香ちゃんは・・・。
そこで電車が甲府に着いた。夕暮れの駅前ロータリーに降り立つと、
停まっていた赤いミニの窓が開いて、沙耶香ちゃんが顔をだした。
「おかえり。ラデュレのマカロン買ってきた?」
もちろんだよ、と言って、私は助手席に乗り込んだ。
「ごめんね、明日結婚する花嫁さんに迎えに来させちゃってさ。」
すると沙耶香ちゃんは、
「おお、バツイチの再婚につきそってくれる、貴重な幼なじみよ!」
と、はじけるように笑った。
あれから時がたち、いろいろあっても、
3分の1の沙耶香ちゃんと私は今、こうして会って笑っている。
そういうことが、いちばん強い。と、私は思う。
*出演者情報 西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー
国井美果 2007年3月16日
赤ちゃん警察
ストーリー 国井美果
出演 西尾まり
西暦20XX(にせんえっくす)年、
政府は、生まれたばかりの赤ちゃんが持つその特別な脳力を、
国家の治安維持に役立てるべく研究を重ね、
桜田門の警視庁本部の地下に「赤ちゃん警察」という極秘の組織を発足していた。
赤ちゃんが、並外れた嗅覚を持っていたり、
双子をひとめで見分けたり、という
以前から分かっていたこと以上につぎつぎと驚愕の能力が判明し、
その能力は難解な事件を解決へと導いていった。
そんな赤ちゃん警察の悩みは、人材確保だった。
赤ちゃんが1歳を過ぎると特別な能力はだんだん消えてしまう。
しかし新人赤ちゃんを採用したくても、出生率の低下のため、
赤ちゃんの存在は貴重なものになっていた。
・・・と、まあそんなことを、平凡な一市民の私が知るはずもなく。
私は、ついさっき、はじめての子を5時間かけて産みおとし、
真夜中の産院のベッドでひとり、ウトウトしていた。
そこへ、その男はやってきた。
「こんばんは」
「はいっ・・・あれ?あなた誰ですか?」
「私は、政府の特命で参りました。こういう者です」
というと、ピンクの手帳を軽く掲げた。
赤ちゃん警察という文字と、桜のマークが見えた。
「突然ですが、あなたの赤ちゃんの能力を、国家の役に立ててください」
男は無表情で言った。私が助産師さんを呼ぼうとすると、
「院長の許可は得ています」
私は、不思議と恐怖はなく、ただ無性に腹がたった。
「どんな任務だか知らないけど、お引き取りください。大声だしますよ」
すると男は、冷たく光る目で「そんなことしたら」と言った。
「国家反逆罪ですよ」
あーあ。たぶんこれ、夢なんだ。
いや、マタニティブルー?それともドッキリ?
にぶい意識の反対側で、フルスピードで考える。
ただ、自分の本能の方が、もっと速かった。
傍にあったケータイやデジカメやペットボトルを
片っ端からその男めがけて投げつけ、
「ざけんなテメエ!」
と、男の目をチョキで突いたところまでは覚えている。
あとはまったく思い出せないが、気がつくと朝のまぶしい光があふれ、
助産師さんが明るく力強い笑顔で部屋に入ってきた。
どうせ誰に言っても、ホルモンの仕業だねえ。
と同情されるだけなので、黙っていた。
あれから、桜が咲くたびに、あのピンクの手帳を思い出す。
あれは何だったのか。あの男は本当にいたのか。
とっくに赤ちゃんじゃなくなったコドモは、10メートル先で飛び跳ねている。
夢だったのかどうか、じきにわかるだろう。
私は、予定日間近のはち切れそうなお腹を撫でながら、
満開のソメイヨシノを見上げた。
*出演者情報 西尾まり 03-5423-5904 シスカンパニー
