古居利康 2011年11月23日

丘の上の未来  

         ストーリー 古居利康
            出演 山田キヌヲ

その日の午後、市役所から届いた葉書は、
団地の抽選に当選したことを告げていた。
倍率4倍とか5倍とかで、どうせ当たるわけがない、
と、最初からあきらめ半分で申し込んだ抽選だった。

だけど当たったんだ。
へぇぇ、あんたよく当たったねぇ。
なんだかひとごとみたいにそう思った。

団地、だんち、ダンチ。なんてステキな響きだろう。
私鉄沿線の新しい駅。郊外の丘の上。
真っ白な鉄筋コンクリート、5階建て。
キッチンにはちいさな食堂がついていて、
ベランダだってある。

いつものように、明るいうちに息子と銭湯へ行く。
番台のおばさんに、団地のことをしゃべってしまう。
あっという間に広まるな。
おばさん、町内のスピーカーだから。
でもかまわない。ほんとのことなんだから。

清潔な一番湯はさいしょ少しちくちくするけど、
すぐにほんわりとからだを包み込む。
傾いた陽の光が、高い窓から斜めに射し込んでいる。
天気のいい日の夕方は、東の空に鈍く輝きはじめる
気の早い星が、窓の向こうに見えたりもする。
天国にいちばん近い場所って、もしかしてここ。
だけど、団地はお風呂付きなんだ。
引っ越したら、もう銭湯には来れなくなる。
ちょっと残念・・。

そんなふうに考えているじぶんは、
かなり矛盾していると思う。

 おとうさんとおかあさん、
 おひっこしするのよ。
 おへやがみっつもある、ひろぉーいおうち。
 ろくじょうひとまから、だっしゅつだ!

息子はお湯のなかでうつらうつらしている。
半開きの瞼の奥で、黒目がゆっくり裏返っていく。

今日はごちそうをつくろう。団地当選のお祝いだ。
そうそう、お赤飯も炊かなくちゃ。
夫の大好物でもあるし、お赤飯。

夜、風呂敷に包んだ分厚い書類の束を抱えて
会社から帰ってきた夫が、
卓袱台の上に並んだ料理に驚いた。
葉書を見せたら、短い叫び声をあげて
すでに寝ていた息子を抱えあげ、
いきなり頬ずりをした。
伸びかけの髭が痛かったのか、
息子がわーんと泣き出した。

翌日、お隣の奥さんにご挨拶にいく。
このひとは、いつも息子の面倒を見てくれる、
やさしいひと。じぶんのことのように喜んでくれた。
お別れするのは寂しいな。
というより、少し後ろめたい。
去年の夏、お隣のご主人は北の戦場で亡くなった。
さいごの戦いと呼ばれる、あの激戦のさなか、
ご主人は勇敢に戦って、二度と戻ることはなかった。
いまひとりでこの六畳一間のアパートに暮らす奥さん。
ほんとうに団地に入るべきなのは、
このひとの方ではないか。

その週の日曜日、3人で団地の建設予定地へ行った。
建物はもうほとんどできていた。
白いコンクリートの壁に、24という数字が見えた。
わたしたちの24号棟だ。
道はまだ砂利道だった。アスファルトを敷くのは、
最後の仕上げらしい。道の両側に側溝だけ掘ってあった。

何もない丘だった。草っ原にポンポンポンと、
四角い建物がとつぜんふってわいたように建っている。
真ん中に高い塔がある。給水塔なんだそうだ。
塔を取り囲むように公園ができていて、
こどもの遊具もたくさんある。
遊動円木。雲梯。鉄棒。ブランコ。シーソー。
みんな真新しくて色鮮やか。

24号棟の裏手から、草ぼうぼうの空き地がつづいていた。
少しくだりかけた丘の中腹あたりに、火が見えた。
煙がまっすぐきれいに空に立ちのぼっている。
さっきからけむいなと思っていたら、
あの焚き火のせいだったのか。

「あれは人間だな」
夫がぽつんとつぶやいた。
「え?」
「人間は火が好きだ」
 なにかを燃やすことに、情熱を燃やしてきた。
 クククッ」
「人間って、あの人間?
 手が2本しかない。目も2つしかない、
 しっぽも生えてない、」
「うん。脳味噌の容積が、
 われわれの10分の1もない、
 かわいそうな生きもの・・」

夫はそう言って、4本の手をぐるぐる回し、
体操のようなことをした。
息子が真似して、まだ短くてかわいらしい
4本の手をぐるぐる回している。
「たった2本の手で、彼らはよく戦ったよ。
 彼らは火をもっていたから。
 われわれの側の犠牲者も少なくなかった。
 だけどさいごは、その火でみずからを
 焼き尽くした」

犠牲者・・。
そのなかにお隣のご主人もいる。
奥さんはやっぱり団地に入ってはいけない。
あのごみごみした港町のかたすみの、
六畳一間のアパートで、平穏に暮らしてほしい。

「ねぇ。なぜあんなところに人間がいるの?」
「あそこは人間の保護区なんだ」
「団地のこんなすぐそばに?なんかこわいな」
「だいじょうぶ。彼らは人間のなかでも
 いちばん最初に降伏した種族だ。
 おとなしいし、友好的だ。それに・・」
「それに?」
「全員、去勢されている。
 いまいる人間が死んだら、それで、
 ジ・エンドだ」

団地に描いていた未来の夢が、
急速に色褪せていくような気がした。
陽が傾いて、西の空が赤くなっていた。
東の空で最初に輝きだす緑色の星に向かって、
息子のしっぽがもぞもぞ動いた。

わたしたちと同じ、緑色の顔をした、この子。
わたしたちと同じ、緑色の血が、流れてる。
黒光りするつぶらな3つの瞳に、
わたしは語りかける。
大きくなったら話してあげるね。
あの星のこと。この星のこと。
わたしたちの親たち。長く厳しい戦争。

丘の中腹の火はもう消えかかっているのか、
弱い煙が一本の線になって、
ゆっくり立ちのぼっている。

出演者情報:山田キヌヲ 03-5728-6966 株式会社ノックアウト所属

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八戸港と陸奥湊の朝市

八戸港と陸奥湊の朝市

           ストーリー 葛西洋介
              出演 山田キヌヲ

八戸港は、津波の痕を残していました。
港には津波で八戸港から流失し、
2週間後に宮城県の金華山沖で発見された
「第88濱善丸」が繋留されており
炎上したと思われる漁船も停泊したままになっていました。

津波で港周辺には多くの船が陸に乗り上げましたが、
多くはその場で解体・処分され
町並みはほぼ元どおりになっています。

その八戸港にほど近い陸奥湊の朝市は
午前3時から正午まで
およそ200から300の店が並びます。

びっくりするほど安くて新鮮な魚に蟹、イカタコ、貝。
よく見るとそんななかにひとり分のお刺身やお総菜が売られています。
これを買う。そして市場の食堂でご飯と味噌汁を買う。
あとはひたすら食べる、食べる。

食べもののエネルギー、
そして食べることのエネルギー

町が傷ついても、このパワーがある限り
青森は元気です。

八戸あさぐるhttp://www.hachinohe-cb.jp/asaguru/index.html

むつみなと.jphttp://acty-mutsuminato.jp/index.php


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ハナサケニッポン

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中山佐知子 2011年9月25日



7番めの空、或いは七つの大罪

           ストーリー 中山佐知子
              出演 山田キヌヲ

7番めの空を私は持っていたの。
7番めだけではなく1番も2番3番もあって
全部で七つの空だったわ。
でもいつからか私はいつも7番めの空を眺めるようになった。
あの空の扉を開いたら上には何があるのかなって
そんなことばかり考えるようになっていたのね。

七つの空はそれぞれが天使だったの。
或いは神さま?
ひとりでは生きていけなかった私を保護し
私を養い教育してくれた。
子供だった私は、
そのお礼にいつも空をピカピカに磨いておくって約束したの。

そのたったひとつの約束が窮屈に思えてきたのは
いつのころだったかしら。
空ときたら、ああ面倒くさいって思うだけでたちまち曇って
私の身勝手や怠慢を見せつけた。
ああ、もううんざり。
私は七つの空なんかなくても生きていける。
7番めの空のもっと先で気ままに暮らしたい。

ドレミファソラ
ピアノの鍵盤をたたくように
私は次々と空のふたを叩いて開けた。

1番めと2番めの空を開けたとき
私は自分のしていることがすっごく正しいと思った。
だっておかしいでしょ。
空は私に恩恵を与えるふりをして私を縛ろうとしているんだわ。
それって絶対におかしいでしょ。
いま思うと、
暑いから太陽はいらないってわめく子供みたいだったけど
そのときは本気でそう思っていたのよ。

3番めと4番めの空を開けたときは無気力になった。
無気力で何もやる気がしないくせに
他人のことが妙に気になって妬み深くなって
そんな自分に嫌気がさしてますます落ちこんだ。

なんとかしなくちゃ。
そう思って5番めと6番めの空を開けた。
私はチカラをもらったけれど欲深い人間になった。
自分が持っていないものをすべて欲しがったし
持っているものは誰にも分けようとしなかった。
飢えてる子供がいる国の話をきいても
親が戦争ばかりしてるからでしょ、なんて言い放っていた。

そして私は七番めの空と向き合った。
ドレミファソラの次の七番めの空。
その向こうに何があるかもうわかっている。
開けないでおくこともできるかもしれないけど
こうなってしまったら開けるしかないじゃない。
いまの私はもう自分ですらない
なにか嫌なものになってしまった気がするし
ソラの次にやってくるものを止めてくれる人もいない。

でも私思うんだけど、本当に不思議に思うんだけど
七つの空に守られて、
思えばたいして不自由もなく暮らしていた私に
空の扉を開けさせたのは誰なのかしら。
扉があることを教えたのは誰なのかしら。

ドレミファソラ….

出演者情報:山田キヌヲ 03-5728-6966 株式会社ノックアウト所属

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飛島の民宿



飛島の民宿
               ストーリー 菅野あゆみ(東北芸術工科大学)
                  出演 山田キヌヲ

山形県酒田市に所属する日本海に浮かぶ島「飛島」
私は美術部の春合宿で2 泊3 日
飛島の民宿にお邪魔しました

酒田湾から貨客船に揺られること約一時間と三十分
陸に上がった瞬間 磯の香りが漂い
空にはたくさんのウミネコたちが鳴いていて
島の雰囲気を盛り上げてくれます
周囲約10.2km 面積2.7km2、一日あればすべて回りきれる程の小さな島で
草木や海、古い建物や初めて見る漁船に興奮しながら
スケッチブックを片手にあっちへこっちへ
それはまるで探検でもしているかのようで
何が見えるだろう、何に出会えるだろう、という
未知の景色との遭遇に胸が躍ります

海が本当にマリンブルーの色をしていること
自然の葉っぱの色は絵具の緑の色では出せないこと
船がどんな構造になっているかということ
合宿で得たものは、学校の教室の中では
気づけなかったことばかりで
小さな島ではありますが、3 日間の滞在は
飛島の魅力を描くには短すぎる期間でした

都市のような便利さや、チェーン店のひとつもない
貴重な なにもない があるところ
それが、私が飛島を好きな理由です。    

飛島http://www.sakata-kankou.gr.jp/tobishima/tobishima.html

飛島で遊ぼうhttp://www.4071.net/tobishima/

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東北の旅館復興プロジェクト「種」http://save-ryokan.net/

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三坂知絵子さんと山田キヌヲさんの修学旅行

2011年9月の小山佳奈さんの原稿を読んでくれた
三坂知絵子さん(上の写真)は山口県出身だ。
三坂さんがちょうど読み終えたときに到着した
山田キヌヲさん(下の写真)は宮崎県出身だ。
ふたりは初対面だったので紹介し、ついでに出身地も付け加えた。
余計なひと言が盛り上がりのきっかけになることもあるものだ。

「わたし、修学旅行で宮崎にいきました〜」と、三坂さん。
「わたしも修学旅行で山口へいきました〜」は、山田さん。
山口県出身の三坂さんは修学旅行で宮崎へ行き
宮崎県出身の山田さんは修学旅行で山口へ行ったのだ。

三坂さんはアマテラスが隠れたという岩戸や
ニニギノミコトが降り立ったという高千穂で
神話な気分にひたったに違いないし
山田さんは秋吉台の鍾乳洞にもぐり、壇ノ浦で平家をしのび
萩の白壁の城下町を歩いて
お母さんに萩焼の湯飲みを買って帰ったかもしれない。

おまけにふたりの言うことを聞いてみると
山口県は九州の仲間になっており
「九州地方の天気」には山口県の天気も含まれるらしい。
山口県と宮崎県は九州新幹線の恩恵を受けていないことも共通している。

山田キヌヲさんが新幹線でまず大分まで行って
そこから宮崎にもどろうとすると
大分ー宮崎間が半日かかるのだという。

三坂知絵子さんの山口県では
維新をやったのは俺たちだから山口弁が標準語だ〜!
という認識だそうだ。

山口と宮崎にはまだまだ面白い話が隠れていそうな気がする(なかやま)

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岩崎俊一 2011年7月17日



空の庭
          ストーリー 岩崎俊一
             出演 山田キヌヲ

 ヨステビトみたいだよ、と従姉妹のみっちゃんから聞いた。小学
生になったばかりのモモに、その漢字は書けなかったけれど、初め
てその姿を見た時、なんとなくその意味がわかる気がした。モモ自
身は、外国の絵本に出てくる魔法使いのおばあさんのようだと思っ
た。
 それが、モモの祖母、空(ソラ)さんだった。
 とても小柄で、痩せていた。鼻は、日本人には珍しく、細くて高
く、色は白く、目は窪んでいた。踝まである長いスカートを穿き、
頭から肩までスッポリと隠れるストールを巻いていた。
 空さんの家は、いちばん近い小さな町からも車で一時間くらいか
かる山の中にあった。あの家の庭は、野球場の3倍あるからね、と
父に聞いていたが、空さんに案内されて歩いてみると、それどころ
じゃない気がした。
 空さんを訪ねる人は少ない。
 近隣に住宅は数えるほどしかない上、人づきあいが苦手な空さん
は、自宅に人を呼ぶことも稀で、自分の周辺には、2代目になるビ
ーグル犬と、立派な小屋まで持つ何羽かの鳩がいるばかりであった。
 だがモモは、会って数時間後には、空さんのことが大好きになっ
ていた。魔法使いみたいだと思った顔は、正面からちゃんと見ると、
驚くほどやさしかった。無口で、話す時もつぶやくようだし、声を
立てて笑うことは一度もないけれど、その言葉も、まなざしも、今
まで見たどんな人よりも柔和だった。
 なにより、空さんは、花と話せる人だった。
 空さんの広大な庭には、訪れる人が息をのみ、言葉をなくすほど
のたくさんの花が咲いている。その庭を、空さんは一歩一歩、ほん
とうにゆっくりと歩を進めながら、一輪一輪の花の顔をのぞいて行
く。その時モモは、まばゆい初夏の陽ざしの中で、風に揺れる花
々を見ながら確信した。
 「あ、この花たちは、空さんに声をかけられるのを待っている」
 そう感じた瞬間、モモのからだに電流が走った。
 そうなんだ。
 空さんは、さびしい人でも、世捨人でもなかった。ただ単に、人
とのつきあいが極端に少なかっただけである。私たちは、ともすれ
ばたくさんの人に囲まれて暮らすことが幸せなことだと思っている
けれど、それは偏った見方なのかもしれない。たくさんの人ではな
く、たくさんの生きものであっても、ちっともかまわないのだ。そ
こにだって歓びも、充実も、幸せもあるのだ。そう気づいたモモの
胸には、それまでに感じたことのない新鮮な風が吹き渡っていた。
 空さんの思い出で、モモには忘れられない言葉がある。
 「私も不器用だけど、動けず、話せない花たちも、とても不器用
だと思うの。だから、私と花たちは、不器用な生きもの同士で友だ
ちになれたのね」

 空さんの庭が、主(あるじ)を失って2年目の夏が来ようとしている。
 敷地は村に寄贈され、庭も管理人によって手入れされているらし
いが、あの夏空の下で、空さんが声をかけてくれるのを、今か今か
と待っていた花たちは、いまどんな思いをしているのだろう。ただ
それだけが気がかりなモモなのである。

出演者情報:山田キヌヲ 03-5728-6966 株式会社ノックアウト所属

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