ゲンジボタル

「ゲンジボタル」

        ストーリー 田村友洋(ともひろ)
           出演 地曵豪
       
ぼくは宮城県の天然記念物、ゲンジボタル。
生まれは岩手県との県境にある登米市(とめし)。
市の中心を流れる鱒渕川の浅瀬が僕らの町。

梅雨が明ける6月の終わり。
まだ蒸し暑さが残る夕暮れどきから、仕事に出かけます。
人生をかけた仕事、フィアンセ探し。
意中の相手に振り向いてもらえるよう、光で精一杯話しかけます。

実はこの光、地域によって光る周期が変わるのです。
光の方言とでもいいましょうか。
ぼくのいる東日本では4秒に1回、西日本では2秒に1回光ります。
西日本の方がおしゃべりな蛍が多いのかもしれませんね。

川辺に人が集まってきました。
天然記念物になっている僕たちにはサポーターがいて
僕たちが生きやすい環境を守ってくれています。
観光客がイタズラをしないようにパトロールをするのも
サポーターの皆さんです。
毎晩のように僕たちの数をかぞえ、全国に発信してくれます。
そして僕らにとってはプロポーズを見守ってくれる証人でもあります。

百数十匹の仲間たちが一斉に飛び始めました。
川面や茂みの上をふわりと光の曲線を描いています。
ぼくもゆっくりしていられません。
期限はおよそ1週間。
好みの蛍に出会えますように。

東北へ行こう。


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村は消えても

「村は消えても」
 
           ストーリー 矢谷暁
              出演 遠藤守哉

その日、村長は一夜にして市長になった。

岩手県 岩手郡 滝沢村。
盛岡市の北西にへばりつくように隣接し、
新幹線の停まる盛岡駅からわずか5キロの村だった。
2014年1月1日。
それまで「人口日本一の村」だったこの村は
地図上からその名を消す。
滝沢村から、滝沢市に昇格したためだ。

「ご注意ください。道路標識の変更は1万か所を超えています」
「お間違えなく。郵便番号は5種類から139種類に増えました」
しかし、そんな呼びかけも馬耳東風、
馬の耳に念仏とばかり聞き流す市民もいる。
いや、正しくは市民ではない。馬だ。

代々、馬と人々がともに生活してきた滝沢。
なにもかもが変わったが、変わらず続く行事もある。
「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」という祭りだ。

毎年6月の第2土曜日、蒼前(そうぜん)神社から盛岡八幡宮まで、
100頭を超える馬が、13キロの道のりを4時間かけて行進する。
馬たちは色とりどりの装束とたくさんの鈴で飾り付けられ、
歩くたびにその鈴が「チャグ、チャグ、チャグ」と音を立てる。

今年のチャグチャグ馬コは、6月14日。
練り歩く道路では、標識がいたる所で変更されている。
人々にとっては大きな変化だったが、
馬たちの目にはちょっと新しい景色に映るぐらいで、
いつものようにのんびり道を行くことだろう。

晴れれば祭り見物には半袖が気持ちいい。
村から市へその名を変えても
人と馬が変わらず寄り添い続けるこの地に、
もうすぐ夏がやってくる。

東北へ行こう。

 

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光る塩辛

光る塩辛

       ストーリー 沢辺香(さわべかおり)
          出演 平間美貴

近所のスーパーに
めっぽう美味しいイカの塩辛がありまして、
見かけるたびに買っていました。

小さめのビンに「いかの塩辛 無添加」という
名前と材料をそっけなく記しただけのラベルが巻いてあり、
プラスチックの蓋をぽん、と開けると
口一杯までワタの肌色です。
新鮮な半透明の身が甘苦いワタにからんで
くたりとしているところをつまみ出しては、
冷酒のあてやお茶漬けにして
いつも幸せな気持ちで食べました。

東日本有数の、三陸の漁港には、
トロール漁法で揚がったスルメイカがあふれ、
太った胴体が朝日でぴかぴか光るそうです。
売り場にいつもあるわけではないのは、
「いいイカが獲れた時に百本だけ作るから」
とのことでした。

その塩辛を、あの日から見なくなりました。

ですが先日、
台所の奥からあのビンが出てきて、
以前は見過ごしていた文字が目に入ったのです。
「石巻漁港 謹製」。
そうです、あの塩辛は
石巻の心意気から生まれた塩辛でした。

石巻はいま、
地元のひとの努力で、港にも活気が戻りつつあるとききます。
私は久しぶりにぴかぴかの塩辛が食べたくなりました。

だから近く、石巻へ行ってこようと思うのです。

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蔦温泉

蔦温泉

       ストーリー 堀内有為子(ほりうちゆいこ)
          出演 内田慈

青森駅から十和田湖へ走るバスを奥入瀬で途中下車して
蔦温泉に立ち寄った。
次のバスは2時間後だが急ぐ旅でもない。

蔦温泉は
十和田樹海とよばれる樹齢数百年のブナ林にひっそりと佇む。

およそ千年前に開かれたという源泉かけ流しのお湯は、
無色透明でやわらかく
からだ中のコリがほぐれて、溶けだしていくように思えた。

湯から上がり、宿の前のベンチで
風にあたりながら心地よさを反芻していると、
手持無沙汰に見えたのか、
宿のご主人が自慢の散歩道を教えてくれた。

それは宿を囲む森を
いくつもの沼をめぐりながら歩く散歩道で
キラキラと木漏れ日が降りそそぎ
まるでモネの絵の中にいるようだった。

奥入瀬に来るたびに新しい散歩道が増える。
来てよかった!と感動をくれる場所は、
案外目指していた場所ではなく、
出かけた先で迷い込んだり、教えられたりした場所が多い。
奥入瀬という、地図の中の小さなスペースが、
いま私の中でグングン大きくなっていく。


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十五の夏

十五の夏

     文:伊藤健一郎
     声:地曵豪

はじめて一人で旅に出たのは、十五の夏だった。
高校一年の夏。

中学まで部活一筋だった僕は、入学早々、肩を壊した。
過度なトレーニングのせいで。

情熱のやり場がわからなくて、
時間だけが途方もなく広がっていて、
どうしようもなく怖かった。

放課後、部活に向かう仲間たちを見ると、
何もせずに帰るのが悔しくて、夜になるまで寄り道をした。

もうすぐ夏休みのある日、
本屋で時間を潰していると、一枚の写真に目がとまった。

石割桜。
盛岡に植わるその桜は、巨大な花崗岩を割って咲く。
いつかの小説の舞台が、そこにあった。

すぐに準備をしたのを覚えている。
荷物はシンプル。着替えを詰めたザックがひとつ。
18きっぷを購入した。

夏休みに入るや否や、盛岡へ。
実家のある浜松からは、鈍行で丸二日かかった。

ようやく辿り着いた場所。
真夏の桜に、花が咲いてるはずはなかった。
桜の前に腰を下ろし、持ってきた小説を開く。
浅田次郎「壬生義士伝」にはこんな文章がある。

盛岡の桜は、石ば割って咲ぐ。盛岡の辛夷は、北さ向いて咲ぐ。
んだば、おぬしらもぬくぬくと春ば来るのを待ってるではねえぞ。
春に先駆け、世にも人にも先駆けで、あっぱれな花こば咲かせてみよ。

はじめて一人で旅に出たのは、十五の夏だった。

あれから、いろんな土地を訪ねたけれど。
「旅」という言葉で思い出すのは、
青々とした葉を揺らす、あの日の石割桜だ。

東北へ行こう。


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壬生義士伝:http://www.odette.or.jp/?page_id=1866

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歩いて 食べて 眠って 見つめる

歩いて 食べて 眠って 見つめる

      ストーリー 小泉遥果(東北芸術工科大学)
         出演 井上加奈子

明日晴れたら、月山を登ろう。
山道を彩る木や草。すれ違う人との会話。
近くから、遠くから聞こえる鳥の声。
山頂から見える空の高さ、町の暮らし。

雨が降ったら、
露天温泉に入ろう。
冷たい雨を受け止めて、ぽかぽかの温泉に浸かるなんて、
そうめったにできない。

雪が降ったら、手打ち蕎麦を食べよう。
ふうふうしながら、温かいそばを食べる。
どのお店に行っても、一番さいしょの“お通し”では、
自慢のツケモノがきっとでてくる。

晴れでも、雨でも、雪でも、
人気のナイ夜道を鼻歌まじりで帰ろう。
どの道にも川が流れているから、さみしくなんてない。

山のカタチをなぞるようにして、
歩いて 食べて 眠って 見つめる。
大きな自然を、体中で感じよう。

山形へ、東北へ行こう。

旅*東北http://www.tohokukanko.jp/

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