星の王子さまのキツネと齋藤陽介くん

2018年3月24日のお昼過ぎ、芝居の稽古中の齋藤陽介くんが
岩田純平くんの原稿を読みにきてくれました。
齋藤くんは芝居の稽古中です。演目は「星の王子さま」。
私はあのお話の中のキツネのくだりが大好きです…という話をすると
「僕、キツネの役なんです」と齋藤くんが言いました。
まじっすか?

さっそくその芝居のHPを見てみたら、あちこちにキツネの絵が、
なんかかわいいぞ。困ったなあ ⬇︎

キツネからのお礼つきの席というのも気になりますよね。
芝居の詳細はこちらで見られます。
https://mopiproject.jimdo.com/lepetitprince/
いっぺんのぞいてみてくださいね (なかやま)

あ、齋藤くんからチケットを買いたい人はこちらからのようです。
http://ticket.corich.jp/apply/89768/015/


Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

いわたじゅんぺい 2017年6月4日「かんな 2017夏」

1706iwata

かんな 2017夏

     ストーリー いわたじゅんぺい
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは
もうすぐ2歳になる。
カレンダーには
盛大な誕生日の印が付いている。

もう喋る。よく喋る。
何を言っているか
わからないことは多いが、
ずっと一人で喋っている。
ひとしきり喋ったあと、
「ね、ぱーぱ」
と同意を求めてくる。
女子なのだ。

最近覚えた言葉は「待ってて」。
「まーてーて」と発音する。
今までおおむね何でも
素直に言うことを
聞いてくれていたのに、
「まーてーて」を覚えたことで、
何を提案しても「まーてーて」と
返されるのでらちがあかない。

「これ食べようね」
「まーてーて」
「靴履こうね」
「まーてーて」
「うんち替えようね」
「まーてーて」

うんちをすると、
「んちでた」と
教えてくれる。
最近は出す前に「んち」と
うんちをすることを教えてくれる。
トイレに連れて行くと、
トイレの便座に手を置き、
反省する猿のような体勢で
「んち」をする。
幼児用便座に座ってはくれない。
きばっている姿を見ていると、
「みないで」と言って怒る。
女子なのだ。

さらに最近は
「んちでた」と言いながら
自分でズボンを脱ぐようになった。
一度そのままオムツまで
脱がれてしまい、
ころころした「んち」が
トイレや廊下に転がった。
かんなはうれしそうに
うんちを指差して
「んーち、んーち」と教えてくれた。

「ぱぱ、まま」を除けば、
かんなが最初に覚えた言葉は
「ばいばい」だった。
長男は「ぶーぶ」だった。
女子はやっぱり
コミュニケーションの
生き物なんだなあ、
と思ったものだ。
「はいどーぞ」
という言葉を覚えるのも早かった。
何かをあげる時、
「はいどーぞ」
と言って渡していたから
自然と覚えたのだろう。

抱っこして欲しい時も、
「だっこ」とは言わず、
両手を差し出しながら
上目遣いでこちらを見て
「はいどーぞ」と言う。

そんなこと言われたら、
どんなに疲れていても、
たとえかんながうんちまみれでも、
「はいどーも」と言って
喜んで抱っこしてしまう。

将来かんなに好きな人ができて、
彼にはその気が無かったとしても、
上目遣いで「はいどーぞ」
とか言われたら
誰だって抱いてしまうだろう。
危険な技を
生まれながらにして
身につけている。
それが女子なのだ。

どうでもいいことだが、
パソコンでこの原稿を書いている時、
「うんち」と入力すると、
「うんち」の下に赤い波線が引かれる。
うんちとか書いちゃってるけど
あんた大丈夫?と言わんばかりに。
パソコンにたしなめられながら、
パパはこの原稿を書き上げたのだよ。

かんな。
いつかきっとパパの名前を検索して
この原稿を読むことになるだろう。

しめきりが今日だったんだ。
ごめん。
かんなのうんちの話で
パパは何とか今日を乗り切ったよ。

かんな。
ありがとう。

かんな。
愛してるよ。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

Tagged: , , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

張間純一 2017年5月14日

harima1705

ぼたん

    ストーリー 張間純一
       出演 齋藤陽介

時は寛宝、まだ東京を江戸と申しました頃、
牛込の町に幽霊が出る、という噂があった。
年は十七八、色あくまで白く、佇まいはどこかのお武家のお嬢樣。
こざっぱりとした年増の女中が灯篭をかざしてそのお嬢樣に付き添い歩く、
その灯篭に描かれた牡丹の花の見事なこと。
しとしとと小雨の降る夜に、どこからともなく現れて、どこへともなく消えていく。
そして朝になると、付近の若い独り身の男が必ずひとり息絶えているんだとか。
布団の中には首を噛まれて事切れた男と寄り添うように、
若い女の細い骨と無数の牡丹の花が美しく散らばっている。
噛み跡に残ったお歯黒、お骨の白、牡丹の赤が合わさって
現場はたいそう風情だったそうで。
死んだ男の数は両手で足りず、いつどこへ現れるかもわからないというので
噂の立ち始めた二十年前ほどから夜になると表通りには人っ子ひとり出歩かない。

そんな牛込の町に男が引っ越してきた。
その男が若くて独り身だっていうんで
近所の世話好きが、あくまで噂だけどもと断りながら話をしてやった。
「どうも今晩は小雨模様らしいから、
 牡丹の灯篭を提げた二人連れの女の幽霊に気をつけた方がいい。」
「ぼたんの灯篭。そりゃ面白い。」
「面白いことがあるか。取り憑かれて噛み殺されて死んじまうんだから。」
「わかった。気をつける。」
「牡丹の灯篭な。」
「ぼたんの灯篭か。」

さてその晩も幽霊は現れた。
といっても、目抜き通りの遠くに
ぼうっと灯篭の明かりを見た者がいるっていうだけで
だれも怖がって近くで確かめちゃいなかった。
さあ、夜が明けたら町中がざわざわと、若い男の家めぐり。
こっちは生きている。あっちも元気だ。
全員の居所を確かめたところ、不思議とみんな死んでいない。
さては誰かの聞き間違い、見間違い。

幽霊の正体みたり、枯れ尾花。

「昨日も幽霊が出たらしいんだ。」
「なんと、昨日もですかい。」
「ところが誰も死んじゃいねえってんだ。」
「そりゃめでてえ。」
「めでてえのかどうか。とにかく、一安心だが、
 昨日は見間違いで次は本物ってこともあるから
 気をつけた方がいい。」
「気をつけやす。
 ・・・ところで、昨晩奇妙な来客がありましてね・・・

二人連れの女でした。
若えのと年増のと。
へえ。
若えのの色は透き通るように白かった。
なんせ背中のローソクが透けて見えてたから。
戸がガラガラっと開いて、あっという間に部屋に上がり込んできやがった。
履物?
履いてなかったはずはねえが、脱いだようには見えなかったな。
そういや土間に濡れた足跡がなかったな。
で、気がついたら目の前に座ってやがった。
由緒あるお武家のお嬢樣だが、家に居づらい事情ができたとかで
別宅で蟄居してたとき、ふと訪ねてきた若え男をふと好いてしまった。
それからしばらく会うことがないうちに、恋煩いはひどくなるばかり。
恋に焦がれて身を焦がされて、会えねえことに死ぬほどの苦しみを、
ええ、死ぬほどって言ってました、苦しみだったとか。
好きが転じて憎しみにってんで、男の居所を探す毎日。
毎晩女中と連れ立って探したが、ようやく見つけたときには
男はその店子だった強欲な夫婦に殺されちまってた。
それが、二十年ほど前のことだってんで。
ええ。
年は十七八に見えやした。
それで代わりになる若え男を探して小雨の降る夜に町を歩くんですっていいながら
スーーーッと手を俺の胸元に伸ばしてくる。
スラリとして白魚みてえな綺麗な指が俺の喉元にかかった、、
へえ。
びっくりしやしたよ。
ええ。なんせ、ボタンの外し方を知らねえんですから。
ええ。最近流行りの洋服ってやつを着ておりましてね。
で、無理やり引っ張ったもんだからボタンが取れて落ちやがった。
ア!ボタンが落ちたって俺がつい叫んだ次の瞬間、消えやがりまして。
ええ。
え?
灯篭?
持ってましたよ。
綺麗な赤え花が描いてあったな。 
ありゃ何て花です?
牡丹ってんですか?
牡丹の灯篭。
なるほど。
てっきりこっちの洋服ボタンかと思ってました。
ボタンの灯篭。

ああ、そりゃ噛み殺されなかったわけだ。
ぼたんの掛け違いで、噛み合わねえ。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

川野康之 2017年3月12日

kawano1703

あるカゲロウの最後

ストーリー 川野康之
   出演 齋藤陽介

以前はもっと力強く泳げたものだ。
腕と脚は長くたくましく、ぐいぐいと身体を進めることができた。
褐色のかたい体で、水の抵抗をかわし、あるいは利用して、
魚にも負けないぐらいのスピードで泳いだ。
流れの中でも地面をしっかりとつかんで立つことができた。
石から石へと渡り、岩肌を覆う藻を鋭い口ではがして食った。
甘い汁が口の中いっぱいにひろがった。

世界は素晴らしい。
毎日新しい水が生まれて、流れてくる。
その水をプリズムのように通って降ってくる光は、
色も強さも季節とともに変化する。
一日たりと同じ日はないのだ。
たまに葉っぱや花びらが流れてくると、俺たちは歓声をあげて、
それにつかまり、いっしょに川を下ったものだ。
水は、ときには氷のように冷たいことも、ときには荒れ狂うこともあった。
そういうときはじっと石の下にいて息をひそめた。
流されていった仲間のことをときどき考えるが、すぐに忘れてしまう。
生きるとは、今目の前にある水を楽しむことだ。
明日は明日の水が来る。
毎日生まれ変わる水の中で、俺は生きることを楽しんだ。
脱皮を重ねるごとに、俺の体は大きくなり、たくましくなっていった。

それが今はどうだ。
俺の手脚の力は衰えた。
前のように水を掴んで速く泳ぐことができなくなった。
襲ってくる魚に何度もつかまりそうになる。
今日も危ないところだった。
恐怖。
それが俺を支配している。
がたがた震えて石の下にしがみついているしかない臆病者、それが俺だ。
川底からそっと上をうかがう。
キラキラと降ってくる光の、そのすぐ下を、
鋭い歯を剥き出したイワナどもが腹を見せて泳いでいる。
この川の中でいちばん弱いものが俺なのだ。
魚に食われて死んだ仲間のことを思う。
明日は俺が食われるかもしれない。
俺は、動けない。
俺は歳をとってしまったのだ。

俺は長く生きた。
そろそろ終わりが近づいてきたのかもしれない。
俺も、上へ行くのだ。
そう思うと、武者震いがした。
いままで多くの仲間が水を出て上へ行ってしまったのを知っていた。
今度は俺の番なのだ。
だんだん体がこわばってくるのがわかった。
いよいよ近づいてきたのだと思う。

俺は勇気を出して石の下から出て、岩肌を這い登った。
水面からさらに上へと登った。
そこで体が動かなくなった。
目を閉じて、来る時を待った。

目を開けて、俺は驚いた。
俺の体が変わってしまっていた。
胴が痩せて細くなり、尻尾が長く伸びて、糸のような頼りない形になっていた。
顔からは口がなくなっていた。
もう何も食えないということか。

心細さと絶望で泣きだしたくなったとき、
俺の中に今まで経験したことのない衝動が生まれるのを感じた。
それはもっと上へ登りたいという衝動だった。
でもどうやって?
気がついたら、ふわっと体が浮いていた。
足が地を離れ、住み慣れた小川が下の方にあった。
俺は空を飛んでいるのだ。

まわりを見ると、あちこちから俺と同じような細い体が、
背中の薄い羽をふるわせて、空中に登ってきていた。
無数の仲間が飛び立ってきて、空を満たした。
みんなわんわんと狂ったように飛んでいる。
その中の一つに俺は引き寄せられた。
そいつは俺にぶつかってきた。
俺たちは何度もぶつかりあいながらわんわんと空を舞った。
俺は細い腕を伸ばして、そいつの体をつかんだ。
俺の腹の真ん中が熱くなった。
それはものすごい力だった。
腹の火が一気に燃え上がった。
俺は、たぶんそいつの柔らかい体を引き裂いた。
甘い汁が口の中いっぱいに広がった。
俺にはもう口がないので、それは幻覚だったかもしれない。

それが最後だった。
世界は素晴らしい。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

齋藤陽介くんは喫煙仲間(2017年3月の収録記2)

saito

写真はタバコを吸っている齋藤陽介くんです。
齋藤陽介くんは喫煙仲間です。
私はヘビースモーカーなので喫煙仲間は大歓迎です。

昔は吸っていた人がどんどん禁煙していくので
寂しい限りですが
齋藤くんにはいつまでもどこまでも頑張っていただきたいです。

さて、齋藤くんに今回読んでいただいたのは
川野康之さんの「あるカゲロウの最後」という原稿です。
http://www.01-radio.com/tcs/archives/29116
読んだときにナレーターは若くてうまい人がいいなと思って
齋藤くんに声をかけました。
たいへん面白い原稿をイッキに読んでくれまして、いい出来栄えです。

さて、ところでなんですが
齋藤くん出演の芝居が4月11日から始まります。
齋藤くんの役はファイロ・ヴァンスという探偵。
ファンの方はお気づきでしょうけれども
ヴァン・ダインの推理小説を下敷きにしています。
詳細は下記URLで見られますので、覗いてみてくださいね。

「グリーン・マーダー・ケース」
http://monophonicorchestra.com/next

1487726634861-212x300

Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

田中真輝 2016年12月4日

tanaka1612

流星群

    ストーリー 田中真輝
      出演 齋藤陽介

中学生の頃、僕は夜遊びばかりしていた。
といっても、住んでいたのはドがつく田舎。家の周り
にあるのは、田んぼと畦道。あと、墓と寺。
近所にはコンビニなんかなくて、
夜遅くまで開いているのは、小さな酒屋兼立ち飲み屋か、
しょぼくれたスナックしかなかった。
そんな最果ての地でできる夜遊びといえば、もう、ただぶらぶらと
歩くだけのこと。心細い街灯を頼りに、毎晩農道を一人で歩いた。
時々その小さな酒屋でアイスや缶コーヒーを買い食いした。
別にぐれていたわけではないから、タバコを吸ったり、
酒を飲んだりはしなかった。
どちらかというと、優等生だった。
波風立てずに、そこそこの成績を収め、そこそこクラブ活動に
励み、そこそこみんなと仲良くしていた。
そして、そんな自分が心底嫌いだった。
一人で部屋にいると、底なしの穴に落ちていく気がした。
だから、夜な夜な農道を歩いた。そこそこ歩いたら、
盗んだバイクで走り出したりせず、折り返してまっすぐ
家に帰った。結局のところ、逸脱だってそこそこだった。

ある冬の夜、いつものように夜道を歩いていたら、
上の方から僕の名前を呼ぶ声がした。
田舎の夜空は星が多くて明るい。その明るい夜空を背景に、
黒々と建つ一軒家の屋根のあたりで、誰かが手を振っていた。
僕は、それが新井であることを、声とシルエットから察した。
新井は東京から来た転校生で、抜群のイケメンだった。
成績も申し分なく、スポーツもでき、愛想もよかったので、
新しい環境に瞬く間に馴染み、いわゆる人気者になった。
僕はそれを、違う星から来た異星人を眺めるように見ていた。
星を背負った異星人の新井は、綺麗な標準語で、
上がってこいよ、と言った。
彼の家には大きなベランダがあって、そこには外付けの階段で
上がることができた。
僕は素直に彼の言葉に従った。
田舎には何もないけれど、何の役にも立たない星だけは腐るほどある。
新井はそんな、バカみたいな夜空を見上げながら、
今日は流星群の日なんだぜ、と言った。
ほら、と新井が見上げる視線の先を追いかけると
何かが視界の端っこで走る感覚があった。
と、思う間に、また視界のやや外れを星が流れた。
素晴らしいスピードで。
空を埋め尽くす星の間を、カミソリで切り裂くように
いくつもいくつも星が流れた。
星の光が、夜空を何度も何度も切りつけているように見えた。
二人とも、長い間そうして夜空を見ていた。
二人とも、何も言わなかった。
何十という流れ星を黙って見送ったあと、
新井が「俺、いつ死んでもいいなあ」と言った。
唐突な言葉には聞こえなかった。
その時、その場に、とてもしっくりくる言葉だと
思った。そこにあったすべてを丸めて放り込んだ
ような言葉だと思った。
だから僕は、「わかるよ」と答えた。
そうしたら、新井はこう言った。
「お前なんかに、俺の気持ちがわかるか」

それ以降も、新井はクラスの人気者だったし、僕にも
これまで通り、何もなかったように普通に接した。
今まで通り、愛想のいい、素敵な転校生。
あの日を境に、変わったことなど何一つなかった。
そこそこの浮き沈みを繰り返しながら、毎日は
淡々と過ぎていき、そうこうしてる間に、新井は
別の場所に引っ越していった。
みんな少し残念がり、そして忘れた。

今でも、流星群がやってくると聞くと、新井のことを
思い出す。そしてその思い出は、
心の奥の方にある、暗い場所をカミソリのように、
さっと切り裂いて、消える。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ