寒いからこそ



出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

寒いからこそ

     ストーリー 土屋里紗(東北芸術工科大学)
        出演 大川泰樹

全てが雪にこんもりと覆われてしまった夜を
見たことがありますか。
真っ白な雪は光を反射し、音という音を吸収します。
それはそれは寒い夜ですから、外に出ているのは自分だけ。
月の光でぼうっと光る雪と、永遠に続くような静寂のなかに
ぽつんと、自分がたったひとり。

恐ろしいほどの孤独のなかで
あなたがさがすのは
暖かくてにぎやかな、自分の「帰る場所」
いつのまにか忘れてしまったその価値を、
いつのまにか慣れきってしまったその優しさを、
思い出すはずです。

ぶるぶる、さあ帰ろう。

その場所はどこですか。
待っていてくれるその人は誰ですか。

寒いからこそ、東北へ。
幻想のような夜が、きっとあなたを待っています。

東北へ行こう

muhyou

*「東北へ行こう」は
自分のとっておきの東北を紹介し、あなたを東北におさそいする企画です
上下の写真やバナー、リンクもクリックしてみてください

東北の温泉ガイド:http://onsen.arukikata.co.jp/202/

東北温泉かけ流しガイド:http://www.onsen-shinsengumi.com/tohoku.html

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中山佐知子 2014年12月28日

1412nakayama

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川泰樹

わずか40kmの距離に七つの駅がある。
そのうち3つは盆地にあり
残る4つは吾妻連峰の山中にあった。
山の4つの駅は峠を隔ててふた駅づつに分かれ
それぞれがスイッチバックの駅だった。
列車はその区間を
冬は豪雪と戦いながら
息を切らせてジグザグに登った。

赤岩、板谷、峠、大沢。
大沢、峠、板谷、赤岩。

赤岩には集落があった。
板谷と大沢には宿場があった。
峠には何もない。
峠という駅は、息を切らせた機関車に
石炭と水を補給するだけの駅だった。
近くに人の住む家もなく
列車が止まっても、乗る人も降りる人もいない。
駅の名前すら、単なる「峠」としかつけてもらえなかった。

峠を越える列車はよく止まった。
線路にちょっと雪や落葉がかぶると
車輪が空まわりして動かなくなってしまうのだ。
そのたびに落葉を掃き、砂をまいた。
日本の鉄道最大の難所に、時刻表はないも同然だった。

列車が「峠」の駅に着く。
駅のそばには茶屋ができて、
乗客は茶屋が売る餅を食べ、
ホームの水飲み場で顔を洗った。
その茶屋の女将さんは、線路に雪が積もると
スコップを持って除雪に駆けつけた。
雪はソリに乗せて何度も何度も運び出した。

そんな雪の季節に列車で峠を通過する人は
線路に燃える小さな炎を見ることがあっただろう。
それは、凍った雪で列車が脱線しないように
ブリキの弁当箱で石油を燃やす火だった。
駅員は24時間交代でその火を守った。
駅員の家族も、峠に住むようになり
雪で動けなくなった列車の乗客に炊き出しをした。

峠の駅はいまも存在する。
この駅に止まる列車よりも
通過する新幹線の方が多い無人駅になり
駅員も駅員の家族もいなくなってしまったが
あれだけ苦労して列車を走らせたスイッチバックが
鉄道遺産になって
峠の茶屋も営業をつづけている。

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中山佐知子 2014年11月30日

1411nakayama

北へ飛んでもろくなことはない

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川泰樹

北西の風が吹き始めると北からの伝言が届く。
「北へ飛んでもろくなことはない…」

去年も同じだった。その前も、その前の前の年もだ。
6本の足と4枚の羽を持つきみたちの祖先が
この星に登場したのは3億年ばかり昔のことで
200万年前にはだいたい今の姿になったはずだ。

たぶんそのころからだろう。
北の風は、毎年同じ伝言を運んでいるだろう。
北へ飛んでもろくなことはない…

もともときみたちは
あたたかい土地でないと生きられない南の蝶だ。
なのに、伊豆半島で春に生まれた仲間も
房総半島の仲間も
どうして北へ向かって飛ばずにはいられないのだろう。

春、ふるさとを追われるように旅に出る蝶は
躰はオトナだが未成熟な蝶だ。
旅の途中で一人前になり、たくさんの子孫をつくり
親子ともども北へ飛んでいく。
奥羽山脈を越えて日本海にも出るし
津軽海峡だって渡る。

そうして夏の間旅をつづけたきみたちは
秋になると、日本各地のどこにでもいる見慣れた蝶、
ウラナミシジミとしてみんなに認識される。

それから冬がやってくる。
冬は絶滅の季節だ。
霜が降りるころになると
ふるさとを出て北へ飛んだきみたちは一匹残らず死んでしまう。
卵もサナギも成虫も、寒さは容赦なくきみたちを殺すのだ。

何万年かかっても、きみたちは
冬を生きて越えるカラダのしくみを手に入れることができない。
なのに、なぜ、きみたちは北へ飛ばずにはいられないのだろう。

北西の風が
今年も死んでいった仲間からの伝言を運んでくる。
「北へ飛んでもろくなことはない…」

伝言は、暖かいふるさとに残って
冬を生き延びたわずかな仲間が受け取るだろう。
そしてまた春が来ると
きみたちの新しい仲間が、絶滅をめざして北へ飛ぶだろう。

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中山佐知子 2014年9月28日

nakayama1409

悪徳業者

        ストーリー 中山佐知子
           出演 大川泰樹

悪徳業者として歴史に名を残したひとりに
ステファン・ゴールドナーがある。

1845年、ジョン・フランクリンを隊長とする北極探検隊が
イギリス海軍の軍艦2隻で出発した。
船には100人を超える乗組員の3年分の食料が積み込まれ、
図書室には1200冊の本があった。
銀の食器、クリスタルのデキャンタ、暖房完備の居住区。
優雅な船旅が約束されているかに見えた。

探検の目的は北極海の航路発見だった。
謂わば氷に閉ざされた海と地図にない多くの島々の隙間をさがして
船が行き交うことのできる航路を地図に載せることが
探検隊の使命だったのである。
誰もが、どこへ進めば生きて帰れるのかさえわかっていなかったが、
国を挙げてのプロジェクトに間違いはなかった。

それから、ひとつの裏切りが発見された。
3年分の食料のうち、およそ半分が
ステファン・ゴールドナーが納入した特許製法の缶詰だったが、
実は缶の内部のはんだ付けがきわめて雑にされており、
鉛が溶け出して有毒の食料になっていたのだ。
隊員は探検の初期から鉛中毒で精神と肉体を病むことになった。
はじめは貧血や食欲の低下、
それから脳障害、末梢神経障害、痙攣、幻覚。
さらに缶詰8000個のうち1000個の中身は
オガクズや小石、腐った肉だった。

出発から2年、
探検隊はすでに行方不明といってもいい状況だったが
3年分の食料を積み込んでいたという判断で
イギリス海軍は捜索隊の派遣を見送った。

遺体や遺品の発見によって
探検隊の消息が少しづつわかってきたのは
1850年以降だった。
二隻の船は氷に閉じ込められ手動けなくなり、
乗組員らは船を捨てて
徒歩で南へ向かった痕跡があった。

1859年の夏、キングウイリアム島で
探検隊のメモや遺品、そしていくつかの遺体が見つかり
彼らの終焉の場所が判明した。
探検隊の生き残りは氷の海を歩き、
陸地にたどり着いたところで力尽きたらしかった。
一部の遺体は切断され、食べられた痕跡があったが
食料になった遺体からさえも
ステファン・ゴールドナーの特許製法の缶詰から溶け出た鉛が
検出されたようだった。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/ 

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秋は GAMAROCK

秋はGAMAROCK。

     ストーリー 大友美友紀
        出演 大川泰樹

ガマは、塩竈のガマです。
塩竈は、宮城県にあります。
仙台から電車で30分ほどの港町です。
人口に対するお寿司屋さんの数が
日本でいちばん多いんだそうです。
笹かまぼこなど、ねりものでも有名です。

その塩竈で開催される野外フェスが、
GAMAROCKです。

ミュージックとアートとフードを通して、
たくさんの人に塩竈の魅力を伝えて、
塩竈を元気にするイベントです。
2012年と2013年に開催されました。

主催者は、写真家の平間至さん。
平間さんは、塩竈の写真館の息子さんなんです。
タワーレコードのNO MUSIC , NO LIFEの写真を
撮っている人、といったらおわかりになるでしょうか。
それと平間さんの思いに賛同した
Dragon AshのATSUSHIさん。
出演者は、宮城、塩竈にゆかりある人と、
やはり、その思いに賛同した人たち。

ことしも、秋に開催するそうです。

夏のほとぼりが覚めた頃、東北で開催されるフェス。
いい感じです。

GAMAROCKのサイトもぜひご覧ください。
http://gamarock.net/ 

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中山佐知子 2014年8月31日

nakayama1408

おまえ、まだいたのか。

        ストーリー 中山佐知子
           出演 大川泰樹

Twitterで検索をかけていると
いないと思っていた顔と名前が画面に出てくることがある。
なんだ、おまえ。まだいたのか。

プロフィールのアイコンは、写真のかわりに似顔絵で
特徴が意地悪なくらいデフォルメされている。

おまえ、まだいたのか。何してんだよ。

とぼけた顔に向かって、声を出さずに話しかける。

 何もしてねえよ、いるだけだよ。

あいつが言いそうな言葉がすらすら出てくる。
ひとり漫才か、これは。

で、元気だったか。
 元気なわけねえだろ、俺はもう死んでんだぜ。

3年前に葬式に出た。
ご両親がつらそうだった。

死んでんならそんな顔で出て来んなよ。
 悪かったな、この顔は死んでも直らねえよ。

いや、だから、そうじゃなくてさ。
 だから、死んじゃってんだから。削除できねえんだよ。

たまにこういうことがある。
本人はとっくにいなくなって、アカウントが取り残される。
3年前のリアルタイムが凍結されている。
死ぬ前の何ヶ月かは病院にいて
発信するニュースが乏しかったのだろう。
誰かのTweetに対する受け答えが多い。

「ありがとうごぜえますだおかだ」
「コモンセンスのない顧問だね」
「中国へ行ってる人に忠告したよ」

おまえさ、これ持ってとっとと成仏しろ。
 これって何だよ。
おまえの恥ずかしいダジャレまみれのTwitterだよ。
 おまえ、知らないの? 
 Twitterを成仏させるのは自分が成仏するよりむづかしいんだぜ。
なんでだよ。
 だってさ、死んだとたん煩わしいこと全部忘れちゃうだろ。
 パスワードとか。

あいつが考えそうなパスワードはいくつか思いつく。
ためしてみるか?削除してみるか?
しかし、なんでそんな責任を引き受けないといけないんだ?
Twitterのアイコンが、そうだよな、と、
ノーテンキにわらっている。

あいつのTwitterは、
「三陸に仕事をプロジェクト」のリツイートで終わっている。
3年前の夏がそこにある。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/ 

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