薄景子 12年7月8日放送

2012 年 7 月 5 日



1. 冒険の話 シルヴァスタイン

絵本作家、シルヴァスタイン。
彼の代表作でもある
「ぼくをさがしに」という絵本には、
足りないかけらを探して歩く、ぼくの冒険が描かれる。

自分は何がしたいのか。
ほしいものは何なのか。

やっと何かを見つけても、
また違うものを求めてしまうのは、
まるで人生のそのもの。

絵本の中表紙には、

だめな人とだめでない人のために

という献辞が書かれている。



2. 冒険の話 柳田國男

本を読むということは、大抵の場合において冒険である。
だから又、冒険の魅力がある。

こう語ったのは、
日本民俗学の祖として知られる柳田國男。
彼は子どもの頃から
膨大な量の書物に囲まれて育ち、
読書とともに大人になった。

そして、大人になるにつれて痛感するようになったのは、
書物だけで学ぼうとしたら一生かかっても足りない、
という事実だった。

柳田國男は、若干44歳でエリート官僚の道を退いた。
日本中の民間伝承を自分の足で探す冒険に出るためだった。



3. 冒険の話 高橋淳

現役最高齢パイロット、高橋淳。
御年88歳。
空を飛んだ時間、2万5000時間。
師匠と仰ぐ者たちはみな、彼を「飛行機の神様」と呼ぶ。

世界大戦が始まり、軍隊に入った高橋は
戦死することが栄誉だとされた時代、
何が何でも生きて帰ると心に決めていた。
なりたかったのは軍人じゃない。飛行機乗りなんだ。
その気持ちが高橋を守った。

終戦後はプロパイロットの養成に力を入れたが
49歳でフリーのパイロットに転身。
飛行機は車とは違い機体に個性があるため、
免許があっても、すべてを乗りこなせるわけではない。
50種類以上の機体を乗りこなせるのは、今も昔も、高橋だけ。
ひとりでも大丈夫。自信があった。

高橋は言う。

 「せっかく生まれてきたんだから、
 僕は死ぬまで進歩したい。」

生き方そのものを、冒険と呼びたくなる人は
今の世界に、いったいどれだけいるのだろう。



4. 冒険の話 高橋源一郎

小説というものは、
広大な平原にぽつんと浮かぶ小さな集落から
抜け出す少年、のようなもの。

前衛的な作風で知られる
小説家・高橋源一郎は言った。

学生運動で大学を除籍になり10年ほど、
土木作業員として各地を転々とした。
長く患っていた失語症のリハビリで書き始めた小説が
高橋を広い世界へ連れ出した。

今日も彼は、ひとり机にすわって
どこまでも遠くへいく。



5. 冒険の話 アーネスト・シャクルトン

アーネスト・シャクルトン。
1914年、エンデュアランス号で、
人類初の南極大陸横断を目指し、出航した。

南極大陸まで320kmの地点で、四方を氷にはばまれ、
10ヶ月ほど漂流するものの、氷の圧迫でエンデュアランス号が崩壊。
この時点で南極横断計画はとん挫してしまう。

救助を求めようと、500キロ先のエレファント島へ
なんとか徒歩でたどり着き、
さらに1,300キロ離れたサウスジョージア島へ、
救命ボートを使って再び出航。

ついに救助されたのはイギリスを出発してから約2年後のこと。
シャクルトンと、その隊員27名全員が奇跡的に生還した。

隊員を募集した時、シャクルトンはこんな広告を出している。

 「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。
 暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保証なし。
 成功の暁には名誉と賞賛を得る」

冒険するか、しないか。
どちらを選ぶかは、
私たちの生き方の選択肢としていつでも用意されている。



6. 冒険の話 ソーントン・ワイルダー

冒険をしたいなあと思っているのは、
家にいて何事もないときである。
いざ冒険している時には、家にいたいなあと思う

こう語ったのは、アメリカの劇作家ソーントン・ワイルダー。
派手で社会的な演劇が流行した1930年代のアメリカで、
彼は、平凡な人々の平凡な日常を描き続けた。

しかし、そこでワイルダーが描いているのは、
私たちが平凡だと思っている日常が
いつもそばにあるものではなくて、
今ここにしかないものである、という事実だ。

今ラジオを聴いているあなたの日常も
今ここにしかないのと同様に。



7. 冒険の話 マキャベリ

イタリア、ルネサンス期の政治思想家、
マキャベリは言った。

運命の女神は冷静に事を運ぶ人よりも
果敢な人によく従うようである

こんな時代だからこそ、
無難な道より冒険を。
今日も、人生も、一度きり。



8. 冒険の話 日比野克彦

 口の中をベロで触って、
 どんな形があるか探ってみよう。

 りんごはなぜりんごと言うのか
 いろいろな人に聞いてみよう。

 陽だまりで目をつぶって、
 暖かいのがどこから来るのか
 感じてみよう。

芸術家の日比野克彦は、
日比野自身に、そんな指令を出してみた。

日比野は言う。

 何よりやってはいけないのは、
 つまらないと思いながら仕事をすることだ。

 だから、自分で面白くする努力を常にする。

 小さな大冒険をやってみる。

好奇心が生まれたら、
そこはすべて、冒険の場所。

あしたの朝食べる、トーストの上にも、
ゆううつな気分で乗る、電車の中にも。
あなたの冒険が、
見つかるかもしれません。

熊埜御堂由香 12年6月17日放送

2012 年 6 月 16 日


greenkozi
夫婦のはなし 高山なおみとスイセイ

 みいなんかより
 料理がうまいひとは
 ごろごろおるじゃろう?

料理研究家高山なおみの夫スイセイは
雑誌で人気絶頂期の妻のみいにひょうひょうと言った。
その言葉は、妻の人柄も仕事もまるごと理解した
夫にしか言えない最高のエールだ。

高山の力が抜けてリラックスした
優しい味のレシピは
今日も夫婦の食卓から生まれる。


C Simmons
夫婦のはなし 小川糸

作家・小川糸は、
いつの頃からかなんとなく、
ペンギンと暮らしてみたいと
思うようになっていた。

鳥なのに空を飛べなくて、
ぽってりとしたおなかが愛らしい、
そんなペンギンと。

でもじっさい、
東京でペンギンと暮らすのは、むずかしい。

そう思っていたら、
ペンギンによく似た生き物を、
すぐ近くでみつけた。

いっしょに暮らす、歳の離れた夫。

こうして小川の夫は、
ペンギンになってしまった。

 もうすぐ、ペンギンが帰ってくる。
 お魚が食べたいらしいので、
 マグロのヅケと、酢で〆た鯵を用意した。

きょうも小川は、
自分と、そしてペンギンのために、
楽しそうに、料理をつくる。



夫婦のはなし 向井千秋と向井万起男

両肩に力を入れて生きている女性をみると、
おちょくり、からかいたくなる。

慶應の大学病院で働く医師・向井万起男には、
そんなくせがあった。

その彼が、男まさりでよく笑う、
内藤千秋という後輩をからかった。
彼女はいつしか万起男の親友になり、
一番の親友が女なら、そんじゃ、結婚するしかないな、
という感じで結婚を決めたころ、
内藤千秋は、宇宙飛行士に選ばれた。
日本初の女性宇宙飛行士・向井千秋である。

宇宙を目指しひとりでどんどん進んで行く千秋は、
長い別居生活もいとわない。
こんな妙な女と結婚したのも、運命。
万起男も観念した様子だった。

しかし千秋は、万起男の性格をよくわかっていた。

 マキオちゃんは寂しがり屋だから、ひとりで生きてなんていけないって。
 マキオちゃんは再婚しなきゃだめよ。

1994年7月8日、
いつもの明るい笑顔で宇宙に飛び出した千秋。
発射場の特等席には、
彼女のミッション成功を真剣に願う、万起男の姿があった。


seamusiv
夫婦のはなし アマドゥとマリアム

アフリカ、マリを代表するデュオ。
アマドゥ・エ・マリアム。

ギターを担当する夫のアマドゥは、16歳の時に。
ヴォーカルを担当する妻のマリアムは、5歳の時に光を失った。

2人は言う。

 僕らは違う地平線、他の国にある音楽を一緒に唄うのが好きなんだ。

2人で音を奏でるとき、その目には、
2人にしか見えない世界が、広がっているに違いない。


のりりん
夫婦のはなし 水木しげると武良 布枝

お見合いから結婚式まで、わずか5日。
夫の特技は自由自在におならをすること。
税務署員に疑われるほどの、わずかな収入。
とっておきの御馳走は、腐りかけの黒いバナナ。

結婚してまでそんな生活をしたいという女性は、まずいない。

武良 布枝。(むら ぬのえ)
夫の名は、水木しげる。

上京した布枝は、水木のあまりの貧乏生活に驚いた。
見合いのときは、「東京でそれなりの暮らし」とウソをついていたこの男。
夫として、このまま付いて行って大丈夫なのだろうか。
正直言って、心配だった。

それでも、ひたすら机に向かって漫画に打ち込む姿。
その背中だけは、信じられた。

布枝は言う。

 自分自身に恥じない、その意気込みの、迫力たるやなかった。
 『俺はこれで生きるしかない』という覚悟が伝わってきて、
 その姿を思うと、いまでも胸が熱くなります。

どんなときでも夫を笑顔で支える妻は頼もしい。
だが、支えたいと思える夫であるか。
それも大事な、夫婦の秘訣。


Saperaud
夫婦のはなし 辻邦生と辻佐保子

辻邦生(つじくにお)は学生時代に恋をして、

後の佐保子(さほこ)夫人と結婚した。



夫婦でパリに留学したのち、

夫は文学賞を受賞して小説家となった。

妻は美術史を研究し、学者になった。



辻邦生の小説が、独自の世界観を持ちながらも

歴史的背景がしっかりしているのは

妻・佐保子の存在あってこそだった。

ふたりで作り上げた小説は、夫婦にとって

子どものようなものだったのかもしれない。



なにしろ、辻邦生の代表作「反教者ユリアヌス」などは

夫婦の間で「ユリちゃん」と呼ばれ
愛されていたというのだから。



夫婦のはなし トーマス・フラー

 結婚前には両目を大きく開いて見よ。
 結婚してからは片目を閉じよ。

いつだったか、友人の披露宴のスピーチで
耳にしたこのフレーズは、
イギリスの神学者、トーマス・フラーの名言だ。

新郎新婦には、まだわからないかもしれないが。
大目に見るという愛情こそが、
夫婦の関係を、深く、長く、おおらかなものにしてくれる。


Hunter-Desportes
夫婦のはなし 田辺聖子とカモカのおっちゃん

大作家であり、いくつになっても女の子、田辺聖子。
結婚は38のとき。
お相手は4人の子どもがいる開業医、
カモカのおっちゃん。

大家族の中で、原稿書いて、家事をして。
それでも1日の終わりに
おっちゃんと、お酒とおしゃべりを楽しんだ。

こうこうやろうと思ったけど
うまいこといかんかった。

女の子の田辺の肩を、
男の子のおっちゃんがたたいてくれた。

36年連れ添ったおっちゃんは、2002年に他界。

病院のベッドのわきで
そんなつもりはないのに涙を流す田辺に、
おっちゃんは一語一語くぎりながら言ったという。

 かわいそに。ワシは あんたの。味方やで。

なんで五七五?と涙の合間に笑いがこぼれる。

あんたの味方。
それはきっと、愛より深い、夫婦のきずな。


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