2015 年 2 月 のアーカイブ

名雪祐平 15年2月28日放送

150228-01
Taishi
わび 前衛 利休

千利休。
わびの世界を極めた男。

その男がなぜ、黄金の茶室を作ったのか?
派手好きの秀吉の命だったとはいえ。

壁も天井も茶碗も金。
畳と障子は赤。

昼の明るさには、
まばゆいばかりの空間。

しかし、利休が企んだのは夜だったという。

闇に一本の蝋燭をつけるのだ。
すると、まわりが
ぼーっと鈍い金色に浮かびあがる。

派手な小さな空間に
わびの無限の宇宙ができあがる。

蝋燭の炎がゆれれば、
金色の宇宙もゆらゆら、ゆれただろう。

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名雪祐平 15年2月28日放送

150228-02
KYR
わび 前衛 利休

完全は不完全である。
不完全は完全である。

千利休は息子の少庵が
茶室につづく露地を掃除するのを見ていた。

掃除を終えたとき、利休は
「まだきれいになっていない」と
何度もやり直させた。

「父上、これ以上は無理です。
 小枝一本、木の葉一枚も地面にはありません」

利休はたしなめた。
「露地の掃除はそのようにするものではない」

利休は一本の木に手をかけて揺すりはじめた。

すると、はらはらと紅葉が舞い、
露地に散った。

そこには人工の完全な美しさではなく、
自然な不完全な美しさがあった。

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名雪祐平 15年2月28日放送

150228-03

わび 前衛 利休

千利休が竹で作った花入の傑作。
『圓城寺の筒』

ある茶会でのこと。
利休がこの花入に花を生け、床の間に掛けた。

竹の表面には大きなひび割れがあったため、
水がしたたり落ち、畳を濡らしてしまう。

客たちが、これはどうしたものでしょうと
たずねると、利休は答えた。

 この水が洩れるところこそ、命なのです。

花入から流れゆく水のしずく。

そこには既成概念を逆転する美があった。
現代美術にも通じる「破格の美」だった。

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名雪祐平 15年2月28日放送

150228-04
Christian Kaden
わび 前衛 利休

秀吉の
好きな色は、派手な赤。
嫌いな色は、陰気な黒。

それを知りながら、
千利休は平然と黒樂茶碗に茶をたて
秀吉に出した。

利休いわく
黒は古き心なり。

強烈な美意識の対決。

目の前に出された黒が
秀吉の茶の権威を試しているようだった。

同じ年、さまざまな理由があったと言われるが、
秀吉は利休に切腹を命じた。

秀吉の好きな色は、赤。
赤は黒に混じると黒になる。

2月28日、利休命日。
黒は古き心なり。

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飯國なつき 15年2月22日放送

150222-01
Alex Dram
猫と人①佐野洋子

「100万回生きたねこ」は、
出版から約40年経った今も、たくさんの親子に愛され続けている絵本だ。
 
実は、作者の佐野洋子は、猫がキライだった。
「何でも分かったような顔をしてこっちを見る」とぼやくように、
佐野の描くねこは、どこか人間臭く、小憎らしい。
 
しかし、キライといいながら、知人から貰い受けたり、引き取ったり…
佐野の人生は、たくさんの猫にかこまれていた。
 
「動物は立派に死ぬ。あたしもそうしたい」
 
死んだ飼い猫を引合いに出しながら、そう語った。
 
立派な死に方、幸せな死に方を教えられる絵本は、そう多くない。
「死」がわかる大人になって読むと、また一味違うものだ。

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飯國なつき 15年2月22日放送

150222-02
樹/Tatsuru
猫と人②谷啓

「ずるぬるの技」は、
横たわり、両手を伸ばして爪を立て、
何かをたぐりよせるしぐさ。
「そば粉練り」は指を広げて爪を出し、モノを掴むように動かす。
「スゴツオ」は、顔を強く擦りつける。
 
これらはすべてコメディアン谷啓が考えた、猫のしぐさの
前である。
 
「ガチョーン」「ハラホロヒレハレ」などのギャグを生んだ谷は、
猫との暮らしの中でも、たくさんの造語で遊んだ。
 
サービス精神旺盛で、
いつでも人を楽しませ、自分も楽しんでいた谷啓。
そんな彼の人柄は、猫との暮らしのひとコマからもうかがい知れる。

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飯國なつき 15年2月22日放送

150222-03
K-nekoTR
猫と人③長谷川燐二郎

柔らかな布地の上に緩んだ体を横たえ、
スヤスヤと眠る一匹のトラ猫。
しかし、なぜか左側にしかヒゲがない。

その絵を描いたのは、画家の長谷川燐二郎。

モデルとなった猫タローは、毎日同じポーズをとってくれたが、
寒い季節になると、丸まってしまう。

 九月の気候だけが、タローにこのポーズをとらせるということが判った。
 この画を続けて描くのは、来年の九月まで待たなくてはならない。

現実を描くことにこだわる燐二郎は、
カンバスを戸棚の奥にしまいこんだ。 
そうして何年もかけて描き、残すはヒゲだけ。
ところが、同じポーズをとらせるべく、季節を待っているうちに、
タローは他界してしまう。

のちに、燐二郎は想像でヒゲを書き足した。
申し訳程度に、左側だけ。

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森由里佳 15年2月22日放送

150222-04

猫と人④歌川国芳「おぼろ月猫の盛」

幕末を代表する浮世絵師、歌川国芳。

権威を嫌い、羽織・袴などを身につけず、
人から「先生」と呼ばれるのも嫌がる生粋の江戸っ子だった。

遊女の絵が禁じられた頃、
国芳が描いた遊郭の絵がある。

座敷の奥の遊女を覗く楽しそうな遊客たち。
羽織の紋はウナギや魚。着物の模様は小判や鈴。
提灯に書かれた店の名は「やまとや」ならぬ「にゃまとや」。

そう、国芳は、遊女も遊客も「猫」の遊郭を描いたのだ。

権威がなんだってんだ、とでも言うように、
国芳の絵は、時代のしがらみをすりぬける。

まるで、江戸の小路をするりと抜けゆく猫のように。

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森由里佳 15年2月22日放送

150222-05

猫と人⑤T.Sエリオット「CATS」 

猫とうまくやるのは、難しい事だろうか? 

T.Sエリオット。
猫好きの詩人は、猫の目線でこう答える。 

 我々の性格を理解するのに解説はいらない。
 猫はあなた方にとても似ている。
 信頼できる友と思われるには、
 帽子を取り、おじぎをしよう。
 猫にも威厳を求める資格があるのだ。
 ちょっとした尊敬の証もいる。
 たとえば、一皿のクリーム。
 時折、キャビアやストラスブールパイなんかもいい。
 そのうち目的は達成される。
 そうしたら呼びかけてごらん。猫の名を。  

猫と付き合うのは、手がかかる。
とはいえ、簡単にすり寄られては、調子が狂う。
そんなところもまた、私たちとよく似ている。

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森由里佳 15年2月22日放送

150222-06

猫と人⑥ルイス・キャロル「チェシャ猫」 

ルイス・キャロルの名作、
『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫は、
でたらめばかり言う気ままな猫。 

アリスが道を尋ねても、
口元に不敵な三日月を浮かべてこう笑う。

 どっちへ行けばいいかだって?
 それは、あんたがどっちへ行きたいかさ。
 それがないなら、道を聞くことはないわけだ。
 どっちへ行っても同じこと。

その言葉にアリスは面食らう。

進むべき道を人に尋ねても、意味はない。
答えは、自分の中にしかないのだ。

でたらめな猫の言葉を通して、
ルイスが真理を教えてくれる。

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