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村山覚 18年8月25日放送

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Stefan Sjögren
空港のはなし ストックホルム・アーランダ空港

ストックホルム・アーランダ空港。
誘導路の横に10年以上動いていない
ジャンボジェット・ボーイング747が停まっている。

ジャンボ機の真下で記念撮影をする旅行者もいれば、
大きな翼の上を歩く人も。翼の下にある
4つのエンジン部分にはなぜかドアが付いている。
飛行機内に入ると制服を着たクルーはいるが、
離陸の準備をする様子もなくにこやかに接客している。

実はこのジャンボ機、現在は宿泊施設として営業中。
2002年までは世界中を飛び回っていたが、
今は1マイルも動かずに、
世界中からやってくる航空ファンを楽しませている。

操縦桿が残るコックピットや、
ジェットエンジンがあった場所のベッドで見る夢は……
やはり大空を飛ぶ夢なのだろうか。

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村山覚 18年7月28日放送

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海の印象 クロード・モネ

印象派の画家、クロード・モネは
フランスの港町ルアーブルで育った。
30歳を過ぎた頃、故郷に帰って海を描いた。
タイトルは『印象、日の出』。

きらめく海、朝もやに包まれた空、
昇ったばかりの真っ赤な太陽。
当時の美術界では、ものや人物を
正確に再現した絵が良しとされた。
筆の跡が目立ち、舟も水平線もぼやけた
モネの絵は“印象で書きなぐった落書き”と
揶揄された。

モネは86歳で亡くなるまで、
この世界の印象を明るい色彩で描きつづけた。
刻一刻と変化する海や空、人間や植物が
輝く瞬間をキャンバスに閉じ込めた。

100年以上前のモネの気持ちと、
スマートフォンで海や空を撮影する
私たちの気持ちは、
きっとどこかで繋がっている。

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村山覚 18年7月28日放送

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Photo by Masaaki Komori on Unsplash
海の底へ リンゴ・スター

イギリス北西部の港町で生まれ育った
ジョン、ポール、ジョージ、リンゴ。
言わずと知れた、ザ・ビートルズ。
彼らは海にまつわる曲を何曲か残している。

もっとも有名な曲は「Yellow Submarine」だろう。
リンゴ・スターによる優しくほのぼのとした歌声が
印象的だ。しかし今日ご紹介したいのは
リンゴが作詞作曲を手がけた「Octopus’s Garden」。
ユニークな歌詞と親しみやすいメロディで描かれる
“タコの庭”は、地上のどんな庭よりもハッピーで
居心地が良さそうだ。

解散直前の数年間、4人の仲はギクシャクしていた。
リンゴは一番温厚な性格だったそうだが、
ドラム演奏にケチをつけられて「やめてやる!」と
スタジオから出ていったことも。
そんな悩ましい時期、地中海でバカンスをしていたら
タコ料理が出てきた。“タコは小石や光るものを集めて
海底に庭を作る習性がある”と聞いた彼は、
Octopus’s Gardenに君と行きたいという曲を書いた。

人間関係に悩んだ時、海でひと潜りしてみれば
タコが出迎えてくれるかもしれませんよ。

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村山覚 18年2月17日放送

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Allagash Brewing
作曲家の朝食 ベートーヴェン

一杯のコーヒーはインスピレーションを与え、
一杯のブランデーは苦悩を取り除く。

作曲家・ベートーヴェンの一日は、コーヒー豆を数えることから始まる。
豆の数は、毎朝決まって60粒。
1粒ずつ正確に数えて、満足げに豆を挽くもじゃもじゃ頭の男。
その姿を想像するだけで、なんだか可笑しい。

耳が不自由で、テンポを正確に刻むメトロノームを愛用したという
ベートーヴェンのことだから、コーヒーミルをがりがりと回すリズムも
きっと一定だったろう。

4拍子?それとも3拍子?毎朝同じ数の豆を挽くという単純作業は、
さながら、オーケストラが演奏会の前に行うチューニングのようだ。
はじまりの合図であり、体と心を整える儀式。

さあ、はじめるぞ。がりがりがり。

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村山覚 17年12月16日放送

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電話のはなし スティーブ・ウォズニアック

1971年。
21歳のエンジニア、スティーブ・ウォズニアックは
年下の友人スティーブ・ジョブズに興奮しながら電話をかけた。
雑誌で見かけた「小さなブルーボックスの大きな秘密」という
記事の内容をジョブズに読んで聞かせた。

ブルーボックスとは電話をタダでかけられる機械。
二人のスティーブは改良したブルーボックスを製作し
世界中にいたずら電話をかけた。ウォズは言う。

 僕のエンジニアリング力と
 彼のビジョンで何ができるのか、
 それがなんとなく分かったのは大きかった。

その後、彼らは違法なハッキングツールではなく
Appleという名のコンピュータをつくり始める。

時は流れて、2011年。
ジョブズが亡くなった直後に販売されたiPhone 4Sを
求める行列に盟友ウォズもいた。あの一本の電話がなければ
存在しなかったかもしれない「小さなスマートフォン」は
いま世界中の手の中にある。

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村山覚 17年9月30日放送

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翻訳のはなし 村上春樹

村上春樹。
日本を代表する小説家であると同時に、翻訳家でもある。

  翻訳というのは言い換えれば、
  「もっとも効率の悪い読書」のことです。
  でも実際に自分の手を動かして
  テキストを置き換えて行くことによって、
  自分の中に染み込んでいくことはすごくあると思うんです。

机の左手に気に入った英語のテキストを置き、
それを右手にある白紙に日本語の文章として立ちあげていく。
村上春樹が翻訳をする理由。

  僕は文章というものがすごく好きだから、
  優れた文章に浸かりたいんだと思います。

高校時代からアメリカ文学にどっぷりと浸かり、
独特のリズムと文体を確立。
「たまたま日本語で書いているアメリカの作家」とも言われる
彼の小説を、時には英語翻訳版で読んでみるというのも
悪くない選択だ。

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村山覚 17年6月10日放送

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keso
時の記念日 上原ひろみ「Time Travel」

ジャズピアニスト、上原ひろみは
10年前に「Time Control」というアルバムを出した。
収録曲はすべて《時間》をテーマにしている。

音楽は、時間の芸術であると言われる。
ミュージシャンが放つ一音一音は
矢のように飛んで、あっという間に消えていく。

アルバムの3曲目「Time Travel」という
曲の解説で、上原ひろみはこう綴っている。

 研究に研究を重ねても、出来ない時間旅行。
 科学的には無理でも、心の中では常にしている。
 過去を思い、未来を想う。

いまこの瞬間に聴いた音は、二度と戻ってこない。

しかし私たちは、
ラジオから好きな曲が流れてきた瞬間、
時間も空間も飛び越えられる。
そう、音楽はタイムマシンなのだ。

きょうは、時の記念日。

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村山覚 17年6月10日放送

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Agent Smith
時の記念日 上原ひろみ「Time Control」

ジャズピアニスト、
上原ひろみのアルバム「Time Control」。
収録曲はすべて《時間》をテーマにしている。

アルバムの7曲目のタイトルが、
ちょっと長くて興味深い。
「Time Control, or Controlled by Time」

本人による楽曲解説にはこう綴られている。

 忙しい毎日の中で生まれる、
 時間に追われているような感覚。
 時間を支配するのは自分だろうか、
 それとも支配されているのか。

いいミュージシャンには
時間をコントロールする特殊能力がある。
時を止めたり、巻き戻したり、
あっという間に早送りする力だ。

8曲目は「Time Flies」。時間が飛んでいく。
そしてアルバム最後の9曲目のタイトルは
「Time’s Up」。

きょうは、時の記念日。

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村山覚 17年5月20日放送

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kamums
計量の話 具志堅用高

きょうは「世界計量記念日」。
計量が欠かせないスポーツといえば、ボクシング。

43年前、沖縄から上京した若きボクサー、具志堅用高。
トレードマークのアフロヘアは、
身体を大きく見せるための工夫でもあった。

試合前の減量は1ヶ月前からはじめる。
住み込みでバイトをしていたとんかつ屋のマスターが
仕入れてくれたヒレ肉と、野菜サラダで身体を絞った。

試合当日。計量後の定番メニューは、
ステーキ、鰻、スッポンの血、そして、アイスクリーム。

 世界チャンピオンになったら楽しいよ。
 モテるし、誘いも多いし、おいしいもの食べれるし!

伝説のチャンピオンの原動力は、おいしいもの。

でもやっぱり体重は気になりますよね。
あなたは食べる前に計る?それとも、食べてから計る?

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村山覚 17年5月20日放送

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small-life.com
計量の話 舞の海

きょうは、メートル条約が結ばれた「世界計量記念日」。
数センチメートルの差に泣き、それを克服した男のお話。

ときは平成元年。大学の相撲部で活躍していた小柄な男が
大相撲の新弟子検査にのぞんだ。規定の身長よりも背が
低かったので、鬢付け油を頭の上で固めて身長計にのった。
しかし、暑さで油が溶け、規定に達しなかったため不合格…。

翌年、その男は頭にシリコーンを埋めて、見事合格する。
そこまでやるかという声もあったが、
相撲への情熱は誰よりも強かった。

彼の名は、舞の海。のちに「平成の牛若丸」「技のデパート」
と呼ばれ、体重が2倍も3倍もある小錦や曙といった
巨漢の力士とも張り合った。

 大きい力士も小さい力士と組むのは怖いんですよ。
 どんな相撲をされるか分からないから。

男の情熱、そして巧みな戦術を、数字で計ることはできない。

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