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熊埜御堂由香 16年7月31日放送

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記録のはなし 澤穂希の記録

6回のワールドカップを経験したサッカー選手、澤穂希。
彼女の功績はFIFA女子ワールドカップ最多出場選手
としてギネスに登録されている。

そんな彼女もサッカーを辞めよう
と本気で思ったことがあった。

1990年代に日本のプロサッカー部が次々廃部を決める中、
澤は思い切ってアメリカに渡る。
「クイック・サワ」と呼ばれ大活躍する中で、
あるアメリカ人と恋に落ちた。
彼と一緒に暮らしながら、サッカーに全力投球する充実した日々。
しかし、突然、プロリーグが休止することになった。
この時、澤は恋人と結婚してアメリカで暮らそうと決意する。

恋人の、「サッカーやめられるの?」

という問いに「もちろん」と答えた。
すると恋人は意外な言葉を返した。

「きみには、とことんサッカーをやってほしい。」

澤はそのひと言に背中を押されて、
再び日本のプロサッカー界へ戻ってきた。
ひたむきな生き方、
それが彼女に多くの記録をもたらしたのだ。

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熊埜御堂由香 16年6月26日放送

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童謡のはなし ろばの会

童謡には、ひとからひとへ歌い継がれてきたため
作者不明のものや、
文部省唱歌として作者が表に出ていない歌も多い。
そんなこどものための歌に新風を吹き込んだのが
創作グループ「ろばの会」。
頼まれて歌をつくるのではなく、
自分たちの納得のいく音楽をつくろう
と1956年に結成された。

「ぞうさん」で知られる詩人のサトウハチローや、
「めだかの学校」を作曲した中田喜直、
「サッちゃん」などの名曲をつくった
いとこ同士の作詞家、阪田寛夫と、
作曲家、大中恩のコンビなど
多くの作家が集まった。

そんな「ろばの会」の決まり事はただひとつ。
歌を「童謡」とは呼ばずに「こどものうた」とよぶこと。
きっと「こどものうた」を生み出す時、
彼ら自身がこどもの顔をしていたに違いない。

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熊埜御堂由香 16年6月26日放送

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童謡のはなし 野口雨情と詩のモデル

童謡界3大詩人といわれた、作詞家の野口雨情。
彼が手がけた、「赤い靴」は、
詩作のモデルになった実在の少女が
作者が亡くなったあとに、新聞の投書から見つかり話題を呼んだ。

そして雨情の代表作である「しゃぼん玉」も
彼自身の、生後1週間で亡くなった
長女への想いを歌っているという説があり、
たしかに、そういわれると、そう聞こえてくる歌詞でもある。

 シャボン玉 飛んだ
 屋根まで飛んだ

 屋根まで飛んで
 こはれて消えた

 生まれてすぐに
 こはれて消えた。

しかし雨情の息子の野口存彌(のぐちのぶや)さんは
長女が亡くなった時期と歌の発表の時期を照らし合わせて、
その説を否定している。

真相はもう亡くなっている本人にしかかわらないのだが、
生前、雨情はこんな言葉を残している。

 詩というものは、それを書いた人の名前は忘れられ、
 その詩だけが残ったとき、
 初めてほんとうのものになる。

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熊埜御堂由香 16年5月29日放送

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ペットのはなし 夏目漱石の文鳥

夏目漱石がもっとも愛らしく描いた動物が猫だとしたら、
もっとも切なく描いた動物は文鳥だろう。

漱石の初恋の人と言われる幼なじみだった日根野れん。
彼女が嫁ぎ先で亡くなった10日後に
連載をはじめた小説が「文鳥」だ。
れんをモデルにしたと言われる女性と
飼っていた文鳥の死を重ね合わせながら
美しい物語が描かれる。

チヨチヨという鳴き声を漱石はこう表した。

 文鳥も淋しいから鳴くのではなかろうか。

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熊埜御堂由香 16年5月29日放送

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ペットのはなし 古川日出男とカラス

独創的な文体とストーリーテリングで人気の作家、古川日出男。
彼の小説にはよく動物たちが登場する。
その中でもひときわ異彩を放つのが
ひとの言葉を理解する、カラスのクロイだ。
主人公の肩にのり東京の飼いならされたカラスを
鋭い目で見つめる。

古川自身が、東京の街を歩き回り、
カラスの排除問題に疑問をもったことから
インスピレーションを得た。

人間の出すゴミに群がるカラス。そしてそれを排除する人間。
カラスは、東京という街に飼われている
もっとも悲しいペットとも言えるのかもしれない。

古川は小説を書く時の気持ちをこう表現している。

 人に読ませよう、
 でもあらゆる動物たちのためにも書こうと思いますね。

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熊埜御堂由香 16年3月27日放送

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桜のはなし ケーベル先生と桜

明治時代に日本にやってきて
ドイツ哲学や美術史を教えた、
ラファエル・フォン・ケーベル。
教え子のひとりだった夏目漱石がのちに作品に記すように
「ケーベル先生」と呼ばれ親しまれた。

そんな彼が残した言葉。

 桜の花の頃こそ日本人を観察すべき時である。

春だから、って
理由があるようなないような。
そんなゆるやかな心持ちで
桜を愛でて無邪気に浮かれる日本人の姿は
きっとケーベル先生の昔も、今も変わらない。

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熊埜御堂由香 16年3月27日放送

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桜のはなし 宇野千代と淡墨桜

日本三大桜にも数えられ、散りぎわに、
淡い墨色に花びらをそめる岐阜県の根尾谷の淡墨桜。
樹齢1500年ともいわれるこの桜は、
何度も根を継ぎながら花を咲かせてきた。
ところが、台風で太い枝が折れてしまい、
もう枯れるのを待つしかない、となった時
その命を救ったのは作家の宇野千代だった。

資金援助を募り、この淡墨桜を小説でもとりあげ一躍有名にした。
ひたむきに桜を救った宇野千代が残した言葉がある。

 しあわせって、桜のようなものよ。
 ああ、今年も桜に会えた。ただそれだけのことなのに、
 ほっとしてしあわせな気分になるでしょう。
 私はいつか花咲婆さんになって、
 しあわせの種を籠いっぱいに入れて、ぱっぱっとまきたい。

宇野千代の残した老木の桜は、
今年も満開の花で人々にしあわせを運んでくる。

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熊埜御堂由香 16年2月21日放送

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ジョニヲ
お酒のはなし 川上弘美と居酒屋

芥川賞作家、川上弘美さん。
ベストセラーになった
「センセイの鞄」などお酒を飲む場面が
作品にたびたび登場する。

お酒について彼女が書いたエッセイにこんな書き出しがある。

 今までで一番多く足を踏み入れた店は
 本屋、次がスーパー、三番めは居酒屋だと思う。

そして、つぎの行ではそんな自分の人生を
 なんだか彩りにかける人生である、と語る。

けれど、川上さんが描くお酒とひとは、
わかる、わかると切なくて、何度読んでも引き込まれる。

それはまるで、
居酒屋で居合わせた知らないひとと思いがけず
深い話をしてしまった時みたいに。
日常のひとこまが
ほんのり色づくそんな感覚を呼び覚ましてくれる。

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熊埜御堂由香 16年2月21日放送

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VisualAge
お酒のはなし 談志師匠

2011年に亡くなってなお根強いファンの多い、
落語家、立川談志。

立川流を立ち上げて、弟子たちをふりまわす日々。
飲みにいくと、こんな調子で、くだを巻いた。
「芸人なら真っ当に働くな、泥棒しろ!でも俺の家はダメだぞ」
その発言は愛とユーモアに満ちていて
みんな談志師匠が大好きだった。

談志がお酒について
こんな名言を残している。

 酒が人間をダメにするんじゃない、
 酒とは、人間はもともとダメだってことを教えてくれるものなんだ。

もし彼がいまも生きていたらきっと弟子たちは
こう返すだろう。

談志師匠、
ダメだっていいじゃない、
まぁ一杯飲みましょうよ。

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熊埜御堂由香 16年1月24日放送

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北欧のはなし リサ・ラーソンの優しいライオン

スウェーデンを代表する陶芸家、リサ・ラーソン。
ストックホルム郊外の自然に囲まれた自宅兼アトリエで
84歳の今も創作を続けている。

リサは、アトリエに来たすべてのひとを
スウェーデンのひとに欠かせないというお茶の時間、
「フィーカ」でもてなす。
そこには家族がつくった手作りのお菓子が並ぶ。
画家の夫や、その子ども、さらに孫たちが
集い、暮らしと創作が混じり合って、
リサの暖かみのある陶芸作品が生まれていく。

だからだろうか、
リサの代表作として知られる、
ころんと丸い陶器のライオンは
とても穏やかで優しい目をしている。

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