‘熊埜御堂由香’ タグのついている投稿

熊埜御堂由香 15年12月27日放送

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掃除のはなし 親子関係の大掃除

断捨離の提唱者、やましたひでこさん。
彼女の母は典型的なモノを溜め込むひとだった。
それが嫌で、結婚後も実家に帰るたびに
捨てに捨てに捨てていた。

そうするうちに母との関係はどんどん悪くなる。
なぜ母のために片付けているのに感謝されないの?
そう思ったとき
無意識のうちに片付けを通して
母に報復していたと気づいた。
生き方が違うんだなと思えるようになってから
親子関係も修復していったという。

母の前では、断捨離を捨てること。
それは、娘が母から完全に自立できた
親子関係の大掃除だったのかもしれない。

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熊埜御堂由香 15年12月27日放送

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掃除のはなし 川上弘美の幸田文ごっこ

芥川賞作家の川上弘美さん。
彼女のエッセイでは、たびたび、主婦としての家事のあれこれが
ちょっととぼけた味で描かれる。

震災のとき、節電のために掃除機を使うのをやめて
ほうきと雑巾を使って掃除をしていた時のこと。
文豪、幸田露伴に家事を厳しくしつけられた
娘の幸田文になりきって、掃除をしてみようと思いついた。
幸田文ごっこと名付けてルールも設定した。
雑巾を絞る時、きっちり絞りきれているか?
隅から隅まで拭き残しはないか?
ほうきは正しく使えているか?
こんな具合に自分を厳しく叱りながら掃除をする。

家事の中で一番掃除が嫌いという川上さん。
ちょっとした現実逃避で、日常の掃除もなんとかやりきれる。
主婦の生活の知恵は、時に涙ぐましい。

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熊埜御堂由香 15年11月8日放送

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Christopher.Michel
夫婦のはなし 父母より夫婦

父親や母親との関わりから患者の抱える問題を浮き彫りにし
解決に導いてきた、精神科医の岡田尊司さん。
その経験を生かし、ベストセラー「母という病」など著作でも
多くのひとを救ってきた。

そんな彼が書いた恋愛本
「なぜいつも似たようなひとを好きになるのか」
の冒頭にこんな言葉がある。

 母は選べなくても、父は選べなくても、
 パートナーは選べるんです。

胸に手をあてて考えてみると
夫に自分の父親の姿を探したり、夫婦関係が
こども時代にやり残したことの埋め合わせだったり・・・
そういう話はめずらしくない。

著書の中でも、こども時代の満たされなかった思いを
夫婦関係で乗り越えていく患者の事例が多く紹介されている。
他人なのに、自分をうみだした父親や母親以上の存在になれる。
夫婦って、深い。

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熊埜御堂由香 15年10月18日放送

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日本語のはなし  名文を書かない文章講座

芥川賞作家、村田喜代子さん。
福岡県で、主婦をしながら小説を書き続け、
地元のカルチャーセンターでは、文章の書き方を教えてきた。
生徒は、はがき一枚にも苦労するという、
主婦だったり、リタイア後の夫婦だったり、まさに市井のひとびと。

そんなひとへ向かって村田さんはこう教える。

 エッセイや手紙を書くときに、名文に憧れを抱く必要はない。
 名刀を台所に持ち込んで大根を切る者はいない。
 大根を切るときには、使い慣れた、よく研いだ包丁を使うもの。
 そんな風に、心のこもった文章は普通の文体で書けばいいのだ。

村田さんの講座のタイトルは、
「名文を書かない文章講座」。

毎回、講座を終えるころには、
プロの村田さんが思わず、ほろりと心動かされる
エッセイをみんな書くようになるそうだ。

「ありがとう」そんな飾り気のない一言に心が
温まるように。きっとそこには、とびきりの、
普通のひとの普通の言葉がならんでいる。

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熊埜御堂由香 15年10月18日放送

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日本語のはなし せつない気持ち

翻訳家の柴田元幸さんと、
日本在住の劇作家、ロジャー・パルバースさんが
「せつない」という日本語をテーマに対談したことがある。

「せつない」にぴったりあてまはる
英語は存在しないとよく言われる。
その対談では、
Heartbreaking,
sentimental
などロジャーさんがせつないに近い英語表現を
いくつかあげて柴田さんと「せつない」気持ちを考えた。

日本人には、近松門左衛門から小津安二郎まで
「どうあがいても幸せになれない」という前提から出発した、
思い通りにならない人生を受け容れる姿勢がある。
そこに美しさや潔さを見いだす、独特の感性から
「せつない」という気持ちは、生まれているのでは
とふたりは結論づけた。

そんな結論にちょっと胸がうずいたら、
あなたも「せつない」気持ち、上級者かもしれない。

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熊埜御堂由香 15年9月27日放送

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お茶のはなし ひとりの時間

カフェですごす至福の時間といえば、
誰かと笑い合いおしゃべりをする楽しさもあるが、
ひとりで外の景色を眺めながらぼんやりするという穏やかさもある。

そんなひとりの時間が似合うカフェが石川県加賀市にある。
物理学者、中谷宇吉郎の功績をつたえる
雪の科学館に併設するカフェ「冬の華」だ。

中谷宇吉郎は、人口の雪をつくることに世界ではじめて成功するなど、
雪の結晶を研究した第一人者として知られている。
映画「霜の華」を1948年に発表し、
映画プロダクションの設立にも尽力した。
科学者として、芸術家として、
雪を時に冷静に、時に優しい視点で見つめ続けた。

彼が生まれた石川県加賀市の小さな温泉街、
片山津温泉にあるカフェでは、
冷たい飲み物が雪の結晶を思わせる
六角形のグラスで運ばれてくる。
ガラス張りの大きな窓の先には白山連邦が横たわり、
その景色を眺めているだけで、心が満たされていく。

雪は天から送られた手紙である。
宇吉郎の残した言葉そのままに、
まるで、しんしんと降る雪に耳を澄ましているような
ゆったりした時間が、カフェ「冬の華」には流れている。

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熊埜御堂由香 15年8月30日放送

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kouyuzu
涼菓の話 冬のかき氷

鵠沼海岸の住宅街に冬でも行列ができるかき氷店がある。
年中かき氷が食べられる専門店の先駆けとも言われる、埜庵(のあん)だ。
店主の石附浩太郎さんは、勤めていた音響機器メーカーをやめて
38歳のときにかき氷店をひらいた。
最初はランチに食事をだしていたがあるときに、決心する。
「かき氷1本でやっていく」

夏には行列ができても冬は赤字経営。
厳しい季節は、常連客が支えた。
夏は混むからねぇといって、ダウンを着てかき氷をほおばる。
そんなお客さんに支えられて
気づけば、冬の営業もうまくいくようになっていた。

鵠沼でお店をはじめて10年。
石附さんは言う、
もしはじめから一年中かき氷が食べられる店があったなら
僕の店は、この世に存在していなかったと思うんです。

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熊埜御堂由香 15年6月28日放送

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Emran Kassim
お米の話 振り米の言い伝え

お米が主食として行き渡るようになったのは、
第二次世界大戦中の配給米からだといわれている。
それまでは、麦や、アワ、ヒエなどで人々は食をつないできた。

そんな日本の農村に「振り米」という言い伝えが残っている。
重い病人が村にでると、よその村からひとにぎりの米を借りてきて、
竹の筒に入れて振って、耳元で米の音を聞かせていたのだ。
「ああ、がんばれば、米が食べられかもしれない」と
気力がでて生き延びるひともいれば、
亡くなっても安らかな顔をして冥土へ旅立てたという。

食べることは、生きることと言うが、
つやつやの白いお米は、日本人の生きる希望
そのものなのかもしれない。

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熊埜御堂由香 15年6月28日放送

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お米の話 魯山人の質問

食通で知られる北大路魯山人が
料亭、星岡茶寮(ほしがおかさりょう)の顧問をしていた頃。

雇う料理人には、第一にこう聞いたという。

 きみは飯が炊けるか?

ご飯も立派な料理と考えていた魯山人。
その面接は、とびきり厳しかったに違いない。

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熊埜御堂由香 15年5月24日放送

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changhg
あいさつの話 チベットの挨拶

チベットの一部の地域では
舌をだすという変わった挨拶が交わされている。
自分が悪魔ではない証に、
舌が黒くないことをしめす風習からきている。

日本では無作法とされるが、
どこかチャーミングな舌をだす仕草。
それはチベットのひとが交わす挨拶のように
相手に自分をさらけだす、
そんな無邪気な意思表示を含んでいるからだろう。

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