中山佐知子 2011年9月25日



7番めの空、或いは七つの大罪

           ストーリー 中山佐知子
              出演 山田キヌヲ

7番めの空を私は持っていたの。
7番めだけではなく1番も2番3番もあって
全部で七つの空だったわ。
でもいつからか私はいつも7番めの空を眺めるようになった。
あの空の扉を開いたら上には何があるのかなって
そんなことばかり考えるようになっていたのね。

七つの空はそれぞれが天使だったの。
或いは神さま?
ひとりでは生きていけなかった私を保護し
私を養い教育してくれた。
子供だった私は、
そのお礼にいつも空をピカピカに磨いておくって約束したの。

そのたったひとつの約束が窮屈に思えてきたのは
いつのころだったかしら。
空ときたら、ああ面倒くさいって思うだけでたちまち曇って
私の身勝手や怠慢を見せつけた。
ああ、もううんざり。
私は七つの空なんかなくても生きていける。
7番めの空のもっと先で気ままに暮らしたい。

ドレミファソラ
ピアノの鍵盤をたたくように
私は次々と空のふたを叩いて開けた。

1番めと2番めの空を開けたとき
私は自分のしていることがすっごく正しいと思った。
だっておかしいでしょ。
空は私に恩恵を与えるふりをして私を縛ろうとしているんだわ。
それって絶対におかしいでしょ。
いま思うと、
暑いから太陽はいらないってわめく子供みたいだったけど
そのときは本気でそう思っていたのよ。

3番めと4番めの空を開けたときは無気力になった。
無気力で何もやる気がしないくせに
他人のことが妙に気になって妬み深くなって
そんな自分に嫌気がさしてますます落ちこんだ。

なんとかしなくちゃ。
そう思って5番めと6番めの空を開けた。
私はチカラをもらったけれど欲深い人間になった。
自分が持っていないものをすべて欲しがったし
持っているものは誰にも分けようとしなかった。
飢えてる子供がいる国の話をきいても
親が戦争ばかりしてるからでしょ、なんて言い放っていた。

そして私は七番めの空と向き合った。
ドレミファソラの次の七番めの空。
その向こうに何があるかもうわかっている。
開けないでおくこともできるかもしれないけど
こうなってしまったら開けるしかないじゃない。
いまの私はもう自分ですらない
なにか嫌なものになってしまった気がするし
ソラの次にやってくるものを止めてくれる人もいない。

でも私思うんだけど、本当に不思議に思うんだけど
七つの空に守られて、
思えばたいして不自由もなく暮らしていた私に
空の扉を開けさせたのは誰なのかしら。
扉があることを教えたのは誰なのかしら。

ドレミファソラ….

出演者情報:山田キヌヲ 03-5728-6966 株式会社ノックアウト所属

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三陸鉄道 2 つなぐ


三陸鉄道 2 つなぐ

             声:瀬川亮

三陸鉄道に乗っています。

三陸鉄道は1両編成の小さな路線ですが
あの震災のあと、たった5日間で
一部の区間を復旧させました。

列車が走れない区間には
流された駅、分断された線路があります。
でも、被害を調査するよりも
列車を走らせることが先だと決心したのは
家を流され、クルマを流された人たちが
線路を歩く姿を見たからです。
人と人をつなぐ道は線路しかないと思ったからです。

いまでは列車に乗るためだけに
遠くから来てくれる人がいます。
人をつなぐことは自分もつながること。
三陸鉄道が教えてくれました。

ヒューマンコンシャス
ジャパンエフエムネットワーク

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三陸鉄道 1 ささえる


三陸鉄道 1 支える

             声:瀬川亮

三陸鉄道の発車です。

三陸鉄道は、岩手県のリアスの海岸を
ひとつに結んでいます。

線路を埋めるガレキをとりのぞき
運行可能な区間を復旧させたのが3月16日。
それは、三陸鉄道の北の端、岩手県久慈市に
救援物資を積んだ最初の船が到着する
10日も前のことでした。

乗ってみるとわかるのですが
制服の高校生も買い物袋のおばあさんも
みんなうれしそうです。にこにこしています。

復興を支える列車は
お客の笑顔に支えられて今日も走っています。
支えることは支えられること。
三陸鉄道が教えてくれました。

ヒューマンコンシャス
ジャパンエフエムネットワーク

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ふるさとにチカラを/ふるさとに元気を

声:大川泰樹

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中山佐知子 2011年8月28日



トラキアの東の風の国

           ストーリー 中山佐知子
              出演 瀬川亮

トラキアの東の風の国から
久しぶりに西を旅したとき
かわいい人間の女の子に出会った。

僕はひと目で恋に落ちた。
彼女はアテネの王女だったが
僕だって星空を支配する巨人族の父と
暁の女神の母から生まれた神の一族なんだから
彼女は喜んで結婚してくれると思っていた。

ところが、なのだった。
彼女は、いやアテネの王女は
僕の背中に羽根が生えているのが気に食わないとか
若いのに髭なんか生やして年寄りじみているのが嫌いだとか
年寄りじみた格好をしているくせに
口のききかたがアタマ悪そうとか
いろいろ難癖をつけては首を縦に振らない。

おまけに、むかし僕が馬に化けて遊びまくっていたときに
美人の雌馬に片っ端から子供を産ませたことまで調べ上げている。
しかもその子供というのが神でも人でもなく
12頭の子馬だったことまで知っていて
結婚する気もないくせにやたらと怒りまくった。

プツン
僕のなかでなにかがぶち切れた。
下手に出ればどこまでもいい気になって…

僕は彼女がケチをつけた黄金の羽根でトラキアの山の頂から舞い降りて
川のほとりでノーテンキに踊っていた彼女をさらった。

彼女はあんなに泣き叫んでいたくせに
トラキアの東の風の国で僕の子供をころころと4人も産んだ。
子供のうち男の子ふたりには羽根が生えていたけれど
僕の羽根にはあんなにケチをつけたくせに
子供の羽根はむしろ誇りに思っているそぶりを見せた。

やれやれ…と、僕は思った。
やっと落ち着いて暮らせるぞ。
もともと僕は北の風を支配する武闘派の神さまなんだけど
手下の雪や霜や霰に大人しくしてろと言い聞かせ
しばらくは子育てに専念することにした。

確か紀元前492年だったと思う。
アテネから一通の手紙が舞い込んできた。
手紙はおごそかにはじまっていた。

アテネの義理の息子よ
ペルシャから我らを守りたまえ

なんだこれは…
俺はおまえらの息子じゃねえよ!
彼女と結婚するときはあれほど冷たかったアテネの連中に
いまさら用はない。

そう思ったけれど
願いを聞き届けたら神殿を建ててくれると書いてあるのを
彼女が見つけてしまった。
僕は結局ペルシャ戦争に荷担し、
ギリシャに攻め入ったペルシャの船を400隻ほど吹き飛ばして沈めた。
アテネの市民は、約束を守って
彼女がよく遊んでいた川のほとりに神殿を建ててくれたので
僕たちは風の国を出てほとんどそこで暮らすようになった。

トラキアの東の風の国はもうない。
たぶん自分の土地を捨てて人が用意した神殿に住み、
人に手なづけられ
人に都合のいい願いを受け入れるようになって
神々は滅びの道をたどっているのだと思う。

そして神がいなくなったとき
山はただの山になり、水もただの水になり
風も木も星々も
存在する喜びのようなものが消えるんじゃないかなと
僕はぼんやり考えている。

出演者情報:瀬川亮 http://www.weblio.jp/content/瀬川亮

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北上線に乗って

北上線に乗って

              中山佐知子

東北の夏は一面の緑です。
その緑のなかに一本の線路が通り
ポツンポツンと小さな駅があります。

山がそこまで迫っている駅、
少しひらけた田んぼのなかの駅、
丈の高い草に埋もれそうになっている駅
高校生が乗ってくる駅、森のなかの駅
駅の向いに小さな宿のある駅
山の駅の向かいに小さな農家があって
ホームからその家に行くには踏切を越えるのですが
どうやらその家だけのために踏切があるんじゃないかな、と
思った駅もありました。
東北の在来線はひとつひとつの駅が個性的です。

列車は2両編成のワンマン列車です。
運転席近くの席に座り
ドアが開くたびに写真を撮っていたら
シャッターの音がするまで
運転手さんがドアを閉めるのを待ってくれることに気づきました。

横手から終点の北上までおよそ60分
東京では10分乗るときでも本を開いてしまうのに
東北の列車では
本はとうとうカバンから出すこともありませんでした。

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