直川隆久 2019年7月21日 「水を売る」

水を売る

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

水って、基本じゃん?
人間の体は90%水でできてるわけだからさ。
飲む水が悪いと、悪い体になるし、
いい水を飲めば、いい体になるんだよね。
っていうと、ほら、あるでしょ?
水素水っていうのが。
水素が入った水。
すごい、はやったじゃん。
でも、じつは、もっとすごいものがあるの。
水素よりもっとすごいもの。
わかる?

それって、元素なんだよね。
元素。
元素だよ。
きいたことあるでしょ?
元素は大事なの。
元素はいいんだよ、体に。

元素って、みんな言葉としては知ってるんだけど、
その本当の力を知らないんだよね。
元素ってのは、元気の素って、書くじゃん?
つまりさ、元素が足りなくなると、元気が足りなくなるの。
だから、じつは、イオンなんかより、ずっと元素のほうが重要なんだよね。

むかしの人はね、体の中に元素をいっぱいもってたんだよね。
それがね、現代人は、体の中の元素が少なくなってるんだって。
それって、なんでかわかる?
これ、おれもすごいびっくりしたんだけど…「感謝」なんだよね。
昔の人はね、いろんなことに感謝してたんだ。
太陽、ありがたいなあ。
雨、ありがたいなあ。
ごはんが食べられる、ありがたいなあ。
で、じつは、感謝をすると、人間の脳内である変化がおきんのね。
脳内ホルモンのセロトニンていうのが出るの。
これが、体の中の元素を活性化させるんだよね。
ところが、おれを含めて現代人って、
昔の人とくらべて、感謝をしなくなってるじゃん?いろんなことに。
今は、みんなさ、「わたしがわたしが」「権利が権利が」でしょう。
つまり、自分のことばっかりで、感謝がないんだよね。

そうするとどうなるかっていうと、
脳内ホルモンのセロトニン、これの分泌が減るのね。
で、セロトニンが減ったことによって何がおきるかっていうと、
体の中の元素がね、一酸化元素、っていうのに変化するのね。
この一酸化元素が、じつは、すっごい悪さをするのね。

一酸化元素は、おたがいに、ひきよせあっちゃう性質があるんだ。
アメリカのカリフォルニア大学の研究で明らかになったことなんだけど、
癌細胞の中には、通常の細胞の100倍の一酸化元素があるんだって。
つまり、癌細胞の中の一酸化元素が、ほかの癌細胞を呼んで、
どんどん癌が大きくなっちゃう。
それだけじゃなくて、これは、カーネギーメロン大学の研究で
明らかになったんだけど、
社会的に成功しなかった人の血液の中には一酸化元素が多いんだって。
これは、貧乏の人の一産化元素が、
ほかの貧乏な人をよびやすいせいだろうと言われてるの。
だからこのことによって得られる結論は、一酸化元素が多い人は、
癌にもなりやすいし、貧乏にもなりやすいっていうことなんだよね。

で、開発されたのが、この元素水なの。
元素を、水の中に閉じ込める技術ってのがアメリカで3年くらい前に開発されて。
この元素水っていうのはね、
すっごい、新鮮な元素が入ってるんだって。
いや、もう、すごいらしいんだ。
とにかく、もう、AIでも数えられないくらい元素が入ってるんだって。
これは、飲む価値あると思うんだよね。
毎日この元素水を3リットル飲むと、体の中に、元素が凄く増えるんだって。
おれ、これを飲み始めて、すっごい変わった、と思う。
うん、まず、肝臓の数値が下がったのと、
あと、水虫がきれいになった。不思議なんだけど。
あとね、宝くじに2回当たった。
それも、結構大きな金額。
これも、元素水のせいかなあ、って思ってるんだよね。

で、話きいてみてどう?
なんか怪しいなって思う?

そう。
いや、そうなんだよ。
実際信じられないのは、無理ないと思う。
おれもそうだったもの。
ネット調べても、一酸化元素なんてでてこないしさ。
だから、最初この元素水を先輩から勧められたときも、かなり疑ってたのね。
でもさ、ふと思ったんだよね。
疑うだけじゃ、何も変わらないし、成長もないよね?
だから、おれは、自分で飲んでから判断しようと思ったのね。
それで、一か月飲んでみたの。実際に。

そしたら…飲んでるあいだに、あれ、けっこう、いいこと…あるじゃん?みたいな。
悪いこと、ないじゃん?みたいな。
で、ふと思ったわけ。
飲んで悪いことあるんなら、やめたらいいんだけど、
今のとこないし、それで続ける理由としては十分じゃないのかな。
で、今まで飲み続けてる。
そんな感じ?
だからお前も、自分で判断してほしいんだ。
やっぱり、自分の納得っていうのが、一番だもん。

あ、そう、飲んでみたい?
…うん。ぜひ、飲んで飲んで。きょう、持ってきたんだよね。

どう?
なんか、すごい…やわらかいでしょ。
ね?
なんか、すーっと…すーっと、こう、入ってこない?
浸透圧的なあれが、けっこうあるみたいなんだよね。
うん。
おれはね、いろいろ言ったけど、単純に、おいしいから飲んでる?そんな感じ。

で、この元素水って、まだ日本の代理店がなくて、
アメリカから直で買うしかないんだけど、
1リットル入りのペットボトルで一本1,000円とかすんのね。
でも、それってむずかしいよね?
一日3リットル飲まないといけないわけだからさ。毎日、3,000円だもん。
で、そこでちょっとこのパンフレット見てほしいんだけど、
元素水サーバーっていうのを使えば、水道の水を元素水に変えることができんのね。
これが、今、80万円で販売中…

なんだけど、
なんだけどね。
おれ、実はここのサーバーを製造してるアメリカの会社の
エグゼクティブ・アンバセダー資格っての持ってんのね。
だから、日本の一般の会社には卸せないこのサーバーを、
特別に会員価格で支給してもらえるの。
1台、32万5,000円。
どうかな。
高い?
うん。だけど、でも、これは一生使えんのね。
ていうのは、このサーバーは空気から元素をつくるから。
だから、必要なのは、水道水だけなの。
かかるのは、電気代と水道代くらい。
うん。
もちろんもちろん。
破格の割引とはいえ、やっぱり、金額的には大きいからさ。
ゆっくり考えて。
いやあ、でも、おまえと今日話せてよかったよ。
10年ぶり?
これって、ひょっとしたら元素水がひきよせてくれたのかもしれないよな。

で、話をきいてくれたお礼にさ。元素水の、20ケース、プレゼントさせて。
届けるから。宅配で。
いいのいいの。
こうやって今日、おまえと話せたことへの感謝のしるしだから。
それを飲んだ上で、おまえの答え、きかせてほしいんだよね。
うん。
じゃ、ここに住所書いて?
たぶんね、3日以内には着くと思う。
うん。
いや、今日はほんとどうもありがとう。
これから、また、長い付き合いしていこうぜ。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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直川隆久 2019年5月19日「寄り道」

寄り道

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

電車の扉が開いて降りた客は、その男一人だった。
無人駅。
かすかに、潮の匂いがする。
岬の展望台までは、きつい登り坂だそうだが、
歩いて2時間もかからないだろう。
早すぎるな、と男は思った。
暗くなるまでにはまだずいぶん時間がある。
経験がないから確証はないが、
飛び込みを図るなら、
やはり人目につきにくい時間のほうがいいだろう。

男は、腹が減っていることに気がつく。
これから死のうというのに、何か食うのもおかしな話だろうか。
だが、時間もつぶしたい。
男は、なにか店を探すことにする。

改札機に切符に吸い込ませて、駅の外へでる。
駅前には、公衆便所と、パンや日用品を売る小さな商店が一軒あるきりだ。
線路と並行に、一本の道路が走っている。
とりあえず右の方向に歩き出ししばらくすると、
「500m先 手打ちそば」と書かれた看板があった。
そばか。悪くない。最後の晩餐、いや、昼飯に、
枯れた感じが似つかわしい。
男は、看板に描かれた矢印を確認し、足どりを速めた。

道路わきに、愛想のないつくりの、四角い建物があった。
アルミサッシが埋め込まれた壁は、
建てられた頃は白かったのだろうが、今は全体に黒ずんでいる。
「そば」と書かれたのぼりが、鉄の傘立てに突っ込んで立てられ、
入り口の引き戸のガラスには「名物山菜そば700円」と書かれた紙が
セロテープで貼られている。

引き戸を横にすべらせて中に入ると、薄暗い。
店の床はコンクリートの土間で、年代物のテーブル…
といっても、キャンプのときに使うような、
足の細いもの…が8つほど並ぶ。
誰もいない。

―すみません。
と男は店の奥に声をかける。
すると、厨房らしきところから、もそもそと一人の男がでてきた。
見たところ70ほどか。店主だろう。
七分丈の調理用白衣の前身頃がネズミ色に変色している。
ずいぶん長い間、洗濯していないと見える。
―あの、そば、頼みたいんだけど。
店主は、返事もせず奥に引っ込んだあと、
メニューとコップの水を両手にそれぞれ持って戻ってきた。
男はメニューを眺める。
かけそば。もりそば。たぬき。山菜。コロッケそば。唐揚げそば。

唐揚げそば。
どうも、そば屋らしい職人的こだわりには無縁の店のようだ。
―山菜そば、ひとつ。
男の注文をきいて店主は、口元の形をほとんど変えることなく
「え」とも「う」ともつかぬ小さな音を発した。
「はい」という言葉の発音にかける労力を長年かけて節約し、
最終的にその形に落ち着いた、ということのようだった。

店主が奥に引っ込むと、男は手持ちぶさたになる。
テーブルの天板の下には、古い漫画雑誌がつっこまれているので、
めくってみる。
だが、連載ものの話の途中からでは、ついていけもしない。

麻雀漫画の表紙が目に飛び込んで、男は反射的に雑誌を閉じた。
男が死ななければならない原因が、
そのゲームでできた借金だったからである。

店主が、丼を片手に持ってふたたび現れた。
さっき同様、盆にのせず、直接手に持っている。
両手をつかうのが癪にさわるのだろうか、
かえって重いだろうに。と男は思う。
店主がテーブルにそばを置いて去る。
男は、割りばしで、そばをたぐる。
すすったそばをかみしめると、
舌の上にざらざらといらだたしい感触を残しながら、
粘土のように歯にまとわりついた。
うへえ、と男は思った。
男は、十割そばというものを食べたことがなかった。
食べたことはないが、それはラーメンやうどんとは違って、
やや口ざわりのなめらかさに欠けた食べ物ということは知っていた。
この食感は、本格的なそばの証拠…なのだろうか。
だが、やはり、もう一口食いたいという気持ちがどうしてもおこらない。
こんなものをありがたがる人間が世の中にそう多いとは思えず、
要するにこれは単にひどく不味いだけのそばなのだ、
と男は結論づけた。

そばの上にのった山菜を食べる。
ビニールのパックで売っているやつで、食べなれた味だった。
かまぼこも、かまぼこらしい味がした。
出汁をすすってみる。
これに味がなかった。出汁というより、ほぼ湯であった。

男は、だんだん、情けなくなってきた。
おれの人生最後の食事が、この不味いそばなのか。
運命というやつに、どこまでも小馬鹿にされているような気がしてくる。
男は、箸をおき、コップの水を一口のんだ。
席を立つ。丼の中のそばはほとんど残っている。
勘定のとき、こんなまずいものを出して、よく平気でいられるね。と
嫌味の一つも言ってやろうと男は思った。
あんたにとっては、どうということもない一杯のそばだろうが、
俺にとっちゃ深い意味があったんだよ。

レジに、店主が入る。男のだした1000円札を受け取る。
男が、よし、一言、と息を吸い込んだその瞬間――
店主は破顔一笑し、あーりがとうございましたー、と高らかな声をあげた。
さっきまで、口を動かすのも億劫だ、と言わんばかりの態度だったのが
信じられない豹変ぶり。
現金と引き換えにだけ、感情表現という労働をする…
それがこの店主のルールらしかった。
300円の、ぉー、おぅかえしでぇす。
男はタイミングを狂わされ、黙ってつり銭を受けとるしかできなかった。
まぁたおこしくぅださいませぇ。
店主の声を背中で聞きながら、男は引き戸を開け、店の外に出た。

まだ、日は十分に高かった。むしろ、ようやくそろそろ昼という時間。
腹はまだ、満ち足りていない。

男は、このそば屋の人生をしばし思った。
愛想と労力の出しおしみをしながら、ただ不味いだけのそばをつくる人生。
あの男にも、若く希望に満ちた頃があったのだろうか。
ひょっとすると、他人から受けた度重なる裏切りや、
思いにまかせぬ事々が、
長年の間に彼の心をいびつな形にねじり固めてしまったのかもしれない。
が…他人の人生はわからない。
余人にはうかがいしれない、彼なりの生きがいが、
そこにはあるのかもしれぬ。

男は決めかねていた。
来た道を戻るか。
もう少し先まで歩いてみるか。
目の前の道路を、ぶおん、と音をさせてトラックが1台通り過ぎる。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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直川隆久 2019年4月21日「夕方の匂い」

夕方の匂い

   ストーリー 直川隆久
      出演 清水理沙

お向かいの徳永さんは、空き家になったままだ。
道路から中をうかがうと、
新たな家主である雑草たちは野放図にのびさかり、
鮮やかな緑色で庭を覆いつくしつつある。
ふと気づく。今日は豚の角煮を煮る匂いがしない。

この家に引っ越してきた頃、
徳永家は、ご夫婦と幼いお嬢さんの3人暮らしだった。
けれど、お嬢さんが高校生の頃、
一人で北海道旅行に行ったまま、
行方不明になってしまったのだという。
わたしが物心つく前の出来事だ。
徳永の奥さんは、それから毎日、豚の角煮を作り続けた。
角煮が娘さんの大好物だったから。
いつあの子がもどってきても、角煮をたべさせてやれるように。
徳永さんのご主人は、何年かして、出て行ってしまった。
それでも、角煮の匂いはおさまらなかった。
砂糖と、醤油と、豚の脂と、八角の混ざりあった、
粘り気の強い匂い。
塾の帰り、部活の帰り、バイト先からの帰り…
わたしは、毎日、お向かいから漂ってくるその匂いを
嗅ぎながら生きてきた。
それは去年の暮れ、徳永の奥さんが入院するまで続き――
年を越すことなく、奥さんは亡くなった。

我が家と徳永さんの家とは付き合いがなく、
ときどき、家の前の道路を掃除する奥さんと挨拶をかわすくらいで、
そのお宅に上がったこともない。
それでも、生垣の切れ目からのぞくその庭が、
徐々に荒れていく様子を見るのは、悲しかった。
わたしは、門の前に進んだ。
門の扉を押してみる。すると、抵抗なく開いた。
入って…みようか?
周囲に誰もいないことを確認して、庭に入ってみる。
足元から、バッタが何匹か跳ねて逃げた。
庭の方を見ると、レンガで区切ったごく小さな花壇がある。
ふだん道路から覗くときは生垣に隠されて見えなかった。
草しかはえていない花壇に、
色あせたプラスチックのショベルが落ちていた。
昔、娘さんが使っていたものだろうか。
庭に面した側は雨戸で塞がれていて、中の様子はわからない。
道路側を振り返ると、生垣越しに自分の家が見える。
こんな角度と距離で自分の家を見たことがない。
すぐそこにあるのに、なぜかとても遠いところに感じる。
わたしは、玄関に戻り、ドアの取っ手に手をかけた。
ドアを引く。
鍵がかかっていてほしい、と思う自分もいた。
だが、ドアは、そのままこちら側に開いた。
中の空気が流れだす。
それは、あたたかく、今まさに料理をしている人と、
火の気配をふくんだ空気だった。
そして…わたしは、嗅いだのだ。
角煮の匂いを。
いま、まさに、くつくつとお鍋の中で煮込まれている。
その匂いの密度で、
もう、出来上がりの近いことがわかる。

「りかちゃん?」と女性の声が奥からする。
「りかちゃん、帰ったの?」
そして、ぱたぱたと軽やかな足音がこちらへ向かってきた。
わたしは、扉を閉め、玄関から道路に走り出る。
ごめんなさい。
ごめんなさい、徳永さん、わたしは、りかさんじゃないんです。
道路でわたしは、うずくまる。

何秒後か何分後かわからないが、
わたしは車のクラクションで我に返った。
振り返ると、見慣れた徳永さんの家が見える。
角煮の匂いは、もうしなかった。
庭の雑草が、傾きかけた太陽の光にまぶしく照らされている。



出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

 

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直川隆久 2019年3月17日「ういろう」

ういろう

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

よく晴れた春の日。
やや明るすぎる色の着物に身を包み、
叔母の光代が訪ねてきた。
叔父の葬式からひと月たつかたたぬかの頃のことだ。

叔母は客間に通され、
座卓を挟んで父母と相対(あいたい)した…はずであった。
様子を隣の部屋からうかがってみたが、
叔母の声は小さく、聞き取りにくい。
父母の相槌は聞こえず、
叔母だけが喋る様子がきれぎれに聞こえる。
そんな時間がしばらく続いた。
なにやら不穏な雰囲気を感じて襖に耳を近づけた時。
「それはつまり、なにかいね。浜口の家と縁を切りたいということかいね」
母親の、棘を含んだ声が聞こえた。

母と叔父の幸彦は雑多な農具やら工具を商う金物屋の
二人姉弟(きょうだい)であったが、
母が役場勤めの父と所帯を持つために実家を出たので、
家業は弟である叔父が継いだ。
継いだといえば聞こえはいいが、要は身の処し方を決めないうちに、
ずるずると既成事実に流されてそうなったようだ。
叔父はどちらかといえば線の細い芸術家気どりの男で、
東京の藝術大学に進学できず田舎の金物屋を継いだ我が身を
いつまでも拗ねているところがあった。
35まで独身であった叔父と、商工会議所の会長の紹介で
5年ばかり前に祝言をあげたのが、光代叔母だった。
東京出身である叔母は会長の遠い親戚筋にあたり、
空襲で身寄りを亡くしていた。

襖の隙間からのぞくと、
ちょうど光代叔母がこちらを向いて座っているのが見えた。
その前には、茶碗と茶菓子がある。
茶碗からの湯気はとうに立たなくなっている。

東京で育った光代叔母はこの村の旧風に馴染めなかったようだ。
寄合だの集会があれば、女達は早朝から酒肴(さけさかな)を準備し、
男共の騒ぎの傍に控え従わねばならない。
そういう集まりに、光代叔母は、遅れて行くことが多かったらしい。
あんな朝寝の癖のある嫁では大変だ。
そう噂する口幅ったい女には事欠かない土地柄であった。
陰口がいつしか面とむかった皮肉へと変わっていくに従い、
光代叔母は、村の公の場に姿を現さなくなった。

私の家は、叔父の金物屋と遠くないところにあった。
私は、父宛てに届く中元や歳暮の品のお裾分けを持って、
よく遣いにやらされた。
だが「お裾分け」は口実であって、
私の真の任務は、叔母が「世間体の悪い暮らしぶりをしていないか」の
偵察をすることだった。
掃除の行き届かない金物屋の奥に、叔父夫婦の暮らす住居があった。
「ご苦労様、公一さん」
叔母はいつも、学生服の私を、なにかほっとしたような顔で迎え、
茶を淹れてくれた。
叔父は、たいてい留守であった。
「忙しいらしいの」と叔母は言ったが、忙しいのは商売よりも金策であったろう。
何やら怪しい投機の話に乗せられたという噂もあった。
叔母が一人で番をする留守宅には、いつも同じ落語のレコードがかかっていた。
「あの人はこういうの嫌いでね。留守のときでなきゃ聞けやしないの」
そういいながら叔母は、文楽の「明烏」を聞きながらくつくつと笑った。
そして私の帰り際には、公一さん、少ないけど、といいながら、
百円硬貨を握らせてくれた。
洗濯物が畳の上に無造作に積み上げられている様子や、
店屋物の丼が洗わぬままに戸口に置かれている様子を
叔母に気づかれぬよう目に焼き付けながら、
私は、何か後ろめたい気持ちでその百円を受け取るのが常であった。

ほどなくして叔父が金銭がらみの心労からか倒れた際、
病室で光代叔母は母に面罵された。
普段あなたが嫁として務めを果たさないからこういうことになるのだ、と。
「うちの公一も言うとったがね。あんたが、呑気に店屋物を食い散らかしとるて。
どこのお大尽のつもりか」
病室の外の廊下のベンチで待っていた私は、その母の声を聞いて、ひやりとする。
少しして、病室から外へ出て来た叔母は私に気付いた様子だったが、
私は目を合わせることができなかった。
その三日後、叔父は息をひきとった。
光代叔母と叔父の間には、いまだ子がなかった。

「せめて四十九日待つくらいのことが、なぜできやせんの。
それでもあなた、浜口の家の人間かいね」
客間の母はいら立ちを隠そうとしない。
光代叔母は、母の語気につられる様子もなく、淡々とした調子で答える。
「ちがいます」
「何?」
「わたしは、こんな人間だから…浜口の家の人間と認められたともおもってません。
だから…」
「だから、何かいね」
「浜口家の人間として…幸彦の…
浜口の家のお墓掃除をするために生きていくつもりもない」
んま。絶句する母に、叔母は畳みかけた。
「お姉さん。私今日、お許しを乞いに伺ったんじゃないんです。
ご報告をしに伺ったんです」
そう言いながら、叔母は、眼の前の黒文字を手にとった。
菓子皿の上には、桜色のういろうがのっていた。
叔母の黒文字が、ういろうの上にあてられる。
そしてその黒文字がゆっくりと、垂直に下っていく。
重く柔らかな、ほの赤いういろうの肉を裂いていく。
二つに切り分けられた片方に、その黒文字が突き刺された。
叔母は、重みにしなるういろうを口元に運び、ひとかぶりに口に含んだ。
少し滑稽なほど頬が膨らみ、細い顎が緩慢に上下するのが見えた。
母も父も、叔母も、言葉を発しない。
無言の時間が過ぎていった。

小一時間ほどたって、玄関口で暇を告げる叔母の声が聞こえた。
父母は、客間に座ったままで、見送りをする様子もなかった。
引き戸を閉める音が聞こえてから、
私は、客間を通らずに縁側から庭に降り叔母を追った。

門を出たところで、ほんの3~4歩先を歩く叔母の背中が目に飛び込んだ。
「光代叔母さん」
と私は声をかける。叔母は振り返り、何も言わずこちらを見た。
少しあって、叔母が口を開いた。
「公一さん。ういろうって、この辺りの名物なの?」
虚をつかれた思いで私は、ただ、はい、とだけ答えた。
「そうか…今日の今日まで知らなかったな。初めて食べたの」
と叔母は言って、日傘を開いた。そしてこう付け加えた。
「おいしくなかったわ」
そう言って叔母は、あははは、と、今までに見たことのない晴れやかな顔で笑った。
彼女の心の中の明るい広がりが見えるようだった。
その明るい広がりの中に、私が占める場所はおそらくなさそうだった。
だが私は、それでいいと思った。
叔母は踵を返し、歩き出した。
そして、振り返ることなく私の視界から消えていった。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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直川隆久 2019年1月20日「流れでたもの」

流れでたもの

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

その昔、北の方にある国の片隅にある村での話である。
両親と一人娘が暮らしていた。
ある朝、寝床から来た出てきた幼い娘を見て、両親はおどろいた。
娘の眼から青い液体が滴り落ちていたからである。
枕がわりに使っている丸めた麻布も、真っ青に染まっていた。
昨日変わったことがなかったかと尋ねる両親に、
娘は、森の奥の湖で草の舟を浮かべて遊んでいたときに、
ふいに水面がまぶしく点滅するのを見た、と答えた。
光が消えるまでの間なぜか目が離せず、じっと見つめてしまった、と。
そのせいで眼が傷ついたのかもしれない。
そう思って両親は娘を村医者にもとへ連れていった。
しかし、耄碌しはじめの村医者は、なんの異状も発見できなかった
。麻布にしみこんだ青い液体についても、明解な言葉はなにひとつ。

その翌朝。娘は、あざやかな橙色の液体で眼を濡らしながら目覚めた。
寝ている間に痛んだりしなかったのか、両親は娘に尋ねる。
なにもいたくない。娘は答える。ただ…
ただ?と両親が問い返すと、娘は、
きのうは夕焼けの夢を見ていた気もする、
と答えた。
そう言われればたしかに、娘の眼から流れた液体は、
夕焼け空を水に溶かせばかくもという色をしていた。
見た夢をよくおぼえておくように両親は娘に言いつけた。
その夜娘は、森の中を歩く夢を見、
娘の眼からはコケのように鮮やかな緑色の液体が流れ出た。
別の日には、娘は雪だるまをつくる夢を見、
その眼からは山羊の乳のように白い液体が流れ出た。

つまりは、夢が漏れているのだ、眼から。
村医者は、最初からわかっておった、といわんばかりの訳知り顔で解説した。
おそらく、幼いからだろう。幼ければ、夢もよくみる。
苦しくないのであれば、ほっておくがよかろう。
成長すれば、おのずと夢も見なくなる。

ある日、両親と娘の家を、隣村の大地主が訪ねてきた。
高齢のその男の顔の肌は乾燥のあまり粉をふき、
足腰も衰えているとみえ、使用人に脇を抱えられながら親子の家に入ってきた。
地主は、貧しい家の中を眺めまわしてからこう言った。
――あんたの娘の流した「夢」をゆずってほしい。
男は小指の先ほどの大きさの薬瓶を父親に手渡しながら続けた。
これに一杯ためてくれれば、金貨、1枚出そう。

両親は、娘を説き伏せ、夜中、娘の枕元を交代で番をした。
そして、娘の眼から何かが流れはじめると、
すかさず小瓶を娘の眼もとに押し当て、その液体を集めた。
流れ出るものの色は、日によって違う。
濃い紫色のこともあれば、ごく浅い黄色なこともある。
一晩にひとしずく、三晩で三滴、という具合にたまっていく液体は
不思議なことにたがいに混ざらず、
ガラス瓶の中で、虹のような層をつくった。
ひと月の後、地主が再びやってきて、約束どおり金貨を一枚置き、
小瓶をもって帰った。
一体それで何をするのか、という両親の問いかけには、
地主は最後まで答えなかった。

何日か後、娘の母親は、村の井戸の近くで、
介添え人の助けもなく背筋を伸ばして歩く地主の姿を見た。
髪はこころなしか豊かになり、肌艶も別人のよう。
父親が、地主の家の使用人に酒をおごって話を聞きだした。
――旦那は飲んだと見えるね。あんたの娘の眼から流れ出たあれをさ。

ほどなくして、両親の元には、
金貨を握りしめた老人達がひきもきらず訪ねて来るようになった。
そして、皆が娘の流す「夢」を買いたがった。
値は瞬く間に吊り上がる。両親の手元には、大金が転がり込んだ。
それでも、注文は増える一方。
両親は交代で娘の枕元で夜通し番をし、
眠る娘の眼からで流れでる液体をひとしずくも漏らさず集めた。
が、それでも追いつかない。
ある日父親が言った。そうか、起きている間にも夢を見ればいいのだ。
どうやって?母親が訪ねる。
起きている間に見る夢といえば、良い暮らしをする夢じゃないか。
と父親が言った。
父親は、手元の金貨を、娘の眼の前に積み上げた。
――ほら、思ってごらん。一生金貨にこまらない暮らしを。
――どんないいことがあるの。
毎日、うまい肉が食える。牛の乳でつくったクリームで風呂を満たして、
そこで泳ぐことだってできる。
指にずっしりと食い込むようなでかい宝石の指輪だってはめられる。
縫い糸の一本一本まで絹でできていて、
着ていることすら忘れるような、軽い軽いドレスだって。
そして一番大事なことは…
金を持っている人間は、必ず一目おかれるんだ。
気を使われる。人の道具にならずに済む。
そんな暮らしが、3人でできるんだ。そして、父親は付け加えた。
起きて見る値打ちのある夢は、金の夢だけさ。
――わたしにどうしてほしいの?
――夢を見るのさ、いい暮らしの夢を。
これよりもっともっとたくさんの金貨の夢を。

娘は、じっと父親の指し示す金貨を見つめた。
しばらくののち、娘の目の縁が光り、
そこを濡らしたものが、あふれ出た。
両親はあわてて瓶に集める。
だが、それは、何の色もない液体――つまり、涙であった。

その日一日、娘は言葉を発しなかった。
夜、無言のまま寝床に行き、そのまま眠りに落ちた。
そして、翌朝になっても眼をさまさなかった。
三日たち、ひと月たち、1年たっても、娘は眼を開くことはなく、
両親が口に含ませる砂糖水だけで、生き続けた。
さらに長い年月が過ぎ、両親が老衰で死んだ後になっても、
ついに娘は眼をさますことはなかった。
そしてその間、娘の眼から色鮮やかな液体が流れでることは、
ただの一度もなかったということである。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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直川隆久 2018年11月18日「落ち葉長者」

落ち葉長者

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

冬至に近い頃あいのよく晴れた日、
おれはX山の展望台からの下山ルートをたどっていた。
木立のせいで見晴らしもない上に角度が急な斜面を嫌って、
ほとんどのハイキング客はケーブルカーを利用する。のだが、
俺は人気のない登山道を一人で歩くのが好きで、
よくこの道を使うのだ。
山道のとおる斜面はやわらかな光につつまれて、
歩いていて気分が和む。なべて世は事もなし、という気分。
道の両側にはクヌギやコナラが自生し、
茶色いじゅうたんのような落ち葉を斜面にしきつめていた。
調子よく歩いていたときに、
右側の視界の端に妙なものが映った気がした。
振り返って確認すると、
地面の色合いが…
半径3メートルほどの範囲で変わっているところがある。
なに?なんだろう、と近づいてよく見ると、
それは…大量の一万円札だった。
何千万円、いや、何億円分あるだろうか。
まるで廃棄物のように無造作に散乱している。
ぎょっとして足がすくみ、思わず周囲を見渡す。
映画かなにかを撮影していて、そのセットだろうか?
だが、周囲にはスタッフらしき人間も見えない。
一枚を拾い上げて見てみる。
そこには映画の小道具然としたちゃちさは微塵もなく、
どこからどう見ても本物だ。
犯罪?
不安になって耳をそばだて、周囲をうかがう。
そのとき、顔の前をはらりとかすめるものがあって、
思わず、ひゃおうと大きな声がでてしまった。
かさ、と音をたてて地面に落ちたそれを見ると、一万円札。
それが降ってきた方向を見上げて、再度たまげた。
俺の頭上にひろがった樹の枝には、
一万円札がわっさわっさと茂っている。
そして、風がふくたびに、
万札がはらりはらりと冬の陽光に照らされながら散り、
降り積もるのだった。

ガコ、と音がして、頭上をケーブルカーが通り過ぎた。
ケーブルカーは樹高よりは相当高いところを通っており、
地面の万札に気づく乗客はいなさそうだ。
が、あまり同じところにとどまっていれば怪しまれる可能性もでてくる。
俺は慌てて足元の一万円札をかき集め、
ウィンドブレーカーのポケットに詰め込めるだけ詰め込むと、
残りの山道を急ぎ下った。

アパートに戻り、持ち帰った一万円札の一枚を手にとり、
ためつすがめつ眺める。
本物の万札と比べても、寸分違うところはない。
ご丁寧にすかしまで入っている。
しかし…これは、実際に使える金なのかどうか。
実地で確かめるよりない。
ポケットに天然の万札を1枚入れて、街に出た。

コンビニで使うと店員の目にとまるので、
駅の自動券売機にそれを入れてみる。
一番安い切符のボタンを押すと、切符とつり銭がでてきた。
いきなり券売機がピービ―鳴りだし、駆け付けた係員にとっつかまる…
ということもなく、9,870円の現金がおれの手元に残った。
ほっとする、と同時に、しみじみと嬉しさがこみあげてきた。
その金で回転ずしに行き、つい大トロばかり12皿も食ってしまい、
気分が悪くなった。
アパートの帰ったおれは、拾った一万円札を、中国のまじないよろしく、
上下逆さまにして壁にセロハンテープで貼り付けた。金運招来。

持前の用心深い性格が幸いしてか、金は意外に長くもった。
車も乗らないし、ブランドものにも興味がないので、
一息に使う理由がない。
毎日、スーパーで刺身を買って食うようになったくらいだ。
また、使えない事情もあった。
足がつくのを避けるために、使う場所をあちこち変えたのだ。
あちらの駅の券売機で一枚、
そのあとで電車に一時間乗ってパチンコ屋に入り、
一枚を玉に替え、そのまま景品所で現金に再び戻す、というように。
これはなかなか厄介で、そうか、マネーロンダリングというのは、
こういうところにニーズがあるのだなあ、と妙な納得をする。

しかし、あの樹はいったいなんなのか。
突然変異でそんな新種が誕生したのか。
いや、それはいくらなんでも…バイオテクノロジーというやつか。
そうなると、誰かが、目立たないようにあの樹を育てたということなのか。
…答えはでない。面倒くさくなってやめた。

このペースなら当分金はもちそうだったが、ふと不安になった。
季節が春になって、周囲が新緑になったころになると、
あの樹はどうなるだろう。
一本だけ茶色い万札がわっさわっさと茂っていれば、否応なく目立つ。
そうなれば…
俺は、急なあせりをおぼえ、次の日、夜もまだ明けきらぬうち、
リュックを背負ってX山の登山口に向かった。
今日は逆ルートで登り始める。
小雨がぱらついており、ほかのハイキング客も見当たらない。
30分ばかり、ひたすら進む。
確かこのあたり…というところにさしかかって、ぎょっとした。
相当に広い面積…テニスコート一枚分ほどの広さで、
周囲の赤茶けた土がむき出しになっている。
巨大なショベルでこそげとられたかのように樹木の根すら残されておらず、
無残な有様だ。
もちろん、あの「金のなる樹」は跡形もない。
何者かが、土木工事をおこなったのだ。
土の表面はまだ湿っていて、
「伐採」からそう時間はたっていないように見えた。
…それにしても、これだけの規模の伐採と土砂の運搬をしようと思えば、
相当な重機が必要なはずで、
そんなものをどうやってこのせまい登山道しかない山に運び上げたのか。
だれが?
おれは、恐ろしくなってそのまま後ろも振り返らず山道を駆け下りた。
帰りのスーパーで、ハマチの刺身を買った。

同じようなペースの数か月が過ぎ、五月の連休も過ぎた時分。
手元の一万円札は確実に数を減らしていき、残るは最後の一枚となった。
壁に貼った一枚だ。
そうか、これで最後か。この一枚がなくなったら、
もう毎日刺身を食うのは無理なのか。
はたしておれは、一度知った刺身の味を忘れられるだろうか。
などと思いながら重苦しい気分で逆さまの一万円札を見つめていたその時。
きゅー、という聞き慣れない音がして
万札の端っこがまぶしい光を発したかと思うと、
どかんと音がして、煙があがった。
一万円札があった場所からしゅうしゅうと音をたてて炎があがる。
わ。
わ。
わ。
おれは仰天して、コップの水をかける。ぼふ、と音がして、
猛烈な湯気が立ち上る。
だが、しゅうしゅうという炎は一向に収まる気配がない。
鍋に水をくみ、1杯、2杯、3杯、と壁にぶちまけ、ようやく収まった。
焦げ臭い煙でいっぱいになった部屋の中で、おれはがたがた震えていた。
確かに見た。
万札が、火を噴いた。
これが、おれのポケットの中にあったら…?火傷くらいではすまなかったろう。

幸いに火災報知器は発動せず大ごとにはならなかったが、
隣家の住人には怒鳴り込まれた。
壁に貼った一万円札が爆発したんです、とはいえず、しどろもどろに答える。
いやな動悸がおさまらないまま布団に潜り込む。
寝床で、もしや、とおれは考えた。
これは、現金の形をした兵器なのかもしれない。
あんな目につきやすいところに樹が植わっていたのは、
やはり意図があったのではないか。
わざと、人間に、拾わせる、という意思が。
まずは、人間に、金を拾わせ、気分よく使わせる。
万札は、人から人へ、どこまでも渡っていく。
細分化され、人間社会の網の目の中へ、とめどなく浸透していく。
そして、十分に、時間をおいたある日、
いたるところで突然火を噴き上げる…。
遺伝子操作か何かで、誰かが、そんな兵器をつくったんだろうか。
そして、人知れない山で、栽培した。
だが、何かの事情で証拠隠滅をする必要がでてきた。
それで、山肌をごっそりと削り…
そんなことが地球の科学でできるんだろうか?だとしたら…?
いや、原因はもうどうしたってわからない。問題は、
これから起こることだ。
おれは、金のつもりで時限爆弾をばらまいたのかもしれない。
冷や汗が首筋を流れ、がば、と寝床から飛び出す。
テレビをつける。
通販番組が、ヒザ関節によいサメの軟骨を大盤振る舞いしている。
画面の上に、不審な出火や爆発事故を伝えるニュース速報が
現れるのを待ちながら、おれは動くことができない。

えらいことになった。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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