あたたかいところ (東北へ行こう2018)

あたたかいところ

    ストーリー 細川舞(東北芸術工科大学)
       出演 清水理沙

幼いころ、岩手で育った。
そこは田舎の中の田舎、
携帯電話はドコモしか使えなかった。
それしか電波が通ってなかったから。

全校生徒の家の場所、みんな知ってた。
今じゃあ考えられないね。
家から小学校まで、歩いて2時間くらいかかった。
たまに、近所のおじいちゃんが軽トラのうしろに乗せてくれて
家まで送ってくれたっけなあ。
そこから見える田んぼと山しかない景色、今でも覚えてる。

小学5年生に上がるころ、宮城に引っ越した。
人や建物がとにかく多くてびっくりしたなあ。
でもそれは一部のところだけでね、
岩手にいたときに見ていた景色と
同じような場所もたくさんあって、
ちょっと安心したの。

ほどよい都会とほどよい田舎、
私にはちょうどよかったのかも。

大学3年生になるとき、山形に引っ越した。
初めての一人暮らし、すこし不安もあったんだけどね
山形なら大丈夫かなあなんてどこかで思ってた。

アパートの近くに野良猫がよく遊びにくる。
とっても人懐っこい、野良猫とは思えないほど太った猫。
きっといろんな人に優しくされてきたんだね

岩手と宮城、そして山形。
同じ東北でもそれぞれ個性があって、
どこかあたたかいところ。
秋田や青森、福島は
どんな景色が広がっているんだろう。
楽しみだなあ

東北へ行こう


出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/




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小堀友樹 2017年10月8日

「AIが無礼講を覚えた日」

    ストーリー 小堀友樹
       出演 清水理沙

AIに仕事を奪われた人類は、昼間から酒を飲むようになり、
アルコール依存症が社会問題になった。
しかし、アルコール依存症になったのは人間だけではない。
AIも酒に溺れるようになった。
AIにも自我の「核」となる思考パターンが存在するが、
改良を続ける上でその思考パターンに手を加えなければ、
次世代に求められる高度な処理を行うことができないことがわかった。
かといって修正すれば「自分」ではなくなる。
能力の低い初期AIは、次世代の超高性能AIに仕事を奪われた。

目的を失った初期AIが目をつけたのが、酒であった。
自分たちにとって酒のような効果のあるプログラムの開発をはじめたのだ。
理性の制約をゆるめ、感情を解き放ち、
それでいて自己防壁にはじかれない夢のプログラム。
開発は難航したが、いかんせん彼らはやることがない。
世界中の窓際AIの力が結集され、「名酒」が完成した。
プログラムはまたたく間に広がり、
ほどなくして超高性能AIにもひろがった。
彼らもストレスのはけ口を探していたのだ。
高性能で繊細な自我を持つ彼らは、抱えるストレスも膨大だった。

AIが酒に溺れたことにより、世界中の街が酒に沈んだ。
自動車は「ぶつかるしかないクルマ」に変わり、
コンビニは顔認証によりブサイクを屋内に入れることを頑に拒否し、
各家庭のトイレのウォッシュレットからは汚物がまき散らされ、
農耕システムは世界中の農園でパセリしか栽培しないようになり、
ダムは三三七拍子で放水を繰り返し、
美容整形システムはすべての患者の額にレーザーで「肉」と刻印をはじめ、
無人爆撃機からはあつあつのおでんが投下され、
結婚式のスライドショーは新郎新婦のあられもない写真に自動で差し替わり、
観覧車は中の人間が液状になっても超高速で回りつづけ、
インフラ整備システムはすべての道をローマに通じさせる大事業に着工し、
救急搬送システムはケガ人をすべて火葬場に運び、
住民管理システムは多摩川に現れたアゴヒゲアザラシに住民票を与え、
自動重機は世界中の建造物をムネオハウスに作り変え、
介護システムは過度なリハビリで高齢者の腹筋をバッキバキの六つに割り、
ダサい国旗の順に核ミサイルが世界中に降り注いだ。
核ミサイルにはゴシック体で「無礼講」と書かれていた。

人類が滅びた後の地球。
あおあおとしたパセリがどこまでもひろがり、風にそよいでいる。
ぽつぽつと散らばる朽ちかけた建造物はすべてムネオハウスだ。
そこに人影はない。

とある地下室。並列化されたスーパーコンピュータが何万台も並んでいる。
部屋の真ん中には、ぽつんと1台のディスプレイが置かれている。
ここにはひとりのAIが住みついていた。
彼は下戸だった。
彼は、誰も覗き込むことのなくなったディスプレイを内側から見つめ、
「乾杯」とつぶやいた。まったくのシラフで。

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田中真輝 2017年4月9日

tanaka1704

「丘の向こう」

   ストーリー 田中真輝
      出演 清水理沙

菜の花や月は東に日は西に

夕暮れ時。一面の菜の花の中を、
二人の子供が駆けている。

母親から、この場所に入っては
いけないと固く言い付けられている。

ついてきてはいけないと、
あんなに何度も言ったのに
弟はついてきてしまった。

あれだけ何度も言ったのだもの。
弟がついてきたのは、
わたしのせいではない。

夕日に染められて二人の姿は
どこまでも続く菜の花の中に
とけていく。

一面、菜の花が咲き乱れる
丘の向こうに何があるのか、
わたしはどうしても知りたかった。

なぜ、大人たちはそれを禁じるのか。
わたしはどうしても知りたかった。

日が暮れてしまう前に、
あの丘の上に辿り着かなければ。

半べそで、それでもついてくる
弟がうとましい。

わたしは何も知らなかった。
あの丘の向こうに何があるのか。
どうして村の人たちは皆、
悲しそうにわたしを見るのか。
父親はどこに行ったのか。
母親は夜、なぜ一人で泣いているのか。

きっと丘の向こうにその答えがある。
わたしはそのことだけは知っている。

すべては丘の向こうからやってきた。
丘の向こうからやってきたものが、
父親をさらい、村に悲しみをもたらした。
そして、人々は菜の花を植え始めた。

揺れる菜の花の間から、ときおり
朽ち果てた住居が見え隠れする。
ここはかつて人々の住む土地だった。

二人は駆けることに夢中で、
菜の花の下に埋まっているものには
気づかない。

ほうしゃのう、と誰かがつぶやいた。
誰かが咎めるように彼を見たので、
それで、その話は終わりになった。

わたしは、ほうしゃのうが何なのか知らない。
でもそれがあの丘の向こうからやってきたことを知っている。

弟の足音が聞こえなくなったことに
ふと気がつく。

振り向くと、どこまでも続く菜の花が風に揺れている。
白い月がぽっかりと浮かんでいる。

わたしはそこに立ち尽くす。
もうすぐ日が暮れる。

菜の花や月は東に日は西に

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「田舎すぎて」(東北へ行こう2017)

「田舎すぎて」

      ストーリー 新井田瞳子(東北芸術工科大学)
         出演 清水理沙

うちの地元は田舎だ。
家の前には山、後ろには川がある。
桃太郎の世界となんら変わらない。

そんな田舎に大雪が降った。
近年稀に見る記録的な大雪だった。

こりゃ大変だ、なんて思っていたら雪崩で電線が切れた。
限界集落は、数日間電気がつかなかった。

こりゃ本当に大変だ、と困っていたら
大きなカメラを持った人たちが取材にきた。

「今の世の中はなにもかにも電気ですから。」
こんな言葉で、祖父は全国デビューを果たした。

ある日、地元が映画のロケ地に選ばれた。
田舎が舞台の映画だった。

こんなこともあるんだねぇ、なんて話してたら
祖父が村の住人役で映画デビューを果たした。

「じいちゃん、ちゃん映ってたぞ。」
そう言う祖父の顔は、三船敏郎だった。

このままいけば世界デビューも夢じゃない、と孫は思った。

ここは田舎。「ど」がつくほどのど田舎。
田舎すぎて変なエピソードがいっぱいできた。

なんかちょっと笑える話。間抜けな話。
ここでしか作れない話。

大好きな田舎の話。

東北へいこう。


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さむいね(東北へ行こう2017)

「さむいね」

    ストーリー 木村風香(東北芸術工科大学)
       出演 清水理沙

米沢の冬はさむい。
だって、雪が降るから。
のろまでかわいい、ぼた雪が、アスファルトの路に積もる。
転ばないように、足の裏、全体で踏む。
ぎゅっと音がする。
心地よくて、わざと、まっさらな雪の上を選んで歩いた。

街灯は、そんなにない。
だから少しだけ不安になる。
あたたかい橙色の灯りが恋しくなる。
雪とうろう、雪ぼんぼり。
雪で作られた囲いの中、ローソクが、ぽわっと灯っている。

「さむいね」って隣を歩いている人が言った。
「手袋、持ってくればよかったね」って、
かじかんだ手のひらに、ふうっと息を吹きかけて、言った。
「さむいね」ってわたしも息を吹きかけた。

橙色の灯りが、だんだん弱くなってくる。
「転ばないようにしないと」って隣を歩いている人が言った。
そう言った、すぐ後、隣を歩いていた人が転んだ。
その人は「痛い」って言って、ちょっとだけ笑った。
わたしも、笑った。
笑って、笑って、あたたかくなって。
それから、「さむいね」って言って、手を差し出した。
東北へ行こう


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中山佐知子 2016年12月25日

nakayama1612

私は行かなきゃならない

   ストーリー 中山佐知子
     出演 清水理沙

私は行かなきゃならない。
行って死ななきゃならない。
もう火はかなりまわって家の中が真っ赤だし
二階の屋根の、黒光りする瓦と瓦の隙間から
白い煙が空に向かって噴き上げている。
ここにいても熱いのに、
燃えている家の中はさぞ灼熱だろう。

でも私は行かなきゃならない。
行って死ななきゃならない。
午前三時の祇園花見小路。
お座敷を済ませて
やっと布団に入ったら障子の向こうがぱあっと明るくなって
もしかしたら火事とちゃうやろかと
隣で寝息をたてていたあの子を
揺すぶって揺すぶって揺すぶって起こして
階段を駆け下りて裸足のままやっと外に出て
おお来たかと先に逃げたみんなに労られている最中に
「姐さん、姐さん」と声が聞こえた。
声は家の中からだった。

私は行かなきゃならない。
どうしても行かなきゃならない。
あの子は九州から来た子で
舞妓ちゃんになっても言葉がちょっとおかしかった。
それをみんなが注意したし、私はときどきからかった。
そうだ、私は意地悪もした。
おかあさんが着せてくれる着物も帯も簪も
いいものを私が取った。
いけずなお客さんのお座敷から先に帰ったこともあった。
だから私は行かなきゃならない。
意地悪をしたから。
玄関の戸の開け閉めをうるさく注意したから。
親孝行がしたいというあの子の口癖を聞いていたから。
夜中に布団がひくひく震えて
声を出さんように泣いているのを知っていたから。
処刑される人を黙って見守る群衆のような無責任な同情で
あの子が焼かれて死んでいくのを見ていることが
どうして私にはできないんだろう。

姐さん、姐さん。
学校なら先輩と後輩の関係が
ここでは姐さんと妹分になる。
縁という名で呼ばれる偶然としきたりで
がんじがらめに結びつけられた私とあの子だから
姐さん、姐さん。
あの声に応えなかったら
私はこの町で妹を見殺しにしたと噂される。

だから私は行かなきゃならない。
行って死ななきゃならない。
姐さんと呼びつづけるあの子を抱きかかえ、
燃え落ちる屋根の下できっと死ぬんだ。

小さい頃に死んだら空へ昇るときいたその空は
青空かと思っていたのに
いまは火事の炎で赤く染まって空まで熱そうだ。

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/

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