2014 年 5 月 24 日 のアーカイブ

佐藤理人 14年5月24日放送

140524-01
Anny Chien 簡安妮
レンジの流儀①「レッツプレイ」

鏡の中の自分が、
本当の自分とは限らない。

俳優石橋蓮司に
そう教えてくれたのは勝新太郎だった。

役をどこまで深く理解できるかこそ
役作りだと頑なに信じていた石橋。

役の解釈をめぐって
監督とケンカになることも
珍しくなかった。

自分が思う自分と、世間が期待する自分。
その間で彼は揺れた。

世間が俺を見る目はこうなんだということを
ムキになって否定せず受け入れていこう。

勝の助言に素直に従った石橋は、
その後、演技の幅を大きく広げた。

彼はそのときのことを

 役を遊べるようになった

と笑う。

そういえば劇は英語で「プレイ」という。
偶然でしょうか。

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佐藤理人 14年5月24日放送

140524-02
tokyoform
レンジの流儀②「演じない演技」

演技が上手い役者は演技をしない。
嘘だと思うなら石橋蓮司に聞いてごらん。

 役作りなんかしてません

そう言って笑うと、彼はこう付け加える。

 役は自分の一部です

警察官だからマジメとは限らないし、
殺人鬼だから素敵じゃないとは限らない。

どんな善人の中にも悪人が住んでいる。
彼は自分の中にあるいろんな自分を
意識的に強めることで役を自分に引き寄せる。

職業や肩書ではなく、人間を見る。
技術ではなく、自分自身で勝負する。

そんな彼にもひとつだけ苦手な役がある。
それは、サラリーマン。

確かに、本音と建前を
器用に使い分ける「自分」は、
彼の中にはいなそうだ。

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佐藤理人 14年5月24日放送

140524-03
[4k]shike
レンジの流儀③「黄金の街」

いい役者は、人間の専門家でもある。

石橋蓮司が演技を最も学んだ場所。
それは舞台でもカメラの前でもなく、
新宿ゴールデン街だった。

70年代のそこは文化の戦場。
理論武装なしではどこのバーにも入れない。
演技とは何か。人間はどう生きるべきか。
あらゆる論客が集まっては
夜毎、激論を闘わせていた。

そんな場所で若き石橋青年は、
自分だけの答を求めてもがき続けた。

役者を続ける理由を聞かれると
彼はいつも、

 人が好きだから

と答える。

今でもヒマを見つけてはバーに行くそうだ。
インターネットでは絶対に見つからない
面白い出逢いを求めて。

いつかこんな男に好かれてみたい。

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佐藤理人 14年5月24日放送

140524-04
TANAKA Juuyoh
レンジの流儀④「弔辞」

 原田芳雄に向かって自分が弔辞を言う、
 こんな馬鹿げた悪ふざけはあるだろうか。

本当に悲しい時、
人は映画みたく泣いたりしない。

原田芳雄の葬儀で石橋蓮司は怒った。

 芳雄の業績なんか称えたくないし
 人に伝えなくていい。
 ただただ、オマエが今
 ここにいてくれればいい。

 ほらみろ、
 破綻してしまったじゃないか。
 おまえが悪い。

悲しみと悔しさで千々に乱れた心で
冷静に弔辞の準備なんかできやしない。
だから彼は言った。

 これは映画の一場面として、
 アドリブで何か喋ってみる。

最後に共演した映画のこと。
これから二人でやりたかったこと。
たった一人の観客に向かって、
彼は思いの丈をぶちまけた。

親友を超えた戦友を失って悲しむ
ひとりの男の素顔がそこにあった。

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