2019 年 2 月 9 日 のアーカイブ

渋谷三紀 19年2月9日放送



スキャンダル文学史 漱石、最後の恋

大正四年の春だった。
京都で療養中の夏目漱石は、
お茶屋の女将、磯田多佳と恋に落ちた。

「晴れたら梅を見に北野天満宮へ行きましょう。」
交わした約束は果たされることなく、
鴨川をへだてた祗園の多佳に向け、
漱石はこんな句を詠んだ。

春の川を隔てゝ男女哉

稀代の文豪にしては、
あまりにストレートがすぎる。
翌年、漱石はその人生に幕を閉じた。

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渋谷三紀 19年2月9日放送



スキャンダル文学史 らいてう、理由なき心中

明治四十一年、
ある女性の捜索願いが出された。
平塚らいてう。
のちに女性解放運動家となる彼女。
栃木の塩原温泉に
森田草平といるところを発見され、
心中未遂として調べを受けた。

よくある男女関係のもつれかと思いきや
ふたりの間にそれはなく、
理由らしい理由も見つからなかった。

事態をおさめるため
森田の師である夏目漱石は二人に結婚を勧めたが、
その提案をらいてうは一蹴した。

ありきたりはいらない。
らいてうの中には一本通った筋があった。

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渋谷三紀 19年2月9日放送



スキャンダル文学史 谷崎、妻を譲渡す

それは昭和五年のこと。
作家の谷崎潤一郎と妻の千代が離婚した。
そのまま千代は谷崎の友人佐藤春夫と結婚。
新聞はこぞって「細君譲渡事件」と騒ぎ立てた。

話は十年ほど前にさかのぼる。
すでに恋仲にあった千代と佐藤の結婚を
いちどは承諾した谷崎が、間際になり撤回。
激怒した佐藤は谷崎と絶交した。
その後佐藤は別の女性と結婚したが離婚し、
再び千代に心を戻した。
佐藤は谷崎に心から詫び、谷崎はそれに応じた。

妻を譲ったという単純な事件ではない。
それは、十年にわたる葛藤をへて、
三人が導き出したひとつの未来だった。

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渋谷三紀 19年2月9日放送



スキャンダル文学史 恋多き女優、岡田嘉子の人生

大正八年、岡田嘉子は
新芸術座で初舞台を踏み女優となった。

座員の服部との間に一児をもうけるも、
俳優の山田と恋仲になった嘉子は、
山田の煮え切らない態度に対しある行動に出る。

映画「椿姫」で相手役を
つとめた竹内と失踪したのだ。
その後二人は結婚するが、
嘉子はまたも事件を起こす。

演出家の杉本と手をたずさえ、
樺太の国境を越えたのである。
駆け落ちと同時に亡命したふたりは、
別々の監獄に収監され二度と逢うことはなかった。
十年の服役ののち、
嘉子はソ連で再び演劇の仕事についた。

晩年、嘉子はある事実を知る。
杉本は亡命直後に、銃殺されていた。

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渋谷三紀 19年2月9日放送



スキャンダル文学史 白蓮、恋の脱走劇

望まぬ結婚だった。
炭鉱夫から巨万の富を築いた伝右衛門に嫁いだ、
白蓮こと柳原燁子。
財はあっても文化的喜びのない暮らし。
それでも伝右衛門を愛そうとした
燁子の気持ちは、幾度も裏切られた。
自分は「華族出身の美人を嫁にした」と自慢したい
夫の道具にすぎないのだと悟ったとき、
かたわらには七つ年下の青年、宮崎龍介がいた。
龍介のもとに走り妻となった燁子は歌人として、
女性を救う活動家として息を吹き返す。

残された夫、伝右衛門の逸話も美しい。
「一度は惚れた女だから」と、
罪に問うことなく燁子を許したという。

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