‘熊埜御堂由香’ タグのついている投稿

熊埜御堂由香 14年3月9日放送

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ercolemarchi
からだの話 ピナ・バウシュの問い

ドイツの前衛的な女性舞踏家、
ピナ・バウシュ。

彼女は若いダンサーたちの指導に当たる時
つねにこう問い続けた。

あなたは、誰ですか?

自分の存在を、身体だけで表現する。
その厳しい問いかけは、彼女が亡き今も、
舞台の上で生き続けている。

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熊埜御堂由香 14年3月9日放送

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komehachi888
からだの話 よしもとばななの健康

作家、よしもとばなな。
小さいときから体が弱かった彼女が、
健康について対談した時にこんな話がでた。

 風邪をひく勇気がないと健康じゃない。
 病気をしても、大丈夫だってどこかで思える、
 そういう魂そのものが健康なんじゃないか。

 
大人になり、いつの間にか、
「よしもとさんは、健康そうですね」と
周りから言われるようになったという。

きっと彼女の中では、
からだと心の歯車がぴたっと合って
ゆっくりでも、きちんと、今日も動いている。

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熊埜御堂由香 14年1月19日放送


kton25
誕生にまつわる話 赤ちゃんの手のひら

生まれたての赤ちゃんには、
握った手に指をいれると握り返す
原始反射といわれる反応がある。

それを見て昔のひとは、こう言った

 赤ちゃんの握った手の中には
 幸せが詰まっている。

無意識の赤ちゃんが、
ギュッと手に力を込めるように。
生まれながらにして、人には、人を
幸福にする力が宿っている。

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熊埜御堂由香 14年1月19日放送


L’s Mommy
誕生にまつわる話 はじめてのおつかい

1976年に発売された、名作絵本
「はじめてのおつかい」。
ある日、赤ちゃんの世話に忙しい母が
5歳の女の子におつかいをたのむ。
細やかな絵とお話で、お姉ちゃんに
なった女の子の心情を描いている。

お話を書いた作家の筒井頼子さんは言う。

 物語はつくるものではなく、生まれてくるものだと思うんです。
 つくったお話は、はかなく消えてしまう気がするけど、
 生まれてきたお話は消えないように思うんです。

そう、妹や弟の誕生は、
姉や兄の誕生でもある。
今日も、新しい産声とともに、
物語が生まれる。

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熊埜御堂由香 13年11月17日放送


godamariko
アーティストの話 川上弘美

作家、川上弘美。
普通の生活の中にある不思議を
きりとった小説を多く書いてきた。

大学の時に少し書いていたが
職業として小説を書きはじめたのは36歳の時。
それまで専業主婦をしていた。

ある日、朝からしゃべった言葉を思い返したら
スーパーのレジで「どうも」といった一言だけだった。
そのとき、また何か書いてみようかな、と思った。
けれど、書けない。
そのあと10年ほど書いては棄て、
書いては棄てを繰り返してきた。

では、なぜ書けるようになったか、
そう聞かれて彼女はこう答えた。

生活をしたからだと思う。

そう、どんな芸術も、
生きていくことからしか
生まれない。

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熊埜御堂由香 13年10月27日放送


nurpax
おやつのはなし 小林カツ代 母のフライパンケーキ

料理研究家小林カツ代。
豪快に笑い、優しい味の家庭料理を
つくる、まさに日本のおっかさん。

そんな彼女は、子どもの頃
内気で、小学校も休みがちだったという。
家がなにより好きで、
お母さんも彼女に登校を無理強いしなかった。

そんなある日、お母さんは遠足のおやつに
大きな大きなフライパンケーキをつくった。
その名のとおり卵とバターと小麦粉を
フライパンでこんがり焼いたやわらかなケーキ。
それをまあるいままもっていかせた。
すると同級生たちがワッと集まってきた。
「カツ代ちゃん、ちょっとちょうだい」
「少しでいいからわたしも!」
つぎの遠足も、そのつぎの年も、お母さんは
フライパンケーキを焼いてくれた。

小林カツ代は
のちにこんな子育て論を披露している。

 子どもにはそんなにごたいそうなこと
 伝えなくても、おいしいもの作って育てたら
 スクスク育つんやないでしょうか?

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熊埜御堂由香 13年8月18日放送



山のはなし 金時娘のいる山

箱根にそびえる標高1213メートルの金時山。
その頂上にある金時茶屋には看板娘がいる。
今年80歳になる小宮山妙子さんだ。

妙子さんの父は、北アルプスの白馬岳に、
180キロの巨石をかつぎあげたことで知られる力持ち。
親子ふたり金時山で茶屋を営みながら暮らしてきた。
しかし18歳で父をなくし、
妙子さんはひとりで山に残る決意をする。
気がつけば、その明るい人柄で金時娘として、
登山客に親しまれるようになっていた。

ある日、妙子さんの名声を妬んで、
脱獄犯がナイフを片手に
押し入ってきたことがあった。
自衛のため習得した柔道で、相手を気絶させたが
心は恐怖で震えていた。

けれど、彼女は山小屋の切り盛りを続けた。
わけを尋ねると、
彼女はくしゃくしゃの笑顔で答えた。

 だって、みんなが
 喜んでくれるもん。

登山家のアイドル、金時娘は、
今日も山頂であたたかなうどんを仕込みながら
人々を待っている。

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熊埜御堂由香 13年7月14日放送



海のはなし べサニ―ハミルトン

べサニ―ハミルトン。
ハワイに生まれた彼女は、
5歳から海にかよう小さなサーファーだった。

スポンサーもつき、活躍をはじめた13歳のある日、
彼女の人生はがらりと変わる。

早朝、波を待っていると、
左手に強く引っ張られるような衝撃を感じた。
その瞬間、自分の周りの海が赤く染まった。
左手をサメにボードごと食いちぎられたのだ。

体内の半分もの血を失った彼女は、
病室で、父親にこう言った。
「わたし、世界一のサーフィン写真家になりたいな。」
左手を肩からまるまる失い、
もうサーフィンはできないと思ったからだ。

けれど次の日には気が変わっていた。
べサニ―は、「明るさ」という強い武器をもっていたのだ。
4週間後にはもう海にいた。

現在23歳のべサニ―は世界的な
女性サーファーとして活躍している。
彼女は言う。

 人生はサーフィンみたいなものよ。
 波に飲み込まれたら また次の波に乗ればいい。

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熊埜御堂由香 13年6月30日放送


through a pin-hole
プレゼントのはなし カード

童話『クマのプ―さん』の中で、
プ―さんが、博識のフクロウに誕生日カードの
代筆を頼む場面がある。
フクロウの呪文のような言葉を、
訳者の石井桃子さんはこんな詩にした。

 おたじゃうひ たじゅやひ おたんうよひ おやわい およわい

白紙のカードに何を書こう?
あなたも、迷ったら
この詩を書きつけてみてはどうだろう。

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熊埜御堂由香 13年5月19日放送


akio長野
緑のはなし 丸山健二の田舎暮らし論

今年70歳になる、作家丸山健二。
文壇とはかかわりを持たず、
「孤高の作家」と呼ばれることもある。

東京で一時、サラリーマンをしていたが、
芥川賞を受賞したのち、
25歳で長野県の郷里に移住。
自然の中で暮らしながら、小説を書き続けている。

近年、丸山は、団塊の世代が
退職後に田舎に移住する
「田舎暮らし」現象について
深く憂えるようになった。

都会からの移住者の求める自然が
牧歌的で、優しい、うわべのイメージだけで
捉えられているからだ。
そうやって移住を決めて
挫折したひとを丸山はたくさん見てきた。

丸山が、田舎暮らしについての
思いを綴ったエッセイには、
こんなタイトルがつけられている。

 『田舎暮らしに殺されない法』。

自然の手ごわさを知っているからこそ。
丸山健二が描きだす緑は
厳しく、力強く、そして美しい。

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