直川隆久 2013年9月15日放送

ススキてすけと

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

○もしもし。
■ばい。
○あ、ススキてすけと。
■あら、ズズギざん。
○しゅんこさん、とつせんてすけと。
■なあに。
○ほくたち、つきあって、とれくらいになるんてしょうね。
■どうじだの、あらだまっで。
○すっとかんかえてたんたけと、ほくたち、ふしきなカッフルてすよね。
■ぞうね。
○ほくわ、たくてんのないおとこ。
■わだじわ、だぐでんばがりのおんな。
○せいはんたいたけと…
■ぜいばんだいだげど、ぞごがびっだりなのがもじれない。
じばらぐまえにぞんなばなじをじだどごろよね。
○ても、しゅんこさん、ほくは…そろそろつきのステーシにいきたいんた。
■えっ。
○ほくはもっとあなたと…あなたとのキャッフをうめたいんた。
■ギャッブっで…どういうごどがじら。
○おなしものをたへてもほくはフリンといって、
■わだじわ、ブリンでいう。
○トイレットヘーハー。
■ドイレッドベーバー。
○ハイナッフル。
■バイナッブル。
○それたけならまたしも、
しゅんこさんか「うちのははわ」っていうと
ははなのかハハなのかとちらかかわからない。 
にほんこのおかあさんなのか、えいこのおとうさんなのか。
■「ババ」なのが「ばば」なのが、わだじもごんらんずるわ。
○ことはをかさねるたひに、ほくわ、ふたりのちかいにはかり、
こころかとらわれる。これか、キャッフてす。
■でも、ぢがいをみどめあい、ぞんぢょうじあのも、
ガッブルのありがだではないの?
○そんな…そんなきれいことはききたくないんた!
 ほくは…ほくは、いますく、しゅんこさんとひとつになりたいっ。
■でも…でんわで、どうやっで?
○こまかいことわこのさい、きにしないてくたさい。
■だめ。わだじ、まだ、ぶみだずゆうぎがない。
○しゅんこさん。こうかいはさせません。
■…ごんな、だぐでんだらげの…
にごっだでんどがいでだぐでんだらげのおんなでいいの?
○こけつにいらすんはこしをえす。
■…(やや間)…ごうがいじないのね…?
○…しゅんこさん!
■ズズギざん!
○しゅんこさーん!さーん!……(エコーの口マネ)
■ズズギざーん!ざーん!ざーん!…
(間)
○しゅんこざん!
■ずすきざん!
(二人ユニゾンで)
◎…あれ?

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

  

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中村直史 2013年8月11日

花火男

    ストーリー 中村直史
       出演 遠藤守哉

気づいたときには、男は火薬の詰まった真っ黒い玉になっていた。
というのも男は眠りに落ちる前、どうせならでっかい打ち上げ花火のように、
バーンと輝いてパッといなくなりたい、と神様に願ったからだった。
自分がでっかい打ち上げ花火になってしまったと気づいた男は
「いやいや神様、花火って言ったのは比喩だから」と叫んだのだけれど、
その声を聞いた神様は雲の上から
「いやいや男よ、時すでに遅しだから」と叫び返したのだった。

時すでに遅し。ずっとそういう人生だった。
自分の人生を決めるのはいつも自分ではなく状況だった。
なんの覚悟もできないまま何十年も状況に従い、
一個の黒い花火玉になったのだ。ただこんな姿になって
「時すでに遅し」と言われるのは気分が良かった。
生まれたときからずっと、時はすでに遅しでよかったのだと
ようやく気づいたのだった。

それから幾日もたたない夏の夜、男は
花火師の手によって漆黒の夜空へ打ち上げられた。
長年自分がべったりはりついてきた地上はぐんぐん小さくなった。
すばらしい気分だった。重力に逆らって飛ぶのが、ではなかった。
重力が自分を地上につなぎとめていたことの意味を知ったからだった。
ずっと解放されたいと思いつづけた地上の
つながりやしがらみの意味を理解したからだった。
自分とともにあったものは、ぜんぶあってよかったのだった。

男はこれ以上重力に逆らうことができないという地点にたどりついた。
男はもうすぐ死ぬのだった。
もうすぐ死ぬ、ということが、
こんなに晴々とした気分にさせるとは考えてもみなかった。

体の真ん中に小さな火がともった。
小さな火は、そのまわりにある無数の小さな火種のひとつひとつに、
つぎつぎと火をともしていった。体中に力がみなぎった。
こんなに生きたことはなかった。死ぬから生きているのだった。
本当はこんな姿になるずっと前から、死ぬから生きているはずなのだった。
本当はだれもが、生まれたときから時すでに遅しなのだった。
時すでに遅く、死をめがけて、空を駆けあがっているのだった。
火が体中のすみずみにいき渡り、玉は炸裂した。
男はもはや何者でもなく、さまざまな光となって地上にふりそそいだ。
夜の闇へ消えさってしまうその瞬間、
男は「時すでに遅し」と歓喜の声をあげたのだった。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

  

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長州のかたへ

「長州のかたへ」

             文 白井彩織(東北芸術工科大学)
             声 遠藤守哉

前略、戊辰戦争から145年経ちますがいかがおすごしでしょうか?
こちら、会津は大きくかわりました。
「会津藩」という名前だったこの土地も
「若松県」を経て「会津若松市」となりました。
「長州」「山口」と聞いて、いやな顔をする人なんていません。
むしろ、遊びにきていただきたいのです。

春はサクラがキレイです。
そちらよりは、遅めに咲くので二度花見がたのしめます。
運がよければ雪化粧をしたサクラを見ることもできます。
夏は、会津盆地の緑の田んぼの上に青い空がひろがります。
猪苗代湖で泳いだり、磐梯山に登ったり、
アウトドアをお楽しみください。

秋はおいしいものがたくさんあります。
田んぼは黄金色になり、おいしいお米が実ります。
芋煮会も各地でおこなわれます。
冬は一面真っ白な世界へと変化します。
しんしんと降り積もる雪の幻想的な風景を眺め、
スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツも楽しみ、
温泉につかって芯まであたたまってください。

戊辰戦争から145年、会津はあなたを歓迎します。
東北へ行こう


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芋煮鍋

芋煮鍋

          文:秋山祥吾(東北芸術工科大学)
          声:遠藤守哉

山形には芋煮と呼ばれる郷土料理がある
豚汁と似たようなものだが、
山形の芋煮は豚肉ではなく牛肉を使い、
醤油味で仕立てる
そして何より芋煮と呼ばれる所以であるが、
汁の中に里芋を一緒に入れて煮るのだ
ジャガイモでもサツマイモでもない、
里芋でなければ芋煮にはならないのだ。
宮城にも芋煮と呼ばれる料理があるが、
宮城のそれは味噌仕立ての豚肉である
密かに宮城に対して敵対心を持つ山形県民は、
それは芋煮でなくただの豚汁だと思っている

芋煮は秋になると一般的によく食べられるもので、
ごく家庭的な料理である
一人よりも大勢で食べるのがおいしい
澄み切った秋の空の下、
草の上にシートを敷いて食べる芋煮は
格別のおいしさである
大きな鍋に具材を入れて作るので、量が減ってきたら、
うどんを入れたりカレールーを入れるなどして
最後まで芋煮を楽しむ

さらに、山形の芋煮といえば大きなイベントがある
その名も日本一の芋煮会フェスティバルである
巨大な鍋に大量の具材を入れ、
なんとショベルカーを使って煮るのだ
馬美ヶ崎という河川敷に大勢の人が集まって
何万食という芋煮を食べる実に楽しいイベントである

日本一おおがかりで、日本一楽しく
日本一おいしい芋煮を食べに

東北へ行こう


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照井晶博 2013年7月7日

ナイフ

        ストーリー 照井晶博
           出演 遠藤守哉

彼は焦っていた。ものすごく焦っていた。
締切をとうに過ぎているからだ。
締切をとうに過ぎておきながら、連絡すらできずにいたからだ。
「ナイフ」というテーマで6月1日締切で、と彼は言われていた。
はい、やります。と返事をしたのは彼だ。
しかし、今日は何日だ。6月21日じゃないか。
1日2日というかわいい日数ではない。
ハツカだ。ニジュウニチだ。
あぁ、なんということをしてしまったんだろう。
いや……おれだって大変だったんだ。
毎日毎日、仕事でそれはもういろんなことが起きた。
寝る時間を削りそれに対応するので精一杯だったんだ。
いや、言い訳はするまい。というか、もうかなりしてしまった。
みっともない。
彼は深いため息をついた。
ナカヤマさん、怒ってるかな。怒ってるよな……。
なんかもうあわせる顔がないよなこれ……。
と思っていたら、ナカヤマさんからメールが届いた。
彼はおおいに焦った。
メールにはいったいなんて書いてあるのだろう。
怖くて開けない……。
彼は深い深いため息をついた。
あぁ、なんてことをしてしまったのだろう。
こんなとき、どうやってお詫びをしたらいいんだろう。

切腹……。
そうだ。切腹だ。

約束をたがえた責任は、昔の人なら腹を切って詫びたのではないだろうか。
彼はさっそくウィキペディアで「切腹」を調べてみた。

「切腹」とは、
平安時代末期の武士である源為朝が
最初に行なったと言われているそうだ。
時代劇の切腹シーンでは、首をはねる介錯人が描かれるが、
戦国時代や江戸時代初期には介錯人がつかず、
腹を十文字に裂いたり、内臓を自分で引きずり出すという、
想像しただけで倒れてしまいそうなほど痛そうな切腹もあったらしい。

しかし、江戸時代中期には切腹も形式化され、
短刀ではなく、扇子や木刀が使われたのだという。
扇子や木刀を短刀に見立て、扇子や木刀に手をかけようとした瞬間に、
介錯人に首を切られる…ということだったそうだ。
赤穂浪士の切腹も、身分が高かった大石内蔵助ら数人以外は、
扇子や木刀を使用したらしい。
自分で自分の腹に刀を突き立て、
尋常じゃない痛みに耐えながら切り裂かなくていいのは
ありがたい気もするのだが、
後ろから首を日本刀で切られるわけだからものすごく痛いに違いない。

ナイフで指先をちょっと切っただけでも痛いというのに、
自分で自分の腹をぐいぐい切らなきゃいけなかった昔の人は
なんて大変だったんだろう。

彼はため息をつく。しかし、そのため息は、さっきまでのものと違う。

あぁ、いまが昔じゃなくて本当によかった。
いまが2013年で本当によかった。
彼は、心からそう思う。

切腹をすることでけじめをつけていった昔の人々のことを思いながら、
でも、自分はこの時代でよかったと心から思う。

なんていい時代に生まれたんだろう。
なんていい時代に生きているんだろう。

ラジオをお聞きのみなさん、
わたしたちはいま、昔から見たらとてもしあわせな時代に
生きているんですよね。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

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直川隆久 2013年6月16日

すわせろ!
 
         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

いやあ、タバコも高くなったねえ。今、2万円でしょ。一箱。
むちゃくちゃだよね。
だから最近はこれですよ。第3のタバコっていうんですか。
なんか原料は街路樹の落ち葉とかでつくってるらしいけどね。
まあ、意外とこれが、慣れるといけるんだよね。
しゅぼっ。
ま、タバコの快感って、要は酸欠だから。
すーっ…ぱは~…うん。効く効く。
…ちゅうことで煙を吸うことが大事なんであってね。
タバコの葉っぱじゃなくてもよかった…
ここに気付いたってのはまあ、我々たばこのみにとっての、
コペルニクス的転回でしたわな。

知ってます?
ノンニコチン・ノンタールで今売れてる「メビウスゼロ」って、
あれ、紙だからね。中身。100パー。うん。
いちど、バラしたことがあるのね。
そうしたら、メモ用紙を丸めたのが入ってた。
あれで一箱800円とるんだから、マーケティングってなぁえらいもんだよね。2万円の横にあったら、そりゃ800円なんて安く見えるもの。
タバコ売場に置くだけで、ただのメモ用紙がねえ、
800円になるんだから。

そうそう。街にもね、いろんな煙を吸わせる店が出てきたよね。
表参道あたりじゃ、煙バーってのができたって。
そこはね、高級葉巻とかもあるんだけど、
そういうのはもはや「クール」じゃないんだってさ。
で、なに吸ってるかっていうと、サンマの煙とかウナギの煙とからしいね。
サンマを焼いてさ、その煙をこう、すぱ~…っと。
そりゃ、モノにはこだわってるみたいですよ。
ウナギは天然モノじゃなきゃいけないとか。
いや、中身は食っても食わなくてもいいんだけど、
大事なのは煙なんだって。
まったく、金持ちってのは妙な事考えるよな。
その店にはさ、その日の気分でどんな煙がいいか
アドバイスしてくれる人がいて、それをケムリエって言うんだってさ。
…なんだ、そのダジャレが言いたいだけなんじゃないのかって、
気もするけどね。

でも、なんか一部でさあ、
マニアックつうかアブノーマルなやつもでてきてるみたいだね。
ほら、こないだ某有名俳優がなくなったその火葬場で、
煙突にビニール袋をかぶせて逮捕された奴がいるでしょ。
あれね、そういう煙をさばくルートがあるらしいんですよ。
そういう……ってのは、まあ、あれですよ。
有名人の、亡骸を燃やした時のナニを…
まあ、アレするってことらしいんだけどね。
いやあ、まあ、えらい時代になりましたよ。

あ、そうそう。
私の知り合いでねえ、
大麻の葉っぱをアパートに大量に隠し持ってたやつがいてね。
たくさん持ってる癖に、仲間内にもなかなか回そうとしないヤな野郎でさ。
で、そいつ、部屋で一服きめてうっとりしてる間に火事出しちゃって
焼け死んだんだけどね。アパート全焼。
葉っぱごと。そんときゃみんな感謝したね。
町中、いい匂いの煙でいっぱいだったもの。
みんな、とにかく鼻の穴全開で煙吸いこみながら、
手ぇあわせておがんでたよ。ああ、ありがたいってね。
私もまぁ、死ぬときゃそんなふうに逝きたいもんですよね、
生きてる間はせいぜい煙たがられてもね、
死んで煙になったら嬉々として吸われたい…なんてね、
シャレになっちゃいましたけど。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

  

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