西島知宏 2011年11月13日



「あの日小さく燃えていたもの」

           ストーリー 西島知宏
             出演 遠藤守哉岩本幸子

女:私は、何も燃やしていなかった。
男:彼女は今日は、何を燃やしているんだろう。

(回想)
女:あれは確か、冬だった。初めてできた彼との想い出の品を、
  私は燃やしていた。
男:彼女と初めて会ったのは、冬。実家の2階から夜中に
  公園で焚き火をする少女を見つけた。

SE パチパチパチ(焚き火の音)

女:私は女子高生だった。
男:彼女はセーラー服だった。

女:しばらくして学ランを着た同世代らしき男の子が声をかけて来た。
男:夜中に公園で焚き火をする同世代の少女、心配になって声をかけた。

女「何を燃やしてるんですか?」(少し若く感じる声で)
男:確かそう声をかけた気がする。

女:振り向いた私は、泣いていて声が出せなかった。
男:振り向いた彼女は、泣いていた。

女:私の泣き顔を見た彼はそれ以上何も言わず、手紙や、想い出の写真が燃え終わるのを最後まで見ていた。
男:かける言葉が見つからず、ただ、声をかけた手前すぐに立ち去るのもどうか、と最後まで眺めていた。
女:燃え終わると私は何も言わずその場を立ち去った。
男:燃え終わると彼女は何も言わずに去って行った。

女:つぎ彼と会ったのは大学生の時だったろうか。
男:5年ぶりに見かけた彼女は少し大人っぽい化粧をしていた。
女:私はバイト先で知り合った彼の二股を知り、誰にも会わない隣町のあの公園で彼との想い出の品を燃やしていた。
男:彼女はまた、泣きながら色々なものを燃やしていた。

女:また失恋か、彼はそう思っていたのだろうか。
男:失恋の度にモノを燃やす子なのか、僕はそう思っていた。
女:彼は5年前と全く同じように、私の想い出が燃え終わるのを見ていた。
男:燃え終わるとまた、彼女は黙ってその場を後にした。
女:公園を出るとき一度振り返って彼を見た。
男:遠くで彼女が振り返った気がした。気のせいかもしれないけど。

女:そのつぎ彼と会ったのは私が最初の結婚に失敗した時だった。
男:彼女は手紙や写真と一緒に、高そうな毛皮を燃やしていた。
女:金持ちの男と結婚するのが幸せ、そう勘違いしてた。
男:彼女はお金持ちと結婚し、離婚したのだろうか。そう思っていた。
女:泣き虫なのは大人になっても変わらなかったな。
男:泣き顔は10代のあの時と同じだったな。
女:少し老けた彼は、あの時と同じように何も話さず私の隣にいてくれた。
男:それが僕たちのルールの様に感じられた。

女:それから何度か同じような事があった。
男:彼女とは一度も言葉を交わさなかった。
女:彼と会うのはいつも私の恋が終わった時。
男:彼女が公園に現れるのはいつも恋に破れた時。たぶん
女:あの人は誰なんだろう。
男:あの子は誰なんだろう。

女:ある時から30年程、私は公園に行かなくなった。
男:いつからか彼女を公園で見かける事はなくなった。
女:2度目の結婚で、私はさらに遠い所へ引っ越した。
男:その後、僕は結婚し、相変わらず公園の脇の家で家族と暮らしていた。

女:65歳の誕生日の3日前、私は2番目の夫を病気で亡くした。
男:65回目の冬、僕は25年近く連れそった妻を亡くした。

女:ある日ふと、彼を想い出した。
男:一人になってから窓の外を眺める事が多くなった。
女:泣く時にだけ行った公園。
男:泣き顔しか知らない彼女。
女:私は久しぶりにあの公園に行ってみたくなった。
男:彼女は今頃何をしてるんだろう。

女:失恋する度に来ていた公園。まだ残っていた。
男:ある夜、僕は老眼鏡越しに懐かしいものを目にした。

SE パチパチパチ(焚き火の音)

女:何も燃やしてはいなかった。こうやってるとまた横に来て、
  そっと佇んでくれる気がした。
男:後ろ姿の彼女。あの頃のように泣いているんだろうか。
女:ただ、黙ってそばにいてくれた彼。私は火の暖みに紛れ、
  彼の優しさを見つけられなかったのかもしれない。
男:思い切ってあの日と同じ言葉をかけてみた。

男「何を、燃やしているんですか?」
女「!」
男:肩の動きでハッと驚きを表した彼女が振り向いた。
  初めて涙のない彼女だった。
女「え?」
男「お久しぶりですね」
女「・・はい。その節はどうも」
男「それ、何燃やしてるんですか?」
女「あ、これ。・・何も」
男「何も(笑)?」
女「はい」
男「・・・」
女「あ、いや。燃やしてます。・・恋心?」
男「ふふふ。何ですかそれ(笑)」
女「あ、いや・・」
男「あったかいですね」
女「え」
男「あったかいですね、これ」
(少し間があって)
女「はい、とっても(噛み締めるように)」

SE:パチパチパチ(焚き火の日の音が少し大きくなる)

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/
      岩本幸子 劇団イキウメ http://www.ikiume.jp/index.html

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収録記の1(2011.10.29)

まず私は遠藤守哉のことから書きたい。
遠藤守哉は40歳くらい、独身。ビール党。上の写真右手前。
たいへん気持ちのいい人物だが、ちょっと奇妙なところがある。
奇妙…というか、人とちょっと違うところがある。

29日の収録の前々日の夜中過ぎ
予定していたナレーターのひとりから電話があった。
「急に行けなくなりました」
自分で言うのもナンだが
こういうときにいろいろたずねたりしないところが
私のいいところだ。
理由をきいても仕方がない。
また相手も言わない。言い訳もしない。
こっちもこっちでなかなかの人物だ。

しかし困った。
夜が明けて、朝からちょっと考えて
夕方近くなってしまったが遠藤守哉にメールを書いた。
「突然で悪いけど、お願い。」
それほど時間を置かずに返事がきた。
「よろしくお願いします」
遠藤守哉のことはモリヤと読んでいるので以後モリヤにするが
こういうときのモリヤはたいへん気持ちがいい。
問題はそれからだ。

原稿送るけどファックス番号は?
「×××までは覚えているのですが、あとわからないので
 家に帰ってからお知らせします」

おいっ…..
ファックス番号すなわち自宅の電話番号だろうがっ!
それを忘れる奴がいるのか….
幸いこちらのアドレス帳に控えてあった。
そっちが忘れていても原稿くらい送ったるわい。ふっふっふ。
しかし、送れなかった。
「この電話はお客さまの都合で使われておりません」

さてはアドレス帳の番号が間違っているのかと思い
モリヤからの連絡を待つことにした。
しかしその日、収録の前日はTCCの授賞式だった。
出かけねば。
しかし私は会社を出てしまうと自宅にファックスがない。
まあコンビニかどこかから送れるだろう。
授賞式は18時からだったが、
念のために19時近くまで待ってから会社を出た。

TCCのパーティは21時半に解散。
まだモリヤからは何も言ってこない。
ふんふん、さてはどこかで飲んどるな、きみは。
翌日は収録だし、私はウーロン茶しか飲んでいない。
そのまま帰ろうかと思ったのだが
クラブハウスにはファックスがあることに気づいてしまった。
二次会に行けばファックスがある。

クラブハウスの二次会ですっかり午前さまになり
そういえばモリヤのファックスの一件もおぼろになり
収録日の朝になった。
午前10時、モリヤからメールがきた。
「ファックス開通いたしました」
遅いわっ!!もう一生開通するなっ!!!

13時ちょっと前に収録場所である弊社に到着し
コーヒーなどの準備をしていたらモリヤが来た。
収録は14時からだが30分前に来た。

まったくやれやれだった。
遠藤守哉はこういうやつなのだ。
すべての段取りと気配りを木っ端微塵に粉砕する男、
それが遠藤守哉だ。
どこかの現場で会ったときは気をつけた方がいい。
しかもたいへんいい声をしているので
そういうやつだとは誰も思わない。

ちなみに私のアドレス帳の番号は正しかった。
モリヤが電話料金を払うのを忘れていたのだ。
電話料金を払う締め切り日にうかうかと忘れて
草野球のダブルヘッダーをやっていたのだ、このやろ〜(なかやま)

今回のモリヤの収録分は11月13日公開ですが
とりあえず下のyoutubeで古いモリヤが聴けます。

収録記2へつづく(近日公開)

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弘前公園

弘前公園
      ストーリー 葛西洋介
         出演 遠藤守哉

春には約50種類、2600本の桜が咲く弘前公園は
秋になるとその葉がいっせいに色づきます。
これを「さくらもみじ」といいます。

知る人の少ない桜の紅葉の美しさ。
弘前に住む母はこの時期、写真を撮りに弘前公園に通います。
朝の冷え込みに少しずつ色づき、落ち葉で地面を彩る紅葉は、
毎日毎日、その表情を変化させるからだそうです。

公園全体をゆっくり歩いて回れば約2時間。
朝露に湿った落ち葉を踏むやわらかい感触が
いい気持です。
もうすぐ雪で真っ白になる公園の
今年最後の鮮やかな姿です。

紅葉の見頃は10月下旬から11月上旬。
弘前城菊と紅葉まつりは
10月23日から11月13日まで開催されます。

弘前おでかけガイドhttp://machi-aruki.sakura.ne.jp/

弘前公園ライブカメラhttp://www.hi-it.net/~hirosaki_live/livecam1.html


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あなたを東北におさそいする企画です
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東北の旅館復興プロジェクト「種」http://save-ryokan.net/

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神谷幸之助 2011年4月3日


ラストフライト

         ストーリー 神谷幸之助
            出演 遠藤守哉

むかしはよく空をみていた。

わたしは23歳の夏、旅客機の航空機関士/
フライトエンジニアという職種をめざしていた。
航空機関士は、機長/副機長につづく第三の機長。
飛行のための複雑で
おびただしい数の計器を監視しながら機長をサポートする仕事だ。

空を見ていたのは
それはあこがれなんかじゃなくて目の視力をあげるためだった。
特に夜空の星を見つめることで焦点距離を遠くにあわせるトレーニング。
歯もすべて直した。飛行中の歯痛で業務に支障をきたさないために。
東西南北の方向感覚も鍛えた。
たとえば機体がきりもみ状態になったとき
瞬時に機首がどっちを向いているかを判断するために。
性格の適性検査も念入りに試される。
同じテストを何度も行い
すべてのデータが一定であることが求められた。
どんなときでも、沈着冷静でいられるかどうかを調べるために。

テストに合格したあとも、夜空を見上げることは習慣になっていた。
ある夜、美しいものを一度だけ見たことがある。

それは白い一本の軌跡。

夜の飛行機雲だ。

飛行機雲は、ジェットエンジンから排出された水分が、
急速に冷えて雲になる。
だから上空が寒ければ、昼夜を問わず飛行機雲は出る。
でも星空にまぎれてみえづらいから、
見られることは、流れ星よりラッキーかもしれない。

NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
 まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

しかし、航空機のコンピュータ化がすすみ
すべての計器をいつも監視する必要はなくなった。
ボーイング747クラシックの引退と同時に
航空機関士という職種は事実上、消え去った。
わたしの最後のフライトは、ホノルルー成田便。
成田に着く直前機長から機内放送のマイクを預けられ
「これが航空機関士最後のフライトです」という挨拶をすると
そのジャンボに乗った夏休みのハワイ帰りの乗客から
「おつかれさま」の拍手が起きた感動は、いまも忘れない。

そして、いま、わたしはまた夜空を見ている。
あの、まだ一度しか見たことがない夜の飛行機雲をさがして。

NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。

おれはこの計器に囲まれた空間が、好きなんだ。
ボーイング747クラシックが、好きなんだ。
おれは、航空機関士だ。
定年まで、地上勤務なんてまっぴらだぜ。
この最後のフライトで、すべて終わりにしよう。
今頃エンジンからは、白い飛行機雲が見えるはずだ。
だけどそれは雲じゃない。おれが捨てた航空燃料だ。

計器たちが、異常な動きをはじめた。
よし、もう大丈夫。

あとは、この一度も触ったことのない
スロットルに触るだけだ。

さらば、ボーイング747クラシック。
さらば、航空機関士。
さらば・・・

出演者情報:遠藤守哉 03-3479-1791 青二プロダクション

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遠藤守哉からひと言


「飛行機雲ができる時は 雨が近い」とは、
生前 祖母が「コンニャクは〇〇の砂洗い」と並んで
よく言っていた我が家の格言である。
コンニャクはさておき、
飛行機雲は 上空が湿っている状態で発生するので
天気が崩れる可能性が高いということらしい。

ふと ベランダから夜空を眺めてみた。
残念ながら 飛行機雲は見あたらなかったが、
節電効果でしょうか… 空気が澄んで星がよく見える。
月明かりって 思ったより明るいものですね。
夜空を見上げる機会が増えた方も多いのでは…。

この物語で、
「見られることは流れ星よりラッキー」と言われている夜の飛行機雲。
ちなみに エンジンの構造上、ボーイング747は4本。
767、 777は2本の筋の雲になるのだそう。
ただ、747は左右2つずつのエンジンがまとまって
2本に見えることがあるので
見分けることが出来れば 更にラッキー度があがる…のかもしれません。

遠藤守哉

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