岩田純平 2018年10月7日「かんな 2018秋」

かんな2018秋

     ストーリー 岩田純平
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは3歳になった。

女子だからかよくしゃべる。
コミュニケーションの生き物
なのだなあと思う。

息子もよくしゃべっていたが、
喋っている内容は
男女でわかりやすく違う。

息子の頭の中は
100%男子なので、
考え方の95%が
「勝ち負け」になる。

たとえばミニカーで遊んでいても、
息子の場合は2台を持って、

さあどっちの方が速いか、
なんとバスが
レクサスを抜いた―――――

などと実況しながら、
抜きつ抜かれつ
延々とレースをしている。
ストーリーの軸は「勝ち負け」である。
クルマに「速い」以外の価値基準はない。

それにくらべると
娘の遊び方は全然違う。
バスのミニカーで遊ぶにしても、

はやくのってくださーい
もういないでしゅかー
しゅっぱつしますよー

と、延々乗客の心配をしている。

その遊び方の楽しさについては、
男の子出身の父には
わかりかねるのであるが、
本人は楽しそうなので
何よりである。

コミュニケーションの
生き物である娘は、
おねだりするのも上手い。

スーパーに買い物に行って、
たとえばキャラメルコーンが欲しくなった時、
「キャラメルコーン買って」
とは言わない。

かんなちゃん なんか
きゃらめるこーんが
たべたくなってきちゃった

と言う。
それはもう不可抗力なのだ、
と言わんばかりに。

そんな感じで、大人の
「もう、しょうがないなあ」
を引き出す能力が高い。

将来好きな人ができても、
「あなたのことが好きになってきちゃった」
とか言って、
簡単にその男を
落としてしまうことだろう。

また、嫌いなものがあっても
「嫌い」とは言わない。
たとえば娘の苦手な
トウモロコシが食卓に出ていると、

かんなちゃん、
とろもろこし
だいすきじゃないの

と言う。
「だいすきじゃないの」
なんて、
ずるいけどうまい断り方だなと
大人の男である父は思う。

将来、告白されても
そんなに好きじゃなかったら
「嫌いじゃないけど、大好きじゃないの」
と言って、
上手にお断りするのだろう。

兄がいたせいで、
男の子のおもちゃでしか
遊んでいなかった娘だが、
最近はぬいぐるみでも遊ぶ。

この前は、
くまのぬいぐるみに

ごはんでしゅよー

と調子よく
ご飯を食べさせていたのだが、
そのくまを突然ぐちゃぐちゃに丸めて、

それをはんばーぐにして
かんなちゃんがたべまーす

とむしゃむしゃ食べ出す急展開。

食とは命の循環。
というようなことでは
もちろんなく、
娘はけらけら笑いながら
むしゃむしゃと
くまさんを食べていた。

グーグルのCMを見れば、
まねして

おっけーぐーぐる
おへやおかたづけして

と言う。
もちろん、
うちにスマートスピーカーは無いし、
片付けるのは僕である。

バウムクーヘンのことは
「ふわふわくっきー」
と言う。
花は全部ひまわり。
コスモスを見ると
「ぴんくのひまわりだねえ」
と言う。

今日は僕が
仕事を終えて帰宅すると、
娘が玄関まで走ってきて、
股間に頭突きし、
「ごっちんこ」
と言った。

無邪気は無敵である。
自覚すれば
計算になってしまうので、
ずっと気づかぬまま
成長しますように、
と父は願っている。

時間が余ったので、
最後に話の流れとは
まったく関係ない
息子の話を。

小学生の息子が
漢字の勉強をしていた時、
月の読み方のところに

つき、
げつ、
がつ、
るな

と書いていた。

キラキラネームはもう
生活に根付いている。

時代は確実に
新しい世代の人間が
つくりはじめている。
と、昭和生まれの
父は思った。

それではまた、
かんな2019春
でお会いしましょう。

映画化やアニメ化のお話も、
お待ちしています。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属





かんな 2018春:http://www.01-radio.com/tcs/archives/30242
かんな 2017夏:http://www.01-radio.com/tcs/archives/29355
かんな:http://www.01-radio.com/tcs/archives/28077

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齋藤陽介くんの落語集

岩田純平くんのカンナちゃんシリーズを読んでいる齋藤陽介くんは
役者、ナレーターの他に独学で落語もやっています。
偶然ですが、youtubeに3本アップされているのを発見したので
こちらにアップするとともに
本人に落語のきっかけについてひとこと書いてもらいました。
齋藤くんは声もよく通るし、ナレーションはうまいし、
若手ではピカイチだなあと思っていたのですが、
落語までやるとは器用な人だなあ (なかやま)

落語をやるようになったきっかけは、
俳優が落語をやる企画があって、それで始めたんです。
最初は特に興味があったわけではないんですが、
何度かやっていくうちにその面白さにハマっていきました。
で、その経験が生きて、
劇団の公演で落語家を目指すキャラクターをやることになりました。
劇中で、ちょっとした落語をやるシーンもあったんですが、
劇場という枠を飛び越えて、
このキャラクターで落語やっちゃおう!と思い立ってやったのが、この独演会です。
師匠もいないので完全に独学ですが、
これからも細々と続けていけたらなと思っています(齋藤陽介)

寿限無

初天神

芝浜

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廣瀬大 2018年5月13日

菖蒲湯の日 

    ストーリー 廣瀬大
       出演 齋藤陽介

「赤ちゃんって、目隠しされると自分の姿も周りから見えなくなっていると
 思ってるらしいよ」
キッチンのテーブルに腰掛けて、読んでいた育児書から顔を上げる妻。
時計は昼の12時10分を指し、
マンションの窓からやわらかな陽が入ってきている。
僕はようやく寝息を立て始めた9ヶ月になる息子を抱っこしたまま
「それは斬新な発想だね」と
息子を起こさぬように小さな声で妻に応える。
今日は息子の初節句である。
真新しい「兜」がタンスの上に飾られている。
タンスの上…、他にも飾るのにふさわしい場所はあったが、
つかまり立ちを覚えた息子の手の届く所に「兜」など物珍しいものを置くと、
がっちゃ〜ん、大惨事が起きること間違いない。
ちょっとかっこ悪いが、ここに飾ることにした。
あと、1時間ほどで、妻の両親が初孫の節句を祝うために我が家に到着する。
彼らが到着する前に、近所の八百屋で菖蒲を買ってこよう。
今日は菖蒲湯にするのだ。
僕は息子を布団に寝かせるために立ち上がると、
ふと、幼い日のことを思い出した。
あの日、菖蒲湯に父と入ったから節句だった。

小学1年生か2年生の頃だった。
僕は両親に連れられて父親の実家に遊びに来ていた。
田舎の床の間には大きくて立派な「兜」が飾られていた。
僕の父は5人兄弟のいちばん下で、この家には父の両親、
つまり僕の祖父母と、その長男にあたるおじさんと家族が住んでいた。
おじさんの息子と娘は、僕の従兄弟ではあるけどもう二人とも大学生だった。

着いてすぐに僕は年の近い従兄弟たちとかくれんぼをして遊んだ。
田舎の家は東京のマンションと違い、
いたるところに隠れる場所があった。
僕は北の隅っこにある薄暗い部屋の押し入れの中に姿を隠した。
押し入れの中の、お客さま用の布団の上に寝っ転がり、
鬼が来るのを待った。でも、いつまで経っても鬼は来なかった。

ふと物音に気付いて目を覚ました。
僕はいつの間にか、寝てしまっていたのだ。
そっと、ふすまの扉を開けると従兄弟の20歳になるお兄ちゃんが、
若い女の人を抱きしめようとしていた。
抵抗する女の人。でも、部屋を出て行く気配はない。
なにか見てはいけないものを見てしまった。
幼い僕にだってそれはわかった。
若い女の人が誰なのかはわからない。
でも、親族の誰かに見えた。
僕はそっとふすまの扉を閉めた。

それがいけなかった。

その閉める音に従兄弟のお兄ちゃんが気づいたのだ。
「誰!?」
押し入れに近づいてくる足音がする。
僕は自分の心臓がドキドキと高鳴る音を聞いた。
隠れているのに心臓の音が相手に聞こえてしまうじゃないか。
そんな風にすら思った。
扉に手をかける音。
押し入れの中にはどこにも姿を隠せるスペースなどない。
扉が開く瞬間、僕は反射的に自分の両手で顔を隠した。
それでも、さっと光が射し込んだのがわかった。

今思うと、あれは顔を隠そうとしたのではないのではないか。
目隠しをすると自分の姿が周りから見えなくなるという、
赤ちゃんの頃の感覚が自分にそうさせたのではないか。

「でも、赤ちゃんがそう思ってるなんて、どうやって調べるんだろーね。
 本人に聞いたわけでもないだろーし」
妻の声で、ふと我に返る。僕は息子をそっと布団に寝かせる。
「そりゃそうだね」
ジーンズの後ろポケットに僕は財布を入れる。

不思議だったのは押し入れが開いた後のことだ。
じっと僕の姿を見つめている従兄弟のお兄ちゃんの視線を感じる。
女の人がこっちにくる足音がする。二人の視線が僕に集中する。
僕は両手で顔を隠し続けている。顔を上げることができない。
お兄ちゃんはぽつりとこう言った。
「あれ? …誰もいないや」
「なに言ってんのよ…誰もいないじゃない。驚かさないで」
あれはなんだったのだろう。
二人の悪ふざけだったのか。
それとも、本当に僕の姿が見えなくなっていたのか。
親族みんなで集まった夕食の場に、お兄ちゃんは姿を現さなかった。
食後、僕は父と一緒に田舎の家の狭い湯船に浸かった。
今日あったことは言ってはいけないと思った。
湯の中の菖蒲が体に絡んでくるのがやけに気持ち悪かった。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

 

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岩田純平 2018年4月1日

かんな 2018春

     ストーリー 岩田純平
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは2歳になる。
奈良美智が描く少女によく似た
元気な女の子だ。

もう
イヤイヤ期は峠を越し、
いまは
パパヤメテ期がはじまっている。

何かとキーキー怒っていた娘も
いまは冷静に
「パパヤメテ」の一言で
あしらってくれる。

そんな女子感満載の娘は、
男子である父には想像もつかない
女子目線があることを教えてくれる。

たとえば、娘は
ドラえもんののび太のことを
「のび太さん」と呼ぶ。
ドラえもんを
しずかちゃん目線で見ているのだ。
父は人生を43年生きてきて、
のび太のことを
のび太さんと
呼ぼうと思ったこともないし、
その選択肢があることに
気づきもしなかった。

想像力の限界を知る、
という話である。

ちなみに7歳になった息子は
「スモールライトがあったら
ガリバートンネルはいらない」
ということに気づいてしまい、
ドラえもんから夢を奪いつつある。

映画でよく、ドラえもんが
どこでもドアを置き忘れてしまう、
というシーンがあるが、
どこでもドアを置いてきたら、
取り寄せバッグで取り寄せればいい、
ということに気づくのも
時間の問題であろう。

ドラえもんが好きな娘であるが、
アンパンマンだと
バイキンマンが好きらしい。

この前歯みがきをしようとしたら、
「アンパンの歯ブラシやだ」
と言いだし、
じゃあ何がいいのかと聞くと
「バイキンマンがいい」
と言う。
仕方なくバイキンマンの
歯ブラシを買ってやったのだが、
ばい菌のついた歯ブラシで
歯を磨くという矛盾が、
しっかり商品化されているのも
なかなかの商売根性だなあ、
と感心した。

そんなこんなで
土日の午前中はたいてい娘を連れて
近所の西友に買い物に行くわけだが、
この前買い物から帰って
玄関を開けると、
娘が
「なりしぇんしぇのにおいがするー」
と言った。

なり先生というのは
娘の保育園の男の先生なのだが、
父と娘が留守の間に妻と娘の先生が・・・
という
まるで昼顔のワンシーンの
ようであった。
もちろん、なり先生が
うちに来ていた事実はなく、
平穏な日々を送っている。

最近はいろいろ知恵もつき、
なんでも自分でやりたがる娘だが、
この前勝手にiPhoneをいじっていて
ホームボタンをポチポチ押してたら
Siriが動きはじめ、
「ゴヨウケンヲドウゾ」
みたいなことを話しだし、
それまでおとなしかったiPhoneが
急にしゃべりはじめたことに
娘は恐怖を覚え、
半ばパニックになって
「なんかおかしい、なんかおかしい」
言いだしたのだが、
siriはその言葉を
「うんこ開始、うんこ開始」
と聞き取り、
冷静に「うんこ開始」を
ネットで検索しはじめた。

娘もsiriも
どっちもどっちだなあ、
と思いながら、
娘の知能がsiriを追い抜く日も
そう遠くはないのだろうと思うと
それはそれでさびしくなった。

人の成長には
うれしさとせつなさが
混在する。

まあ、
その後またsiriに抜かれる日が
来るのかもしれないけれども。
AIも娘も進化の途中なのである。

まだまだ
書きたいことは山ほどあるのだが、
そろそろいい潮時なので
今年はこの辺で。

また来年、
かんな2019でお会いしましょう。



出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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星の王子さまのキツネと齋藤陽介くん

2018年3月24日のお昼過ぎ、芝居の稽古中の齋藤陽介くんが
岩田純平くんの原稿を読みにきてくれました。
齋藤くんは芝居の稽古中です。演目は「星の王子さま」。
私はあのお話の中のキツネのくだりが大好きです…という話をすると
「僕、キツネの役なんです」と齋藤くんが言いました。
まじっすか?

さっそくその芝居のHPを見てみたら、あちこちにキツネの絵が、
なんかかわいいぞ。困ったなあ ⬇︎

キツネからのお礼つきの席というのも気になりますよね。
芝居の詳細はこちらで見られます。
https://mopiproject.jimdo.com/lepetitprince/
いっぺんのぞいてみてくださいね (なかやま)

あ、齋藤くんからチケットを買いたい人はこちらからのようです。
http://ticket.corich.jp/apply/89768/015/


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岩田純平 2017年6月4日

1706iwata

かんな 2017夏

     ストーリー 岩田純平
       出演 齋藤陽介

娘のかんなは
もうすぐ2歳になる。
カレンダーには
盛大な誕生日の印が付いている。

もう喋る。よく喋る。
何を言っているか
わからないことは多いが、
ずっと一人で喋っている。
ひとしきり喋ったあと、
「ね、ぱーぱ」
と同意を求めてくる。
女子なのだ。

最近覚えた言葉は「待ってて」。
「まーてーて」と発音する。
今までおおむね何でも
素直に言うことを
聞いてくれていたのに、
「まーてーて」を覚えたことで、
何を提案しても「まーてーて」と
返されるのでらちがあかない。

「これ食べようね」
「まーてーて」
「靴履こうね」
「まーてーて」
「うんち替えようね」
「まーてーて」

うんちをすると、
「んちでた」と
教えてくれる。
最近は出す前に「んち」と
うんちをすることを教えてくれる。
トイレに連れて行くと、
トイレの便座に手を置き、
反省する猿のような体勢で
「んち」をする。
幼児用便座に座ってはくれない。
きばっている姿を見ていると、
「みないで」と言って怒る。
女子なのだ。

さらに最近は
「んちでた」と言いながら
自分でズボンを脱ぐようになった。
一度そのままオムツまで
脱がれてしまい、
ころころした「んち」が
トイレや廊下に転がった。
かんなはうれしそうに
うんちを指差して
「んーち、んーち」と教えてくれた。

「ぱぱ、まま」を除けば、
かんなが最初に覚えた言葉は
「ばいばい」だった。
長男は「ぶーぶ」だった。
女子はやっぱり
コミュニケーションの
生き物なんだなあ、
と思ったものだ。
「はいどーぞ」
という言葉を覚えるのも早かった。
何かをあげる時、
「はいどーぞ」
と言って渡していたから
自然と覚えたのだろう。

抱っこして欲しい時も、
「だっこ」とは言わず、
両手を差し出しながら
上目遣いでこちらを見て
「はいどーぞ」と言う。

そんなこと言われたら、
どんなに疲れていても、
たとえかんながうんちまみれでも、
「はいどーも」と言って
喜んで抱っこしてしまう。

将来かんなに好きな人ができて、
彼にはその気が無かったとしても、
上目遣いで「はいどーぞ」
とか言われたら
誰だって抱いてしまうだろう。
危険な技を
生まれながらにして
身につけている。
それが女子なのだ。

どうでもいいことだが、
パソコンでこの原稿を書いている時、
「うんち」と入力すると、
「うんち」の下に赤い波線が引かれる。
うんちとか書いちゃってるけど
あんた大丈夫?と言わんばかりに。
パソコンにたしなめられながら、
パパはこの原稿を書き上げたのだよ。

かんな。
いつかきっとパパの名前を検索して
この原稿を読むことになるだろう。

しめきりが今日だったんだ。
ごめん。
かんなのうんちの話で
パパは何とか今日を乗り切ったよ。

かんな。
ありがとう。

かんな。
愛してるよ。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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