ストーリー

井田万樹子 2017年12月17日

「鉄道アナウンスで、お葬式」

        ストーリー 井田万樹子
           出演 池田成志

え、お待たせいたしましたぁ〜つぎはぁ〜
故人様の〜ご親族の方から〜2列に並んで〜
ご焼香、お願い致しぁす!
え、危険ですのぇ〜、かけこみ焼香はぁ〜
ご遠慮ねがいぁす!
え、ご焼香を終えた方はぁ〜譲り合って〜
空いてるお席にぃお座りくだっさぃっ。

え、本日のご葬儀はぁ〜
鉄道をこよなく愛された故人様と〜
そのお仲間の皆様のぉ〜ご希望によりやして〜
え、鉄道アナウンスにて!
えー、故人様のご葬儀、
えー、進行させていただいておりぁあす!

え、お席でのぉ〜携帯電話はぁ〜
電源をお切りくださいやすよう〜謹んで〜
ご協力、お願い致しぁあす!
え、最近、お忘れ物、多発しておりやぁす、
お席を立たれる際は〜え〜数珠、扇子などの
お忘れ物がないか〜、今、一度ぉ〜
ご確認、くだッさぁ〜・・・
(チーン!)

えー故人様はぁ〜小学生の頃より〜、
鉄道をこよなく愛され〜、社会人になられてからも〜
会社のデスクで仕事をしているふりをされながら〜
電車ゲームに熱中し〜、
え、出張のたびに寄り道し、ローカル線に乗り換えて〜
全く出世はされませんでしたが〜、
定年後は鉄道ゲームの愛好家の団体を立ち上げられ、
たくさんのお仲間に慕われ続けたぁ、
一生でぇ〜ございぁした!
(チーン)

人生とは、鉄道の如し。
変化のないダラダラとした路もあれば、
暗い暗いトンネルの路もあり、
特急に抜かれ、急行に抜かれ、
準急にも抜かれ、
駅で停車し続ける夜もあり。
線路は続くよどこまでもムニャムニャ。
え、これが、故人様が最後に語ったぁ、
お言葉でございぁした・・・。
(プルルルル!)

皆さま、これより出棺でございぁす!
お名残は尽きぬとぉ存じますがぁ!
おふた、閉めさせてぇいただきゃぁっす!

ドア!閉えりぃえっす!
ドア!閉えりぃえっす!

お見送りされる方はぁ、
白線の内側っから、お見送りくらッアさぁアッ!
3番線、間もなく霊柩車ァー、出発いたしぁあーっす!
天国行き急行、はっしゃぁアあーーーーッ!!  

出演者情報:池田成志 03-5827-0632 吉住モータース

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磯島拓矢 2017年12月10日

「ゲーム」

       ストーリー 磯島拓也
          出演 大川泰樹

若者と大人の境界線はどこにあるか。様々な説があるが、
僕は、目の前のゲームに夢中になれるかどうか、をあげたい。
ここで言うゲームとは、テレビゲームのことではなく
勝ち負けの要素を含んだ日常の出来事を指している。
仕事でいえば、ライバル社とのコンペとか、
恋愛でいえば、狙った彼や彼女を落とせるかどうか、とか。
言うまでもなく、目の前のゲームに夢中になれるのが若者である。

若者はがむしゃらだ。
ライバル社とのコンペなら、勝とうと思う。勝つことに必死になる。
それはもちろん正しい。
しかし、大人は考えてしまうのだ。ゲームの後のことを。

勝利の喜びは一瞬だ。
その後には、長く苦しい「日常の作業」が待っている。
とある学者が「終わりなき日常」という言葉を発明したけれど、まさにそれだ。
大人はそれを予想する。一瞬の勝利の後に必ず訪れる日常を想像する。
ゲームの勝利は、終わりなき日常を増やすだけ。
大人はそんなことを考える。
だからゲームに夢中になれない。

恋愛も同様、若者はがむしゃらだ。
目の前の彼を、彼女を落とそうと思う。
恋愛というゲームに勝とうと思う。
大人は違う。ゲームの前から後のことを考えしまう。
彼が落ちた。彼女が落ちた。ゲームに勝った。で、どうする?
毎週末デートするか?つきあうのか?結婚するのか?まさか!
大人はそこまで考える。
ゲーム後の後悔まで想像する…。

僕は僕の部屋にいて、隣りで眠る女性を見ながら。
そんなことを考えていた。
昨夜残業後いっしょに食事をし、酒を飲み、視線が絡み合い、
ゲームが始まった。
ゲームに勝ちたいと思い、がんばった結果、
こうしてともに朝を迎えているのだから、
結構自分は若者なんだなと思う。
しかし今はこうして、ゲームの後のことを考えている。
ここから始まる日常を考え、ややうんざりしている。
やっぱり自分は、大人に片足つっこんでいる。

彼女が動く。起きたようだ。
顔を上げた彼女と目が合う。
あ、と思った。
その目に浮かんでいたのは、乙女チックなロマンではなく、
ある種の怯えだった。
目の前のこの男と日常を生きられるのだろうか、という怯え。

僕らはそのまま見つめ合った。
ここから始まる日常への怯えを互いに読み取った。
それは不思議な体験だった。
ゲームの終わりを、女性と共有するのは初めてかもしれない。
「飯、食う?」と言ってみる。
「食う」と彼女は答えた。
そして僕らはいっしょにベッドを降りた。
ゲームの後の日常へ、歩み始めた。
ふたりで。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

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中山佐知子 2017年11月25日

マユミ

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川泰樹

木枯らしが吹いた日の夕暮れに
マユミが暇乞いに来た。
毎年ほぼ同じ時期だ。
敷居際にぴたりと両手をついてお辞儀をし、
多少恨みがましい目つきでこちらを見て言う。

新しい人もおいでですから
この冬はさほどお寂しくはございませんでしょう。

この春に植えた山茶花のことだなと思い当たるが
面倒なので返事をしないでおくと
帯の間からハンカチを出してそっと目に当てている。

仕方がないので
この夏はお天気が悪くて苦労しただろうと慰めてやると、
いえ、雨が多くてラクでございましたと返事をする。
私は庭のマユミの多少ねじ曲がった幹や枝を思い出して、
姿がああだから気持ちも素直でないのだろうと考えた。

マユミは私がこの家に住む以前から庭にいた老木で、
他の木の領分にまで枝を広げている。
初夏に咲く花は地味で目立たないし、
多少ねじ曲がって育つ傾向はあるが
ニシキギ科の一族の特徴として
秋になると目にも鮮やかに紅葉する。
引っ越してきた最初の秋、
朝に晩にその紅葉を眺め楽しんでいたら
冬が始まる頃にマユミと称する女が暇乞いに来た。
それからは毎年のように来る。
庭には他に木もあるのに
なぜマユミだけが人の姿になるのかわからない。
人の名前のようだからというならば
藤やサツキはどうなのだ。
黒文字なぞは粋な姐さんに化けそうな気がするが
そういう気配はまったく見せない。
あくまでも樹木としての分を超えようとはしない。

マユミは、秋の葉の美しさを褒め、枝に下がる実を褒め、
ついにはあの地味な花まで褒めているうちは
いい気分のようだったが
近頃では褒め言葉も尽き果ててしまった上に
冬枯れの庭の寂しさについ山茶花を1本植えたのが、
このたびのマユミの拗ねた顔つきの原因らしい。

かけてやる言葉も見つからず、
玄関まで送るよ言って外に出ると、
人待ち顔で立っていた若い男がぺこりとお辞儀をし、
マユミが慌てて、「これはお隣の」と言う。
そういえばかねがねうちのマユミの紅葉に感心していたお隣さんが
梅雨前に植木屋を呼んでマユミの若木を植えたのだ。
マユミはイチョウと同じく雄株雌株があるが
さてはお隣さんの庭のマユミは雄株だったかと思う。

連れ立ってというよりは
まだ主従関係のような後ろ姿だが、
何にしろうちのマユミに道連れができたのはありがたい。
うまくいってくれればいいがと見送って庭に戻ると
山茶花が赤い蕾をつけて
春までの楽しみを約束してくれていた。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

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直川隆久 2017年11月19日

土中の夢

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

一体の人間が、半ば落ち葉に埋もれて横たわっている。
その肉はほぼ完全に、溶け腐っている。

この山奥に、どういう経緯でこの人間が迷い込み、
亡骸と成り果てたのかは知らない。
ともあれ、その死んだ人間の耳に、一匹のハエが卵を産み、
孵り、蛆となった。
それが、わたしである。
生まれて以来、肉の発酵する熱と暗闇にぬくぬくと包まれて、
わたしは幸福であったが・・近頃、妙な夢を見るようになった。
明滅する光。
甘いまどろみを妨害するノイズ。
そしてそれが、徐々にはっきりとした像を結ぶようになった。


白い、ゆらぎの
白い、ゆらぎの、むこうにある、あたたかで、白いもののなめらかな肌。

湯の中に、それは浮かんでいる。
そのイメージが明確になると、わたしの中に、なにやらひどく心地のよい、
安寧な気分が生じるのがわかった。

これはいったいなんなのかに考えをめぐらせ・・
おそらく「記憶」なのだと結論をくだした。
わたしが食べた肉の細胞に固着された記憶・・
死ぬ間際になにか心に強く念じたもののイメージ。
それが、わたしの体に取り込まれたらしい。

その白いものは、いくつかのなめらかな平面で覆われていて、
その面と面とのつなぎ目は、直線をなしている。
容赦ない山の冷気にさらされ凍えていく命が、
その温かなものをひどく恋しく思う。
それを食べたときの、慰撫するようなやわらかい感触を、
わたしは「思い出す」。

 ああ・・・
 あたたかい。

 やっぱり冬はこれだな。
 あつかん、もういっぽんつけちゃおうかな。

 でも・・ひどくねむい。

 ああ・・ねむいな。

 ・・帰らなくちゃ。

 帰りたかったなあ・・

 そうだ、もういちどだけ、いえに帰って・・・

 あいつと・・食いたかった・・あの、あたたかい・・

枯葉がかさかさと鳴らした音で、夢から醒める。
わたしが土中から飛び立つ頃には、
一層木枯らしがきつくなっているのだろう、とだけ思うと、
わたしはまたまどろみの淵に落ちていった。

出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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田中真輝 2017年11月12日

「木枯らし1号」

    ストーリー 田中真輝
      出演 遠藤守哉

(アナウンス)
本日は、「秋の終わり」発「冬の始まり」行き、夜行列車
「木枯らし1号」にご乗車頂きまして、
誠にありがとうございます。
この列車は、「心の隙間」「遠ざかる後ろ姿」「言えなかったサヨナラ」
「歌えなかったラブソング」等の途中駅を吹き抜け、
終着駅、「冬の始まり」まで、
平均風速毎秒8メートルでノンストップ運行致します。
途中、「移ろう女心」により多少揺れることがございます。
お立ちのお客様はつり革におつかまり頂きますようお願いいたします。

これから車掌が切符の検札のため車内に伺います。
ご協力のほどよろしくお願いいたします。

(生の声)
本日は、特別急行「木枯らし1号」に、ご乗車ありがとうございます。
お休みのところ申し訳ございません。切符を拝見させて頂きます。

切符のご提示、ありがとうございます。
ありがとうございます。

お客様は…、特急券のご購入ですね。どちらまで行かれますか。
はあ、「青春の1ページ」まで。
お客様、この電車は特別急行になっておりまして、
その駅には停車致しません。
誠に申し訳ありませんが、束の間、通り過ぎる風景として
お楽しみ頂ければ幸いです。
お客様の切符は…、「都会への片道切符」ですね。
お客様、この切符は「夢の有効期限」が切れておりますね。
「捨てたはずのふるさと」行きのチケットと交換いたしましょうか?
…わかりました。そうですね、
しばらくこのまま旅をお続けになるのも、よろしいかもしれませんね。
必要になったらお申し出ください。

切符のご提示、ありがとうございます。
ありがとうございます。

お客様の切符は…、「乗り放題チケット」ですね。これは珍しい。
失礼ですが、お名前を伺えますか?「ボブ・ディラン」さま。
はあ、終着駅から、次の風にお乗り継ぎ。
羨ましいですなあ。わたくしも風に吹かれて、どこまでも
旅をしてみたいものです。いやはや、おしゃべりが過ぎました。
失礼いたします。よいご旅行を。

男性車掌:車内放送)
皆様、間もなく、終着駅「冬の始まり」に到着致します。
長らくのご乗車、ありがとうございました。
なお、「冬の終わり」行き快速特急「春一番」は、隣のホームから、
早ければ約3ヶ月後には、発車予定です。
お忘れ物が多くなっております。お降りの際は、「確かめ合った友情」
「平凡な幸せ」「あのときの約束」など、お忘れなきよう、今一度
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
皆様のまたのご乗車を、心よりお待ちしております。
さようなら。

出演者情報:遠藤守哉はフリーになりました

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薄景子 2017年11月5日

木枯らしのうた

     ストーリーとうた:薄景子

目覚まし時計が なる前に
目が覚めた朝 眠りは浅い
窓をあければ 木枯らしふいて
冬の音は 時計よりきれい

夢のつづきで 目玉焼き
きみは割れて こわれちゃったけど
世界にひとつの このカタチ
ぐちゃぐちゃのきみは すばらしい

マフラーに巻かれて 歩き出す
落ち葉のじゅうたん ふかふかで
春夏秋冬は ミルフィーユ
コーヒーショップで 時間旅行

夕焼けとタワーが 恋をして
オレンジの空に 枯葉ひとつ
この世にさびしさ なかったら
生まれない恋は いくつだろう

北風の夜は 月あかり 
優しいひかり 想いだすひと
涙が枯れるほど 泣いた日に
きれいになったと 言われました

木枯らしのうたは どこへゆく
その葉が ほんとは 言の葉なら
大空に舞って 伝えにゆこう
青い日々は もう過ぎたけれど

ラララララララララララララ
ラララララララララララララ
ラララララララララララララ
ラララララララララララララ




音楽ディレクター:ながいしえり
編曲:永岡宏昭
作詞・作曲・うた:薄景子

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