2013 年 11 月 16 日 のアーカイブ

三國菜恵 13年11月16日放送


Phil and Pam
カメラの裏には 藤岡亜弥

写真家・藤岡亜弥。
彼女は20代のある日、旅に出た。
正確には、カメラを片手に、やっと外へ出た。

彼女は俗に言う、ひきこもりだった。
部屋にこもり、犬をかわいがるだけの生活をしていた。

けれどもある日、
彼女をずっと受け入れてくれていた犬がこの世を去る。
それを機に彼女の特異すぎる日常も終わり、
ようやく扉の外へと目を向けたのだった。

部屋を出て、国境を越えて、遠くエストニアの地に降り立つ。
片手にはカメラ。日本とちがう冬。
吐く息に彼女のめがねは曇り、こんなことを思ったという。

 世界はぼんやりとうつくしく見えた。
 はじめて、孤独の至福を味わった。

となりに誰もいなくても。
あたたかい犬がいなくても。
カメラという機械があれば、
人間は孤独を至福に変えることだってできるのだ。

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三島邦彦 13年11月16日放送


wwwuppertal
カメラの裏には 畠山直哉

ドイツのルール工業地帯の一角にアーレンという町がある。
産業の中心であった炭鉱が閉鎖して活気を失ったこの町で
炭鉱施設の一部取り壊しが決まった時、
一人の写真家が日本から呼ばれた。

写真家の名前は畠山直哉。

壊されてしまう前の姿を記録しておきたいという願いを受けた畠山。
未来の人々が懐かしむための写真を撮りながら、
彼の頭に一つの考えが浮かんだ。

 いっそ「記録」は過去ではなく、未来に属していると考えたらどうだろう。
 そう考えなければ、シャッターを切る指先に
 いつも希望が込められてしまうことの理由が分からなくなる。

そして私たちは
記録には未来の視点が必要なことに気づくのだ。

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三島邦彦 13年11月16日放送


poppet with a camera
カメラの裏には ロバート・キャパ

伝説の報道写真家、ロバート・キャパ。

23歳の秋にスペイン内戦の戦場で
民間兵が銃撃を受けて倒れる瞬間を撮影した一枚は、
「崩れ落ちる兵士」というタイトルで発表され、
戦争を象徴するイメージとして
ピカソの「ゲルニカ」と並び称された。

ある日、新聞記者がキャパに「崩れ落ちる兵士」を撮影した時のことを聞くと、
キャパはこう答えた。

 戦争なんて嫌だ。思い出すのも嫌だ。話をするのも嫌だ。

誰よりも戦争を嫌いながら、誰よりも戦場に足を向けたキャパ。
彼が残した写真は今も、彼の代わりに戦争を語り続けている。

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中村直史 13年11月16日放送


Dominic’s pics
カメラの裏には 山下祥一

セルフタイマーをセットする。
シャッターをおす。
カチ、
ピ、
ピ、
ピ、
ピ、
ピ、
パチリ。
そのピピピの時間に物語がある。
そう気づいた写真家がいる。
セルフタイマー写真家、山下祥一。
高い崖の上から川へダイブしている写真。
電車の中でコタツを囲んでいる写真。

切りとられた瞬間にいたるまでの10秒間を
私たちは想像してしまう。
ダイブの前はお祈りしたのだろう?
電車の乗客はびっくりしたのだろうか?

その写っていない映像に、見る者はまいってしまう。

セルフタイマーに魅せられた男。
つぎは、どんな物語を見せてくれるか。

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