2014 年 8 月 23 日 のアーカイブ

古居利康 14年8月23日放送

140823-01
Andi.bxg
力石徹・夢の重さ 1R

矢吹丈を倒す。
矢吹丈を倒す。
その一念で力石徹は過酷な減量を重ねた。

ストーブを焚き、金盥で湯を沸かし、
サウナよりも熱い部屋で寝起きした。
逃げられないように外から鍵をかけさせた。

ウェルター級でデビュー。
13戦連続KOで勝利する天才だった。
一時リングを離れ、フェザー級で復帰して、
また5連続KO。

ウェルター級、63.50kgから66.68kg。
フェザー級、57.15kgから58.97kg。

力石徹より頭ひとつ小さい矢吹丈は、
バンタム級、53.34kgから55.34kgの階級。

丹下段平に言わせれば、
「力石くんは、ライト級の体つきだ」
ライト級61.23kgから63.50 kg。

適正体重60kg台の男が、
50kg台半ばまで減量しようとしていた。
矢吹丈を倒す前に、力石徹は、
自分の体重と戦わなければならなかった。

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古居利康 14年8月23日放送

140823-02
SMN
力石徹・夢の重さ 2R

力石徹と矢吹丈は、少年院で出会う。

エリートボクサーとして
将来を嘱望されながら、あるとき、
リング下の野次に怒って観客を殴った力石。

孤児院で生まれ、ドヤ街で育ったジョーは、
喧嘩に明け暮れ、希望のない日々を送っていた。

宿命的に出会ってしまったふたりは
ボクシングの試合をすることになる。

素質を見抜いた丹下段平によって
すでにボクシングの基礎は叩き込まれていた
ジョーだったが、天才力石の相手ではなかった。

さんざん打ちのめされ半死半生になった
ジョーは、力石が打つ右ストレートに
強烈なクロスカウンターを見舞う。
丹下段平が授けた一撃必殺技だった。

予想外のパンチをもらった力石が
床に崩れていく。同時にジョーも倒れていく。
両者ノックアウトで引き分け。

プロのリングで負けたことがなかった
力石が、素人のパンチでダウンした。
屈辱以外の何ものでもなかった。
このときから、矢吹丈は、倒すべき敵になった

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古居利康 14年8月23日放送

140823-03
vividBreeze
力石徹・夢の重さ 3R

ボクシングは、体重を極めて厳密に
管理するスポーツだ。
47.62kgから90.719kgまで、
2kgから3kg刻みで、17の階級がある。

頭や腹を殴るこのスポーツは、
つねに死と隣り合わせだ。
ボクシングの体重管理は、命の管理でもある。

17の階級のうち、6階級を制覇した
マニー・パッキャオという選手がいる。
フライ級でデビューして、スーパーバンタム、
フェザー、ライト、ウェルター、スーパーウェルター
と階級を上げて、6つのベルトを奪取。

パッキャオは、体重50kgから70kg近くまで
増やしていって、どの階級でも自分より大きな相手を
痛快に倒した。漫画の主人公みたいなボクサーだが、
現在、WBO世界ウェルター級の現役チャンプだ。

力石徹はその逆で、60kg台から50kg台へ
体重を減らしていった。
筋力を落とさず、脂肪だけ落とす
ボクサーの減量は、500gでさえ地獄の苦しみ。

なぜそうまでして戦わなければならないのか。
力石徹にとって、矢吹丈とは何なのか。

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古居利康 14年8月23日放送

140823-04
c-reel.com
力石徹・夢の重さ 4R

力石徹は、バンタム級の上限、
55.34kgまで体重を落とすことができたのだろう。
矢吹丈と戦う日がやってきた。

少年院での私闘ではない。ボクシングの聖地、
後楽園ホールにて、バンタム級8回戦。

たぶん、力石徹は、自分がいちばん強い
と思って生きてきた。ところが、
自分より小柄なくせにパンチだけはめっぽう強い、
不良少年に倒されてしまった。
信じられないし、許せない。

もういちど戦って、決着をつけたい。
ほんとに強いのはどっちか。白黒つけようぜ。
ただし、同じ階級、同じ体重で。

ジョーは、自分がフェザーに階級を上げると
申し出た。力石は断わった。
「太って鈍くなったお前に勝ってもつまらない」

結末は言うまでもない。

力石徹はプロ20戦全勝、すべてKO勝ち。
負けないまま去っていった。

1970年3月24日。東京・文京区の
講談社講堂で力石徹の追悼式がおこなわれた。
テンカウントのゴングが鳴るなか、
弔辞を読み上げたのは、『あしたのジョー』
TVアニメの主題歌を書いた寺山修司だった。

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