2020 年 5 月 16 日 のアーカイブ

川田琢磨 20年5月16日放送



希望という色をした器

天の青い色。

「天青色(てんせいしょく)」と呼ばれるその色は、
高貴なやきものと称される青磁の、理想の色とされている。

十世紀の中国の皇帝、柴栄(さいえい)は、こう言った。

「雨過天青雲破処(うかてんせい くもやぶるるところ)の器を、持ち来たれ。」

雨の後、雲間からわずかに覗く青空の色を、
すべての人が、明日への希望を予感するその色を、
人の手で生み出してほしい、と。

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川田琢磨 20年5月16日放送


想回家的貓
希望という色をした器

「天青色」と呼ばれる色を湛えた青磁器が、
900年前、中国河南省の汝窯(じょよう)で誕生した。

雨上がりの空の色を、
小さな器に閉じ込めるため、
高価な宝石であるメノウをすりつぶし、
釉薬(ゆうやく)に用いたという。

1200度を超す高温の窯から生まれる、涼やかな青。
その色を焼き上げる技術は、
王朝の滅亡とともに、永遠に失われてしまった。

汝窯の青磁、
わずか90点ほどが現存するのみである。

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川田琢磨 20年5月16日放送


国立故宮博物院
希望という色をした器

中国北宋時代に、
宮廷用に作られた幻のやきもの、汝窯青磁。

世界にわずか90点ほどしか現存せず、
ひとたび市場に出れば、何十億という価格で取引される。

中でも最高傑作と謳われるのが、
「青磁無紋水仙盆(せいじむもんすいせんぼん)」。

グラタンを作るお皿のような、不思議な形をしているこの器は、
何に使われたものなのかもわかっておらず、
その値段を想像することすら、我々には難しい。

ただ、当時の皇帝はこの器を、こう呼んでいたそうだ。
「犬の餌入れ」と。

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川田琢磨 20年5月16日放送



希望という色をした器

中国陶磁器の世界で、
圧倒的人気を誇る、汝窯の青磁。

最近は汝窯の作品が手に入らなくなった、と、
800年も前の人が嘆いているほどだった。

人気の秘密は、その神秘性。
作り方が、わからない。
窯の在処も、はっきりしない。
宝石の粉を使って作られたという、
言い伝えが残されているだけだった。

ようやく窯址が見つかったのは、1986年のこと。
土の中に眠る、伝説の窯の上では、
村人たちが普段の生活を営んでいたという。

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川田琢磨 20年5月16日放送



希望という色をした器

高温の窯から焼き出された器から、
ピーン、ピーンと、
風鈴のような音が弾け出す。

「貫入(かんにゅう)」と呼ばれる、
やきものの表面に走るヒビが、
一筋一筋、天に任せて刻まれてゆく。

釉薬の収縮が引き起こすそれは、
繊細な色を湛える青磁の中に、無数の景色を描く。

氷のようなはかなさか。
はたまた、柳のようなたおやかさか。

人が、人工の玉(ぎょく)に求めたものは、
人智の及ばぬ美しさなのか。

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