川野康之 2021年3月14日「道」

       ストーリー 川野康之
          出演 地曳豪

最初に「旅」をしたのはいつだったろうか。
その朝、僕が寝坊をして起きてくると、
兄はもうキッチンで朝食を食べていた。
手に持った小さな白い紙を真剣な顔をして読んでいた。
兄が急に大人っぽくなったように見えた。
「今日から旅を始めるよ」
と、僕を見ると言った。
「わかってる」
自分が緊張してくるのがわかった。
兄は時計を見て、
「時間だ」
と言って立ち上がった。
兄が出発した後、僕はキッチンに一人で座った。
時は少しずつ、過ぎていく。
鞄が置き忘れてあった。
その横には兄が読んでいた白い紙も。

問題
兄は毎分50メートルの速さで歩いて学校に向かいました。
兄が忘れ物をしたのに気づき、弟が5分後に走って追いかけました。
何分後に追いつけるでしょうか。
弟が走る速さは時速6kmとします。

家を出て5分後に、僕は兄に追いついた。
「忘れ物だよ」
手渡した鞄を受け取ると、兄はほっとしたように笑った。
二人ともなんだか照れくさくてあたりをキョロキョロ見回したりした。

それから僕たちは、いくつもの「旅」をした。
学校と家との間を何度も往復した。
だんだん慣れてくると、行動半径が広がった。
ある時は学校の帰りに図書館に寄って本を借りたり、
ある時は公園の池のまわりを歩いたりした。
兄も僕も、いつも正確なペースで歩くことができた。
僕たちは決められた時間に正確に出会い、追いつき、そして追い越された。
こういうことを旅と呼んでもいいのだろうか、と僕は兄に尋ねたことがある。
「いいんだよ。昔からこれは旅人算と呼ばれているんだ」
「なんで旅人なの?」
「わからない。でもそういう風に呼ばれているんだ」

一度、僕は「旅」の途中で子犬を見つけて、道草をして遊んだことがあった。
風が吹いてきて、子犬の柔らかい毛をふわふわと運んで行く。
気がつくと時間を忘れていた。
土手沿いの道をあわてて走った。
兄は、僕と出会うはずだった公園の入り口で、一人で待っていた。
足もとに白い紙が落ちていた。

それから兄はときどき僕を誘わずに、一人で「旅」に出かけるようになった。
他の人と「旅」をしていたようだ。
兄が忘れて行った紙を僕はちらっと見たことがある。

みちるさんは10km離れた隣町に住んでいます。
みちるさんは兄に会うために時速3kmで歩き始めました。
兄はみちるさんの町に向かって自転車で出発しました。

その頃から僕も一人で旅をしたいと思うようになった。
括弧付きの「旅」ではなく、ほんとうの旅を。

ボートハウスの前で兄は待っていた。
手にした白い紙を見つめて何か考え事をしているようだった。
池の水に朝の光が反射して、兄の顔の上で揺れた。
彼は顔を上げ、まぶしそうな目で僕を見た。
僕たちは背中合わせに立った。
道にライラックの花が咲いていた。
兄は僕に紙を手渡した。
「さあ、歩こう」
池を一周する道を僕たちは正反対の向きに歩き始めた。

問題
ある池のまわりを、兄は時計方向に、弟は反時計方向に同時に歩き始めた。
1分間に兄は50メートル、弟は30メートル歩くとすると、
二人が出会うのは何分後か。
ただし池のまわりの長さは・・・

そこまで読んで、僕は紙をくしゃくしゃに丸めてポケットにつっこんだ。
池の周囲は1.2kmだ。
何度も歩いたから知っている。
僕たちは15分後に出会うだろう。
しかし、僕はわかっていた。
もう兄と僕が出会うことはないだろう。
その前に僕はこの道を外れ、遠くに向かって歩き出すのだ。
池の向こうを彼が歩いているのが小さく見えた。
その姿がどんどん遠ざかって行って、
ライラックの茂みに隠れて見えなくなった。



出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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川野康之 2020年8月30日「私の夏休み」

私の夏休み

    ストーリー 川野康之
       出演 大川泰樹

津軽鉄道のKという駅を降りると、
空気の中に木の切りくずの匂いがした。
ふり返ると津軽の山々がすぐそこに見えた。
この空気は山の中で作られたのだろうか。
どこかに製材所でもあるのだろうか。
駅前だというのに人の姿は少なかった。
まだ八月なのにもう秋の気配があった。
津軽三味線の音が聞こえてきた。
電信柱にスピーカーがくくりつけられていた。
あちこちで鳴っていた。
さびしい町である。ここに来たことを私は後悔し始めていた。
遅い夏休みが取れたので、
ふと思い立って東京から列車を乗り継いで来たのである。
この町はDという小説家が生まれた土地である。
生家が記念館となって残されている。
それを見たら帰ろうと思った。
駅からまっすぐに伸びた道を歩いてきて左に折れると、
津軽三味線の音は聞こえなくなった。
向こうに赤い屋根の大きな家が見えてきた。
それがDの家だろうとすぐにわかった。
Dの父はこのあたりの大地主だった。
長い煉瓦塀の先に玄関があった。
入ったところは広い土間である。
靴を脱いで板の間から上がった。
仏間があって、居間があって、座敷。階段を登ると、
いくつもの立派な部屋。
ここで多くの人が暮らしていたのだ。
今はもう誰もいない。
家に帰れなかった作家の気持ちを思った。

駅へもどる道の途中に一軒の喫茶店があった。
扉に手書きの軽食のメニューが貼ってあった。
中に入ってカウンターに座り食事を頼んだ。
夫婦二人だけでやっている店だった。
食べ終わると奥さんがコーヒーを出してくれた。
「斜陽館に行かれたんですか?」
私はうなずいた。
「うちもけっこう古いんですよ」
その店は家の一部を改築したものであった。
カウンターの奥から母屋に上がれるようになっていた。
奥さんは一部屋ずつ私に見せてくれた。
これが座敷、仏間、二階へ上がって、
これが客間、これが物置。古い屏風をわざわざ出して見せてくれた。
廊下の窓から津軽の山が見えた。奥さんも一緒に山を見ていた。
帰る時に、奥さんが言った。
「東京に私の弟がいるんですよ。あなたと同じぐらいの歳の。
もう何年も会ってないけど」
ご主人が黙って聞いていた。
「また来ます」
「なんか弟が来てくれたみたいで」
それは私に言ったのか、それとも自分の夫に言ったのか。
外に出ると午後の光がまぶしかった。
この町にもう寄るところはないと思った。
駅に向かって歩いた。
いつだったかこんな道を歩いたことがあるような気がした。
角を曲がると津軽三味線の音が聞こえてきた。
八月なのに空気はひんやりとしてもう秋の気配が漂っていた。
北国の夏は短い。
木の切りくずの匂いがした。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

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川野康之 2020年4月5日「ピートの島」

ピートの島                

       ストーリー 川野康之
          出演 地曳豪

スカイ島からグレートブリテン島にフェリーで渡った。
マレーグという小さな港町に着いた。
スコットランド鉄道・西ハイランド線の終点の駅がある町である。
ここから一日に3本だけ、グラスゴーへ行く列車が出る。
駅舎がクローズされていたので、勝手にホームに入ってベンチに座って待った。
潮の香りがしてカモメの声が聞こえた。
駅前に一台二台とクルマが着いては、
荷物を抱えた乗客や見送りの人が降りてくる。
人々は、三々五々ホームの上に上がってきて立ち話をしている。
ディーゼルの列車が入線してきた。

乗客たちが乗り込んで、出発を待った。
私の斜め向かいの席に、一人の青年が座った。
窓を開けて、ホームの見送りの人たちと話をしている。
見送り人の中に青年の父親らしき人がいた。
大声で青年に言葉をかけている。
車内の乗客たちがくすくす笑った。
私にはなかなか聞き取れなかったが、何々はだいじょうぶか、
これこれに気をつけろ、とまるで子供に言うように
こまごまと注意を与えているようだった。
青年は、この田舎町を出て、グラスゴーで学生生活でも始めるのだろうか。
幼さの残る頬を少し赤らめながら父の話にうんうんとうなずいている。
やがて、列車は動き始めた。
父親の姿が後ろへ下がって、カモメと一緒にマレーグ駅のホームに残された。
青年はしばらく窓から父の姿を追っていたが、
見えなくなると、バッグの中から分厚い本を取り出して読み始めた。

列車は徐々にスピードを上げ、
荒れ野と森林が交互に現れる荒涼としたハイランドの風景の中をひた走った。
5時間半の後にはグラスゴーにたどり着くだろう。
途中私がどうしても見たかった景色があった。
ロッホ・ローモンドだ。
フォートウィリアムの駅を過ぎてしばらくしたころ、
黒々とした森の合間から静かな水面が見えた。
列車と併走して湖は何度も見え隠れした。
氷河に削られてできた谷が長い時間をかけて巨大な湖になったのだという。
湖面にはいくつかの黒い島影が見えた。
何万年も前からここにあって、湖のまわりの人々を見てきたのだろうか。
私の頭の中にあのロッホ・ローモンドの歌のメロディが流れていた。
グラスゴーに着くと、乗客たちは都会の顔になった。
列車を降りて駅の人混みに紛れ、灰色の石の街へせわしげに消えていく。
その中に大きなバッグを抱えたあの青年もいた。

スコットランドを離れる日、
私はエディンバラのウイスキーショップで
『ロッホ・ローモンド』という名のモルトウイスキーを見つけた。
聞いたことのない蒸留所だが、何かなつかしい気がして一本買った。
ラベルをよく見るとロッホ・ローモンドの下に『インチモーン』と書いてある。
どういう意味だろう。
日本に帰ってから調べてみたら、
それはローモンド湖に浮かぶ一つの島の名前だった。
古代から周辺住民の燃料源となったピートの島だという。
湖に浮かんでいた黒い島の姿を思い出した。
封を開けると豊かなピートの香りがあふれてきた。
このウイスキーを今から私は飲むのである。



出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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水下きよし「ねじ巻きラジオ」


ねじ巻きラジオ (水下きよし七回忌特集 )

          ストーリー 川野康之
             出演 水下きよし

キイ、キイ、キイ(ぜんまいを巻く音)

(雑音とともに聞こえてくるアナウンス)
続いて天気予報です。

季節は夏が終わり、そろそろ秋が始まります。
空が青く澄み渡り、うろこ雲がさわやかな風に乗って流れていく。
果樹は色づき、田畑は収穫のときを迎えます。
去年の今頃はそうでした。

東京地方は今日もあいかわらず厚い黒い雲に覆われています。
これまで120日間、日照ゼロの日が続いています。
気温は低く、冬のような寒さです。
午後はにわか雨が降るでしょう。

この放送は、日比谷公園放送局から自転車を利用した
自家発電システムでお送りしています。

では次のニュースです。

野犬に襲われる被害が増えています。
町には、飼い主を失った犬が群れを作って、
食料を求めてさまよっています。
桜町の田村さんは、ある朝、部屋の外に出たところ…
(途切れる)

キイ、キイ、キイ(ぜんまいを巻く音)

気がついたらまわりは犬に囲まれていました。
犬は牙をむき、うなっていました。
正面にひときわ凶暴な顔をした白い犬がいました。
その犬がボスのようでした。
田村さんはじっとみつめるしかなかったそうです。
やがて白い犬は牙をおさめ、悲しそうに鳴いたと思うと、
くるりと後ろを向いて去って行きました。

助けに来た人に田村さんは泣きながらいいました。
「サスケだった。あの日、置き去りにしたサスケだったんだ。
生きていたんだ。」

(途切れる)

キイ、キイ、キイ(ぜんまいを巻く音)

川上町の萩野さんからのお便りです。

春も寒く、夏も寒く、真っ暗で、
季節の移り変わりはもうなくなってしまったけれど、
それでも地球は回っているんですね。
もうすぐ私の誕生日がやってきます。
毎年この時期は、窓を開ければいつもすがすがしい風が吹いて、
外に出ると頭の上に青空があるのがあたりまえのように思っていたけど
いまはそれがなんて贅沢だったんだって思います。
でもね、地球は動いているんです。
いつかきっとまた四季が帰ってくるって信じたいと思うんです。
その日まで自分の心の中に残るあの美しい空の色を
忘れないようにしようと思います。

お知らせです。
ねじ巻きラジオ、新しく6台作りました。
放送局まで取りに来られる人は来てください。
近くにご年配の人や、希望を失いかけている人がいたら、
その人たちのために取りに来てください。

なお一時間以上の外出は控えてください。
雨には濡れないようにしてください。
(途切れる)

出演者情報:水下きよし 花組芝居 http://hanagumi.ne.jp/

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川野康之 2019年11月4日「東口商店街の思い出」

東口商店街の思い出              

       ストーリー 川野康之
          出演 地曳豪

東口を出て踏切を渡ると商店街である。
駅の反対口にスーパーがあるが、家へ帰るのに遠回りになるので、
ちょっとした買い物はここですますことが多い。
食パンとか靴ひもとかオロナインとか、まあちょっとしたものである。
商店街と言っても、50メートルも歩けば店舗はまばらになり、
ありふれた住宅街の景色に紛れていく。
昔は銭湯や煙草屋、洋服屋とか、
もっといろんな店があったような気がするが、
いつの間にか店の数は減ってしまった。
そう言えば本屋もレコード屋もなくなってしまった。
また1軒、店が姿を消したようだ。
歯が抜けたように新しい更地ができていた。
左隣は金物屋、右隣にはクリーニング屋。
間口の広さは両隣と変わらないけれど、
ぽっかりと空いた空間が妙に広く見える。

貴子は足をとめた。
「ここ、何の店だったっけ」
しばらく立ち止まって考えたが、思い出せない。
すぐに思い出しそうなのに、どうしても出てこない。
歩いている人がみなよそよそしい顔をして通り過ぎていく。
何だっけ、何だっけと、貴子は自問しながら歩いた。
結局家に着くまで思い出せなかった。

この町に来てから30年になる。
東口商店街は毎日歩いたものである。
駅向こうにスーパーができるまでは何でもここで買っていた。
夫の浩一と駅で待ち合わせて一緒に夕飯の買い物をしながら帰った。
給料日には酒屋に寄ってワインを一本買った。
安売りのチラシを手に、
幼い和也の手を引いてあの店この店と見て回った。
和也の初めての自転車を買ったのもここだ。
思い出のつまった商店街。
わたしが生きていた場所。
知らない店などあるものか。
それなのに思い出せないのである。
金物屋とクリーニング屋の間にあったはずの店。

薄暗くなった台所で、貴子は明かりもつけずに座っていた。
テーブルの上には買い物かごが置いたままだ。
もうすぐ和也が予備校から帰ってくるはずだ。
そしたら和也に聞いてみよう。
しかし今日に限ってなかなか和也は帰ってこなかった。
夫の浩一の方が先かもしれない。
浩一はいつものように冷蔵庫を開けながら、
当たり前のように教えてくれるだろう。

12時を回っても浩一は帰ってこなかった。
貴子は不安になった。
目を閉じると昼間見た更地の風景が浮かんでくる。
胸の中にぽっかりと穴が空いて、だんだん広がってくるようだ。
その穴に貴子も東口商店街もこの町もみんな飲み込まれていくようだ。
浩一と和也はこのまま帰ってこないかもしれない。
テーブルの上には空っぽの買い物かごが置いてあった。
冷蔵庫の中にビールは1本も入っていない。
貴子は思った。
もしかしたら、
浩一も和也もはじめからいなかったんじゃないだろうか。
わたしはこの町で生きてなんかいなかったんじゃないだろうか。
そんな気がしてきたのである。



出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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川野康之 2019年6月「酒をおくる」

酒をおくる

       ストーリー 川野康之
          出演 遠藤守哉 

ぼくたち人類は10数万年前にアフリカで生まれたと言われている。
5万年前にはアフリカを離れて、世界中に旅を始めた。
食料を求めて、生きぬくためだった。
氷河期の終わりには、世界のあちこちで、
狩猟生活をやめて農耕生活を始めるようになった。
農耕を始めると、土地がいるし、水を引かなければならない。
その結果、隣人との間で争いが起きるようになった。
隣人、聞きなれない言葉だ。
獲物を追って旅をしていた頃は隣人なんていなかった。
自分の好きな場所を寝床にすれば良かったのだから。
農耕生活が始まるとともに、ぼくたちは土地を持ち、
隣人を持たなければならなかった。
狩猟時代の自由気ままな生き方と引き換えに手に入れたものが、
隣近所との絶えざる喧嘩だったというわけだ。

人間がお互いに憎み合うようになったのはこのときからだ。
猜疑心という悲しい心が生まれ、恐怖と嫉妬という感情が芽生えた。
きみにはその意味すらわからないだろうね。
汝の隣人を愛せよ、とぼくたちのふるさとアフリカの近くで誰かが言ったらしいが、
それはそうすることがいかにむずかしいことであるかを語っているようだ。

もちろん狩猟時代にも争いはあった。
女をめぐる争い。獲物をめぐる争い。
だがそれらはすぐに片がついた。
強い方が勝ちだ。
負けたやつはしっぽを巻いて去る。
あとくされなし。
おおらかなものだったね。

人々はお互いに傷つけあうようになった。
水のために、隣の村を襲って一人残らず殺してしまったこともあった。
そうしないとこっちがやられる。
疑心暗鬼、復讐、裏切りがあたりまえになった。

人類はいったいどうなってしまうのだろう。
これからずっとこんな世の中が続くのか。
もう一度狩猟生活に戻ったほうがいいのではないか、とぼくは思うことがある。
きみがそれを続けることを選んだように。

そうだった。
あたたかい、海に囲まれたヤマトの地を見つけたとき、
ぼくはそこに残ることを決めた。きみは狩猟生活を続けるために、
再び北に向かって旅立ち、ぼくたちは別れたのだった。
今ごろきみはどのあたりを歩いているのだろうか。

ビッグニュースがある。
米を入れた甕に水を入れて、数日置いておくと、
おいしい飲み物ができることをぼくは発見した。
それを飲むと、愉快な気持ちになるのだ。
自然に歌が出て、踊りたくなるのだ。
ぼくは隣人たちにこれをふるまった。
彼らは、家の奥にしまいこんでいた米を持ってきて、ぼくに預けるようになった。
この不思議な飲み物をぼくたちは「酒」と呼んだ。
今では収穫のあとにはみんなで集まって、
酒を飲んで、歌ったり踊ったりする。

酒は、もしかしたら人類を救うかもしれない。

今年も収穫が終わり、素晴らしい酒ができた。
この酒をきみにおくろうと思う。
ヤマトの海の水は太陽が昇る方向に向かって流れている。
酒を入れた甕を船に乗せて、この海に流そう。
この海の彼方にもきっと大きな陸があるだろう。
もしかしたらきみはそこにいるかもしれない。
そんな気がするのだ。



出演者情報:遠藤守哉(フリー)

 

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