江口順也 09年9月20日放送

E.yazawa1

矢沢永吉 12歳

はじめてビートルズを聴いたとき、
あなたは、なんて思っただろうか。

12歳だった矢沢永吉は、
ラジオから流れてきた
“プリーズ・ミスター・ポストマン”を耳にして、
こう思った。



 こいつは、儲かりそうだ。


海の向こうのサクセスストーリーを、
矢沢少年は、
他人事では片づけない。

もしかして俺だって、音楽をやれば、
世の中ひっくり返せるんじゃねぇの?

イギリスから来たポストマンが
広島の少年に届けたのは、
ロックスターへの招待状だった。

E.yazawa2

矢沢永吉 上京

ふるさとを捨て、
ロックスターになるために上京してきた
若き日の矢沢永吉。

その口は、もっぱら二つのことに使われた。

ひとつは、歌。

もうひとつは、ハッタリ。

初めてのマスコミ取材で、
大新聞の記者を相手に
将来の目標を、こう答えてみせた。



 10メール先のタバコ屋にもキャデラックで行って、
 ピュッとハイライト買えるくらいの男になりたいっすね。


ツテもない。金もない。夢しかない。
ナメられたら、はい、それまでよ。
オレに、還る場所はない。

ヤザワのハッタリは、
自分を夢から逃げさせないための
ディフェンスラインだった。


E.yazawa3

矢沢永吉 スター街道

階段を一段抜かしで登っていくと、
人よりも早く、てっぺんに着く。

矢沢永吉の生き方には、
そんな無言のルールが感じられる。

初めてのライヴハウス、皆が浮かれているときに。
ヤザワは独り、それをどうレコード会社に売り込むか考えていた。

デビューバンドが、全国のチャートを沸かせているときに。
ヤザワは独り、世界の音楽シーンへの挑戦を考えていた。

いつも周囲より、一段先へ、先へ。
それが幼いころからの矢沢のクセであり才能であり、
孤独。


 
 お前らとは夢のデカさが違うんだ。


そう心に秘めながら、走り続けたその道を、
人は後から、スター街道と呼んだ。


E.yazawa4

矢沢永吉 臆病

みずから敵の間へ躍り込んでいくのは、
臆病の証拠であるかもしれない。

と言ったのは、ニーチェだ。

矢沢永吉は、自身を臆病者と呼ぶ。


 「大丈夫かな?」
 「今のオレは、間違ってないか?」
 「後悔してない?」
 「これでいいのか?」


そういつも、自分にクエスチョンしている。

臆病なやつは、常に怖れているから、
次にどうすべきかを必死で探る。調べる。計算する。

大胆なライオンよりも、
本当に恐いのは、
臆病なライオンのほうだ。


E.yazawa5

矢沢永吉 どん底

てっぺんを走っていた男は、
ある日、どん底へと突き落とされる。

スタッフに裏切られ、
35億円というフザけた借金を
ひとり背負わされた、矢沢永吉。

傷つき、落ち込み、苦しみ抜いて、
しかし男は、こう考えるようになった。



 これは、矢沢永吉という役なわけ。
 田舎から夜汽車に乗って上京し、
 いろいろ苦労して最後にスーパースターになるって役さ。
 悪くないだろ?


視点を変えれば、気持ちが切り替わる。
地獄から這い上がったスターは、
いま苦しい人に、強く語りかける。



 リストラされたって、借金を背負ったって、それは役だと思え。
 苦しいけど死んだら終わりだから、本気でその役を生き切れ。

E.yazawa6

矢沢永吉 スタイル

テクノロジーが、あっという間に、
ものごとや価値観を変えていくようなときに。
矢沢永吉は、こう答えを出した。


 
 ひとつだけわかったことはね、
 ダウンロードできないものを作らないといけないと思ったの。


すべては検索でき、すべてがデジタルコピーできる時代。

歌はダウンロードできる。

しかしスタイルは、ダウンロードできない。

E.yazawa7

矢沢永吉 Happy Birthday.

時間よ止まれ。

かつて、
そんなタイトルで日本中を酔わせた
矢沢永吉も、

五日前に60歳の誕生日を迎えた。

Happy Birthday、永ちゃん。

二十代の終わりに出した
自伝「成りあがり」を開くと、
こんなことが記されている。



 50になってもケツ振って
 ロックンロールを歌ってるような
 かっこいいオヤジになってやる。


今夜、開かれるのは、
予言の年齢を10も超えた
「還暦記念ライヴ」。

その公演タイトルはズバリ、

「ROCK’N’ROLL」。

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コメント / トラックバック 2 件

  1. work and travel より:

    Is there any information about this subject in other languages?

  2. team Vision より:

    この原稿すごくかっこよかった。

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