古居利康 11年9月11日放送



テン・イヤーズ・アフター ①ジョージ・ウォーカー・ブッシュ

2001年9月11日。
ブッシュ大統領の緊急声明より、抜粋。

「国民の皆さん。
本日、わたしたちの日常生活において、
ほかならぬわたしたちの自由が、
テロリストの攻撃を受けました。

旅客機の中で、オフィスの中で、
ビジネスマン、軍や政府の公務員たち、
母親たち、父親たち、そして、友人たち、
わたしたちの隣人が犠牲者となりました。

何千もの命が、卑劣極まる残虐行為によって
突然終止符を打ったのです。

いままでアメリカは敵を粉砕してきました。
そして、今回もわたしたちはそれを実行します。」



テン・イヤーズ・アフター ②リック・リスコラ

ワールドトレードセンターの中に
オフィスを構えていたモルガンスタンレーの
警備主任、リック・リスコラは、
1993年に起きた、ワールドトレードセンター
爆破事件の教訓を忘れなかった。
不意打ちの避難訓練を頻繁におこない、
しばしば社員に煙たがられ、変人扱いされた。

2001年9月11日、
リスコラの恐れは現実となったが、
かれの冷静な避難誘導によって、
モルガンスタンレーの社員2700人のうち、
2687人は、無事だった。

その日、かれは妻に電話をかけている。
「どうか泣かないでほしい。
もし、ぼくの身に何か起こったら、
きみがぼくの人生のすべてだった、
ということを覚えていてほしい」

そう言い残して、かれは
まだビルの中にいる社員を救出するために
炎と瓦礫の中にとって返し、二度と帰らなかった。



テン・イヤーズ・アフター ③ノーマン・メイラー

権力のありかたを、
生涯、厳しく問いつづけた
小説家、ノーマン・メイラーは、
2001年9月13日、
タイムズ誌にこう語っている。

「アメリカは攻撃の精密さに
恐怖を覚えた。これがアメリカのような
若い国につきもののパラノイアに
火をつけるだろう。」

「なぜ、アメリカは、
このようなテロがおこなわれるほど
人々に憎まれているのか、理解しなければ
ならない。世界の多くの国々、
とりわけ発展途上国では、アメリカは
文化的な抑圧者であり、
美的な侵略者と見られている。
世界で最も貧しく、ちっぽけな国の
首都の空港の周囲に、
高層のホテルや建物が並ぶまで、
高層建築を増やしたがる。」

「アメリカが押しつけている
アメリカ風の生活スタイルや、
巨大な利益を上げつづける生活スタイルは、
世界の大部分の国には、必ずしも
ふさわしいものではない。
そこを理解しないと、アメリカは、
世界で最も憎まれる国になるだろう。」



テン・イヤーズ・アフター ④エドワード・サイード

キリスト教徒のパレスチナ人として
エルサレムで生まれた文学者、
エドワード・サイードは、2002年9月、
9.11以降の対テロ戦争は世界を安全に導いたか、
という質問にこう答えている。

「より危険になったと私は感じる。
突発的なものであれ、国家によるものであれ、
以前より暴力に支配され、
人々は安全でないと感じている。
それはテロのせいではなく、
米国が交戦状態にあるからだろう。
テロという抽象的な悪との戦いは、
終わることも勝利することもありえない。」



テン・イヤーズ・アフター ⑤カート・ヴォネガット

小説家、カート・ヴォネガットは、
2005年に出版された最後の著作、
『国のない男』のなかでこう書いている。

「マーク・トウェインとエイブラハム・リンカンは
いまどこにいるのだろう。
いまこそ必要なときだというのに。
ふたりとも、中部アメリカの出身だった。
ふたりのおかげでアメリカ人は己の愚かさを
笑うことができるようになったし、
本当に大切で、本当に道徳的なジョークのよさが
わかるようになったのだ。今日、ふたりがいたら、
いったい何を語るだろうか。」

そして、1848年、まだ大統領になる前の
リンカンの演説を引用する。

「糾弾を免れるために、彼は、国民の目を
華々しい戦いの輝ける栄光に向けておいた。
あの魅力的な虹は血の雨のなかのみかかる、
と知っていながら、破壊へと人を招き寄せる
ヘビの目をぎらつかせて、
彼は戦争へと突入していったのだ。」

「彼」とは、当時の合衆国大統領、
ジェイムス・ポークのことだ。
かれがはじめた戦争、
アメリカがカリフォルニアやテキサスを
手に入れた対メキシコ戦争を、
リンカンはアメリカの恥だと考えていた。



テン・イヤーズ・アフター ⑥大江健三郎

エドワード・サイードの友人、
大江健三郎は、2003年9月11日、
新聞にメッセージを寄せている。

「暴力をしずめるためには、
暴力ではなく言葉こそが力をもつと、
いま本当に必要な心のノートを書くなら、
私は広島と長崎からの言葉が
伝えられねばならぬと思います。」

「二年前の『9.11』に私らをとらえた沈黙、
考える言葉に向けてそれぞれにした手探り。
そこに立ち返ってみなければなりません。
あの時、世界じゅうの人間の心が
一致したとすれば、暴力をしずめる言葉を
作り出すことこそ文化だったという、
苦しい反省ではなかったでしょうか?」



テン・イヤーズ・アフター ⑦村上春樹

『9.11』後の世界について、
村上春樹はこう語っている。

「今の世界というのは、
実は本当の世界ではないんじゃないかという、
一種の喪失感。
…リアリティーの欠損なんですね。…
もし9.11が起こっていなかったら、
今あるものとはまったく違う世界が
進行しているはずですよね。
おそらく、もう少しましな、正気な世界が。」



テン・イヤーズ・アフター ⑧バラク・フセイン・オバマ

2011年5月2日。
オバマ大統領の緊急声明より、抜粋。

「こんばんは。
今夜、わたしはアメリカの人たちと世界に、
作戦実施のご報告ができます。
アメリカは、何千人もの罪なき人々や子供たちの
殺害に責任のあるアルカイダ指導者、
オサマ・ビンラディンを殺害しました。

アメリカ人に対する史上最悪の攻撃によって、
まぶしい9月の日が闇に落とされたのは、
10年近く前のことでした。

2001年9月11日のあの日、悲しみの中で
わたしたちアメリカ人は団結しました。

わたしたちは一致団結して、自分たちの国を守り、
この残酷な攻撃をおこなった者たちに
正義の裁きを下すのだと決意を固めました。

そして、愛する人を喪った家族の皆さんに、
こう言うことができます。

正義は、遂行されました。」

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