直川隆久 2013年6月16日

すわせろ!
 
         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

いやあ、タバコも高くなったねえ。今、2万円でしょ。一箱。
むちゃくちゃだよね。
だから最近はこれですよ。第3のタバコっていうんですか。
なんか原料は街路樹の落ち葉とかでつくってるらしいけどね。
まあ、意外とこれが、慣れるといけるんだよね。
しゅぼっ。
ま、タバコの快感って、要は酸欠だから。
すーっ…ぱは~…うん。効く効く。
…ちゅうことで煙を吸うことが大事なんであってね。
タバコの葉っぱじゃなくてもよかった…
ここに気付いたってのはまあ、我々たばこのみにとっての、
コペルニクス的転回でしたわな。

知ってます?
ノンニコチン・ノンタールで今売れてる「メビウスゼロ」って、
あれ、紙だからね。中身。100パー。うん。
いちど、バラしたことがあるのね。
そうしたら、メモ用紙を丸めたのが入ってた。
あれで一箱800円とるんだから、マーケティングってなぁえらいもんだよね。2万円の横にあったら、そりゃ800円なんて安く見えるもの。
タバコ売場に置くだけで、ただのメモ用紙がねえ、
800円になるんだから。

そうそう。街にもね、いろんな煙を吸わせる店が出てきたよね。
表参道あたりじゃ、煙バーってのができたって。
そこはね、高級葉巻とかもあるんだけど、
そういうのはもはや「クール」じゃないんだってさ。
で、なに吸ってるかっていうと、サンマの煙とかウナギの煙とからしいね。
サンマを焼いてさ、その煙をこう、すぱ~…っと。
そりゃ、モノにはこだわってるみたいですよ。
ウナギは天然モノじゃなきゃいけないとか。
いや、中身は食っても食わなくてもいいんだけど、
大事なのは煙なんだって。
まったく、金持ちってのは妙な事考えるよな。
その店にはさ、その日の気分でどんな煙がいいか
アドバイスしてくれる人がいて、それをケムリエって言うんだってさ。
…なんだ、そのダジャレが言いたいだけなんじゃないのかって、
気もするけどね。

でも、なんか一部でさあ、
マニアックつうかアブノーマルなやつもでてきてるみたいだね。
ほら、こないだ某有名俳優がなくなったその火葬場で、
煙突にビニール袋をかぶせて逮捕された奴がいるでしょ。
あれね、そういう煙をさばくルートがあるらしいんですよ。
そういう……ってのは、まあ、あれですよ。
有名人の、亡骸を燃やした時のナニを…
まあ、アレするってことらしいんだけどね。
いやあ、まあ、えらい時代になりましたよ。

あ、そうそう。
私の知り合いでねえ、
大麻の葉っぱをアパートに大量に隠し持ってたやつがいてね。
たくさん持ってる癖に、仲間内にもなかなか回そうとしないヤな野郎でさ。
で、そいつ、部屋で一服きめてうっとりしてる間に火事出しちゃって
焼け死んだんだけどね。アパート全焼。
葉っぱごと。そんときゃみんな感謝したね。
町中、いい匂いの煙でいっぱいだったもの。
みんな、とにかく鼻の穴全開で煙吸いこみながら、
手ぇあわせておがんでたよ。ああ、ありがたいってね。
私もまぁ、死ぬときゃそんなふうに逝きたいもんですよね、
生きてる間はせいぜい煙たがられてもね、
死んで煙になったら嬉々として吸われたい…なんてね、
シャレになっちゃいましたけど。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

  

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

神谷幸之助 2013年6月9日

ユゥブ・ガラ・メール

        ストーリー 神谷幸之助
           出演 地曵豪

そのメールの意味を理解するのに
ひと月かかった。

スパムメールに埋もれていたそのメールは
いつもありえない時間から送られていた。

送信日時は 毎回10年先のきょう午前0時。

最初は
時計が狂ったパソコンから
送られたものだと無視していた。

しかし それは本当に未来から送られていた。
インターネットが 現在と未来をつなげたんだ。

そして その送り主は
おそらく未来にいるオレ自身。

返信はできない。
送れる文字も限りがあるようで 数字だけ。

仮にむこうが文章を送っているとしても
文章として届いていないことに
書き手は気づけない。

このことは誰にも話せなかったし 話したくなかった。
話してもアタマがおかしいと思われるだけだろう。

すべては 空想するしかなかった。

こんな不完全な
一方的なコミュニケーションだったが
これは事実上の「タイムマシン」だった。

未来では標準装備されている
メールの新しい機能なのか
はたまた
時間軸が歪んだインターネット回線上の
偶然の現象なのかそんなことはわからない。

だけど オレは毎日興奮していた。

それはこのタイムマシンで
彼は オレに あるメッセージを
送ろうとしていることは
あきらかだったからだ。

NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
 まず、エンディング/タイプAをどうぞ」

頭からケムリが出るほど考えた。

00012200122011

いつも数字は
0と1と2の組み合わせだった。
そして いつも14けた。

その番号で電話をかけてもつながらない。

プログラムの授業で習った
二進法のコンピュータ言語を
もっと勉強すればよかったと悔やんだものだ。

だけど 今日やっとわかったんだ。

未来のオレがそんな難しい問題を
自分に出すわけがない。

いつも毎週末
自分がいちばんどきどきする数字。

00012200122011

これはサッカーくじTOTOの当たり番号だ。

1はホームチームの勝ち
2はホームチームの負け
0は引き分け
14はJリーグのゲーム数。

01012200122011

毎週末送っていたのは
その週末に行われた試合結果だったんだ。

「賞金を未来に送れ」

これが、メールの意味だった。

NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」

その長い数字の暗号は 簡単だった。
「あ」が1
「い」は2
「う」が3
というように
50音に数字の番号をつけただけだった。

18/6/2/10/32・・・

つ・か・い・こ・・み・・?

「ツカイコミ ガ バレ ソウダ」
やっぱりこいつはオレだ。
会社の使い込みの件は、誰にも話していない。

「シキュウ イッセンマン コウザ ニ イレロ」
そうか いま口座に入れれば
その数字は未来に送れることになる。

翌朝早速 銀行に 行き
定期預金を解約し 1000万普通口座に入れた。

同時に スマホでメールボックスを開ける。

「1/43/6/20/3 ・・あ・り・が・と・う・・」

ありがとう?
しまった。

オレが オレオレ詐欺にかかって どうする。

急いで
キャッシュディスペンサーで残高を調べる。

口座の金は、ケムリのように消えていた。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

安藤隆 2013年6月2日

ドロドロドロンかよ

     ストーリー 安藤隆
        出演 原金太郎

 炭の煙がけむたいという話になったとき、
「煙が目にしみる」という歌が頭に浮かんで、
離れなくなった。
 煙が目にしみるって、煙突から煙が出てい
る風景をいつも思い浮かべていた。スモッグ
に覆われた街の空が、心の曇った風景と重な
って涙がでる、とかいうことかなと思ってい
た。歌詞はどうなってるんだろう。そしたら
手伝いの桜ちゃんが調べてくれた。スマート
フォンで。煙突じゃなかった。
 一番では「気持ちが燃えあがったその煙で
目がかすんでるだけさと、人は言う」
 二番では「燃えつきちまった恋の炎の煙が
目にしみるのさと、おいらは言う」
 恋の煙というわけだった。な〜んだ。
「柴田さんねえ、プラターズだもん、恋の煙
だよ」カウンターの向こうから、鳥平親父が
言っている。
「恋の煙ってなんだよ。恋は炎まででしょう。
恋と煙は結びつかないよ。ねえ中日さん」
「大将に一票だね」プロ野球スカウトの中田
さんが、にやにやしながら答えた。「とうぜ
ん恋と結びつくよ。プラターズだもん」
「恋の煙だと思った」桜ちゃんまで言う。
「返事おそいすね。あらんドロン! で決ま
りすよね」若手の滑田くんがぼそっと口にだ
した。きょうは先日の提案の結果がでるはず
で、いくらか楽観しながら、連絡を待ってい
た。
「どうせ目にしみるなら、備長炭の煙がいい
わ」滑田くんには答えないで、もともとの炭
の話にもどした。
「備長炭は、あんまり煙でないんだよ。ね大
将」中田さんが言う。
「そんなら鳥平は備長炭じゃないんだ、煙も
うもうで」とわたし。
「うちは備長炭使ってるなんて、一言も言っ
てないもん。あんなの、ニセモンばっかり」
鳥平親父が言った。
「このごろ無煙ロースターの焼き鳥屋、あり
ますよね」滑田くんが横入りする。
「多いよ」と鳥平親父。
「地元の駅前にできた焼き鳥屋、無煙ロース
ターでした。おいしかったすよ」と無煙ロー
スターなど持ちだして、話に水をさす滑田く
ん。
「煙がでないなんて、焼き鳥屋の風上にもお
けないなあ」いつも微妙に軽視されている若
手に微妙に反発する。
「だからあ、備長炭も煙はでないんだって」
と中田さん。桜ちゃんがくすっと笑った。
「なんだよビンチョウタンって。ビチョウタ
ンでいいじゃねえかよ」みんなグルのような
気がした。
「ことし中日だめだねえ」
 鳥平親父が中田さんに言っている。
「今シーズンは、負けりゃいいんです。負け
て総取っ替えすりゃ。地元選手ばっかりとっ
てるから、こういうことになる」
「テレビでみたけどベンチが暗いやね。あれ
じゃ勝てっこない。わるいけど」
 滑田くんが、携帯でなにか話しはじめた。
話しながら席を立って店の外に出る。でもぜ
んぜん別の電話かもしれないし。
「桜ちゃんは大学何年?」とわたし助平なこ
と聞いている。滑田くんが店内に戻ってきた。
「ちょっと会社もどります」鳥平親父に言う。
「どうしたの」とわたし。
「ドロドロドロンみたいっす」
 後ろも見ずに煙の向こうへヒューと消えた。
「おれも、もどるわ」わたしは言った。なに
しろドロドロドロンじゃたいへんだ。

出演者情報:原金太郎 03-3460-5858 ダックスープ所属

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

中山佐知子 2013年5月26日

どこでもドア

    ストーリー 中山佐知子
       出演 高田聖子

月曜日、玄関のドアとケンカになった。
古くて建て付けが悪くなったせいかドアは頑固だった。
なかなか開かないし、開いたら閉まらない。
その日は私も虫の居所が悪く、急いでいたこともあって
開かないドアに蹴りを二三発食らわしてしまったのだ。

「何すんねん。」ドアは怒った。
「あんたが悪いんやろ、この老いぼれ」
口論になったが
ドアのやつが大きな口を開けて怒鳴るので
私はその口に飛び込んで外に出ることができた。
鍵もちゃんとかけたのでドアは静かになった。

その夜のことだった。
家に帰ってドアを開けると、いきなりトイレだった。
トイレのドアを開ける台所だった。
台所のドアを開けると外に出てしまったし
同じドアから戻るとこんどは暗くて狭かった。
わあぁ、どこや、ここは。
クロゼットの中だった。

えらいことになった。
テレビを見たいのにバスルームに入ってしまう。
もう寝たいのにパジャマのまま外に出てしまう。
家中のドアが「どこでもドア」になっていた。
しかもそのドアは好き勝手なところに私を連れて行く。

翌朝から私は用心深くなった。
一泊用のカバンを用意し、着替えと化粧道具を詰めた。
朝起きて寝室を出ると
もう一度着替えに戻れないかもしれないからだ。
風呂に入るときもバッグを持って入り
出る前に服を着ないとハダカで外に出てしまう危険があった。
トイレもめぐり会えたときに済ませることにして
部屋から部屋の移動を最小限に抑えた。

土曜日は先輩が遊びに来ることになっていた。
駅まで迎えに行って家に着くまで
「何があってもびっくりせんといてくださいね」と
何度も念を押したにもかかわらず
先輩はまわれ右してすみやかに帰って行った。
その日は玄関を開けたらいきなりバスルームで
しかもシャワーから水が出っぱなしだったのだ。
私は角(かど)まで追いかけて行って
悪気があるのはドアで私ではないと申し開きをしたのだが
先輩は凄い目で私を睨み、濡れた髪をハンカチで拭きながら
「早よう水止めんと勿体ないで」と捨て台詞を残して去った。
私は、こんな事態ではあるけれど
男のくせにそんなことを口に出す先輩がちょっとイヤだと思った。

それから家に帰って、私は窓ガラスを磨いた。
それはドアに見せつけるためだったが
窓は大喜びで私に忠誠を誓った。

月曜日、私は窓から出て仕事に行った。
戸締まりしといてやと声をかけると、窓の鍵は勝手に締まった。
夜、仕事から帰ったら玄関のドアに窓がついていた。
トイレのドアにもバスルームのドアにも必要なときは窓ができた。
「どこでも窓」の出現だった。
いや、よく考えるとそうではない。
ドアはこの家の部屋と部屋のつながりをパズルのようにしてしまうが
窓はそれを正しく戻してくれるのだ。
台所からパスタとサラダをお盆にのせて
トイレを経由せずにリビングにたどり着くってなんて幸せなんだろう。

しかしそれは長続きしなかった。
「どこでも窓」は窓拭きを忘れるとすぐに拗ねてしまう。
すると、その隙を突くように「どこでもカーテン」があらわれた。
カーテンの次は「どこでも絨毯」だった。
その絨毯にお茶をこぼして険悪になった日の夜、
会社から帰ると玄関には絨毯ではなくカーテンでもなく、
ドアが戻っていた。

「久しぶりやんか」
思わずドアに話しかけてしまった。
ドアは黙って私を通してくれた。
ドアを開けるとトイレでも寝室でもなく、ちゃんと玄関の中だった。
右にはちゃんと下駄箱もある。
私はただいま〜と大きな声を出しながら靴を脱いだ。

出演者情報:高田聖子 株式会社ヴィレッヂ所属 http://village-artist.jp/index.html

  

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

古川裕也 2013年5月19日

彼らは成長した

       ストーリー 古川裕也
          出演 大川泰樹

出張から帰った木下が、まず気づいたのは、
空気が少し黄色いことだった。
次に、自分に3本目の足が生えていることに気がついた。
場所は、へそのすぐ下。長さは、膝より少し下くらいまである。
おそらく生えたばかりだろう。少し青い。
歩いてみると、当然、股間の前でちょっとした棒が
ぶらぶらすることになるのだが、
歩行のリズムに合わせてぶらぶらするので、別段不都合なこともない。
両手両足の2次元のリズムより今回の3次元のリズムの方が心地よいくらいだ。
モノレールを降りて久しぶりに日本の街を歩いた木下は、
3本目の足をぶらぶらさせて、むしろとても気分がよかった。

翌日、木下と共に出張していた浅尾が帰国した。
出社した彼は顔のまんなかをエレベーターの上枠にぶつけ、
鼻血を出していた。背が伸びたのだ。
本人の申告によれば、6センチほど。彼は47歳である。
帰国する飛行機に乗るときは、気づかなかった。
3時間半ほどのフライトの間に6センチ伸びたことになる。
かっこよくなったかと言えば、残念ながらそうでもない。
伸びたうち、5センチは顔の部分なのだ。
少なくとも日本において、あまり見かけるプロポーションではない。
すれ違う人々は、3秒くらい浅尾の顔を見つめ、
そのあと2秒で全身をさっと見渡した。

その翌日、島田が帰国した。木下、浅尾と同じ出張先だった。
島田は、腰の少し下くらいまで、髪の毛が伸びていた。
とてもきれいに。レゲエ的ではなく、シャンプーのCM的に。
彼は、久しぶりの出社を気持ちいいものにするために、
とっておきの濃紺のアルマーニのスーツを着ていた。
頭部が急激に重くなり、少しだけ歩きにくそうだったけれど。

島田は営業である。当然すぐ床屋に行った。
だが、無駄だった。翌朝目覚めると、
彼の髪は、帰国直後とほぼ同じ長さになっていた。
営業として、島田には試練の日々が続くだろう。

彼ら3人は、出張中、ほぼ同じものを食べていた。
いちばんおいしくて、いちばん印象に残ったのは、
北京ダックだったと、3人とも言う。
日本で食べるのとは全然ちがって、本格的な味だったと口を揃える。

残念ながら、その味の違いは、
高級な材料だったからでも料理の仕方によるのでもなかった。
3人が食べた鶏には、成長ホルモンが注入されていたのだ。
とてもとても強力で、すごくすごく大量のそれが。

彼ら3人は、今、会社のなかの秘密の部署にいる。
半透明の扉の向こうにデスクを与えられ、
人目に触れずにすむ仕事を黙々とこなしている。

出演者情報:大川泰樹(フリー)http://yasuki.seesaa.net/

  

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

直川隆久 2013年5月12日

最後のマナー

       ストーリー 直川隆久
          出演 水下きよし
       
最後に言いたいこと…そうですな。
 
ま、この期に及んでこんなお話で大変、恐縮なのですがね。
前から、疑問に思っていることがあるんですな。
よろしいでしょうかな?

ほら、あの、ビルの入り口なんかで、ガラス扉、ありますな。
手で押したり引いたりするもの。
あれでときどき非常に困るのです。
いや、押しても引いてもよい、いわゆる両開きドアならよいのです。
問題は、どちらか一方にしか開かないドアで、
しかも、こっちから押さなければならないときですな。
困るでしょう。
 
…分かりませんか?
つまりね、私がドアの前に立ち、今まさにドアを押そう…というときに、
向こう側に誰かが立っていることがある。
まさにそれが見えるわけです。ガラスですからな。
そのとき、マナーに適ったふるまいとは如何なるものなのか…
これが私の長年の疑問でして。
イメージしていただきたい。私が相手のためにドアを開けるとですね…
相手としては、ドアが目の前にわっと、こう、迫ってくるので、
いったん後ろへ下がらなければいけませんね。
じゃあ、私が開けないとしたら。
私がそこでドアにかけた手を下ろしたら、どうなります?
「お前が開けろ」という意思表示になりますね、これは。明らかに。
しかも、ドアのまん前に突っ立っておれば相手とぶつかりますから、
一歩下がることになる。
「さあ、待ってるぞ、お前が開けるのを」という感じですね。
これは、尊大ではありませんか。
特に、鉢合わせの相手が妙齢の女性でしかもドアが重たかったりすると、
この問題が先鋭化しますな。
男性としてはハラスメントに当たらないのかと。

ガラスの向こうの相手に声をかける…それも考えたことがあります。
ですが、ガラス扉というやつは意外に防音性が高くてですな。
相手に聴きとらせるためには、むやみに大声をあげなければいけない。
これはなんというか…トゥーマッチですな。
行きずりの見ず知らずの相手に、そんな大声をかけるというのが
どうも洗練された振る舞いに思えませんし、
またガラスの向こうの相手も、
至近距離で妙に力まれると却って気まずいでしょう。

いやはや。
これは、ガラス扉というものがなかった時代には
ありえなかった問題ですね。
――本当に、生きるということは些末な悩み事で満ち溢れています。

神父様、いかがですか。
どのようなふるまいが正しいのでしょうな。

考えてみれば、このことを口にだして誰かに相談したのは、初めてです。
答えが知りたいですな。

そこに並んでいる、遺族の方々の中にもご存知の方は…
いらっしゃいませんか。

ええ。
そうですな、少し喋りすぎたようです。
目隠しは…いや、やめておきましょう。
 
神父様。
天国の扉は、両開きであってほしいものですな。

 
出演者情報:水下きよし 花組芝居 http://hanagumi.ne.jp/

 

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ