2010 年 3 月 6 日 のアーカイブ

熊埜御堂由香 10年03月06日放送

01-paul

道具のはなし ポールボキューズの鍋

「私の料理の秘訣がひとつしかなかったとしたら、
 それはこの美しい道具だろう」

フランスのリヨンで腕をふるう
84歳の現役天才シェフ、ポールボキューズ。
彼は料理へのこだわりから、鍋までつくってしまった。
工業の街、アルザスで、
祖父の代から台所用品店を経営していた、
フランシス・ストウブ氏と開発した、分厚い鉄の鍋だ。

45年間、ミシュランの3つ星を
維持しつづける彼のそばに、
今日もこの武骨な鍋はどっしり座っている。

02-chieko

道具のはなし 智恵子の千代紙

こころの病に苦しんだ、高村光太郎の妻、智恵子。
光太郎は彼女に、気分転換の道具に千代紙を渡した。
智恵子はたちまち紙絵に夢中になる。
食膳がでると、皿にのる食材を紙絵でつくらないうちは
箸をとらないほどだった。
できあがると、恥ずかしそうな、うれしそうな顔で、
光太郎に差し出した。

智恵子の残した千点以上の紙絵に、光太郎は言った。

 これらは、智恵子の詩であり、
 生活記録であり、此世への愛の表明である。

妻の千代紙は、夫と心を交わす道具となった。

03-hikaru

道具のはなし 恋する道具

ひとは不器用だから、
恋をするにも、道具がいります。
いまは、メール。昔は手紙。

プレイボーイの元祖、光源氏は、
先立たれた妻からの恋文に、
歌を書きつけて、泣きながら燃やしました。

大切にとってあった手紙と妻への思いが
一筋の煙になって天へ届くように。
そんな思いをこめた読まれた歌のしめくくりは、

 おなじ雲居の煙とをなれ
 (おなじくもゐの けぶりとをなれ)

メールは燃やすこともできないし、
下駄箱にいれることもできません。
恋する道具としては、手紙が一枚上手のようです。

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石橋涼子 10年03月06日放送

04-fuji

藤山寛美の岡持ち

アホを演じることにかけては天才と言われた
役者、藤山寛美。

彼が舞台裏で片時も手放さなかった道具は
岡持ちだった。
化粧道具からタバコやのど飴まで、
舞台に立つための必需品がすべて詰まっていた。

役者と名乗ることにこだわった彼の言葉がある。

 わしは、俳優やあらへん、役者や。
 俳優の俳の字は、人に非ずと書くやろ。
 芝居には役者の人間性が出るもんや。
 そやから、わしは、人間を演じる、役者や。

彼の中には、人のおかしさや愛しさや、悲しさまでも。
人間を演じるための必需品が
ぜんぶ詰まっていたに違いない。

05-mikimoto

道具のはなし 御木本幸吉の矢立

道具の使い道は、ひとつではない。

うどん屋から始まり、青物、米、海産物を経て
真珠の養殖で財をなした商人、御木本幸吉。
彼は常に「矢立」を腰にさしていた。
ボールペンが普及し始めた時代に、
墨つぼと筆を携帯するための矢立は、
もはや消えゆく道具だ。
彼は、そんな矢立を愛用する理由をこう語った。

 「武士の刀」のように、矢立は「商人の魂」だ。

と。
実際は、新聞社などマスコミが
矢立の物珍しさを面白がって紹介することが多く、
御木本の良い宣伝道具になっていたという。

商人は、道具の使い方も、さすがです。

06-carlyle

道具のはなし カーライルとフランクリン

イギリスの評論家、
トーマス・カーライルは
 人間は、道具を使う動物である
と言った。

ベンジャミン・フランクリンは
 人間は、道具をつくる動物である
と言った。

私はどうだろう?
近ごろ、道具を愛でる動物、
になってはいないだろうか。

ケースに入れたままのとっておきのグラスを出して
今夜は一杯、やってみようと思う。

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