佐倉康彦 2016年12月11日

sakura1612

土の眼差し

      ストーリー 佐倉康彦
         出演 石橋けい

土は、雲を見上げている。
雲は、土を見下ろしている。
土は、太陽を見上げている。
太陽は、土を見下ろしている。
土は、風を見上げている。
風は、土を見下ろしている。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを見下ろしている。

土は、雨を見上げている。
雨は、土を濡らし続けている。
土は、雪を見上げている。
雪は、土を隠そうとしている。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを濡らし続けている。
わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを隠そうとしている。

土は、
雲を、
太陽を、
風を、
雨を、
雪を、
あなたを見上げている。
あなたは、
わたしを、
土を、
わたしのなかに埋まったままのそれを
見下ろしている。

土は、宙(てん)を見上げている。
宙(てん)は、土を見下ろしている。
土は、星を見上げている。
星は、漆黒のなか、土を見下ろすことなどできない。
土は、月を見上げている。
月は、己の放つ朧な明かりだけでは、土を見下ろすことなどできない。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしのなか、わたしを見下ろすことなどできない。
わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、己の放つ朧な思いだけでは、わたしを見下ろすことなどできない。

土は、
そこからひとつのいのちをひり出す。
そのいのちが太陽に向かってゆく姿を見上げる。
そのいのちは、
己がひり出された土を、膣を見下ろしながら、
いつの間にか、その土を顧みることもしなくなる。

わたしは、
あなたからひとつのいのちをひり出させる。
そのいのちがわたしに向かってゆく姿を想像する。
そのいのちは、
己がひり出されたあなたのなにかを濁らせながら、
いつのまにか、わたしの中にもとどまれず、
白い陶器の渦潮の中に打ち棄てられてゆく。
土は、
わたしは、
空を、
あなたを見上げている。
空は、
あなたは、
土も、わたしも見下ろしてなどはいない。

がらんどうの、その空(から)の、あなたの瞳に映るのは、
よこたわったままの、
土の、膣の、わたしの隣りに広がっている海しか映ってはいない。

よこたわったままのわたしは、
空しか、あなたしか、見上げることはできない。
わたしのとなりに
土のとなりにひろがる、
あのひとも、
海も、
見つめることしかできない。

わたしは、あなたを見上げている。
あなたは、わたしを見つめてなどいない。
土は、空を見上げている。
空は、大地を見つめてなどいない。
          
わたしは、空を見上げている。_

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

 

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坂本和加 2016年10月9日

tcs1610sakamoto

おじいちゃんの飯ごう

      ストーリー 坂本和加
         出演 石橋けい

まさか今頃になって、戦後71年も経って、
おじいちゃんの遺品が出てくるとは思わなかった。
家族みんな、そんな気持ちだった。

私は孫だけど、
おじいちゃんについて知っていることは、
徴兵されて戦争で死んだ、という事実だけだ。
おばあちゃんには、身近な戦争経験者として
当時のことを何度か聞いたことがある。
だけど、おばあちゃんからは、
ほんとうになんにも出てこなかった。
ときにきつく断られ、席を外された。
いつのまにか戦争は我が家の禁忌となり、
おばあちゃんは最愛のひとり息子、
私の父を亡くしてから認知症がすすんで、
なにもかもほんとうに忘れたまま、数年前に亡くなった。

終戦の年の4月に私の父は、生まれた。
そのひと月前くらいに、おじいちゃんは硫黄島で亡くなった。
享年32歳。遺影は軍服姿、出征直前に撮ったのだと思う。
たぶんおじいちゃんは、自分の子どもが
無事生まれたかどうかも知らずに死んでいった。
もちろん、おばあちゃんがその後、再婚もせず、
貧困の中でその一人息子を育て上げたことも。
あなたには、21世紀を生きる、孫もひ孫も
いるんだということも知らずに。

あるとき、おばあちゃんの遺品の整理で
おじいちゃんの勲章が出てきた。
家族もはじめて見るもので、インターネットによると
勲七等は、下士官兵クラス。戦没者に授与されたものらしい。
この勲章が、もしも家のどこかに飾られていたなら、
おじいちゃんのことを知る機会はいくらでももてただろう。

2016年の夏は、
おじいちゃんの飯ごうのフタと箸が見つかった。
硫黄島で71年も置き去りにされた
ボロボロであろうの飯ごうのフタから、
よく故人を判明できたねと驚いたけど。
現物は、フタに刻まれた傷も新しく、
はっきりとおじいちゃんの名前を判読でき、
さして使われもしなかったのかなと、想像して泣けた。
戦没者の遺骨帰還を続けている方たちが、ありがたかった。

もしもおばあちゃんが生きていたら。
飯ごうのフタと箸を、どう思っただろう。
それは軍から支給された「もの」にすぎない。
だけど、おじいちゃんがそこで確かに生きていた証は、
勲章とはぜんぜん違うもののはずだ。
長い時を経て、硫黄島から帰ってきた
おじいちゃんの遺品を、私は、
泣いてなんかいられない時代を
生き抜かなくてはならなかった
おばあちゃんの、悲しみのしっぽ。
そんなふうに思った。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

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石橋けいから「ひと言」

jibiki&K

8月のTCSの収録では、机に美味しそうなトウモロコシが!!
外から蝉の声も聞こえてくる昼下がり、
兄(地曳さん)と2人、故郷に帰省して、
トウモロコシを収穫してきたよ〜〜という雰囲気の写真を、
中山さんに撮って頂きました。

本当に私たち似てますよね(笑)
しかも、偶然にも洋服の色も同じ。
微笑み加減も同じ。
こんなお兄ちゃん欲しかったなあ。。
優しい兄なんです。

そして、我々のツーショットを、本当に似てるよ〜と、
嬉しそうに笑って下さる中山さんを見るのも、幸せな瞬間なのです。

8月の収録では、田中真輝さんの「流れにまつわる追想」を、読ませて頂きました。
http://www.01-radio.com/tcs/archives/28562
とても難しかったですが、素敵な世界観で、読ませて頂けて嬉しかったです。
是非、聴いてください。宜しくお願い致します!

最後にお知らせです。

新しいCMが2本始まりました^_^⇩

SEIYU
https://youtu.be/SL6q6hMDqAY

KIRINのどごし生
http://www.kirin.co.jp/products/beer/nodogoshi/

またTCSに呼んで頂ける日を、楽しみにしています!

From 石橋けい

先日、撮影中に見えた、大きな虹の写真を添えて。

Unknown

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田中真輝 2016年8月14日

1608tanaka

「流れにまつわる追想」

      ストーリー 田中真輝
        出演 石橋けい
  
夏。昼下がり。蝉の声がやんでいる。先ほどまであれだけやかましかったのに。
曽祖父の代からうちにある大きな振り子時計。その振り子が揺れるたびにカチ
カチという音だけが聞こえている。縁側から差し込む日差しを避けるようにし
て畳の部屋にできた日陰の中に体を横たえていると、冷たい畳の肌触りが心地
よくてついまた眠ってしまいそうになるけど、さあっと吹き込んできた風に、
雨の匂いを嗅ぎ取ってもう眠れない。あのときも今と同じように、夏の日差し
を避けて薄暗い畳の上で気だるく横たわっている私の目を覚まさせたのは、ど
こか少し生臭いような雨の匂いだったのだけれど、それは外からの風に乗って
運ばれてきた夕立の気配などではなく、いつの間にか目の前に立っている女の
濡れそぼった体から水滴がしたたり落ちて畳の目地に沿って流れていくしずく
のその流れによって運ばれてくる水の匂いが、わたしの鼻先をかすめて、水そ
のものの流れよりも先に部屋の外へ、庭土の上を小さな流れとなって、降り始
めた雨といっしょくたになって、やがて冷たく暗い穴の中へ滑り落ちていくと、
そこはもう海の匂いがする、と思うわたしは、いつの間にかまた少し眠ってい
たようで、目を上げると、もうそこには先ほどの濡れそぼった女はおらず、水
を吸い込んで足の形に黒く沈み込んだ畳が見え、そこから立ち上る水の気配の
ようなものだけがゆらゆらと、カチカチと聞こえてくる振り子の音をくぐり抜
けるように、ゆらゆらと揺らぎながら暗い部屋の天井の方へとのぼっていくと
そこには、同じようにのぼって行った水の気配が逆さまに溜まってゆらゆらと
揺れる水面があり、畳の上にだらしなく横たわるわたしのシルエットが逆さま
に映ってゆらゆらとゆれている。そのとき。ざっと。庭の木々を打つ。雨の音。
かきけされる。振り子時計の。カチカチ。いう音。一瞬の、闇。
闇の中に戻ってくる。濡れそぼった女から打ち寄せる、波のように打ち寄せる
息遣いがわたしの前髪をさらさらと揺らし、さらさら揺れる前髪をすり抜けて
届くその湿った息遣いがわたしのまつげに触れ、わたしのまぶたを覆うように
して閉じていくと思う間に、天井にとどこおっていた水面のさざめきがひとと
き収まって、鏡のようにわたしの姿を映すとその姿を抱えたまま、縁側に向か
って開かれた空間へと一気に溢れ出し、流れ出す先にあるのは先ほどまでの激
しい雨の気配だけを残して垂れ込め渦巻く質量をともなった雲の塊へとあまあ
いをついて空へと落ちていく落ちていくわたしはどこまでも空へと流れ落ち運
び去られていってもう取り返しがつかない。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

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石橋けいから「ひと言」

kei

佐倉康彦さんの [夜に歩く者の朝] を読ませて頂きました。

今までに何作か、佐倉さんの作品を読ませて頂きましたが、毎回全く違う世界観で、
佐倉さんてどんな方なのかな・・興味深々です(笑)
ありがとうございました!
収録の日、ナレーター待機部屋の机の上に、氷が置いてありました。

この光景を見ると、夏が来るな~と、いつも思います。
その前に梅雨ですね・・
収録後の打ち上げは毎回とっても楽しいです。

中山さん、また「たこ焼き」買って行きますね~(*^_^*)

(出演情報)

毎週日曜22時30~日本テレビにて放送中のドラマ

「ゆとりですがなにか」第5話から出演しています。

http://www.ntv.co.jp/yutori/

コンコルドCMも、ストーリー展開を続けていますので、

宜しくお願いします!

http://www.dan-ad.co.jp/cw_tvcm.html

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佐倉康彦 2016年6月5日

1606sakura

夜に歩く者の朝
             
       ストーリー 佐倉康彦
         出演 石橋けい

デイウォーカーたちが、
太陽の恵みに感謝する日。
わたしたちナイトウォーカーは、
じっと息を殺している。
1年のうちで最も昼の長いその日を、
わたしは呪詛と共に遣り過ごすことになる。

あす、その日がやってくる。

サン・プロテクション・ファクター100の
日焼け止めを顔やカラダに塗りたくろうが、
日蝕を凝視するためのサングラスを掛けようが、
NASAが開発した
1着あたり1,000万ドル以上する
船外活動用のEMUを身に着けようが、
あすであろうがなかろうが、
白日のもとであれば、
わたしは、
ほろほろと解(ほど)け、くち果て、灰になる。

昼の最も長いあすを控えながら、
わたしは、
今夜のライブ「血祭り」の準備にとりかかる。
派手にキメたいし、
ハプニングも起こしたい。
もちろん、手を抜くつもりはないが、
できる限り早く切り上げようと決めていた。
もちろんアンコールは、なしだ。

美味そうな若いローディーが数名、
わたしたちの楽器やエフェクターを
ステージにセットしている。
あすのことを考えれば、
この中の誰かをつまみにしながら
長い長い昼を過ごすのも悪くない。

わたしが
ステージのために身に着けた
オーバーニーの
編み上げのロングブーツのピンヒールは、
9インチある。
その足元に誰を跪かせようか。
しばし、ステージの袖から物色し、思案する。

今夜のわたしへの供華(くげ)は、
スカルのウォレットチェーンをしている
スキンヘッドのあのコか、
背中に小さな天使の羽が彫ってある
革パンの彼にしよう。
いちばんつまみにしたかったスタッフは、
右の首筋に十字架が彫られ、
しかもTシャツにデカデカと
ダビデの子が
プリントされているので諦めた。

バスドラの重く湿った響きが、
客とスタッフの心音と同調する。
そこにスネアとハイハットが絡まり、
ベースのリフがそのうねりに乗る。
わたしの動かない心臓も、
少しだけその流れの中で震え出す。
ディレイとディストーションの
効いたギターが
そこに乱入したあたりで
客たちは最初のエレクトを感じはじめる。
あとは、
わたしのボーカルで
放出させてあげるだけだ。

ピンスポットの逆光の中、
何人ものセーショーネンが白目を剥いて
昏倒するさまを認めながら、
わたしはステージで咆哮しつづけた。

客電が点き、
ステージも客席も丸裸にする頃。
ローディーたちが
背中に羽のタトゥーを施した同僚を
捜し回っている。
「あいつ、バックレやがって」
ウォレットチェーンのスキンヘッドが、
アンプを片付けながらひとり毒づいている。
天使の羽の彼は、
若きデイウォーカーは、
わたしのヴァンの中、
つまみになるために深い眠りの中にいる。

イグニッションを回す。
コンソールパネルのメーターたちが
LEDの蒼白い光と共に点灯する。
ドライバーズクロノグラフは、
すでに午前4時を回ったことを告げていた。
日の出まで、あと十数分。
間に合うのだろうか。

いつものようにアンコールに
応えてしまったのがいけなかった。
心の中で舌打ちをする。
動かない心臓が破裂しそうなほど
焦れ込んでいるじぶんに気づき、
また、激しく動揺する。
助手席のつまみの顔が
薄明かりの中で朧気に暢気に青白く
浮かび上がる。

カーオーディオのプレイボタンを押す。
先程のライブ同様に、
不穏なバスドラの鼓動が車内に充満する。
呪術的なベースのリフが
シートの上をうねり出す。
そこにオーバードライブを効かせ過ぎた
ギターが絡み付きだしたあたり。
交差点奥の
ファッションビルと家電量販店の谷間から、
長い長い一日を宣告する
強い光が顔をのぞかせはじめた。

わたしは、
少しずつ遠のく意識の中で、
まず、瞳を焼かれた。
そして、
ステアリングを握る指先が
煙草の吸いさしの灰のようにぽろりと
もげ落ちたことを感じた。

あと数分もすれば、
デイウォーカーの誰かが
エンジンの掛かったままの車内で眠る
大量の灰にまみれた、
天使の羽を持つ若者を見つけるのだ。
そう思った。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

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