薄組・薄景子

小野麻利江 18年4月29日放送

180429-03

わたしのはなし パブロ・ピカソと模写

わたしとは、なんだろう。

画家、パブロ・ピカソは、
生涯の中で作風を
目まぐるしく変えていった。

青色を主に用い陰鬱なテーマを描いた、「青の時代」。

恋人をモデルにし、明るい色調の作風が続いた「ばら色の時代」。

セザンヌからの影響をきっかけとした、「キュビズムの時代」。

丸みを帯びた写実的な描写になった
「新古典主義の時代」。

そして、非現実的で怪物のようなモチーフを
数多く描いた、「シュルレアリスムの時代」。

なぜここまで、過激に変化したのか。
そのヒントが、ピカソのこんな言葉から読み取れる。

 他人を模写するのは
 必要なことである。
 しかし、
 自分を模写するのは哀れなものだ。

ピカソにとっての「わたし」。
それは、一瞬たりとも同じであることが
許されない存在、なのかもしれない。

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小野麻利江 18年4月29日放送

180429-04
Ars Electronica
わたしのはなし 石黒浩とアイデンティティ

わたしとは、なんだろう。

自分そっくりのアンドロイドをつくり、
人間とロボットの未来を模索する
ロボット工学者・石黒浩は、
こんな持論を展開している。

 相手に伝わってこそのアイデンティティですから。
 名前なんか、毎日変えたっていいんです。
 顔はあんまり変えないほうがいい。
 服は絶対に変えないほうがいい。

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石橋涼子 18年4月29日放送

180429-05

わたしのはなし ヘルマン・ヘッセと内面性

わたしとは、なんだろう。

詩人でありノーベル文学賞作家でもある
ヘルマン・ヘッセ。
苦悩の多い人生からか、
わたしとは何か、を問いかけるような
文学作品を多く残している。

ヘッセは繊細で静かな文章で、
青春の悩みや人間らしい弱さを描いたが、
それはときに、悩める読者の希望となった。

書物というタイトルの詩で、ヘッセはこう語る。

 君自身の中に、
 君が必要とするすべてはある。
 「太陽」も「星」も「月」もある。
 君の求める光は、
 君自身の内にあるのだ。

ヘッセの元には、世界中の悩める読者から
何千通もの手紙が届いた。
彼は、仕事の時間を割いて、
ひとつひとつに返事を書き続けたという。

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石橋涼子 18年4月29日放送

180429-06
nhojjohn58
わたしのはなし リトル・ミイの顔

わたしとは、なんだろう。

ムーミン谷に住む小さな女の子、ミイ。
怒りっぽくて口が悪いけれど、
彼女は、自分というものを知っている。

あるとき、自分に自信が持てなくて、
とうとう姿が消えてしまった仲間に
ミイはぴしゃりとこう言った。

 それがあんたのわるいとこよ。
 たたかうってことをおぼえないうちは、
 あんたには自分の顔はもてません。

小さなミイは、
まったくもって彼女らしい顔で、よく笑う。

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茂木彩海 18年4月29日放送

180429-07

わたしのはなし 吉田松陰の答え

わたしとは、なんだろう。

この難しい問いに、武士でありながら
思想家であり教育者でもある吉田松陰は、こう答えている。

 体は私なり。
 心は公なり。

目に見えている物体としての体がわたしなのであり
こころは、わたしのものではなく、
誰かのため、公のためにつかうものだと。

心と体、2つの視点から自分を見るとき、
わたしとは何者か、深く理解できるのかもしれない。

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茂木彩海 18年4月29日放送

180429-08

わたしのはなし フェリーニのわたしらしさ

わたしとは、なんだろう。

もう終わりだと思うのも、
さあ始まりだと思うのも、
どちらも自分だ。

 「映像の魔術師」の異名を持つ映画監督、
 フェデリコ・フェリーニの言葉である。

流行りに流されることなく
次々と新しい映画作りに挑戦することで
独自のスタイルを築いたフェリーニ。

わたしがどう感じるか、
その感覚を一番大切にして生きてみれば
もっとシンプルに、わたしらしさが見えてくる。

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小野麻利江 18年3月25日放送

180325-01
Adria Richards
呼吸のはなし マヤ・アンジェロウと息の数

酸素を吸い、二酸化炭素を吐く「呼吸」。
ヒトが生きるために、呼吸は欠かせない。

しかしヒトは必ずしも、
呼吸のみによって生かされているのでは
無いのかもしれない。

アメリカの女性作家、マヤ・アンジェロウは
こんな言葉を残している。

 人間の価値は息をした数ではなく、
 心奪われ、息をするのも忘れる瞬間を
 経験した数で決まる

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小野麻利江 18年3月25日放送

180325-02

呼吸のはなし アスリートと呼吸

アスリートの商売道具は、
言わずもがな、「身体(からだ)」。
どんな競技・種目であれ、
アスリートたちはみずからの身体の使い方を
1ミリでも向上させるべく、
日夜トレーニングを続けている。

そして、身体の可能性を
極限まで高めようとする彼らにとっては、
「呼吸」の使い方も、身体の使い方。
多くのプロゴルファーを育てた
名指導者・坂田信弘も、
みずからの著作の中で、こんな話をしている。

 ゴルフというのは、球を叩く、
 その球を叩くのは、空気で叩くんです。
 呼吸で叩くんです。

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石橋涼子 18年3月25日放送

180325-03

呼吸のはなし 勝海舟と呼吸

勝海舟。
ご存知の通り、江戸無血開城の立役者のひとりだ。

官軍の江戸総攻撃が目前に迫るなかで
最後の将軍徳川慶喜に幕府の幕引きをまかされた。

様々なプレッシャーのもと、
時代の空気を読み、気迫を持って、
和平交渉を成立させた勝海舟の気苦労はいかばかりだったろうか。

勝海舟の晩年の談話を集めた
氷川清話(ひかわせいわ)には、
こんな言葉が収録されている。

 ところで気合いとか呼吸とかいっても、
 口ではいわれないが、
 およそ世間の事には自ら(おのずから)
 順潮(じゅんちょう)と逆潮(ぎゃくちょう)とがある。

 しかしこの呼吸が、いわゆる活学問(いきがくもん)で、
 とても書物や口先の理屈ではわからない

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石橋涼子 18年3月25日放送

180325-04

呼吸のはなし 岡本太郎の深呼吸

0年代、岡本太郎が、とある青年誌で
まことに岡本太郎らしい人生相談を
していたのはご存知だろうか。

健康について聞かれた回では、こんな言葉を残している。

 健康法なんか考えないことがいちばんの健康法だと思っている

もちろん、逆説をとなえるだけでは終わらないのが、岡本太郎だ。
続きは、こう。

 思いっきり新鮮な朝の空気を吸い込むと、
 青空が体に染み込んで、
 一日のエネルギーが沸いてくる喜びを感じる。
 これが僕の生きがいだね。

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