「最高の詩人」
ボブ・ディランが
「現代アメリカ最高の詩人」と評した
ミュージシャンがいる。
その名は、スモーキー・ロビンソン。
彼のつくる音楽は
1960年代のソウル・ミュージックに知性を持ち込んだ。
“君から離れたい もうここにいたくない
どこかへ消えてしまいたい
でも今さらできない
君はぼくをつかんで離さない”
“君から離れたい”と突き放しておいて、
“君はぼくをつかんで離さない”と引き戻す、
この言葉のテクニック。
彼は情感豊かな詩人でありながら、
心の動きをコントロールする天才でもあった。
次々とヒットを飛ばし、
やがて、時代の寵児になっていった
スモーキー・ロビンソン。
ジョン・レノン。ジョージ・ハリソン。
ポール・ウェラー。
スモーキーの影響を受けたと公言する
ミュージシャンは数えきれない。
マイケル・ジャクソンも、そのひとりである。
小林組・新井奈央
新井奈生 15年6月13日放送
新井奈生 15年6月13日放送
「マイケルの衝撃」
スモーキー・ロビンソンの代表作に、
Who’s loving youという曲がある。
失恋した男が苦しみ、
彼女に戻ってきてくれと嘆くブルースだ。
“お前が俺のものだったときは
酷く扱ったよな 間違っていたよ
俺は頭を抱えてへたり込んでいるんだ
誰かがお前を愛してるかもしれないってね”
後にこの曲は、ジャクソン5時代の
マイケル・ジャクソンが歌い喝采を浴びる。
スモーキーはこう語っている。
「マイケルのテイクを耳にしたとき、
すぐに彼の出生証明書を確認したよ。
あんな小さな男の子が僕の人生を完璧に歌えるなんて、
とても信じられなかったんだ。」
このとき、マイケル・ジャクソンは10歳だった。
新井奈生 15年6月13日放送
「本当の気持ち」
オリヴァー・ストーン監督の映画、「プラトーン」の中に、
ベトナム戦争に送り込まれた兵士が、
束の間のオフタイムを楽しむシーンがある。
そこでかかるBGMは、
スモーキー・ロビンソンの
“track of my tears”という曲だ。
リラックスした
心の内を表すような、優しい曲調。
しかし、歌詞ではこう歌っている。
“みんな僕のこと
いつもパーティーしてるみたいと言う
冗談ばかり言ってるから
大声で笑ったりはしゃいだりするけれど
心の中は落ち込んでいるんだ”
歌詞がわかると、
オフタイムのシーンの解釈は一転する。
この兵士の笑いながら、
泣いていたのだ。
新井奈生 15年6月13日放送
「破壊できない愛」
スモーキー・ロビンソンの妻、
クローディアは、彼のコーラスメンバーだった。
連日の過酷なスケジュールの中で、
彼女は妊娠していた。
ステージを中止にしたくない。
その一心で、彼女は出血をひと月以上も隠し続けた。
結果は流産。
しかも、6度目だった。
もう、子どもは産めないかもしれない。
うちひしがれる妻のために、スモーキーは歌を書いた。
“年齢や時間が破壊できないほど、君に愛と喜びを注ぐ”
たとえこの先、子どもができなくても、愛する気持ちはゆるがない。
ラブソングにはふさわしくない、“破壊”という歌詞に、
スモーキーは必死の想いを込めた。
曲名は、“More Love”。
後に、彼を代表するラブソングになる。