薄組・小野麻利江

小野麻利江 19年9月29日放送


月のはなし 田毎の月

「棚田」と呼ばれる、
階段状に小さく区切られた水田。
その棚田の一つ一つすべてに月が映るさまを
日本人は「田毎の月(たごとのつき)」
と呼んできた。

数々の浮世絵師がこの構図を好み、
俳句では、秋の季語となっている。
特に有名なのが、歌川広重による浮世絵、
「信州更科田毎月鐘台山
(しんしゅう さらしな たごとのつき きょうだいさん)」。
段々になった田んぼそれぞれに、
満月を浮かばせている。

しかし、「すべての田んぼに1つずつ月が映る」というのは、
実際には不可能な光景。
どんなに田んぼがたくさんあっても、
月が映るのは一つだけ。

創作の世界で花開いた、月の表現。
与謝蕪村の一句でも、
朧げながらも沢山の
月の光の明るさが、立ちのぼる。

 帰る雁 田毎の月の くもる夜に



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小野麻利江 19年8月11日放送


太陽のはなし 太陽が光を奪われた年

「人類史上最悪の年」。
中世を専門とする歴史家によると、それは「西暦536年」。
「太陽が光を奪われた年」だという。

その年の初め、アイスランドで噴火が起き、
火山灰が、北半球中に撒き散らされた。
その火山灰が微小な固体の粒子・エアロゾルの幕となって、
太陽の光を遮ってしまった。

ヨーロッパ、中東、アジアの一部で霧が垂れ込め、
なんと18ヶ月にも渡って、昼夜を問わず暗闇が続いたという。

夏の気温は3度近く下がり、
中国では夏に雪が降り、
東ローマ帝国の3人に1人の命を奪う
「腺ペスト」の蔓延のきっかけとなった。

東ローマ帝国の歴史家・プロコピウスは、こう記している。

1年中、まるで月のように太陽の光から輝きが失われた

人間の営みに、太陽は欠かせない。
この先、さらに、科学が進歩しても。


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小野麻利江 19年6月30日放送


半分のはなし スタンダールの恋と情熱

僕の魂は、もし燃え上がらなければ苦しむ業火なのです。

フランスの小説家・スタンダール。
『赤と黒』の作者として知られる彼の生涯は、
いくつもの情熱で彩られていた。

7歳の時に失った、母への渇愛。
ナポレオンへの、心酔。
そのナポレオンの遠征軍に参加し
ミラノの土を踏んだことで、
イタリア人のような生き方に傾倒したこと。
女優から人妻に至るまでの、数々の恋愛。
そして、ミラノでの
マチルデ・デンボウスキとの実らぬ恋…

憧れと絶望を繰り返しながらも、
スタンダールは生きて、書いて、そして愛した。
彼は、こんなことも言っている。

 情熱を持って恋したことのない人間には、
 人生の半分、それも美しいほうの半分が隠されている


美しいほうの半分も、醜いほうの半分も。
知りつくした作家だからこそ、
作品たちは、今も色あせない輝きを放っている。


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小野麻利江 19年6月30日放送


半分のはなし 石田三成と島左近

石田三成には、
自分が秀吉から貰った
禄高の半分を与えて
召抱えた家臣がいた。

羽柴秀吉に賢さを気に入られていた
三成だったが、
戦の経験がないため、
軍事の才能に長けた人材を欲していた。

そこで白羽の矢を立てたのが、
名将・島左近。

左近は当初何度か断ったが、
三成の情熱に
ついには首を縦に振ったという。

もしあなたが、
人生を共にしたい人と出会った時。
自らの半分を、果たして賭けられるだろうか。


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小野麻利江 19年5月26日放送

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Beautiful Harmony 五味の調和

甘い・辛い・酸い・苦い・塩辛い。
それらを五つの味、「五味(ごみ)」と呼び
食べ物を分類する考え方が、漢方にはある。

五味は人体の「五臓」と深く関係していて、
酸っぱい味は肝や胆に。甘い味は胃に。苦い味は小腸に。
というように、
口から入った食べ物は、
味ごとにそれぞれ違う臓器に働きかけると考えられている。
五味のバランスを考えた食事をとることが
五臓の調子を整えて健康を維持するとされ、
これを、「五味調和」と呼ぶ。

令和は英語でBeautiful Harmony。
新しい時代も美味しいものを賢く食べて、
身体の中にも、いい調和をもたらそう。


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小野麻利江 19年5月26日放送


Beautiful Harmony ハーモニーの語源

調和を意味する「ハーモニー」という言葉の語源は、
実は、「夫と一緒に蛇に変わってしまった」女神の名前。

ギリシャ神話に登場する女神、ハルモニア。
美の女神・アフロディーテが
戦いの神・アレースと浮気をして生まれた。
アフロディーテの実の夫である
鍛治神・ヘーパイストスはこれにいたく嫉妬し、
復讐の矛先は、ハルモニアへ向けられた。

都市国家テーバイの始祖・カドモスと
ハルモニアが結婚したさい、
ヘーパイストスは、呪いをかけた首飾りを贈った。
その首飾りの呪いによって、カドモスは蛇に変えられてしまった。
ハルモニアは夫をずっと抱き続け、
最後には自らも蛇に変わってしまうという「調和」を果たしたという。

令和は英語でBeautiful Harmony。
ギリシア神話の神々のような
諍い(いさかい)とは無縁な、
穏やかな調和の時代を、願うばかりである。


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小野麻利江 19年4月28日放送


平成よ、ありがとう。 「平成21年–2009年」

十年一昔(じゅうねんひとむかし)、という言葉がある。

世の中は移り変わりが激しく、
10年も経つともう昔のこととなってしまう
という意味だが、

ちょうど10年前の2009年、
平成21年の政局は、まさにひと昔前という感がある。

この年のはじめ、
アメリカではバラク・オバマ上院議員が、
“Change”と”Yes, we can.”のスローガンを掲げ、
アフリカ系アメリカ人として初の大統領に就任。
「アメリカに変革が訪れた」と、勝利演説を行った。

そこから約8ヶ月後の日本では。
衆議院議員総選挙で、民主党が308議席を確保して、
政権交代を実現。
鳩山由紀夫内閣が発足した。
「政権交代」という言葉は流行語大賞にもなり、
何かが変わっていくのではという期待感が
当初は少なからずあった。

十年一昔。
現在のアメリカの、日本の姿を、
2009年当時の私たちは、
果たして想像し得ただろうか。
しかし、何はともあれ、
平成という時代はもうすぐ終わる。

平成よ、ありがとう。
いよいよ、令和へ。


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小野麻利江 19年4月28日放送

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平成よ、ありがとう。 「平成27年–2015年」

平成27年、2015年3月14日。
北陸新幹線の、長野~金沢間が開業。
もっとも早い「かがやき」での所要時間は、
2時間28分。
金沢を訪れる観光客の数は急増し、
客足は今も途絶えることはない。

そして同じ年の8月23日。
上野~札幌間を運行していた寝台列車、
「北斗星」の運行が終了。
27年半の歴史に幕を閉じた。
上野駅13番線ホームは、
到着の1時間以上前から
ラストランを撮影しようとする
人々で埋め尽くされ、
回送列車が上野駅を発車すると、
「ありがとう!」の声とともに、
拍手が起こったという。

生まれる列車と、去る列車。
列車もそれぞれ、ひとつの時代だ。

平成よ、ありがとう。
いよいよ、令和へ。


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小野麻利江 19年3月31日放送


畑のはなし 秋田の老農・石川理紀之助

幕末から、明治・大正にかけて。
日本全国には「老農(ろうのう)」呼ばれる
農業指導者が何人も存在し、
農村の更生や農業の振興に生涯を捧げていた。

秋田の老農として知られている人物の一人が、
石川理紀之助(いしかわ りきのすけ)。
農村の土壌を調査して
土地ごとに適した作物の指導を行った彼は、
毎朝3時に掛け板(かけいた)を打ち鳴らして
村人たちを眠りから起こし、
まだ夜が明けきらないうちから
農事に専念するよう促したという。

ある猛吹雪の日の、午前3時。
理紀之助が普段通り掛け板を鳴らすと、妻が言った。
「吹雪の朝に掛け板を打ったところで誰にも聞こえない。
ましてこの寒さでは誰も起きて仕事などしないだろう」

すると、理紀之助はこう答えたという。

 この村の人々のためだけに、
 掛け板を鳴らしているのではない。
 ここから500里離れた九州の人々にも、
 500年後に生まれる人々にも聞こえるように打っているのだ


日本の田んぼや畑には、
先人たちのひたむきな想いが埋まっている。


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小野麻利江 19年3月31日放送

Steve A Johnson
畑のはなし 悪魔の作物

ヨーロッパを旅行すると、
かなりの頻度で食べることになるのが、ジャガイモ。
しかしジャガイモはかつてこれらの地で、
「悪魔の作物」と呼ばれ嫌われていた。

ジャガイモがヨーロッパにもたらされたのは、16世紀。
南米からスペイン人が持ち帰ったとも、
アメリカからイギリス人が持ち帰ったとも言われている。

現在よりも小さく黒い姿だった、当時のジャガイモ。
見た目が悪く、聖書に載っておらず、
種ではなく種芋で増える。
「悪魔の作物」と呼ばれたのは、そんな所以であった。
しかし寒冷な気候に耐え、痩せている土地でも
育つことから、
ジャガイモはヨーロッパという広大な畑に、
徐々に根づいていった。


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