古居利康

古居利康 20年2月29日放送


石の声を聴く

サヌカイトという石がある。
讃岐地方で発見されたので、サヌカイトという。

叩くと不思議な音がする。
カーン、カーンという、金属質の澄んだ音色。
地元香川県では「カンカン石」と呼ばれて
親しまれてきた。

およそ1500万年前。
瀬戸内地域の火山活動で
地上に噴出したマグマが、急速に冷えて
固まった火山岩。黒色緻密なガラス質。
硬質で堅牢だったため、
旧石器時代になると、
矢じりや石斧の材料に使われた。


topへ

古居利康 20年2月29日放送


石の声を聴く

サヌカイトという石がある。

ナウマン象やフォッサマグナで知られる
ドイツ人地質学者、ナウマン博士が発見した。
明治の初め、お雇い外国人として来日。
日本列島の地質を調べるために、
本州、四国、九州の広範囲を調査する
その過程で、不思議な石に出会う。

「日本の讃岐地方に、
叩くと美しい音がする石がある。」

ドイツの学術誌に報告し、
石のサンプルを本国に送る。
友人の地質学者ヴァインシェンクが
「サヌキの石」という意味の学名
「サヌカイト」と命名。
学会で発表した。


topへ

古居利康 20年2月29日放送


石の声を聴く

サヌカイトという石がある。
叩くと、ガラスのような、金属のような、
澄んだ音色がする。

サヌカイトでつくる楽器は、
ピアノよりも上下に1オクターブずつ広い
音階を奏でることができるという。

はるか遠い古代から響いてくるように
感じるのはそのせいだろうか。

1964年の東京オリンピックでは
開会式でサヌカイトの楽器が演奏され、
不思議な音色が世界を魅了した。



topへ

古居利康 20年2月29日放送

Yoshio Kohara
石の声を聴く

サヌカイトという石がある。
旧石器時代には矢じりや槍先などの武器、
縄文時代に入ると、ナイフや包丁など
生活道具の材料になった。

瀬戸内海の島々、九州北部、紀伊半島。
同じ種類の石はかなり広く分布するが、
とりわけ高松市国分寺町や、
坂出市金山周辺で産出するものは、
「水晶よりも硬い石」として知られ、
この地でつくられたと推測できる道具が
近畿、中国地方など広範囲で出土する。

サヌカイトは、
約3500年前の縄文時代後期、
瀬戸内海の交易がすでに始まっていたことの
証しとなっている。


topへ

古居利康 20年2月29日放送

ijliao
石の声を聴く

サヌカイトという石がある。
叩くと不思議な音がする。
まるで、石が歌っているかのような音。

サヌカイトが生まれた讃岐の国は
空海を生んだ国でもある。
空海が中国から持ち帰った真言密教。
その宗教音楽に用いる
「磬(けい)」という打楽器がある。

通常は金属でつくる「磬」だが、
サヌカイトでつくられた「磬」も
存在するようだ。

遠い昔、弘法大師が
聴いていたかもしれない音。
何万年も眠りつづけて
いま目覚めたかのような、余韻の長い音。

石が声を持っているとしたら、
きっとこんな音だ。


topへ

古居利康 19年11月23日放送


シャーロック・ホームズの死

名探偵シャーロック・ホームズの生みの親、
アーサー・コナン・ドイルは、
1893年の短編『最後の事件』で
ホームズを殺してしまう。

宿敵モリアティ教授との対決で滝から転落。
それで最後にするつもりだった。

1886年の登場以来、人気沸騰中だったホームズ。
雑誌連載の挿絵がたまたま美青年だったせいか、
女性読者から大量のファンレターが届いたり、
実際の事件解決の依頼状が来たりした。

ドイルはうんざりしていた。
ほんとうに書きたかったのは
探偵小説などではなく、歴史小説だった。

ホームズを終わりにして、歴史をやろう。
ドイルはそう考えたのだ。



topへ

古居利康 19年11月23日放送


コナン・ドイル炎上

シャーロック・ホームズの生みの親、
コナン・ドイルはロンドン市民を敵に回していた。
1893年の短編『最後の事件』で
名探偵を殺したからだった。

「この人でなし!」
「おまえの死か、ホームズの生還か、
 どちらかを選べ」

脅迫状が山のように届いた。
シティのビジネスマンたちは喪章をつけて出勤し、
ドイルの自宅の周りではホームズの葬儀が
毎週のように行われた。

シャーロック・ホームズはとっくに
作者のもとを離れ、独り歩きしていたのだ。



topへ

古居利康 19年11月23日放送


シャーロック・ホームズ復活

シャーロック・ホームズは、
1893年の『最後の事件』で
宿敵モリアティ教授と争って滝から転落した。

しかし、実はその際、
巧みに危地を脱して生き残っていた。
1903年の短編『空き家の冒険』で
ホームズ自身が語っている。

「われわれは滝の崖っぷちで取っ組み合ったまま
 よろめいた。だがぼくは、これまでにも何度か
 役に立ったが、日本の格闘技であるバリツの
 心得があったので、相手の腕をさっとすり抜けた。」

名探偵は、日本の格闘技“バリツ”のおかげで
助かったと言う。それにしても、バリツとは何か。
なぜロンドンの探偵が、日本の格闘技だったのだろう。


topへ

古居利康 19年11月23日放送


バリツとは何か

シャーロック・ホームズは
日本の格闘技バリツの使い手だった。
それは、ドイル苦肉のアイデアにも思える。

バリツのおかげで、宿敵モリアティ教授との
争いにも生き残ることができた。

バリツとはいったい何か。
長年論争になってきた。
それは「バーティツ」のことではないか。
ウィリアム・バートン=ライトという英国人が
英国にもともとあったステッキによる護身術と
日本の柔術を組み合わせて考案した武術、
「バーティツ」。
それが近年定説になってきた。

短編『空き家の冒険』が書かれる
前の年、1902年は、折しも、
日本と英国が日英同盟を結んだ年だった。



topへ

古居利康 19年11月23日放送


コナン・ドイルと日本

名探偵シャーロック・ホームズの
生みの親、コナン・ドイル。

家が貧しく、
幼少時は裕福な家に預けられた。
この家にほぼ同い年の少年がいて、
終生の親友になった。

その親友、ウィリアム・K・バートンは
1887年、上下水道の技師として、
日本に旅立つ。やがて、
日本名「バルトン」で親しまれ、
浅草十二階などを設計する。

ホームズが身につけていた日本の武術、
バリツの創設者バートンと、
日本に渡ったまま帰らなかった
幼なじみバートン。

同じ名をもつ二人のバートンと、日本。
名探偵生みの親は、
奇妙な因縁を感じていたかもしれない。



topへ


login