葱
寒さの季節に 西郷隆盛と黒田博樹
西郷隆盛は晩年、
親戚の青年に
こんな言葉を贈った。
雪に耐えて梅花(ばいか)麗し
梅の花の美しさは、
雪降る寒さを耐えた先にある。
この言葉、
100年の時を経て、
一人のプロ野球選手の座右の銘となった。
元広島カープ、黒田博樹投手。
高校時代は控え投手だったが
大学で力をつけ広島に入団。
低迷期にあったチームを支え、
メジャーリーグに挑戦。
そして再び古巣に戻り、
日米通算200勝という大きな花を咲かせた
雪に耐えて梅花(ばいか)麗し
今日は大寒。
梅の季節はゆっくり近づきつつあります。
中村組・三島邦彦
三島邦彦 18年1月20日放送
三島邦彦 18年1月20日放送
寒さの季節に ロバート・リンド
人は眠りから起きるときに
体温が上昇する。
冬の朝の目覚めにくさは、
体がなかなか温まらないことも
関係しているという。
20世紀前半の
イギリスで活躍したエッセイスト、
ロバート・リンドは
「冬に書かれた朝寝論」という
エッセイでこう書いている。
私の経験からすると、
仕事を怠けたいという気持ちは、
気温が下がるのに比例して強くなると思う。
今日は大寒。
無理せず
のんびりお過ごしください。
三島邦彦 17年10月28日放送
Arturo Espinosa
よりよき世界の破片たち ミヒャエル・エンデ
この作品で伝えたいメッセージは何ですか?
作家や映画監督をはじめ、
あらゆるアーティストを悩ませるこの質問。
『モモ』や『はてしない物語』で知られる
小説家ミヒャエル・エンデは、
作品の意味を問う大人の読者からの手紙にこう答えた。
よい詩とは、世界をよりよくするためにあるのではありません。
その詩そのものが、よりよき世界の破片(かけら)なのです。
そこにあるものを、丸ごと味わうこと。
エンデの本の最も熱心な読者である子どもたちには
自然とできていることかもしれません。
三島邦彦 17年10月28日放送
よりよき世界の破片たち オスカー・ニーマイヤー
ブラジルの高級住宅街。
広い庭で空想のスケッチを
楽しんでいた少年はやがて、
104歳まで現役を貫いた伝説の建築家となった。
オスカー・ニーマイヤー。
若き日に現代建築の巨匠ル・コルビジェとともに設計した
国連本部ビルをはじめ、
首都ブラジリアの都市計画など、
その100年を超える人生、
80年を超える建築人生は、
最後まで情熱が絶えることはなかった。
『ニーマイヤー 104歳の最終講義』
という本で、彼は人生についてこう語る。
人生は一瞬だ。
それゆえに私たちは学ばなければならず、また、
礼儀正しくそこを通過しなければならない。
誰よりも学び、誰よりも礼儀正しかった建築家。
そして、その生涯を終えるまで
空想のスケッチを楽しむ心を
忘れなかった人だった。
三島邦彦 17年7月15日放送
大きな魚、あるいは瞑想 デイヴィッド・リンチ
伝説の経営者スティーブ・ジョブズ、
世界最高峰のテニス選手ノバク・ジョコビッチ。
彼らに共通している日々の習慣、それは毎日の瞑想。
「エレファントマン」「マルホランド・ドライブ」など
独特の作品世界で知られる映画監督デイヴィッド・リンチもまた、
30年以上に渡り午前と午後の瞑想を欠かさない瞑想者の一人。
撮影現場でも静かな場所を用意して瞑想するという彼は、
瞑想の必要性についてこう語る。
アイデアとは魚のようなものだ。
小さな魚をつかまえるなら、浅瀬にいればいい。
でも大きな魚をつかまえるには、深く潜らなければならない。
三島邦彦 17年7月15日放送
Sam Soffes
瞑想、あるいはスタイル 村上春樹
映画監督デイヴィッド・リンチが
瞑想によって内なる世界へ
深く潜りアイデアを得るというように、
小説を書くときの精神状態を
井戸や地下室に例える村上春樹もまた、
「深く潜る人」に他ならない。
1982年、インタビューを受けた村上春樹は
小説を書く上で大切にしていることについてこう語った。
ボクの場合、なるたけ、思いを減らそうとしてるのね。
なるたけ文体から始めようと思ってる。
それから35年後、
2017年の村上春樹はこう語る。
僕にとっては文体がほとんどいちばん重要だと思う。
英語で文体はスタイル。
35年に及ぶ深い探求と一貫したスタイルが
村上春樹と読者の間の信頼関係を作っている。
三島邦彦 17年3月25日放送
花ひらく 岡潔
明治生まれの数学者・岡潔。
多くの知識人から尊敬を集め、
数学の世界を超えて大きな影響を与えた。
そんな岡が数学を選んだ理由は、
十代の頃の感激にあるという。
だいたい、中学校の三年、高等学校の一年というころ、
感激するということをやってみることによって、
感激するということのできる人になるということがあります。
このとき受けた感激は、 種として心の奥深くまかれます。
わたしはその時期に数学をやり、クリフォードの定理の神秘さに感激して、
けっきょく、数学をやらなければ気がすまなくなった。
十代の頃にまかれた数学者の種は、
やがて大きく花ひらいた。
花がひらくには種がいる。
そしてその種はきっと、
あなたの中にもすでにある。
三島邦彦 17年3月25日放送
花ひらく 胡桃沢耕史(くるみざわこうし)
作家の胡桃沢耕史が
直木賞を受けたのは彼が58歳の年。
9歳の時に作家を目指し始め、
既に20年以上文筆で身を立ててきたが、
そのすべては出版社への持ち込み原稿で、
編集者から依頼受けたことは一度もなかったという。
賞さえとればこんなみじめな境遇から抜け出せる。
五十八歳で、先輩諸氏の中にはかなり不愉快に思われる方のいる、
必ずしも全面的に祝福されない状態の中でやっと取った。
それでも運命は一転した。
一晩で、編集者からの扱いががらりと変わる。
遅咲きだからこその深い喜びが
そこにあったに違いない。
三島邦彦 17年1月14日放送
The Dayton/Montgomery County CVB
ひとりとひとり 大森荘蔵と坂本龍一
哲学者・大森荘蔵。
日常の言葉で自らの哲学を語る彼には
一般の読者も多かった。
音楽家の坂本龍一もまた、
そんな大森哲学の愛読者の一人だった。
哲学とは理解するものと思っていたのが、
芸術を楽しむように享受することもできるのを
知らしめていただいた大森先生に感謝。
そう語る坂本は、ある日、
大森から直接哲学講義を受ける機会を得る。
坂本龍一の専門である「音」を巡りふたりは対話する。
大森は語る。
音は生まれた時に消えている。
時計のコチコチはまさに過ぎゆく時の足音であり、
音は時の流れる響きなのである。
時間とは何か、音とは何か。
大森の考察を、坂本の実感が裏付けていく。
哲学する音楽家と芸術的な哲学者が
対話を通じて響き合った。
三島邦彦 17年1月14日放送
ひとりとひとり 小津安二郎と原節子
世界最古の映画協会、
英国映画協会は10年に一度、
「映画監督が選ぶベスト映画」を発表している。
最新のランキングで1位に選ばれたのが、
小津安二郎監督の「東京物語」。
その「東京物語」に加え、
「晩春」「秋刀魚の味」など、
小津の代表作で主演を演じたのが
女優・原節子。
役者への厳しい演技指導で知られる小津だが、
原節子に対しては賛辞を惜しまなかった。
映画が人間を描く以上、
知性とか教養とかいうものも現れてこなければならない、
実際、お世辞ぬきにして、
日本の映画女優としては最高だと私は思っている。
名監督と大女優との強い絆が、
映画史に残る傑作を支えた。