宮田知明 10年04月24日放送


07-phone
城山三郎と春

「そんな人は、うちにはおりません。」
作家・城山三郎に春を告げたのは、
妻のそんな声だった。

城山はそのとき風呂に入っており
玄関では妻が文学界新人賞受賞の電報を届けにきた配達員を
追い返そうとしていた。
妻は夫が城山三郎というペンネームで
小説を書いていることを知らなかった。

城山三郎が「輸出」という小説で
第四回文学界新人賞を受賞したのは1957年の春。
駆け出し作家の貧乏生活を支える妻は
夫のペンネームを知る余裕はなかったのだ。

けれど、その次の年。
直木賞発表の夜、妻はお風呂を湧かして知らせを待っていた。
新人賞のときは城山が入浴中に受賞の電報が来たので
縁起をかついだらしかった。
待っていた電報は来なかったけれど
近所の八百屋の電話が鳴って、直木賞受賞を知らせた。

そんな妻が亡くなって
城山三郎は一冊の本を書いた。
「そうか、もう君はいないのか」

それはスター作家城山三郎ではなく
本名杉浦英一の妻だった女性に宛てた恋文だった。

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