厚焼玉子 10年10月30日放送



藤村の初恋

ふるさとの馬籠(まごめ)の家には
桑畑のところどころにリンゴの木が植えてあって
隣との境に高い塀があり
その塀の向こうに同い年の少女がいた。

島崎藤村は、少女とリンゴの木の下を歩いた。
裏のたんぼ道で鳥の声に耳をすました。
谷から流れてくるせせらぎでカジカを掬(すく)うこともあった。

人目のないところに隠れて
少女をそっと抱きしめた、島崎藤村八歳の初恋。

今日は初恋の日
島崎藤村の「初恋」の詩は、明治29年の今日
文学界に発表された。








特攻隊員の恋

特攻隊員上原良司、22歳は
こんな言葉を残して特攻機に乗った。

  愛する恋人に死なれたとき
  自分も一緒に精神的には死んでおりました。
  天国において彼女と会えると思うと
  死は天国へ行く途中でしかありませんから
  なんでもありません。

好きだとも言えずに死に別れた初恋の人の
面影を追って
上原良司が沖縄のアメリカ軍機動部隊に
空から突入したのは
終戦間際の初夏のことだった。

今日は初恋の日





ミカドの恋

17歳の二条天皇が恋をしたのは
叔母にあたる藤原多子(ふじわらのまさるこ)だった。

多子の君は二条天皇の叔父にあたる近衛天皇の皇后だった人で
四つほど年上だったが
美女の誉れ高く、絵と書に秀で琴と琵琶の名手でもあったという。

とはいえ、叔母にあたる人と、
しかも皇后の地位にあった人と結婚なんでとんでもない。
まわりは猛反対したけれど
いまは未亡人なんだからいいじゃないか、とばかり
17歳の若さは無理矢理望みを遂げてしまう。

それは日本史にも残る事件になった。

今日は初恋の日





啄木の初恋

  砂山の 砂に腹這い
  初恋の 痛みを遠く 思いいずる日

石川啄木の初恋の歌は
何人もの作曲家が曲をつけている。
なかでも越谷達之助(こしたにたつのすけ)の切ないメロディは人気を博し
日本の代表的な歌曲になった。

ところで、
石川啄木の初恋は13歳。
その相手は啄木にとって高嶺の花だった節子。
だが、啄木は6年にわたる初恋を実らせ
節子と結婚している。

詩人でも詩人でなくても
人に言えない恋のひとつくらいあってもいい。
この歌を聴きながらそんなことを思う。

今日は初恋の日。





泉鏡花と年上の女

早くに母を亡くしたせいか
泉鏡花のあこがれはいつも年上の女(ひと)だった。

母のような姉のような女性、
やさしく美しく、妖艶ではかなげで
それなのに、いざというときは強い。

そんな女性はいるはずがないと誰もが思う。
けれど、鏡花の心と鏡花の書く小説のなかには
確かに存在していた。

鏡花の初恋の人は湯浅しげという
やはり年上の人だった。
その人をモデルにした小説を読むと
生身ではない美しい女がふわりと浮かび出る。

今日は初恋の日





八百屋お七

恋のために火付けをして
火あぶりになった八百屋お七と
その恋のお相手の吉三郎がはじめて会話を交わします。

 「私は十六になります。」
  「私も十六です。」

井原西鶴描く、もどかしく切なく美しい
十六歳の初恋のシーンです。





スサノオ



スサノオのオロチ退治は
英雄伝でもあるけれど、恋の話でもあると思う。

さんざん悪さをして高天原を追われたスサノオが、
突然心を入れかえて人々のためにオロチ退治をするというよりは
好きになったクシナダヒメを助けるためと考えた方が
矛盾がないからだ。

スサノオはオロチを退治した後で
クシナダヒメと結婚し、こんな歌を詠んだ。

  八雲立つ  出雲八重垣(いずもやえかき)  妻籠(つまご)みに
  八重垣つくる その八重垣を

この三十一文字の歌が
日本の歌のはじまりとなり
その後(のち)、恋人たちは歌を交わし合って思いを伝えた。
スサノオは、いつも間にか歌と恋の神さまになっていた。

スサノオを祭る島根県の八重垣神社では
縁結びの赤い糸を買うことができる。

今日は初恋の日。

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