2015 年 11 月 14 日 のアーカイブ

東未歩 15年11月14日放送

151114-03

身長152センチの画家

男は、上半身だけが大人の姿をしていた。
成長期に足の病気にかかり、
太ももから下の成長が止まっていたのだ。
いびつな身体を、山高帽とスーツで包み、
毎晩パリの歓楽街に向かった。
目的は、ムーランルージュ。
パリで最もにぎやかなナイトキャバレーだ。
浴びるように酒を飲み、
踊り子達のショーを食い入るように見つめた。

アールヌーヴォーの小さな巨匠、
トゥールーズ・ロートレック。
彼が好んで描いたのは、名もなき娼婦や踊り子。
幸福とは言えぬ運命から這い上がる、強い女の姿だった。トゥールーズ・ロートレック。

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東未歩 15年11月14日放送

151114-02

醜い女性達

ロートレックのモデルになることは、
女性にとって手放しに喜べることではない。
顔や身体の特徴を誇張され、
どんな美人も欠点を暴かれた。
「あんまり私を醜く描かないでください。」
ロートレックに懇願した歌手もいるそうだ。

そんな彼が一枚だけ、
温もり溢れるタッチで、描き残した女性がいる。
アデール・ド・トゥールーズ=ロートレック。
世界でただ一人愛した母親の肖像画だ。

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東未歩 15年11月14日放送

151114-03

父との確執

ロートレックと父親は、
生涯、心を通わせることがなかった。
「馬鹿な老人め。」
それが、36歳でこの世を去ったロートレックの、
父親に向けた最期の言葉である。

貴族の長男として生まれ、
あふれるほどの愛情と財力を注ぎ込んだにもかかわらず、
足に障がいを負ってしまった息子を、
父親は、後継者として認めなかった。

「もう少し足が長ければ、絵なんて描きはしなかったさ。」
パリで輝くような名声を得てなお、
ロートレックは、父への屈折した愛情を断ち切れなかった。

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東未歩 15年11月14日放送

151114-04
Cea.
現実と非現実の間を生きた画家

平凡で規則的すぎる毎日は、芸術家には極めて珍しい。
ルネ・マグリット。
シュールレアリスムの巨匠は、
毎日スーツに身を包み、
狭いアパートのキッチンでキャンバスに向かった。
10時に床につくことを習慣とし、
幼なじみの妻と添い遂げた。
名もなき小市民と変わらぬ、
単調な暮らしを送った。

描いたのは、現実とはほど遠い世界だった。
空から舞い降るあまたの男達。
上半身が魚、下半身が人間の人魚。

真っとうな表の顔で、内面の狂気を包み隠していた。
少年時代、父に娼婦をあてがわれ、
母を入水自殺で亡くした。

目に見えるものが現実とは限らない。
彼の生き方そのものが、
シュールレアリスムの作品だった。

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東未歩 15年11月14日放送

151114-05
Ωméga * 
All you need is love.

All you need is love.
ビートルズの名曲は、人生への絶望歌だ。

できないことをやろうとしても無理だ。
助けられない人を救おうとしても無理だ。
愛さえあればいい。
愛さえあれば、あとはどうとでもなれ。

戦争の尽きぬ現実を悲観し、
愛の中へ逃亡を試みた。

部屋を埋め尽くす巨大な一つのリンゴ。
現実を拒絶し、虚構の世界を描いたマグリットの代表作である。
ビートルズが設立したレーベル「アップル」。
企業シンボルのリンゴは、
21世紀最高のシュールレアリストへの敬意の証だ。

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