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若杉茜 20年9月27日放送



旅立ちに贈る言葉  樋口一葉

極みなき大海原へ出でにけり やらばや小舟波のまにまに

明治時代の作家、樋口一葉の歌である。
文壇での活躍を始めたころ、
広い世界への旅立ちに際し、決意や不安に揺れる、
葉っぱの小舟のような自分の心境を詠んだものだ。

予想もつかない波が、
次から次へとやってくる今日。

不安に揺れながらも漕ぎだすことをやめない。
そんな繊細な強さを持って明日を迎えられますように。

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若杉茜 20年8月30日放送


KOREA.NET
冷たい麺の話

長い梅雨が明け、
昨年以上に酷暑となった今年。
各レストランが出す冷たい麺は暑さの中でも食欲をそそる。

そんな冷たい麺の代表格の一つである韓国冷麺だが、
実はこれ、もともと冬の食べ物であった。

朝鮮半島では、冬になると翌年分のキムチを漬ける習慣がある。
そのキムチの残り汁に麺を入れて食べたのが、冷麺の走りであった。

厳しい寒さの朝鮮半島では、冬になるとオンドルと呼ばれる暖房が焚かれ、
部屋の中は暑いくらいだったという。
その素晴らしく暖まった部屋の中、
ひんやりとした冷麺をすっきり食べるのだ。

暑い中で食べる、酸っぱ辛い爽やかな麺。
季節は真逆だが、その楽しみ方は今も昔も変わらない。

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若杉茜 20年8月30日放送



冷たい麺の話

中国や台湾で食べられている涼麺(リャンメン)。
つけ麺風や和え麺風などいろいろあるが、
日本の冷やし中華と似ている汁のない冷やし麺だ。

しかしこちらの涼麺、ある地域では風を扇ぐと書いて
「風扇涼麺」(フウセンリャンメン)と呼ばれる。
フウセン、とは中国語で扇風機をさすが、
茹で上がった麺を水でしめずに、
扇風機で冷やすため、その名前がついた。
こうすることで麺が冷えすぎず、独特のコシが残るのだという。

なんとも涼しげな名前の「風扇涼麺」。
これを食べないと夏が来た気がしない人も
きっと多いに違いない。

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若杉茜 20年6月28日放送



パフェの話  ニッカボッカの栄光

イギリスのお菓子の名前はなんとなく癖のある、面白い名前が多い。

その中でもひときわ異彩を放つのが、Knickerbocker’s glory。
ニッカボッカの栄光、という意味だが、
実はこれ、イギリスでのパフェの名称なのだ。
イギリスでパフェというとお肉のパテを指すので、
我々がパフェと思っているものを食べようとすると
Knickerbocker’s gloryと注文しなければならない。

この不思議な名前の由来は謎に包まれている。
日本でも知られているあのニッカボッカが
イギリスの女性に大流行していた頃、
赤と白のそのデザインにパフェが似ていたから、とか、

作家のワシントンアービングが
作中でニッカボッカというペンネームを使ったから、とか、
NYのホテルの名前から、とか。

ひざ下ズボンの栄光なのか、NYの栄光なのか、はたまた違うものなのか。
謎に想いを馳せながら、いつかイギリスで、
ニッカボッカの栄光を注文してみたい。

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若杉茜 20年5月31日放送



音楽の力 音のニッチ仮説

夏の足音が聞こえてきた今日この頃、
生き物たちの声がそこかしこから聞こえてくる。

「音のニッチ仮説」という考え方がある。
生き物たちはそれぞれに違った周波数帯で、互いに被らないように鳴き声を発しているというものだ。

豊かな自然に行けば行くほど、
耳に届く生き物たちの声は重層的になる。

さながらオーケストラを聴いているように
感じたことが、1度はおありではないだろうか。

遠出が難しい今こそ、
身近な生き物たちのオーケストラに耳をすませて見よう。
さあ、音楽の力を、日々の力に。

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若杉 茜 20年4月26日放送


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お風呂のはなし ハマムのはなし

今日は26日、風呂の日。
日本は世界でも有数のお風呂を愛する国と言えるだろう。

お風呂好き仲間、には中東諸国が挙げられる。
彼らの国には、ハマムがある。

ローマ時代の浴場文化を受け継いだと言われるドーム型のハマム。
建物中に立ち上る蒸気に包まれながら時折桶でお湯をかぶる。

じんわりと汗をかき、体が緩んできた頃には、
熟練のアカスリの手に身を任せれば
ポカポカ、ツルツルの心地よさ。

日本のお風呂も、異国のお風呂も、いい気持ち。

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若杉茜 20年3月29日放送


Pauline-Mak
春野菜のはなし  黒キャベツ

春キャベツは、みずみずしくて柔らかく、
甘い春の訪れを告げる。

ところでイタリアのトスカーナ地方では、
この地方の固定種である「黒キャベツ」が
その役目を担っている。

黒キャベツはケールの仲間の野菜で、
細長く、縮れた葉を持つ。
味が濃く、しっかりとした葉を持つので、
シンプルに茹でて塩をしたり、
さっと炒めたり、コトコト煮込んだり。

故郷のトスカーナ地方には、
豆と固くなったバゲット、
そして黒キャベツを一緒に煮込んだ
リッボリータという郷土料理も。

この春は、
深い深い緑色を持った
黒キャベツを迎えて、
食卓の春の彩りを
さらに豊かにしたい。

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若杉 茜 20年1月26日放送



白のはなし  白い雪

江戸中期に活躍した画家、伊藤若冲。 
その展覧会に多くの人が押し寄せたことは記憶に新しい。 
彼は、白い雪を愛した画家だった。 
 
日本画で一般的に使われる、貝殻から作った1種の白の塗料のみを使い、 
考えられないほどの様々な雪を表現した。 
 
椿の上に厚く積もるこんもりとした雪、 
葉の上の少し溶けかかった雪、 
ひさしの影になった、少し硬く鈍い色の雪。 
 
それらを、塗料の塗り重ねや、濃さ、 
そしてある時には裏から塗り足すことにより繊細に表すのだ。 
 
年が明け、寒さも深まる今日この頃。 
雪景色に出会えた時は、若冲の繊細な雪に想いを馳せたい。

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若杉茜 19年12月29日放送



年の瀬のはなし  おせち

お正月の楽しみのひとつ、おせち料理。
おせち、という言葉の起源は古く弥生時代と言われている。
節(せち)といわれる季節の変わり目ごとに、
神様にお供え物をした「節供」(せちく)がその始まりだ。

おせちの料理のひとつひとつに意味が込められるようになったのは
江戸後期のことで、
例えば紅白かまぼこは、「日の出」を象徴する、
年の始まりに欠かせないもの。

昆布巻きは、「喜ぶ」の言葉にかけて、
一族の繁栄を願った縁起物。

黒豆は、「まめ」という言葉が元来意味する
健康・丈夫というところから、まめに働けますように、と。

黄金色の財宝のような栗きんとんは、
豊かな1年を願う。

さて、令和元年もそろそろ終わり。
買うもよし、作るもよし。
新しい年の始まりに、
おせちに顔をほころばせる家々が、たくさんありますように。

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若杉茜 19年11月24日放送



紅葉のはなし 尾崎紅葉

紅葉は世界中で愛される美しい風景だが、
紅葉やその地を愛するあまり自分の名前も紅葉にしてしまおう−−−−
という人はそういないだろう。

明治期に活躍した文豪・尾崎紅葉は、その奇特な人物だ。
東京・港区の芝に生まれ、
生まれ故郷にある増上寺の紅葉山にちなんで
ペンネームを紅葉とした。当時そこには紅葉館という料亭があり、
そこで紅葉は他の文豪たちとの親交を深めたという。
紅葉館は東京大空襲で焼失し、
その跡地には、赤い東京タワーが建っている。

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