前田利常
能ある鷹は、爪を隠す。
しかし、その男は、
逆に、あるものを思いきり見せつけた。
鼻毛である。
人呼んで、鼻毛の殿さま。
前田利家の息子、利常。
加賀100万石の跡目を継いだ彼は、
長さ一寸、3センチもの
鼻毛を伸ばしてバカ殿を演じ、
隙あらばお家を潰さんと目論む
徳川家の警戒心をかわし続けた。
その裏、きめ細やかな政治を行い、
加賀藩はさらに百年のにぎわいを見せる。
能ある鷹は、鼻毛を伸ばした。
その1本1本に、
プライドと覚悟を秘めて。
手塚治虫
ベレー帽に破顔の笑みをたたえた
あの写真からは、
とても想像がつかないけれど。
神様はいつも怯えていた。
手塚治虫。
マンガの神様。
揺るぎない名声を築いてからも、
たえずライバルを警戒し、
弟子の才能に嫉妬し、若手の台頭に、
頭をかきむしったという神様。
あるとき、いちばんの敵と睨んでいた作家が
不慮の死を遂げた日のことを、
後に彼は、ざんげを込めてこう告白している。
あぁ、ホッとした。
なんと情けない俺だろうと、
つくづく嫌になった。
ある学者の論文によれば。
人間の才能開発にもっとも効く劇薬は、
「劣等感」だそうだ。
高杉晋作
世が世なら、
パンクロッカーにでも
なっていたのだろう。
男は、折り畳み式の三味線を
戦場を持ち込んで、
唄など口ずさみながら、
何度も巨大な敵に刃向かい、
たてついた。
幕末の空気は、歴史の中のことでしかないけれど。
彼が残した、ただこの一言が、
僕らにリアルな勇気をくれる。
おもしろき こともなき世を おもしろく
高杉晋作
アンディ・ウォーホル
60年代の始まりに、
だれもが何かの予感を抱いていたころ。
若きウォーホルも、
みんなに聞いて回っていた。
ボクは、何を描くべきだと思う?
尋ねても尋ねても答えは見つからない。
来る日も来る日もキャンベルのスープを飲み、
TVを見て過ごした。
そんなある日、ふと気づくことになる。
生み出すものなんて、何もない。
ならいっそ、すべてを消費してしまおうと。
そして数年後。
世界中のオシャレピープルが、
そのへんのゴミ箱にありふれたコーラの瓶や、
スープの缶が描かれた絵を、壁に貼るようになった。
みんな、ウォーホルのこのセリフに
ころりとやられてしまったんだ。
大統領だって、リズ・テイラーだって、
コカ・コーラを飲んでいるんだ。
考えてもごらんよ、
そのコカ・コーラをきみも飲むことができるんだぜ。
エリック・クラプトン
そのインタビュアーは大胆にも、
エリック・クラプトンに2度同じ質問をした。
ギターの神様と呼ばれる気分は?
30歳だったクラプトンは、
こう答えた。
ボクを神だなんていう言い方は、
神を冒涜しているよ。
さらに、30年後のクラプトン。
今度はこう答えた。
うれしいよ、
ボクにも少しは良いところがあるってことだからね。
神は、ひとつの真実を示された。
一流の人ほど、
謙虚であるということを。
‘江口順也’ タグのついている投稿
江口順也 10年03月14日放送
江口順也 10年02月20日放送
クリスト
ときに人間は、
情けないほど鈍感で。
なにかを失って初めて、
その尊さや意味に気づく。
そんな性を、逆手に取った芸術家がいる。
包むアーティスト、クリスト。
その作風は、ひとことで言うと「梱包」。
パリのポン・ヌフ橋、
ドイツの旧国会議事堂、
マイアミの島々、
オーストラリアの海岸。
彼は、美しい大自然や巨大な建築物を
布ですっぽり覆い隠して、
ものの本質を私たちに突きつけてきた。
そんなクリストが、
いま、いちばん梱包したいもの。
きっとそれは、地球に違いない。
江國香織
むかし、炊飯器の広告で、
「お米が立っている」
というコピーがあったけど。
この本の言葉たちは、
まさにジャーの中のごはんそっくりに
ぎっしり立っている。
作家の江國香織さんは、
ある新聞の書評欄に、そう書いた。
ことばは、おこめ。
ひと文字、ひと文字、
よく噛み締めて、味わえば、
新しい私が作られる。
それがきっと読書の醍醐味。
醍醐味の味(み)は、
味(あじ)という字だ。
中村俊輔
芸術的なフリーキックや、
精密機械のようなパスとは別に。
中村俊輔にはもう一つ、
だれも持っていない武器がある。
15年間書き続けた、
サッカーノートだ。
自分の弱点を毎日丹念に書き付けた12冊のノートは、
戦友であり、辛口の専属コーチ。
苦しい時ほどページをめくり返し、
危機を乗り越えてきた中村は、
現在、スペインのリーグでプレイをしている。
その舞台は、今から5年も前に、
未来の目標として、
ノートに書き込まれた場所だった。
勝 海舟
勝海舟は、交渉の達人だった。
大奥の最大権力者である
天璋院篤姫が、プライドを傷つけられて
カンカンに怒ったある日のこと。
勝にとって彼女は、
今で言えば、社長の奥様。
その篤姫が、
怒りのあまり自害するといってきかないときに、
勝はスキを見て、こう申し出た。
あなたが亡くなれば、
私だって、ただじゃ済みませんので、
すぐさま、お隣りで切腹します。
すると大変お気の毒ですが、
私とあなたは心中とか何とか言われますよ。
篤姫は、さっきまでとは違う意味で、
顔を真っ赤にして、ふりあげた刀を下ろしたそうだ。
この勝負、勝の勝ち。
ブルース・リー
TVのインタビューで、
達人は、こうみんなに語りかけた。
こころを空っぽにして
形をすてろ 水のように
水は流れることも
水は砕くこともできる
友よ、水になれ
ブルース・リー。
型を繰り返し、型を重んじることで
カンフーの道を極めた男は、
型から自分を解き放つことの
たいせつさも知っていた。
それは、どんな道にも通ずる哲学。
アンリ・マティス
むずかしい解説や論評を前に
アートにひるんでしまったことがある人には。
マティスの絵をおすすめしたい。
彼は、こんなことを言っている。
私は人々の疲れをいやす、
よい「肘掛けイス」のような芸術を
目指したい。
肩の力を、ゆっくり抜いて。
ただ感じるままに眺めればいいのだ。
江口順也 10年01月16日放送
勝新太郎
「男の意地」で、
ネットを検索しても
出てこないけれど。
あれは確かに、
役者という
生き様を商売にしてきた男の
意地だった。
癌にのどを犯されて、
休業を余儀なくされた勝新太郎。
復帰初日の記者会見。
医者に止められたから禁煙した。
もう煙草は吸っていない!
そう言ってカツシンは、
その場で1本、美味そうに火をつけた。
アイザック・ニュートン
およそこの宇宙における
すべての物質には、
互いに引き合う力が働いている。
アイザック・ニュートン、
万有引力の法則。
それは、
太陽と地球のあいだにも。
地球とリンゴのあいだにも。
つまり、ボクとキミのあいだにも?
なんて考えていたら、
ニュートンが最後にたどり着いた
答えがあった。
天体の動きはいくらでも計算できるが、
ひとの気持ちは、とても計算できない。
恋に法則は、
自分で見つけないと
ダメみたいだ。
二宮金次郎
年が明けると。
こどもの頃は、
よく先生や親に促されて答えていた、
「今年の抱負」。
大人になって、
すっかりおざなりになってしまったけれど。
かつて小学校で毎日会っていた、
二宮金次郎さんの意見を聞いてみよう。
聖人は欲が大きく、
凡人は欲が小さい。
今年は、ちょっと欲深く、
いってみましょうか。
江口順也 09年12月19日放送
Hiro(EXILE)
景気の二番底に怯える
大企業を尻目に、
今年、あるベンチャー企業が、
日本を騒がせている。
社長が踊り、社員が歌う。
EXILEだ。
ダンサー兼社長のHiroは、
こう信じているという。
会社は、みんなの夢を叶える場所。
劇団を立ち上げ、アパレルを手がけ、
バラエティに出て、
居酒屋や学校までも運営する。
どれも、社員の夢を、
ひとつずつ叶えていっただけ。
永い不況から目を覚ますコツ。
夢は、布団ではなく、会社で見ること。
アシュリー・ヘギ
今年もあっという間だったなんて、
木枯らしに身を縮めてつぶやいていては、
この子に怒られてしまう。
アシュリー・ヘギ。
1年で人の10倍歳をとる難病におかされた女の子。
ネイルを塗りたい。アルバイトもしたい。
17歳の心に、100歳の体が立ちはだかる。
けれど、いつも貪欲に、青春に挑んだアシュリー。
今年、高校を卒業する前に
人生を卒業することになった彼女は、
こんな言葉を置いていった。
人生は、長さじゃない。どう生きるかなの。
みなさん。
2009年は、あと12日も残ってますよ。
忌野清志郎
しゃがれた声で
兄さんはいつも、
こう声を掛けてくれた。
愛してるぜ、ベイビー。
永遠の少年、キヨシロー兄さん。
社会という教室でギターをかき鳴らし、
まっすぐで透明な想いをファンキーに叫び続けた。
その、ラストシャウト。
Ohラジオ、
聴かせておくれ
愛と平和のうたを。
癌におかされた喉で歌い上げた
Rockのタスキは、
しっかりとつながったのか。
ラジオのツマミを
僕らは回しつづけよう。
クレヨンしんちゃん
早く大きくなりたい。
子どもたちがそう思えるような
世の中をつくること。
それが大人の仕事。
クレヨンしんちゃん、
5際のしんのすけは言った。
おら大人になりたい。
大人になってキレイなお姉さんとおデートしたいんだ。
この週末は、
ちょっとオシャレして街を歩きましょ。
三沢光晴
プロレスラー三沢光晴さん、
試合中の事故で亡くなる。
そんなマスコミの報道に、
ファンの誰かが怒った。
事故なんて、言わないでほしい。
まるで不注意みたいではないか。
プロレスで死に、闘いで死んだのだから。
それは戦死だ。
派手なパフォーマンスや
言葉を嫌うかわりに、
相手の技を真正面で受けて倍にして返す。
体で語るレスラーだった。
その最後のボディランゲージを、
まだ誰も、うまく読み解くことができない。
大原麗子
「かわいい」と
「かわいらしい」は、違う。
かわいらしい女といえば、
ずっと大原麗子のことだった。
すこし愛して、ながーく愛して。
この名コピーは、
彼女を人々の記憶に
封じ込めることに成功する。
死んだ女より、
もっとかわいそうなのは、
忘れられた女です。
という詩を書いたのは、
マリー・ローランサン。
その名も「鎮静剤」。
そろそろこの薬が、
麗子さんにも効いてるころだろうか。
江口順也 09年11月22日放送
ソクラテスの夫婦論
学生のころ、
教科書で習った哲学は、
さっぱりだったけど。
ひとつだけ気になる言葉があった。
ともかく結婚せよ。
もし良い妻を持てば、幸せになるだろう。
もし悪い妻を持てば、哲学者になるだろう。
ソクラテスの名言。
あれは、どういう意味だったんだろう。
わが妻に聞いてみたら、
そこの洗濯物たためば分かるんじゃない?
と、返された。
今日は、いい夫婦の日です。
世界一の権力者
NYのとあるパブで、Mr.Aが謎かけを出した。
世界でいちばんの権力者は?
そりゃぁ大統領だろうと、
Mr.Bは答えた。
するとAは、こんな小話をはじめた。
ねぇあなた、同窓会でジョンに会ったの。
彼はいま、何してるんだ?
小さな会社勤めよ。
キミは私と結婚してよかった、何しろ大統領夫人だ。
違うわ、私と結婚してたら、彼が大統領だったわ。
腹を抱えて笑う、Mr.B。
と、Bの胸元で、携帯電話が鳴った。
Aの携帯にもメールが届いた。
嫁さんからだ!
そう言って二人は、慌てて家へ帰っていった。
今日は、いい夫婦の日。
ナポレオン&ジョセフィーヌ
3つのキスを贈る。
キミの心に、くちびるに、そして瞳に。
戦場からのラブレター攻撃で、
あこがれの女性を攻め落とした、
ナポレオン。
しかし、愛を勝ち取ってわずか二年。
妻への手紙は、こうも変化する。
お前を憎む。
夫のために、たった5行の手紙すら書こうともしない、
薄情なお前を…
ナポレオン閣下、
男と女は、結婚してからが本当の戦いなのです。
今日は、いい夫婦の日。
江口順也 09年9月20日放送
矢沢永吉 12歳
はじめてビートルズを聴いたとき、
あなたは、なんて思っただろうか。
12歳だった矢沢永吉は、
ラジオから流れてきた
“プリーズ・ミスター・ポストマン”を耳にして、
こう思った。
こいつは、儲かりそうだ。
海の向こうのサクセスストーリーを、
矢沢少年は、
他人事では片づけない。
もしかして俺だって、音楽をやれば、
世の中ひっくり返せるんじゃねぇの?
イギリスから来たポストマンが
広島の少年に届けたのは、
ロックスターへの招待状だった。
矢沢永吉 上京
ふるさとを捨て、
ロックスターになるために上京してきた
若き日の矢沢永吉。
その口は、もっぱら二つのことに使われた。
ひとつは、歌。
もうひとつは、ハッタリ。
初めてのマスコミ取材で、
大新聞の記者を相手に
将来の目標を、こう答えてみせた。
10メール先のタバコ屋にもキャデラックで行って、
ピュッとハイライト買えるくらいの男になりたいっすね。
ツテもない。金もない。夢しかない。
ナメられたら、はい、それまでよ。
オレに、還る場所はない。
ヤザワのハッタリは、
自分を夢から逃げさせないための
ディフェンスラインだった。
矢沢永吉 スター街道
階段を一段抜かしで登っていくと、
人よりも早く、てっぺんに着く。
矢沢永吉の生き方には、
そんな無言のルールが感じられる。
初めてのライヴハウス、皆が浮かれているときに。
ヤザワは独り、それをどうレコード会社に売り込むか考えていた。
デビューバンドが、全国のチャートを沸かせているときに。
ヤザワは独り、世界の音楽シーンへの挑戦を考えていた。
いつも周囲より、一段先へ、先へ。
それが幼いころからの矢沢のクセであり才能であり、
孤独。
お前らとは夢のデカさが違うんだ。
そう心に秘めながら、走り続けたその道を、
人は後から、スター街道と呼んだ。
矢沢永吉 臆病
みずから敵の間へ躍り込んでいくのは、
臆病の証拠であるかもしれない。
と言ったのは、ニーチェだ。
矢沢永吉は、自身を臆病者と呼ぶ。
「大丈夫かな?」
「今のオレは、間違ってないか?」
「後悔してない?」
「これでいいのか?」
そういつも、自分にクエスチョンしている。
臆病なやつは、常に怖れているから、
次にどうすべきかを必死で探る。調べる。計算する。
大胆なライオンよりも、
本当に恐いのは、
臆病なライオンのほうだ。
矢沢永吉 どん底
てっぺんを走っていた男は、
ある日、どん底へと突き落とされる。
スタッフに裏切られ、
35億円というフザけた借金を
ひとり背負わされた、矢沢永吉。
傷つき、落ち込み、苦しみ抜いて、
しかし男は、こう考えるようになった。
これは、矢沢永吉という役なわけ。
田舎から夜汽車に乗って上京し、
いろいろ苦労して最後にスーパースターになるって役さ。
悪くないだろ?
視点を変えれば、気持ちが切り替わる。
地獄から這い上がったスターは、
いま苦しい人に、強く語りかける。
リストラされたって、借金を背負ったって、それは役だと思え。
苦しいけど死んだら終わりだから、本気でその役を生き切れ。
矢沢永吉 スタイル
テクノロジーが、あっという間に、
ものごとや価値観を変えていくようなときに。
矢沢永吉は、こう答えを出した。
ひとつだけわかったことはね、
ダウンロードできないものを作らないといけないと思ったの。
すべては検索でき、すべてがデジタルコピーできる時代。
歌はダウンロードできる。
しかしスタイルは、ダウンロードできない。
矢沢永吉 Happy Birthday.
時間よ止まれ。
かつて、
そんなタイトルで日本中を酔わせた
矢沢永吉も、
五日前に60歳の誕生日を迎えた。
Happy Birthday、永ちゃん。
二十代の終わりに出した
自伝「成りあがり」を開くと、
こんなことが記されている。
50になってもケツ振って
ロックンロールを歌ってるような
かっこいいオヤジになってやる。
今夜、開かれるのは、
予言の年齢を10も超えた
「還暦記念ライヴ」。
その公演タイトルはズバリ、
「ROCK’N’ROLL」。
江口順也 09年8月9日放送
バスケットマン、桜木。
10代を部活に明け暮れたやつは、
夏になると、あの頃を思い出す。
部活は、家。
そこには、絆があって、居場所があって、いざこざもあって。
部活は、檻。
そこから、みな一度は脱走を企て、縛られない自由に憧れて。
部活は、幻。
そこでの、とくべつな日々はいつか終わるという覚悟の下で。
湘北高校バスケ部に入部した、桜木花道は、
夏の体育館で、シロートから天才への進化を遂げる。
その姿を、かつての部活少年、部活少女たちはみな、
ハラハラと、自分のことのように見守った。
だから、漫画「スラムダンク」は、1億冊も売れたんだろう。
みんなブーブー言いながら、部活が、大好きだったんだ。
キャプテン、赤木。
夏の体育館は、
やる気なき者を追い出しにかかる。
肺がヤケドするかのような、熱の篭もった空気。
足を滑らそうと狙ってくる、汗まみれの床。
膨れ上がったボールは、本気でキャッチしないと、突き指をする。
そんな体育館を、湘北バスケ部キャプテンの赤木は、
誰よりも愛していた。
弱小チームでありながら、心はいつも全国制覇。
そのスピリッツに、僕らはいつも励まされた。
大人になった今も、ちょっと何かを怠けていると、
すぐに頭の中に聞こえてくるようだ。
あの、キャプテンの口癖が。
「ばかもん!」
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
シックスマン、木暮。
多くの少年少女は、
10代の夏に、
初めての挫折を味わう。
「補欠」という現実。
部活の試合に出られない、レギュラーになれない、自分。
ある者は、悔しさをバネにする。
ある者は、悲しみにふさぎ込む。
ある者は、調子よくやり過ごし、
ある者は、不公平だと憤る。
ところが湘北バスケ部の控え選手、3年の木暮は、そのどれでもなかった。
自分を追い抜いていく後輩の成長を心から喜び、
負けじと、自らも練習に励んだ。
メガネ君と呼ばれた、その彼は、レンズの奥から、
いつもチーム全体を見ていたのだ。
木暮君が放ったシュートで、
ラスト1分、勝てば予選突破という最終試合。
湘北高校は見事に全国行きを決めた。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
No.1ガード、宮城。
なんで、オレの敵はいつも、スゴイやつばっかなんだ。
なんで、オレより皆、10cmも背がでけーんだ。
なんで、オレはそれでも、まるで負ける気がしないんだ。
なにをして、オレはあいつらに、一泡吹かせてやろうか。
まったく・・・ アヤちゃん。
バスケ部のマネージャーだったキミに、
一目惚れなんてしたばっかりに。
こんな楽しいことになっちまった。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」の、
宮城リョータを思い出す。
天才シューター、三井。
かつて男はスターと呼ばれた。
バスケットボールで、かなうやつは殆どいなかった。
悲劇は突然。大怪我。長引くリハビリ。
拭えない焦りと、チームから必要とされなくなる恐怖。
そんな葛藤から、いつしかバスケを憎むようになっていた。
気がつけば、体育館に土足で殴り込んでいた。
しかし――――
安西先生・・・ バスケが、したいです。
憧れの恩師の前で、男はウソをつけなかった。
バスケなんか嫌いだ、というウソを。
こうして、天才シューター 三井 寿 は再びコートに戻ってきた。
チームのためにすべてを捧げているうちに、
かつての自分を、とっくのとうに越えていた。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
スーパールーキー、流川。
二の腕が痛いほど、シュートを打ち込んだか。
両ヒザが笑うほど、ダッシュを繰り返したか。
目と閉じても、ゴールまでの距離が分かるか。
画面に穴が開くまで、対戦相手のビデオを見たか。
全身の筋肉と関節を、とことん苛め抜いたか。
バッシュを何足、履きつぶしたか。
勝つイメージを、何種類描いたか。
すべてにYesと答えられなければ、
湘北バスケ部のルーキー、流川と戦うには、まだ早い。
日本一の高校生を目指してるあいつのことだ、
おめーにかまっているヒマはねぇ、
なんて言われんのが、オチさ。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
安西先生
安西先生は、言った。
あきらめたら、そこで試合終了だよ。
かつてスラムダンクという漫画が、
社会現象的にヒットする中で。
このコトバはいちばんの名ゼリフとして、
どんどん一人歩きしていった。
恋愛も、
犬のトイレのしつけも、
CO2削減も、
あきらめたら、そこで試合終了だよ。
そんなふうに言われたら、
あきらめるわけにいかない。
だって、試合を途中で投げるなんて、
部活少年のやることじゃないじゃないか。
井上雄彦
高校のバスケ部を描いて人気絶頂だった
漫画「スラムダンク」は、
全国トーナメント第二戦という
中途半端なところで突如連載を終了した。
作者の井上雄彦は、こう言った。
前の試合よりも、
つまんない試合は絶対描きたくなかった。
バスケの神様マイケル・ジョーダンが、
これ以上、最高のプレイを見せることができないという理由で
引退したように。
井上の引き際は、まさにスポーツマンのそれだった。






















